弱肉強食。
一般社会や魔術の世界、どんな世界であろうとも、弱者が強者に喰われる運命にあることは変わりはない。
上に立つ者は地位や財力、もしくはカンピオーネのように物理的な力を用いて、下にいる者から搾取していく。
だが、搾取される側が何の力も持っていないのではない。
弱者にも小さいなりの力が存在していて、その牙を使い、時には反撃をしてくるのだ。
それに対して、強者は己の全てを使ってでも強引に反撃を押さえ込もうとするのだ。
そして、今の俺たちの状況がまさしくそうだ。
譲ることのできない想いを胸に反撃してきた一般人を、比類なき力を持つカンピオーネが迎撃しようとしているのだから………。
十数分後。
俺は自分の教室の床に正座させられていた。
目の前には、何処からともなく取り出したのか白い厚紙を何重にも折りたたんだ物、俗にいうハリセンをかまえて小言を言ってくる担任教師。
そんな説教をされている状況にもかかわらず、今の俺は………俺の心はとてつもない怒りを憶えている。それが伝染したかのように全身が震えて、怒りを表しているのだ。
高校三年生、とても繊細な時期だ。高校デビューや一夏デビューと称されるように新たな自分に挑戦する人がいる一方で、心無い一言で自らの命を絶つ人もいる。生も死も身近に感じる年頃だ。
そして俺も、篠宮渡も傷ついたのだ。
今朝、学校に登校し、教室に入って友達と雑談するまではよかった、とても嬉しかったのだ。誰がなんと言おうが、歓喜としか表現しようがなかった。
何故だって?
そんな分かりきったことを聞くものではないぞ。
「き・い・て、いるのかしら………」
今いるのは教室、机や椅子、教科書などが散乱している教室だ。担任の命令により、その教室の床で正座させられているのだ―――真哉と一緒に。
担任の名前は
新学期が始まった直後に起こされた問題のせいか、はたまた数日前に味わった失恋のせいか、額に怒りのマークを浮かべている担任は、ハリセンを床にたたきる。
「あなた達はどうして喧嘩なんてしていたの、原因は何なのよ」
(((聞くだけムダですよ………)))
廊下に避難したモブキャラどもが心の中で突っ込みを入れる。
そう新藤先生が言うように、俺と真哉は大喧嘩していたのだ。
その喧嘩に巻き込まれて怪我をした生徒はいないようだが、教室は荒れに荒れまくった。まるで教室という狭い空間に台風が突如出現したかのような悲惨な状況である。
しかし、そんな些事はどうでもいいのだ。
今最も重要なのは、篠宮渡が昨日までとは違うという点だ。
何故なら―――今日の俺はメガネを着用しているからだ!
まるで生まれ変わったかのようだ。神殺しとして生まれ変わった日を第二の誕生日とするのであれば、第三の誕生日を迎えたかのような気分である。
昨日の宣言どおりに、メガネを買いに行って、今日お披露目をするつもりであった。銀○メガネに行って、多くのメガネに目移りしながらも自分にあった至高の一品を購入してきたのだ。
そのメガネは少し青みがかったシルバーフレームであり、メタルの持つクールなイメージがスッキリとしながらも独特の個性を主張している。
それ以外にも保存用、観賞用、予備用、崇拝用、なめる用など数点購入して、意気揚々と帰宅したのだ。
それなのに―――
低く、魂のこもった声で答える。
「先生、男には譲れないものがあるんですよ。俺は許せなかったんです―――女性の最も重要なパーツであるメガネを否定するこいつを許せなかったんです!」
メガネという重要な一部を手にした俺は、メガネ教の布教に
そう、今日の俺はメガネの話しかしたくなかったのだ!
「………は、いっ…?」
渡の思いがけない言葉に絶句する担任教師が視界に映ったが気にしない。
『人類メガネ化計画』を実行すべく努力していたというのに、一人の親友が来たことによって変わってしまったのだ。あろうことか、そいつは「物申す―――」と言いながら、メガネに反論し始めたのだ! このドM野郎め!
「当たり前だろ! メガネが一番重要だと、ちゃんちゃらおかしいね。ちょっとは考え直せよ」
「てめえ、俺を馬鹿にするのはかまわないが、メガネを馬鹿にするのだけは我慢できねえぞ!」
「あのなー、ちょっと考えてみれば分かるだろう。異性を見るポイントはメガネだけじゃない。それはお前の趣味であって、他人に押し付けるんな」
(((お、いいぞいいぞ)))
「メガネに萌えるのはお前であって、メガネ以外に興味を持っている人もいるんだよ」
周囲で見守っているだけ生徒が同意するかのように頷く。
そして、生徒の声を背負い、宣戦布告するかのように渡に指を突きつけて、
「一つだけいっておくぞ―――この世で一番大事なのは足だろーが!!!」
(((ちっっがーーーーーーーう!!!)))
「スカートから露出した肉体(そざい)そのものを見るのも正しい言い分ではあるが、素のままでは引き出すことが出来ない素晴らしいものもある。そう、ほんの少しの変化をつけることによって彼女たちは凄まじい進化をとげるんだ」
「「「………」」」
「他のものも捨てがたいが、一番なのは黒ストッキングを装着したときだろう。見えそうで見えないギリギリのラインでゆれるスカートが目を足に惹き付けるだけでなく、黒ストッキングと隙間から僅かに垣間見える生肌で構成されるコントラストがある」
「「「……………」」」
「そして何よりも重要なのは、ストッキングとスカート、下着の三点が共存することにより成される闇。女子は隠すことによって少しだけ大胆になるとともに、そこに刻まれるほんの少しの羞恥心―――それこそが人の
力強く拳を握り、力説する少年。
「そう、隠すことによって
まるで、大事なことだから二度言いましたといわんばかりだ。
「「「おおーーー!」」」
(((な、なるほど………)))
実際に想像し、共感する男子生徒と脳内にメモを書き留める女子生徒。渡と違い賞賛され、意外にもどよめきが起こっている。
その演説に対し、
「はぁ、お前のほうが間違ってんじゃないか。結局のところ、足の綺麗な人じゃなければいけないんだろ。それとも皺だらけの老婆でもいいのか」
「くっ」
「メガネはこれから先も生まれ続け、多くの人に愛用される―――そう、美人でなかろうと一側面において綺麗にするのだから。メガネは永遠に不滅です!」
「………確かにメガネは交換できる。だがな男だってメガネはかけるんだぞ」
「メガネは万人に平等なんだ。仕方ないことだ」
「………お前は愛するメガネが別の男に足られるのを許すというのかっ! そんな浮気性のメガネを許すというのか! それとも、お前は女をとっかえひっかえする下種野郎なのか!」
「なっ!」
言葉を失う渡に対して、
「足は唯一無二、その人の相棒だ。メガネのように他者に寝返る恩知らずではなく、大切なパートナーなんだ!」
議論というには不毛すぎる会話。
中心にいる二人が熱くなる一方、周囲にいる人々は冷めていく。もういい加減にしてくれ、その表情は語っていた。
だが、その中に現状を放り出すわけには行かない人物が一人。
「………つまり、原因は………二人の好みが食い違っているだけ、だと………」
嵐が通り過ぎたかのような教室を見渡して呆れる新藤先生。
「足………はん、足、胸、尻、所詮そんなものは肉塊だろうが! そんなもんに欲情してんじゃねえよ!」
「生身を見ろよ! 交換できるパーツの何に欲情しろというんだ!」
「かけるだけで人を美しくするメガネはオーパーツと呼ぶに相応しいのだろ!」
そして、現状全て放り出したい気持ちを押さえつけハリセンを大きく振りかぶる。
スッパーーーン!
小気味いい音が二回響き渡ったとさ。
○ ○ ○ ○ ○
放課後、受験生ではあるが学校でやるべき事はほとんど無いため、幼馴染たちと一緒に家路についていた。
「あっ………ははは………」
その途中、今朝の事件の顛末を聞いた一人の少年が苦笑いを浮かべていた。
「しかし、龍也がいると何というか………やっと全員揃ったって感じがするんだよな。いつものメンバーが欠けるだけで違和感があるだよ」
「確かにその通りだけど、たまには違う空気を味わうのもいいと思うけど」
「そう? 龍也がいないと大事なパーツが欠けているというか、恐ろしいことが起きそうというか………少しだけ心配なのよ」
同じようなことを考えていたのだろう、遠花はウンウンと頷きながら同意する。
「先輩と真哉君を抑えていたのが龍也君だからねー………二人とも退学にならないように気をつけなきゃダメだよ」
「あと数ヶ月で卒業なんだから、不吉なことを言うんじゃないよ! それより俺を問題児扱いするのをやめろ!」
「今朝だってクラスメイトから危険人物と再認識されていたと思うけど」
「メガネを愛さないあいつらのほうがおかしいんだろうが!」
更紗は最後の一人に話しかけることで、またもやメガネ方面の話題に行きそうなのを逸らそうとする。
「まあ、心配なのは事実だから………違うクラスだけど、あと数ヶ月よろしくね」
言外に「これからも渡と真哉を抑えるのを任せたよ」と言われた本人は―――
「………皆好き勝手言ってくれるけど、こっちとしては巻き込まれずに平和に過ごせるのを期待したいよ」
両手を挙げて不干渉を宣言する。
彼の名前は
中学時代から渡たち変人集団を上手く押さえ込まなければいけないポジションにいた龍也は、揉め事に巻き込まれていた反動からか感情を表に出さない鉄化面的な人間になってしまった。渡の正体も知っているため気苦労が多く、いってみれば日本版アンドレア・リベラというところだ。
そのことを知っている更紗や遠花たちは申し訳なく思っているが、渡だけは自らの行動に誤りはないと感じている。そのため彼が苦労を背負い込むとも知らずに。
そんな渡たちの間でいつもどおりというべき会話があった後は、夏休みにおける近況報告になる。
「しかし、高校三年生か………そんな時に旅行って、呑気なもんだよなっ」
「僕たちは受験勉強をしていたのに………」
「まあ、先輩は頭だけはいいから」
「おいおい、他にも褒めるところはあ「「「ない!」」」………さいですか」
その中でも渡が夏休みに行ったイタリア旅行で盛り上がり始める。
「イタリアかー、何か面白い話でもないのかよ」
幼馴染で旅行は何度かあったが全て国内であり、このなかで海外にまで足を運んだのは渡だけである。
そのため海外旅行に行くたび、お土産や海外での話をすることが通例となっている。
「んーと、問題に巻き込まれたのはいつもどおりで………特に変わったことは無かったな。他には何個かお土産を買ってきただけ」
「………普通ではない事に慣れているのね。頭が狂い始めてしまったのかしら?」
「まあ、狂っているのは日常茶飯事ではあるけど」と失礼なことを付け加える更紗。
「イタリアに行ってまで巻き込まれるとはな、漫画の主人公みたいだよ」
「まあ、常識はずれの渡のことだから、しょうがないね」
実際のところ命をかけた決闘だったのだが、一般人である三人が知ることは一生無いだろう。唯一正体を知っている遠花は旅行に行ってまで戦闘に巻き込まれた渡を同情するかのように見ていたが気づかないふりをした。
そして、渡のイタリア生活などはどうでもいいと言わんばかりに、勢いをつけて真哉が聞いてくる。
「そんなことより、聞きたいことは一つだ。イタリアの女は美人だったか?」
「確かに美人が多いと聞くけど、実際どうなんだい?」
彼にしては珍しく龍也も聞いてくるが、十代という年齢を考えてみれば仕方ないというべきだろう。
「まあ、綺麗な人は多かったけど。お前らに報告するようなこと―――おお、そうだ! 素晴らしい出会いがあったんだ、あれは運命といっても過言ではないぐらいの素晴らしい出会いがな!」
「「「「………えっ」」」」
渡の発言を聞き一瞬の静寂があったが、それもすぐさま吹き飛んでしまった。
だが渡の言葉の意味が浸透すると同時に、呆れたかのような声が聞こえてきた。
「あーはいはい、またメガネとかいうオチだろ」
今までにも同じ事があったのだろう、興味がない口ぶりだ。日頃の行いのせいだろう。
「確かにメガネとは関係がある。だが、違うんだ」
「………メガネ会社や製造現場に見学にいったとか? 確かヨーロッパ方面には有名なブランドがあったよね?」
「そうじゃない―――今回は俺至上最高のメガネッ娘との出会いを果たしたんだーーー!!!」
「「はっ」」
「「………へぇー」」
魂の叫びを聞いて呆れと責めの二種類の声が飛んでくるが、知ったことかとばかりに続ける。
「彼女を助けるために俺が参上した、そう、あれこそは運命の出会いだった。俺は彼女を一目見た瞬間、神に感謝したほどだ」
渡は話に夢中になるあまり、それに気付かなかった………。
「彼女の存在に比べれば、歴史上の偉業など些細なことだ! あれほどまでに神に愛されたじょせ―――」
ガシッ!
いつのまにか接近されたのか、気配を察することもできなかった。捕まれた肩を目を向けてみる。
そこには般若がいた、しかも二人。角が生えていないのが不思議なぐらい、強烈な怒気を身に纏った更紗と遠花。
「ねえ渡………ちょっと話を聞かせてもらっていいかしら。フフッ………」
「そうそう………微に入り細をうがってね」
顔に笑顔という仮面を貼り付け、恐ろしいほどの猫なで声で宣告、肩をつかんだまま連行していく。メガネの話をしているときは基本的に呆れられるのが普通なのだが、何故か今は怒りを感じる。
その二人の後ろには、渡を問い詰めようとした真哉と宣言どおり不干渉を貫こうとする龍也がいる。
しかし、幸か不幸か、渡が言葉をだす機会は訪れなかった。
重要な質疑応答を超える問題が出現したのだ―――困惑する渡を無視して一歩、二歩と足を踏み出したとたん、何の前触れもなくいきなり突風が吹いたのだから。
渡たちの間を駆け抜けた風は桜の花びら、ゴミ―――女子生徒のスカートをめくりあげたのだ。
「「きゃあ!!!」」
「「―――――――――!!!」」
「おっ」
見事な反応をみせた二人はスカートの前面を押さえることには成功した。
突然のことでありながら舞い上がるスカートを素早く押さえた行動は流石といえるのだが、それでは不十分であった。
なぜなら、後ろまで守ることは出来なかったのだから。
むしろ前を押さえた行動はとらなかったほうが良かったかもしれない。スカート前方を押さえるために前傾姿勢になったがために、守るべきモノを二人の男子に見せつけるかのような体勢になってしまったのだから。
後ろを歩いていた男子に、そしてすぐ傍にいた思い人にみせることになった、スカートという名の暗幕によって隠されていた秘密の場所を。
どんな紳士諸君であっても、咄嗟の出来事にまで反応して目を逸らすことができるだろうか。
どんな人間でも秘密といわれるものには心が躍るため、理屈や理性などでは止めることすら叶わない。不可侵と思われていた場所に目線をやるのは健全な男の本能であり、必然なのだ。
そして、人間という生き物は、瞬間的に目にした素晴らしい光景を鮮明に覚えてしまうものらしい。
一つは中央部分から全体にかけて複雑な刺繍が施されている紫色の大人っぽい下着。
おそらくは何らかの花をあしらっているのだろう、左右対称の刺繍は下着全体を絶妙なバランスで保っている。両端を紐で結んでいる下着、際どい形をしているわけでもないのに全体の印象を引き締め、年齢以上に大人な女性の印象を醸し出している。
しかし、スカートによって隠されているのは何も下着だけではない。
彼女のなかで一番素晴らしいといえるのは生足なのかもしれない。
大事な部分を隠す紫の下着からスラリと伸びる生足は、病的なまでの白さを持ちながらも健康的である。アダルティな下着と肉感的な生足によって創られるのは思わず目を逸らしてしまいそうな魅惑の白と紫の領域。だが、それは男の目を自然と惹き寄せて目を逸らすことを許さない。そう、下着だけではなく、スカートに隠されることにより生足までもが神秘的になる。その濃紺のスカートから伸びる足は黄金比に匹敵し、まさに神々が作りだした至高の作品と呼ぶに相応しいかもしれない。
もう片方は縁にレースをあしらった、あまりの純白さに目を逸らしてしまいそうな下着。
大事なものを隠すために布面積が大きいものをはいているため色気に欠けているものの、下着の上部にある小さくて可愛らしいリボンが彩を与え全体の印象を変えていた。少女という未成熟さが現れているワンポイントが利いた純白の下着が、よりいっそう清楚さを引き出していたのだ。
そして、彼女が前方のスカートを押さたのが良かったと、素晴らしいとさえいえる。
一陣の風によってめくれあがった紺色のスカートが背景となることにより、太ももの白さ、下着の白さの二つだけにとどまらず、スカートの中に入れられているブラウスの裾の白さまでもが強調されて、全てが白一色に統一されているのだ。ここまで素晴らしい白という色をいっぺんに拝める機会は一生無いと断言できるというぐらい、白という色であふれかえっている。
対照的でありながら、見るもの全てに素晴らしさを与える下着が並んで見えているのだ。
しかし、楽園へと至る暗幕は一瞬だけ上がったにすぎない。スカートがめくり上がっていた時間はわずか一秒だけだろう。それでもスローモーションのように動いていたように見え、まるで夢を見ていたようにも感じられた。
その短い間であろうとも見ないという選択肢などこの世に存在するのだろうか。まばたきを一回でも惜しむように、眼球の表面が乾いてしまうほど目を凝らし、瞬間的に目にした神秘的な光景を目に焼き付けるのが普通というものだろう。
しかし、それは世間一般の少年の話だ。
一般の男子高校生にとっては嬉しく凝視してしまう状況であっても、渡にとってはただの布であり、その辺りで売っているモノと同じである。
そして、仔細に渡って記述した下着に関する考察を一旦すみに置いとくとして、片方は生物学上は男であるはずなのに、どうして隠そうとするのだろうか。
そんなことを考えていると、今までスカートを押さえたままだった女性陣の硬さが消えていった。
「「………………………」」
油が切れかかっているロボットのように恐る恐るといった様子で振り向いた二人、特に更紗は熟れたトマトのように顔を真っ赤に染めている。
顔を真っ赤にした女の子とそっぽを向いて見ていないとアピールしている男の子がその場にはいたが、沈黙は長くは続かなかった。
「………紫と白か、なかなか合っているチョイスだな」
目の前にいる幼馴染を異性として見ていないかのような渡の言葉によって破られたのだ。
そして、女性陣は周囲の視線から目を逸らすように天へと目線をやり、それから改めて渡のほうに目を向けた。女子からすればスカートの中を見られるは恥ずかしいが、見られたのに興味が無いかのような反応をされるのは悔しいのだろう。
後ろにいた三人に見られたことを理解していながら更紗が聞いてきた。
「………み、見た」
漫画なんかで使われる定番の言葉である。
嘘を言っても意味は無いだろうし、嘘を言っても通じないのだから素直に答えるのがベストだろう。
「ああ、見えたよ」
「あ、あんたは目、目を背けるとかそういう配慮はないわけ!!!」
「減るもんじゃないんだし、下着ぐらい見られたっていいだろう」
「プライドが減るの! それに、見たのに興味がありませんという反応には傷ついたわよ!」
遠花と更紗のタッグによる口撃にさらされた。
しかし、渡はキッと正面を見据えてから―――
「今朝も言ったとおり、俺はメガネを愛している。そして、メガネをかけていない女の下着など興奮する要素が欠片も無いし、興味も無い。女の下着、メイド服、バニーガールだのいう奴はいるが、そんなもの偉大なるメガネの前では無意味なものだ! たとえ目の前に裸の女が現れたとしても、メガネをかけていないのなら何も感じないね!」
女性に対する気遣いというものがゼロの台詞である―――ゼロどころかマイナスにまで針が振り切れているだろう。
「しかし、男子的には女子の下着は見えたほうがいいのか? 見えないからこそ妄想のしがいがあり、見えた瞬間夢が終わるというか………そういう意味では、スカートが風で揺れて、見えるか否かというバランスを保っているほうが断然エロいというか。そのエロさから絶対領域が生まれたのではないか………もっと言えば、女子がスカートをはいているだけでエロいのではないだろうか」
二人に苛められるのを期待しているのか、渡の考えに嬉しそうに反論する人がいた。
「いや、女子が恥ずかしながらも見えないように努力しているのがいいんだろう………メガネをした女子がスカートの裾を気にしてモジモジしている姿を想像してみろ。さあ、己の身に眠るコスモを解き放つのだ!」
「……………ふ~~~む、確かに。メガネをした女性が恥じらいながらも、健気に努力をする……………素晴らしすぎるぞ!」
「………二人とも、少しは更紗と遠花を気にかけなよ」
一人だけ冷静にたしなめようとするが、もう遅い。一度点火してしまった本能には歯止めはきかないのだ。
「そうだろ、そうだろ。やはり、恥じらいがあってこそなんだよ」
「しかし、現代の女子にそんな人はいるのか。いないだろう。やはり男にとっては見えないほうが妄想を膨らませられる。つまり! 妄想一番、現実二番! 二次元一番、三次元二番ということだろう!」
その言葉を口にしたとたん、プチッと、どこか近くで血管が切れる音がした。次の瞬間、更紗と遠花は口撃ではなく、体重が乗った素晴らしい
しかし、乙女の意地全てが詰まっていたであろう一撃は当たることはなかった。
自らの妄想に没頭しながらも、カンピオーネの勘に従って二人の拳をヒラリと避けたからだ。
一発でも殴ろうと躍起になった二人は、自分たちの拳が真哉に当たったことなどお構いなしに必死になって渡を追いかけていく。
その後、周囲の人がじゃれあっている三人の光景を微笑ましく見ている事には気づかずに、戯れながら家に帰っていった。
いやー、馬鹿話は楽に書けるなー。
この後も数話ほど馬鹿話が続き、二部に移行します。
ちなみに、一部、二部ってどうやって分けるの?
章管理から………知ってる人は教えてー?