食事を済ませて私とアーカードは街へと向かいました。
聖杯戦争とは言っても日中は平和そのものです。
魔術は衆目に晒してはいけない。
これは魔術師全てに共通の認識らしいので人が多い日中に戦うなんて馬鹿な真似はしないと思います。
ただ、魔術以外の方法で暗殺される可能性も零ではないので警戒はします。
「どうした桜。そんなにビクついていては戦争に生き残れないぞ」
アーカードはいつも私を試すような、馬鹿にするような口調です。
吸血鬼がどんな事を考えているかなんて知りませんがあなり気分が良いものではありません。
「大きなお世話です。それよりも、さっき聖杯戦争について色々知っているような口ぶりでしたけど何故あんなにも詳しく知っていたんですか?」
「ふっ、我々サーヴァントはこの世界に召喚された際に現代の知識や簡単な聖杯戦争のルールなどを予め聖杯から与えられる。そして雁夜の家は御三家の中でも令呪のシステムの作り上げた家で令呪関係などの文献などが残っていた。厳重に封印されていたそれを読んだだけだ」
「そんなものが間桐の家にあったなんて・・・」
「臆病者なだけあって子孫や後継者にすら教えるつもりはなかったのだろう」
「ならどうしてそんな文献を残したんでしょうか?」
「大方あの身体を維持していくのに魂が削れていったのだろう。故に忘れてしまう前に文献にして残して置いたのだろうな」
「・・・はぁ、なんであんな馬鹿の為に僕が本を買ってこなくちゃいけないんだよ・・・」
偶然視界の端に写った人物は本屋でため息を吐きつつ戦闘機の本?を次々とカートに入れていました。
小さな本屋のドアが偶然開いていたので目に止まったのですが、あの人は軍事マニアか何かでしょうか。
「ったく、あいつサーヴァントの癖に現代兵器なんて見てどうするんだよ・・・」
その言葉に私の身体が強張ります。
ーーあの人マスターだ。
どうしましょう。
見たところ怖い人には見えませんが・・・。
「おいクソガキ・・・お前マスターだろう?」
どうしようか迷っている私の気も知らずにアーカードは堂々と問いかけます。
もしかするとこの人は・・・馬鹿なんでしょうか。
「え・・・ええええええ!!」
話しかけた男性はすごく驚いています。
黒いオカッパ頭に黒に少し緑が入ったような瞳が特徴的です。
何よりも・・・可愛い。
男性に可愛いというものでは無いかもしれませんがとにかく可愛いです。
挙動の一つ一つが妙に面白くてつい笑ってしまいました。
「くすくすっ」
「えっえっえっ?」
未だ動転している様子も可愛くてなんだかホッとしています。
やっぱり怖い人じゃないみたいです。
「ごめんなさい面白くて」
「面白いってなぁ・・・まぁいいけど」
照れた顔も・・・いえこれ以上はやめておきます。
細い身体に加えて身長も・・・男性の平均身長からすると少し低いかもしれません。
「それよりも、マスターってことはお前たちも参加者ってことか・・・もしかして、サーヴァント?」
アーカードを指さしています。
私が頷くと後ずさるように数歩下がりました。
「ま、まさかここで始めるつもりじゃないだろうな・・・」
「いえ、そのつもりはありません。でも少しだけお話しませんか?」
アーカードに目配せすると彼は頷きました。
「ううう、分かったよ。これ買ってくるから少し待っててくれるかい?」
「はい、分かりました」
「はぁ、ついてないや・・・」
とぼとぼと店内に入っていきました。
「アーカードはもう少し配慮してください」
「ふっ」
なるほど従うつもりは無いってことですか。
「おまたせ。近くに公園があるから場所を移そう」
着いて行くと小さな公園がありました。
周りはマンションに囲まれていてシーソーとブランコとベンチが置かれています。
男性は迷わずベンチに座ると手招きをしています。
男性の隣にはハンカチが置かれていてここに座れと言うことでしょうか。
「ここのベンチなんでこんなにも汚いんだよ。ごめんねこんな汚いところで」
「いえ・・・でもハンカチはいいんですか?」
「ああ、構わないよ。イギリス紳士としてのたしなみさ。」
得意気に話すこの人は格好をつけても様にならないですね。
・・・私なんだかどんどん悪い子になって来てるような気がします。
「ふぅ、さて話なんだけど・・・君がマスターで間違いない?」
「・・・はいそうです」
一瞬迷いましたけど正直に答えました。
「君みたいな小さなこどもがねぇ・・・何か事情でもあるの?」
「はい、私には叶えないといけない願いがありますから」
「一応聞いとくけど根源関係ではないんだよね?」
「・・・はい」
「詳しくは聞かないけどきっと大事なことなんだよね・・・それに比べて僕は・・・はぁ」
なんで落ち込んでいるんでしょうか。
アーカードは興味がないみたいで少し離れた木にもたれかかっています。
「あの、お兄さんの願い事はなんですか?」
「む・・・僕の願い事は他の人に僕の事を認めさせること。正しく評価されたいんだ」
「そう、なんですか」
「この聖杯戦争に参加したのだって先生を見返したかったからだし・・・ああもう!!こんな子どもに愚痴るなんて!!しかも僕よりしっかりしてるし!!自分が嫌になってくる!!」
髪の毛を掻きむしり声を上げるお兄さん。
私には理解できませんがお兄さんには耐えられないんでしょう。
やがて落ち着いたお兄さんは意を決したように立ち上がりました。
「よし、決めた!!僕が生き残ったら君の願いを代わりに叶えてあげるよ!!」
「でも私はお兄さんを殺してしまうかもしれません」
「・・・その時はその時だよ。僕だって手は抜かないからな。だからお互いがんばろう」
「はい。絶対に負けません」
そして一時間ほど話した後お兄さんが慌てて立ち上がりました。
「やばい、あいつが家から出てくる!!くそ、あいついい加減にしろよな!!大人しく家でゲームでもしてろよ!!・・・ごめん帰るね」
去り際に『僕の名前はウェイバー・ベルベットだ』と言ったので私も『桜です』と返してウェイバーさんと別れました。
やっぱりウェイバーさんは可愛いです。
「ようやく終わったか桜。ならば食事に行くぞ。私はもう限界だ」
「お待たせしました。それでどこに行くんですか?」
「病院だ」
「病院?」
冬木にある一番大きな病院に到着すると私を椅子に座らせて『待っていろ』と言って歩いていきました。
受付の看護師さんに『何も問題はない』と繰り返し呟いていましたがあれは何でしょうか。
謎ばかりです。
通り過ぎて行く人たちを眺めながら待つこと30分ほどでアーカードは戻ってきました。
若干血の匂いがしますが気にしない事にします。
「満足しましたか?」
「ああ満足だ、とても満足だ、とてもとても満足だ」
人類ではありえない尖った犬歯をむき出しにしているアーカードはやはり吸血鬼なのですね。
「では帰ろうかマスター」
帰り道、私はいくつかの視線を感じました。
特にすれ違った黒髪の女性はとても鋭い視線を向けて来ました。
きっと聖杯戦争関係者なのでしょう。
でも隣にアーカードがいるので怖くはありません。
まだまだ日は沈みませんがまずは帰って雁夜おじさんを安心させてあげましょう。
偶然の出会いなんて事がありましたがとても楽しい一日でした。
それだけは間違いありません。
青く澄み切った空を睨みながら私はそう思いましたーー。
name ウェイバー・ベルベット(Waver Velvet)
マスター
魔術師としては3代目になるが実力は・・・。
魔術師は血統だけではないという論文を教師である男に提出するも馬鹿にされた。
その腹いせにその教師宛の聖遺物(英霊が生前持っていたとされるもの)を盗み、それを使ってマスターとなる。
自信家でナルシストの癖に臆病で、身長が低いことを気にしている。
聖杯で求めるのは馬鹿にした人々に自分の価値を認めさせること。
しかし彼のサーヴァントに「小さい」と言われ、落ち込んでいる。
原作でのメインヒロイン。
もはや主人公とか騎士王とか金ピカとかよりも目立つほどのキャラ。
主人公よりも主人公をしていたキャラ。
唯一4次で生き残った人物。
後に時計塔の講師として頭角を現す。
今作では目標を与えてあげたので若干男らしいかもしれません。
また、アーカードのステータスを読み取っていますが日中のため低いステータスで覚えています。
作者がzeroで一番好きなキャラです。
name 久宇 舞弥(ひさう まいや)
協力者
武器はステアーAUGとキャリコM950。
幼少から兵士となる為に訓練を受けており、切嗣に拾われるまで桜と似たような境遇にあった。
実は出産経験もあるらしい(もちろん望んだものではない)。
実は甘党。
純真無垢で一途。
とあるマスターと愛人関係にある。
原作ではそこまで重要な登場人物ではない。
この作品では重要人物にしたいな。