fate/zero~ノーライフキング~   作:おかえり伯爵

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間桐桜

翌日。

雁夜おじさんは全身火傷を負って間桐邸に帰ってきました。

これほど衝撃的なことは初めてです。

何度も声をかけますが気絶しているため返事がありません。

婦警さんにお願いして私の私室に運んでもらいました。

その時お義父様がなにやらふざけた事を言っていたのでアーカードに頼んでお仕置きしてもらいました。

叫び声を上げていましたがそんなことはどうでも良いことです。

雁夜おじさんを連れてきたのは神父服を着た言峰綺礼という男で偶然通りかかって助けたということでした。

胡散臭い人ですが今回はいてくれて助かりました。

聞く所によると、おじさんに火傷を負わせたのは遠坂時臣らしいです。

ゼッタイニユルシマセン。

直ぐにでも殺しに行きたいのですがおじさんを一人には出来ません。

あの人はお仕置きされて役に立ちませんから。

 

「勝手に助けておいて恐縮だが一つ頼まれてはくれないか?」

 

「・・・頼みですか?」

 

「ああ。今回の聖杯ーーアイリスフィール・フォン・アインツベルンを手に入れて欲しいのだ。バーサーカーであれば容易だろう?」

 

「・・・良く分かりませんが、助けて頂きましたので協力します」

 

「ありがとう。期待している」

 

「夜になったら連れて行きます。場所の指定は任せます」

 

「了解した。また会おう」

 

場所と時間の指定など必要最低限の用事を済ませるとすぐに帰って行きました。

私は直ぐにおじさんの様子を見に私の部屋に向かいます。

全身火傷を負っているので所々肌の色が変色し、変形しています。

なんで雁夜おじさんばっかり・・・。

 

「アーカード。雁夜おじさんは死なないよね?」

 

「まだ死なないが前よりも寿命が減っている可能性は高い。あまり歩かせないほうが良いな」

 

「・・・」

 

雁夜おじさんの額からは汗が流れ、体温も平熱とは思えません。

苦しそうな顔。

心臓を鷲掴みにされているようです。

おじさんが苦しいと私も苦しい。

私の頬を伝う涙。

どうして・・・どうして!・・・どうして!!

落下寸前の私の涙。

それを救ってくれるのは優しい手。

私をいつも助けてくれる優しすぎる手。

 

「・・・さ、くら、ちゃん。な、かないで、くれよ」

 

震える手が必死に私の涙を拭います。

私はおじさんの手をぎゅっと握りました。

するとおじさんは無理に微笑んでくれました。

 

「・・・さ、くら、ちゃんは・・・わら、ってなくちゃ・・・だ、めだよ」

 

「・・・はい。私は笑います・・・だから死なないでおじさん!!」

 

「だ、いじょ、ぶ・・・だか、ら・・・すこ、しやす、むね」

 

事切れたようにおじさんの全身の力が抜けました。

先ほどまでとは違う穏やかな寝顔。

 

「よかった・・・」

 

「出かけるのだから桜も休んでおけ。出発は日没前だ」

 

「・・・はい」

 

「では私は寝る。婦警、桜についていろ」

 

「ヤー!」

 

アーカードは地下へ。

婦警さんは心配そうに雁夜おじさんを見ています。

今はゆっくり休んでください。

私はおじさんのあの照れくさそうな笑顔が大好きなんですからーー。

 

 

 

そして日没前。

朱み掛かった夕焼けの中、言峰神父に教えられた場所に到着しました。

アーカードが玄関からどうどうと中に入りました。

しかしどの部屋もいません。

縁側から出て屋敷を歩くと小さな建物がありました。

倉庫のようですが一応見ておきましょうか。

 

「アーカード。あそこもおねがいします」

 

「ふんっ」

 

黒い扉を蹴り飛ばして中に入ると舞弥さんと赤い魔法陣の上で寝ている白髪のターゲットがいました。

舞弥さんが慌てて携帯を取り出しましたがアーカードがそれを打ち抜きました。

舞弥さんは銃を乱射しますがアーカードにそんなものは効きません。

あっという間に球切れになったようでターゲットを一瞬見た後腰からスプレー缶を取り出しピンを抜いて床に投げました。

スプレー缶から煙が放出され視界が奪われました。

私は身構えました。

 

「煙で私を撒けるとでも思っているのか、人間?」

 

アーカードの銃が音を鳴らすと舞弥さんの苦悶の声が聞こえてきました。

煙のせいで見えません・・・。

 

「ほう、まだ動けるのか。お前はそこいらのフリークスよりも骨がありそうだ」

 

床に倒れる音がしました。

視界が晴れてきて周りを見ると床に倒れている舞弥さんがいました。

右足がないので撃たれたのでしょう。

一瞬ドキッとしましたが私の心は意外にも冷静です。

 

「くっ・・・ま、だむ」

 

「舞弥さんこんにちは。あの人は貰っていきますね。婦警さん運んで頂けますか?」

 

「や、ヤー!・・・なんだか私運んでばっかりな気がする・・・シクシクッ」

 

「引き上げましょうアーカード。もう用はありません」

 

「この女を殺さないのか?」

 

「気絶しているみたいですから殺す必要もないでしょう」

 

私の回答を聴いてニヤッと嗤うアーカード。

甘いのはわかっています。

ですが、殺しても殺さなくても良いのであれば私は殺しません。

殺してしまえば私は人間ではなくなってしまうのですから。

 

「ばいばい」

 

私は手を振ってこの場を後にしました。

受け渡しの場所は距離があるので近場にあった車を頂きました。

運転をするのは婦警さん。

手慣れた手つきで鍵もないのにエンジンをかけました。

 

「あの・・・手慣れていますね」

 

「あはは・・・こんなことをしている現場を抑えた事がありまして。その時に詳しく聞いていたので覚えていました」

 

「さすが婦警さんですね」

 

「・・・褒められているんですかね」

 

複雑そうですね。

私は純粋に誉めているのですが。

 

受け渡し場所に着いた頃には夜が更けていました。

ビルの屋上から見る景色は初めてですが、美しいものですね。

言峰綺礼は時間よりも前に来ていましたので直ぐに女性を渡しました。

 

「礼を言う。よければ令呪を進呈するが如何かな?」

 

「結構です。これで貸し借りなしです。それではーー」

 

「ああ、そうだ一つ言い忘れていた。早く教会に向かうと良い。手遅れになるかもしれんからな」

 

「どういうことですか?」

 

言峰神父は答えること無く屋上から出て行きました。

なんだか胸騒ぎがします。

取り返しの付かないことが起ころうとしている。

そんな気がします。

 

「アーカード、直ぐに教会に向かいます」

 

「どこにある?」

 

「あ、私分かりますよ!!」

 

「婦警さんお願いします。急ぎましょう」

 

車に乗り込み猛スピードで走行していきます。

後ろからバイクが来ていますがあれは一体・・・。

 

「えええええぇぇぇ!!あれ、セイバーって人じゃないですか!?不味いですよマスター!!」

 

「慌てるな婦警」

 

アーカードは車の天井に素手で穴をかけて上半身を外に出しました。

懐から白銀の銃と黒銀の銃を取り出し、十字に構えます。

セイバーとの距離はだいぶ開いています。

逃げ切れれば良いのですが。

 

「うわぁぁぁぁ!!なんじゃそりゃぁぁぁ!!」

 

事もあろうかセイバーはバイクで跳びました。

本来道路に沿って走るはずのバイクが曲がり道をまっすぐショートカットをして迫ってきます。

常識外れです。

ありえません。

 

「・・・素晴らしい」

 

アーカードは銃を構えると飛行中のセイバーに向けて発砲しました。

私は瞬時に鼓膜が破れないように耳をふさぎます。

外でさえあれだけ五月蠅いのに車内だとその比ではないからです。

 

「はぁぁぁぁああ!!」

 

セイバーは片手で剣を握って弾丸を弾きます。

そしてそのまま道路に着地します。

 

「覚悟しろバーサーカー!!」

 

「そうだかかってこい!!」

 

バイクを横につけたセイバーは車に乗り移ろうと飛び上がりました。

振り下ろされる剣をアーカードは白銀の銃で受け止め、黒銀の銃で反撃。

寸前で躱しましたが鎧に少し掠ったみたいです。

セイバーは足場を無くして道路に転がって行きました。

一難去ったようです。

 

「た、助かったぁ」

 

「この程度で声を上げるとは半人前め」

 

「す、すみません・・・」

 

セイバーから逃げ切った私達はようやく教会に着きました。

教会のドアを開け、暗い教会内をみます。

月明かりだけが照明代わりですので開けっ放しにしておきます。

 

「奥に誰か居るみたいですけど」

 

「・・・」

 

ゆっくり近づくと見覚えのある後ろ姿です。

 

「遠坂・・・時臣」

 

「・・・」

 

反応がありません。

無視というわけですか。

ですがそうはいきません。

私は力の限り時臣の身体を蹴りました。

・・・。

 

「・・・えっ?」

 

時臣は蹴られた方向に倒れてしまいました。

どうなって・・・。

 

「死んでいるな。あの神父がやったのだろう」

 

「・・・なるほどそれであの言葉ですか」

 

私が殺したかったのにあの神父・・・。

結果は同じですので構いませんが一言くらいはこの男に恨み事を言いたかったですね。

 

「時間を気にしていたので何かあるんでしょうか?」

 

「ふん、下らない茶番だろうな。桜、その影に隠れておけ」

 

言われるまま私は壇上の後ろに隠れました。

アーカードは時臣の遺体を元の位置に戻して闇に紛れました。

とても静かな教会に足音が近づいてきます。

けれど規則的な足音ではなく足を引きずっているようです。

 

「遠坂・・・時臣!!」

 

なぜ・・・なぜおじさんの声が!!

 

「くっ・・・俺を殺した気でいたか、時臣!!」

 

一歩一歩ゆっくりと気配は近づいてきます。

 

「だが甘かったな・・・貴様に報いを与えるまで俺は何度でもーーっ!!」

 

そんなに、そんなに時臣が憎かったんですね。

おじさん、でも時臣は・・・。

 

「遠坂!!」

 

おじさんが立ち止まりました。

ポスンッともたれかかる音がしました。

 

「なっ・・・あ・・・あぁ・・・・なに?」

 

「雁夜くん?」

 

ーーっ!!

このタイミングで来てしまうのですか!!

こんな、こんなことって!!

 

「葵さん?ーー違うっ!!俺じゃない!!これは!!」

 

床に倒れる音。

微かに聞こえるあの女の足音。

 

「・・・満足してる、雁夜くん?これで聖杯は間桐の元に渡ったも同然ね」

 

「俺は・・・お、おれ」

 

「どうしてよ?私から桜を奪っただけじゃ物足りないの?」

 

ナニヲイッテイルノコノオンナハ。

 

「よりにもよってこの人を私の目の前で殺すなんて。どうしてっ」

 

「ソイツが!!ソイツのせいで、その男さえいなければ誰も不幸にならずにすんだ!!葵さんだって、桜ちゃんだって!!

 

幸せになれたはずーー」

 

「ふざけないでよ!!アンタなんかに・・・何が分かるって言うのよ!!あんた・・・アンタなんか。ーー誰かを好きにな

 

ったことさえ無いくせにっ!!」

 

「あ、あああああ、アアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァあああああ!!!!!」

 

雁夜おじさんが泣いてる。

私の雁夜おじさんが心から泣いてる。

こんな、こんな女の為に。

おじさんの大切な涙がこんな女の為に。

遠坂はいつもいつもいつもいつもいつもいつも私を不幸にする。

アナタタチハゼッタイニゼッタイニユルサナイ!!

 

「・・・おじさん。それ以上はダメですよ。大丈夫私がいます。私はおじさんの事を全部理解していますよ。だから泣かないで。そんな女の為に泣かないで」

 

「・・・さくら、ちゃん?」

 

「・・・さくら?」

 

「気安く呼ばないでください遠坂葵。貴方は許しませんよ絶対に」

 

「ど、どうして?ーーまさか雁夜くん桜になにかしたの!!」

 

この女はどこまでーー。

 

「何もしていませんよ。むしろ私を救ってくれました」

 

「な、ならどうして貴方はそんな目をしているの?桜はそんな目はしないわ!!」

 

「うるさいですよ。それにこんな私にしたのは貴方ですよ?私が間桐に引き取られてからの事を教えてあげましょうか?まず蟲蔵に放り込まれて処女を奪われました、蟲にですよ?その後全身を蟲に侵されました。内も外も全部です。やめてくださいといってもあの人達は逆に喜ぶんですよ?その後心を侵されました。お陰で見てください、この髪。遠坂の色から間桐の色に変わっちゃったんですよ?毎日毎日侵され続けた私を救ってくれたのは雁夜おじさんです。それに比べて貴方はなんですか?桜を奪った?時臣を奪った?じゃあ貴方はなにかしたんですか?私が間桐に養子に出されるという時に最後まで反対したんですか?時臣が聖杯戦争に参加するときに生き残れるようになにかしたんですか?何もしていない癖に全部他人任せ、挙句の果てに八つ当たりですか?笑えませんよ、私達はこんなになってまで必死にあがいているのに貴方は綺麗なままなんて。だから私は貴方に罰を与えます。それを眺めながら一生後悔しながら生きなさい。」

 

手をあげるとアーカードが銃を構えました。

 

「懺悔なんて聞きません。何もしなかった貴方が自分の危機が迫った時だけ行動するなんて許されません」

 

私は容赦なく手を振り下ろしました。

放たれる弾丸。

それは確実に遠坂葵の両足を砕き分離させました。

涙を流して許しを請うこの女は凄く醜いですね。

 

「私や雁夜おじさんにもし何かしたら・・・今度は殺しますからね」

 

意識を失った遠坂葵。

寄り添うように眠る遠坂時臣。

 

「馬鹿な人達」

 

私は視線を雁夜おじさんに移しました。

おじさんはカタカタと震えていました。

可愛そうなおじさん。

でもこれで終わりました。

おじさんと私はもう遠坂に縛られることなんて無いんですよ。

 

「どうせ見ているんでしょう?遺体とこの女は任せますね。女は殺さないでくださいね」

 

パチパチと拍手が聞こえました。

 

「まだ幼いというのにその言動、態度。やはりお前は狂っている。だがそれを許そう。私は神に仕える者なのだから」

 

「・・・」

 

芝居がかった声を無視して教会を出ました。

婦警さんにかかえられたおじさんは寝ていました。

疲れていたのでしょうね。

雁夜おじさんの寝顔を見ながら明けていく夜を恨めしく思いましたーー。

 

 


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