fate/zero~ノーライフキング~   作:おかえり伯爵

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初投稿ですのでご容赦を。



おかえり伯爵

私は暗い暗い穴の中で貪られ作り替えられていく。

昔の記憶は薄れていき今ではお祖父様の許しがなければ息をすることすら出来ない。

 

「ーーあ」

 

全身を、体内を這いまわる蟲。

刻印蟲と呼ばれるそれは私を犯し私を狂わし私を壊す。

いつからだろうか。

私の感情というものが消えていったのは。

今の私は嬲られるのをまるで他人事のように感じていた。

 

「呵呵・・・桜よ、お前は良い器になりそうじゃ。雁夜よそうは思わんか?」

 

最早人間とは思えぬ姿になっても生にしがみつく怪物。

虫を操り人を弄ぶ老人。

この方こそ私のお祖父様の間桐臓硯。

私はお祖父様には逆らえない。

でなければ私は直ぐにでも壊されてしまうのだから。

 

「貴様ーー臓硯!!どこまで桜ちゃんを弄ぶ気だ!!」

 

「言ったであろう?お前が聖杯を手にするまでは教育を続けると。桜を助けたければさっさと聖杯をもってくるんじゃな」

 

雁夜おじさんは悔しそうに歯を食いしばる。

私の事なんて放っておいてくれて良いのに。

馬鹿なおじさん。

お祖父様に逆らって生きていられるわけがないのに。

 

「それよりも今宵はサーヴァント召喚の儀を行うのじゃが覚えて来たのじゃろうな?」

 

「当たり前だ。必ず聖杯は手にしてやるから桜ちゃんには無理をさせるなよ間桐臓硯!!」

 

「生意気な口を利く前にサーヴァントを召喚してみせよ。お前にやった刻印蟲があっても怪しいものだからの」

 

お祖父様は蟲蔵から出て部屋に来いとおっしゃられたのでその通りにしました。

シャワーを浴びて、鏡を見てみると鏡に写る私の目は昔のような輝きはありませんし、髪の色も紫掛かった間桐の色に染められています。

悲しみなんてもうありません。

だって感情を見せればみせるほどお祖父様が喜ぶだけだもの。

私は人形。

お祖父様の言いつけを守る人形。

人形だったら傷つく事もないから。

だから私は人形でいい。

 

「来たか桜よ。お前を救うと豪語した叔父に何か言ってやれ。もしかすると助けてくれるかもしれんぞ?」

 

お祖父様は面白そうに私に言います。

私に期待を持たせてからまた絶望させるお積もりなんでしょう。

でも私は人形ですからそのような期待はしません。

 

「呵呵。雁夜よ、桜が何か言いたいそうだぞ」

 

「どうしたの桜ちゃん?」

 

顔の半分が蟲の影響で壊死し、髪は白く老人のようになったその姿はお祖父様に逆らった罰なのでしょう。

それでも必死に笑いかけるこの人は哀れで可愛想です。

 

「がんばって」

 

心にもない言葉が口から漏れます。

私の言葉でこの人が少しでも安心出来たらと少し思ってしまったのかもしれません。

私の為に命を捨てようとしているのですからこのくらいは良いでしょう。

幸いお祖父様も笑っていらっしゃいますのでお仕置きはされないと思います。

 

「ああ。必ず助けてあげるからね」

 

嬉しそうに微笑むおじさんは見ていられません。

未来などわかりきっているのですから。

ボロボロの身体で何をしたって結局変えられません。

 

「素に鉄。礎に石と契約の大公ーー」

 

いよいよサーヴァント召喚の儀が始まります。

おじさんの足元には大きな魔法陣。

それが呪文と共に輝き出します。

 

「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

段々とおじさんの表情が苦しげに歪んでいきます。

 

「ーー告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

更に増していく輝き。

不意に私の頬を何かが流れていきます。

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!!!」

 

私の視界は光に包まれやがて闇に染まっていきます。

闇の中には男性が一人片膝を地に着け臣下の礼をとる騎士の様に存在していました。

 

「ほう・・・召喚は成功のようじゃな。呵呵、そうでなければつまらん。雁夜よせいぜい頑張ることだ」

 

お祖父様は満足そうに頷いています。

肝心の雁夜おじさんは血反吐を吐いていました。

 

「ぐはっ・・・」

 

倒れそうなおじさんをサーヴァントが支えます。

確か狂戦士のはずなんですが様子が少しおかしいです。

着ている服装は現代でもありそうな紅いロングコート。

紅い帽子をかぶり、目は黄色いサングラスで隠していて身長は2mくらいありそうです。

 

「今回のマスターはずいぶんと人間らしい男のようだ。問おう、お前が私のマスターか?」

 

「そう・・・だ。絶対に、桜ちゃんを助けるんだ・・・絶対に」

 

おじさんは意識を失ったみたいです。

おじさんを地面に寝かせるとサーヴァントは私を見つめます。

暗がりでわかりにくいですが口元は少し笑っているように見えます。

 

「ほう・・・これは面白い、とても面白い」

 

ニヤニヤと嗤うサーヴァント。

不快な顔。

忘れたはずの感情というものが溢れてくる。

ーーやめて。

止まらない止まらない。

ーーやめて。

私の視界が滲む。

ーーやめて!!

 

「フハハハっ!!」

 

「ほう、バーサーカーの癖に理性を残しておるのか。桜に興味を持つのは構わんが手を出すのであればオヌシのマスターは死ぬことになるぞ?」

 

お祖父様はサーヴァントを睨みます。

でもサーヴァントはまるで声が聞こえていないかのように私をただ見つめています。

 

「私は殺せる。微塵の躊躇も無く。一片の後悔も無く鏖殺できる。何故なら私は化物だからだ。ではお前はどうだお嬢さん。銃は私が構えよう。照準も私が定めよう。弾を弾倉に入れ、スライドを引き、安全装置も私が外そう。だが殺すのはお前の殺意だ。さぁどうする?命令を!!」

 

サーヴァントはチラリとお祖父様を見ます。

いけません、貴方はお祖父様の恐ろしさが分かっていないのです。

逆らったら・・・逆らったら殺されてしまいます!!

 

「サーヴァントの分際で儂を殺すと?呵呵、愉快愉快。貴様のような者に儂が殺せると思うたか!?」

 

「どうした?お前の一言でお前は助かる。それともこのまま豚のような悲鳴をあげて死んでいくのか?」

 

その言葉に私の中に微かに残っていたものが弾けました。

 

「あ  たにーー貴方に何が分かるって言うんですか!!」

 

「私には何もわからん。興味も無い。だが私のマスターがお前を助けると言った。だからお前が望めば助けよう」

 

「今更・・・今更助けてくれるなんて虫の良い話があるわけがありません!!」

 

「桜・・ちゃんは・・・絶対に・・・ま、もるんだ・・・」

 

激昂する私に聞こえてくる微かな声。

この家に来て初めて優しくしてくれた人。

私のせいであの優しいおじさんが死んじゃう。

私のせいで・・・。

滲む視界に写る雁夜おじさん。

ボロボロの雑巾みたいに横たわるおじさん。

薄れていった記憶が鮮明に写しだされる。

ーー久し振りだね桜ちゃん。

ーー今日は桜ちゃんにプレゼントがあるんだよ。

ーー可愛いな桜ちゃんは。

ーー絶対に守るからね、桜ちゃん。

ーー桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん。

 

「お願いします・・・私とおじさんを助けて下さい!!!」

 

心が熱い。

そうか、これが感情。

忘れていた、押し込めていた感情なんだ。

 

「了解だお嬢さん」

 

嗤うサーヴァント。

さっきまでは嫌悪すら覚えたその笑みが今はとても頼もしく思えた。

 

「桜ーー貴様後で覚えておけよ?儂を怒らせるとどうなるか後で教育してやる」

 

お祖父様が怒っている。

ーー怖い。怖い。怖い。

 

「動くなよお嬢さん」

 

そう言ってサーヴァントが突然姿を変えました。

この世のものとは思えないそれは私の口から体内に侵入していきます。

けれど何故か不快ではありません。

むしろ温かい。

たくさんの命が私の中を温めてくれているようです。

 

「ふむ、これで終わりか」

 

再び口から出てきたサーヴァントは元の姿に戻っています。

そして懐から白銀と黒銀の二丁の拳銃を取り出しました。

 

「呵呵、驚いたな。まさか桜の中の刻印蟲を全て取り除くとは。だが同時に貴様の中に蟲が入ったようじゃな。楽には死なせぬ。苦しみながら死ね」

 

お祖父様が杖で床を突きます。

その音を聞くだけで私の身体は震えます。

あれはお祖父様が蟲を動かす時の合図。

きっとサーヴァントの中では蟲が暴れまわっているはずです。

なのに何故平然と笑っているのでしょうか。

 

「どういうことじゃ・・・貴様何をした!!」

 

お祖父様の問を無視してサーヴァントは白銀の銃を発砲します。

それはお祖父様の足を貫くどころか吹き飛ばしていました。

当然お祖父様は床に倒れます。

でもこれくらいではお祖父様は死にません。

何故ならお祖父様はマキリの魔術師であり500年を生きる化物なのですから。

 

「いきなりとはな。だがその程度では死なぬよ」

 

何処からか蟲がお祖父様の足元に集まりそして足になりました。

立ち上がるお祖父様を興味深そうに眺めるサーヴァント。

そして今度は黒銀の銃を発砲しました。

心臓を貫いた弾丸は先ほどとは比べ物にならないほどにお祖父様の身体を抉り、大穴を開けていました。

でもお祖父様は死にません。

やはり無理だったんです。

お祖父様を殺すことなんて。

 

「効かぬなぁ。貴様程度では儂は殺せんよ」

 

「フハハハハハハハハハハハハ!!」

 

お祖父様は蟲を使ってサーヴァントの足元から食らいつきます。

それを銃で潰して再びお祖父様の頭を吹き飛ばしますがやはり効果がないようです。

次から次へと生み出される蟲を躱し殺す姿はさすが英雄ですがでもお祖父様には勝てないのです。

なのにサーヴァントは笑っています。

なにが面白いのでしょう。

 

「楽しい!!こんなに楽しいのは久しぶりだ!!貴様を分類A以上の化物と認識する」

 

手でカメラの形を作るようにすると、白い手袋の甲に描かれた魔法陣が紅く光り出します。

次の瞬間サーヴァントの形が崩れたくさんの瞳が目を開きました。

そして中から突然銃が飛び出てお祖父様に発泡します。

連続して打ち出される弾丸を受けてお祖父様の身体がバラバラになっていきます。

でもどれだけ粉々にしても蘇ります。

 

「なるほど、ここまでくれば唯の化物か。まさか私の劣化コピーがこんな所にあるとはな。お前はまるで糞のような男だ。狗の糞になってしまえ」

 

バラバラの状態から形を戻したお祖父様にとても大きな狗の顔が襲いかかります。

そしてそのままお祖父様に喰らいつき、砕き、飲み込んでしまいました。

 

「・・・終ったの?」

 

「ああ、終わった、全て終わった。改めて問おう、お前の名は?」

 

「桜・・・間桐桜」

 

「・・・桜。私はアーカード。バーサーカーのクラスで呼び出されたサーヴァントだ。お前は狗か?化物か?」

 

「私は・・・私は人間です。アーカード!!必ずおじさんを助けてください。できなかったら私は貴方をどこまでも追いかけて殺します」

 

私の脅迫にアーカードは恍惚の笑みを浮かべています。

心底嬉しそうで悲しそうで儚げで。

 

「ああ・・やはり人間は素晴らしい」

 

カーテンの隙間から月の光が差し込んでいます。

照らされるアーカードはとても美しく私は目を離すことが出来ませんでした。

 

 

 

そうして一夜が終わる。

この出会いは偶然か必然か。

全ての答えは聖杯の中にーー。

 

 

 

 

name アーカード(ヴラド・ツェペシュ、ヴラド・ドラキュラ)

クラス バーサーカー

筋力B+ 魔力E 耐久D 幸運E 敏捷B+ 宝具D+~EX

 

宝具

 

454カスールカスタムオートマチック ランクD+ 吸血鬼に対しては補正がかかりCになる

 

13mm拳銃ジャッカル ランクC+ 吸血鬼に対しては補正がかかりBになる

 

拘束術式開放第1~3号 ランクC~B++ ほぼありとあらゆる姿に変形変身できる。幻想種などの神聖系は不可

 

眷属セラス・ヴィクトリア ランクA+ セラスを召喚する。単独行動スキルAをもつが血を吸わずにいると徐々にステータスが下がっていく。

 

拘束術式開放第零号(死の河) ランクEX 全てを飲み込む死の河。ストックされた命全てをサーヴァントとして召喚する。結界系ではないので街をそのまま飲み込む。範囲の設定は出来ない。また、吸収した命を全て放出するため、本体が殺されれば本体ごと全て消滅する。それぞれのサーヴァントは単独行動スキルAを持つ。

 

保有スキル

 

変身D 動物などに形を変える事ができる。

 

同化A 物や風景や生物と同化、すり抜けなどができる。日が出ていると制限されるものがある。

 

狂化B バーサーカー固有のスキル。吸血鬼であるため狂化しても言語を話すことができる。

 

吸血A 相手の血を吸うとその分命をストック出来る。既にとてつもない量のストックがあるためあまり意味は無い

 

再生EX 失った身体を再生させる。吸血で得た命分だけ死んでも蘇生する。ストックがとてつもない為ほぼ死なない。不死殺しの概念をもった武器でも殺せない。治癒ではなく再生の為、治らない傷が出来ても死ねば元に戻る。例外は直視の魔眼のみ。

 

魅惑の魔眼E 目を合わせた人間を従わせる。魔術師やサーヴァントには効果がない。

 

吸血鬼 日に当たる場所だと身体能力全般が1ランク下がる。逆に満月だとワンランクアップ。

 

カリスマE 戦闘における統率・士気を司る天性の能力。吸血鬼化によってほとんど失われてしまったためほぼ無意味。一人か二人を上手く統率できる程度の能力。

 

千里眼C 吸血鬼化による副産物。夜であれば更にワンランクアップ。

 

直感A 人類を超えた感覚から生まれたもの。未来予知に近い。

 

説明

 

15世紀のワラキア公国の君主。オスマン帝国からルーマニアを守った英雄。

別名 悪魔 吸血鬼 ドラキュラ ノーライフキング 伯爵 ナイトウォーカー 


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