ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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第八十二話 『F』

俺は楽観視していたのかもしれない。確かにペロリストは救いようが無い。だが、ヤツ等だって越えてはならない線がある事はわかっているはずだと。

 

そんな俺の考えの結果がこれだ。ディオドラ・アスタロト・・・いやD。心の中でまであんなクズの名前を呼びたくない。もうDで十分だ。

 

ともかく、Dは一線を越えた。アーシアを誘拐し、力づくで自分の物にすると言い切った。ならば、俺はどうするか? そんなのは決まっている。ヤツに協力する為に集まった他のペロリスト共も同じだ。

 

D=ぶちのめす

 

ペロリスト=ぶっ飛ばす

 

つまり、D+ペロリスト=全滅の式が出来上がったわけだ。もう何も考える事は無い。みんなが与えてくれたこの新しい力で連中は・・・ペロリストは全滅だぁ!

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

考えるんじゃ無く、感じるままに剣を振るう。動きを再現するんじゃ無く、自らの意思で剣を動かす。もっと強く! もっと速く! アル=ヴァン先生よりももっと!

 

「な、何なんだこいつのパワーは!?」

 

島田悪魔(仮)を斬り伏せ、俺は突き進む。もちろん『手加減』はかけてある。この力はみんなを・・・アーシアを守る為の力だ。敵を殺す為のものじゃない。

 

・・・なんてカッコイイ感じで言ってみるが、本音はただビビっているだけだ。でも、ヘタレと言われようが俺は人殺しなんかしたくない。・・・その代わり、死なない程度にはぶちのめすけどな。

 

『アンタが来るまで、あの子はウチが守る。せやからアンタは思いのままに戦いんさい!』

 

戦闘開始直前、オカンはそう言ってくれた。オカンがついているならばアーシアは絶対に大丈夫。なにせ・・・オカンだからな!

 

「ッ・・・! 黒歌! 右後方から魔力弾が来るぞ!」

 

「にゃっ!」

 

黒歌が魔力弾を回避する。彼女達の位置、敵の動き、この戦場の状況全てが俺の頭に逐一送られて来る。アガレスさんが追加したセンサーのおかげだろう。

 

その情報を元に、俺は黒歌達に指示を出していた。バラバラの場所にいるはずなのに、どういうわけか俺の声は彼女達に届いている。おそらく駒を持っている事が関係しているのだろうが、考えるのは後だ。

 

ともかく、俺はリアス、支取さんから教わった事を思い出しながら、拙いながらもみんなに指示を出していた。

 

「ミッテルトさん! 黒歌と合流して反撃を!」

 

「はいっす!」

 

「カラワーナさん! 左側の層が薄い! あなたの突破力なら抜けられます!」

 

「はっ!」

 

「レイナーレさん! 前方の敵に全力で砲撃を!」

 

「了解しました! Aモードで片付けます!」

 

「カテレアさん・・・は余計な事は言わない方がいいですね。あなたの判断に任せます」

 

「お任せください!(ふふ、それだけ私の事を信頼してくださっているという事ですね!)」

 

・・・やっぱり彼女達は凄い。こんな指示でよくもまああれだけの動きが出来るもんだ。・・・指示しなくても彼女達の判断に任せた方がいいかもしれない。素人指示じゃ逆に迷惑になるだろうし。

 

(にゅふふ、何だかご主人様に見守ってもらってる気分にゃ)

 

(確かにここは二人一組で臨んだ方が安心出来るっす)

 

(何故あの方の声が聞こえるのかはわからないが、おかげで囲みを抜けられた)

 

(Aモードは乱発出来ない分使いどころが難しい。だからこそ、敵が密集していたこのタイミングだったわけね)

 

(ああ、でも少しものたりませんわ! 私にも指示を! あなたの言われるがままに戦えるなんて最高ではありませんか!)

 

よし決めた。敵の攻撃にだけ注意して、後はみんなに任せよう。それに、そろそろ彼女の元へ向かいたいしな。

 

黒歌達に突入の旨を伝え、偶然近くにいたカテレアさんにも口頭で説明し、俺は神殿へ向かった。センサーには正面から見て最奥のフロアに、さきほどからずっと動いていない二つの反応が映っている。おそらくアーシアとDだろう。

 

位置がわかっているならわざわざ馬鹿正直に正面から突っ込まなくてもいい。そう判断してちょうどフロアの真上に移動したその時だった。

 

―――リョーマさん!

 

その声を聞き間違うわけがなかった。俺は右の腰から剣を抜き、それを神殿に向かって振った。瞬間、そこに大きな穴が開き、そこから覗いた場所にはあの子がいた。

 

「・・・確かに届いたよ。キミの声が」

 

俺は彼女の元にゆっくり降り立った。そして、改めて彼女の名を呼んだ。

 

「迎えに来たよ、アーシア」

 

「リョーマさん! わ、私、絶対諦めないって! あの人の言う通りになんかなってたまるもんかって! リョーマさんが・・・みなさんがきっと来てくれるって!」

 

「うん、わかってる。わかってるよ。・・・よく頑張ったな、アーシア」

 

「うぐ・・・リョーマさ・・・ひぐ・・・」

 

ボロボロと涙を流すアーシアを力一杯抱きしめる。怖かったろう。辛かったろう。こんな場所でペロリストと二人でいなければならなかったんだから。

 

「・・・」

 

彼女を抱きしめたまま、俺は右腕を動かした。直後、装備されたシールドが魔力弾を弾き飛ばす。

 

「なっ!? こちらを見ずに・・・!?」

 

魔力弾を撃って来た張本人・・・Dが唖然とした顔でこちらを見ている。なんか顔がエライ腫れてるんだが・・・。

 

「アーシア。ヤツはどうしたんだ?」

 

「ふえっ!? あ、あれはその、聖母様が・・・」

 

「聖母様?」

 

『ウチの事や。ちょっとお灸を据えてやろう思うてな。その子に力を貸してあげたんよ』

 

「・・・なるほど、オ・クァーンの力か」

 

「オ・クァーン様? ・・・ええ!? そ、それって確かリョーマさんの・・・!!」

 

「その話は後でしよう。今はヤツに報いを受けさせる方が先だ」

 

俺はアーシアを離し、ヤツの方へ向かって一歩進んだ。よお・・・会いたかったぞD。お前には散々してやられたからな。お礼がしたくてしたくてたまらなかったぞ。

 

「ふ、ふふ、随分早いご到着じゃないかフューリー。もう少しでアーシアと結ばれる所だったのに、空気の読めないヤツだ」

 

「・・・人それを負け惜しみという」

 

「なっ!?」

 

「俺は無駄話をしに来たわけじゃない。アーシアを助けに来たんだ。そのついでにお前を倒す。さっさとかかって来るがいい」

 

「舐めるなよ人間風情が! 僕を外の連中と同じと思うな! 世界最強のドラゴン・・・オーフィスから『蛇』を貰った僕に勝てると思ってごぶっ!?!?!?!?」

 

べらべらとくっちゃべっている間に、スラスターの速度を上乗せした拳を全力で叩き込む。俺は正義の味方じゃない。アホ面で隙を曝け出しているヤツがいれば殴るのは当然だ。

 

何かを潰したり砕いたりする感触が拳に伝わって来る。生々しくて気分が悪いが、それを悪いとは微塵も思わない。俺はこいつをぶちのめす。そこに躊躇いや後悔は微塵も無い!

 

思いっきり腕を振り切り、Dを殴り飛ばす。打ち上げられたDは天井に激突し、そのまま落下して来た。

 

「・・・それで、最強がどうしたって?」

 

「うぶ・・・おえぇぇぇぇぇぇぇ」

 

何か色々混ざった物を口から吐き出しながらDが呻く。立てよD。お前がやらかした事はこんなもんじゃ済まされないんだぞ。

 

「ぐう・・・はあ・・・! あ、あはは、ちょっと油断しちゃったかな。そうだとも、上級悪魔で現魔王ベルゼブブの血筋である僕がこんな無様な姿がふっ!?!?!?!?」

 

またしゃべりだしたので殴る。学習能力が無いのかコイツは? 一度支取さんに戦いの心構えを教え・・・駄目だな。こんなクズを彼女に近づかせたくない。

 

「真面目にやれ。・・・それとも、わざとやっているのか?」

 

拳を引きながら崩れ落ちるDを見下ろす。・・・あ、十円ハゲ発見。はは、ダッセェ。どうせアーシアをどうしてやろうとかそんなふざけた事を悩んだりしてそうなったんだろう。ペロリストの悩みなんてどうせそんな下らない物に決まっている。

 

「痛い痛い痛い痛いぃぃぃぃぃぃぃ!!! 何でだよ! 何で僕がやられてるんだよ! オーフィスの・・・世界最強の力を与えられたのにどうして!?」

 

はっ、最強? 最強だと? 上等じゃないか。ペロリストの親玉ごときから与えられた力がどれほどのものか見せてみろよ。

 

「だったら、そこで無様に這いつくばってないで、俺の皮をささくれさせてみせろ!」

 

「い、意味がわからなぎゃばらっ!?!?!?!?」

 

サッカーやろうぜ! お前ボールな! のノリでDの腹を思いっきり蹴る。走り込みで鍛えた脚力は伊達じゃない。ヤツの体は正にボールの様に壁に向かって吹っ飛んで行った。

 

壁に突き刺さったDを確認し、俺がアーシアの方を向くと、彼女は少し顔を青ざめさせていた。

 

「あ、あの・・・ディオドラさんは?」

 

「大丈夫。死んではいない」

 

「そ、そうですか」

 

はあ・・・あんなヤツまで心配するなんて。この子の天使っぷりが少し心配になってしまった。いいんだよアーシア。あんなヤツまで心配する必要なんてこれっぽっちも無いんだよ?

 

「さあ、すぐにここから出よう。みんなにもキミの無事を教えないと・・・」

 

「ふ、ふひ、ふひひひひ!」

 

・・・やれやれ、まだやる気か。呆れと共に声の方へ振り向こうとしたその時、突如神殿全体が大きく揺れ始めた。

 

「きゃっ!? な、何ですか!?」

 

「よくわからないが、急いだ方がよさそうだ」

 

アーシアを抱きかかえ、俺は穴から脱出した。神殿の揺れはさらに激しさを増し、いつ崩壊してもおかしくは無い様子だった。

 

ともあれ、まずはアーシアを安全な場所まで連れて行かなければ。そう判断し、俺は神殿から離れるのだった。

 

SIDE OUT

 

 

二人が去り、神殿に残されたディオドラは壊れたかのように笑い続けていた。・・・いや、この時点ですでに彼は壊れていた。最早アーシアへの執着は消え、フューリーへの憎悪だけが彼を動かしていた。

 

「殺す! 殺してやるぞフューリー! ひひひ、僕にはもう一つ切り札があるんだ! “皇帝機”さえあれば貴様なんか・・・」

 

それは突然だった。ディオドラの胸が光で貫かれる。呆然と自身を貫く光を見下ろしながら、ディオドラは永遠の眠りについた。

 

「・・・壊れた貴様に“皇帝機”は任されん。元々これは私の物になる予定だった。それが少し早まっただけの事」

 

既に応える術を失ったディオドラの横を通り過ぎ、彼を手にかけた張本人・・・シャルバ・ベルゼブブは奥に設置された玉座へと目を向けるのだった。

 

 

イッセーSIDE

 

「ッ・・・! みんな、あそこ!」

 

先輩が神殿へ突入して十分くらいが過ぎた頃、先輩はアーシアをその腕に抱え戻って来た。ま、当然だけどな。神殿が揺れ始めた時は焦ったけど、あんな野郎に先輩が負けるわけがないっての。

 

「アーシア・・・よかった。本当によかった」

 

ゼノヴィアが涙ぐんでいた。彼女にとってアーシアは親友だからな。顔には出さなかったけど心配でたまらなかったんだろう。

 

ともかく、アーシアは助かった。他の『禍の団』の連中もほぼ殲滅されてるし、めでたしめでたし・・・。

 

「・・・まだだ。見ろ、神殿から何か出て来るぞ」

 

「え?」

 

表情を緩めず、サイラオーグさんが神殿を見据える。その時だった。神殿が崩壊し、その中心から何かが姿を現した。

 

「・・・何だよアレ」

 

そいつは血を塗られたかのように全身が赤く染まっていた。手には黒いオーラを放つ禍々しい大剣を携えている。だけど、俺が驚いたのはそこじゃない。

 

「似ている・・・先輩の鎧に」

 

木場の言う通りだった。そいつの姿には先輩の鎧と似ている部分が多く見受けられた。だけど、そこに“騎士”らしさは欠片も無い。そいつから感じられるのはただただ不気味さだけだった。

 

『お、おお、皇帝機だ! ついに皇帝機が動いたぞ!』

 

そいつの出現に『禍の団』の連中が歓声とも取れる声をあげた。皇帝機? まさか、騎士である先輩に対抗して作ったのか?

 

「視覚的効果を狙ったのでしょうね。実際、アレが姿を見せたと同時に、他の悪魔達の戦意の向上が見られます」

 

「皇帝ならば騎士に勝てると? ふん、いかにも連中が考えそうなことだ」

 

「ですが、アレは決して見かけ倒しではありません。おそらく、私達全員で挑んでも勝てるかどうか・・・」

 

マ、マジか!? 確かにヤバそうな雰囲気はプンプンするけど、会長にそこまで言わせるほどなのかよ!

 

『聞こえているかフューリー!』

 

「ディオドラの声じゃない・・・?」

 

神殿から出て来たからてっきりディオドラのヤツかと思ったけど・・・。聞いた事の無い声だ。

 

『私の名はシャルバ・ベルゼブブ。真なる魔王ベルゼブブの血を引く正当なる後継者だ。私は貴様を認めない。下等な人間ごときにいつまでも調子に乗らせておくわけにはいかんのだ』

 

何だよコイツ。回りくどい事言ってるけど、つまり先輩の事が気に食わないってだけだろ。つーかさ、今までの先輩の戦いを見てそれでも“下等”とか言うのかよ。現実を見てないガキか。

 

『私はこの皇帝機で貴様を討つ! そして現魔王の血筋を全て絶やし、本当の悪魔の世界を取り戻す!』

 

『シャルバ! シャルバ!』

 

『真のベルゼブブよ! 忌まわしき騎士へ皇帝の裁きを!』

 

「・・・どうやらあの皇帝機とやらがヤツ等の切り札みたいね」

 

って事は、アレを倒せば今度こそ終わりか。切り札を失ってまで抵抗する気がヤツ等にあれば違うだろうけど。

 

「あ、先輩・・・」

 

いつの間にか先輩がシャルバから十メートルくらいの距離に浮かんでいた。アーシアは・・・いたいた。小猫ちゃんのお姉さんに抱きしめられてる。

 

『来たなフューリー! さあ、絶望せよ! この皇帝機の前に跪くがいい!』

 

既に勝ったかのような声色で先輩へと話しかけるシャルバ。絶望・・・。ああ、確かに俺達だったら心が折れちまうかもしれない。だけどな、今お前の前に立ってる人をお前の物差しで計るんじゃねえよ。

 

『・・・笑わせるな。“その程度”の絶望など、何度も乗り越えて来た!』

 

その程度と断言した先輩。その姿はやっぱりすげえカッコ良くて、すげえ強そうで、すげえ頼りになった。

 

イッセーSIDE OUT

 

 

 

IN SIDE

 

神殿から飛び出て来たものの正体に、俺は目が飛び出しそうになった。

 

(アイエエエエ! ズィー=ガディン!? ズィー=ガディンナンデ!?)

 

なんだろう、こんな感じで心の中で絶叫するのも久しぶりな気がする。って、そんな事は今は重要ではない。Jのラスボスさんが何でここにいるんだよ。

 

『んー。おそらく、本来存在するはずの無かったアンタが介入した事で、この世界にも変化が生まれたんやろうな』

 

つまり、俺という存在がアレを生み出したという事か? 何それ怖い。

 

『まあ、あんまり深く考えんでもええと思うで。今のアンタなら負けやせえへん・・・そうやろ?』

 

それはまあ・・・某掲示板で負ける方がおかしいと評価されてて、事実スパロボシリーズでも弱いラスボスランキングの上位に食い込む機体ではあるけど・・・。

 

(・・・いや、弱気になるな。例えラスボスが相手だろうと、俺は負けるわけにはいかないんだ)

 

「来たなフューリー! さあ、絶望せよ! この皇帝機の前に跪くがいい!」

 

は? 絶望? ズィー=ガディン相手に絶望だと?

 

「・・・笑わせるな。“その程度”の絶望など、何度も乗り越えて来た!」

 

本当の絶望ってのはな、量産機の癖に即死級の火力やトンデモ装甲を持ったゲストさんとか、踏み込みが足りないという理由だけで誘導兵器や必殺技を斬り払ったりするエリートな兵士の方や、何をトチ狂ったのか三機に分身する魔神様の事を言うんだよ!

 

「お前は本当の絶望というものをわかっていない。成す術もなく味方が散って行くのを黙って見ている事しか出来ない辛さが、決死の思いで放った一撃を理不尽な理由で無駄にされる悔しさが、多くの者が力を合わせようやく対抗出来るはずだった存在がその数を増やした時の恐ろしさが。それに比べれば・・・お前など絶望どころか脅威にすら成りえない!」

 

SIDE OUT

 

 

 

イッセーSIDE

 

『―――お前など絶望どころか脅威にすら成りえない!』

 

先輩が言い放つ。お前は絶望には値しないと。自分はそれ以上の絶望を知っていると。それはこの世界に来る前から戦い続けていた先輩だからこそ言える言葉だった。

 

先輩の過去がまた少し明らかになった。詳しく聞いてみたい思いもあるけど、先輩すらも絶望してしまうほどの内容に俺の精神が持ちそうに無い。

 

「本当の絶望を知っている・・・。だからリョーマは戦えるのね。仲間を失い、対抗手段も無くし、自分達の力を上回る存在がどれほど数を増やそうとも戦うしかなかった彼だからこそ・・・」

 

部長が胸に刻み込む様に呟いた。俺も忘れない様心に刻んでおこう。絶望を前にしても戦う事を諦めない事の大切さを。理不尽に屈さない意思の力の強さを。

 

『だ、黙れ! 何が本当の絶望だ! 二十年も生きていない小僧が知った様な口を聞くな!』

 

確かに先輩はまだそれくらいしか生きていない。でも、その短い月日に俺達なんかじゃ想像も出来ないほどの激しい戦場に身を置いていたんだ。その間に流した血や涙を、得た経験を、苛まれた無力さを、お前なんかが侮辱していいわけがねえんだよ!

 

『ならばお前に一つ絶望を見せてやろう。倒せると思っていた敵が目の前でさらなる力を得る絶望の瞬間を』

 

そして先輩はシャルバにとっての絶望の言葉を口にした。

 

『・・・モードF、発動』

 

イッセーSIDE OUT

 

 

 

アザゼルSIDE

 

「ほお、連中も面白いもんを作ったもんだな」

 

シャルバ・ベルゼブブの纏う“皇帝機”。俺から見ても中々のもんだった。まあ、精々中の上くらいといった所か。レイナーレ達三人くらいだと手こずりそうだな。

 

「シャルバ・・・やはりクルゼレイと同じく、彼の憎しみも深いのだろうか」

 

ついさっきクルゼレイを葬りさったサーゼクスが顔を伏せる。まあ口ではこう言っているがコイツだってわかってるはずだ。憎しみが無けりゃそもそもこんな行動に出ないってな。

 

「・・・ならば、現魔王として行かなければならない。彼の憎しみを受け止めなければならないのは私だ。これ以上神崎君に負担を与えるわけには」

 

「おいおい、待てよサーゼクス。せっかくこれからが面白くなるってのにそりゃ無しだぜ」

 

「何を言うんだアザゼル。そもそも、こんな事に巻き込んでしまっただけでも申し訳無い思いで一杯だというのに」

 

「はっ、今さら過ぎるだろ。それによ、アイツがあの程度を負担に感じていると思うか?」

 

「それは・・・」

 

「それに、今邪魔しに行けば、アイツが黙ってねえぞ」

 

俺が指差す先では、タンニーンの頭に乗ったオーフィスがフューリーを見つめていた。ホントにアイツはフューリーを見に来ただけみたいだな。

 

「な? だから観念してここでゆっくり・・・ッ!」

 

サーゼクスの肩に手を置こうとした正にその瞬間、再び世界が激しく揺れ始めた。

 

「はっはあ! 来た来たぁ! サーゼクス、結界を張るぞ! このままじゃマジで次元に穴が開きそうだ!」

 

「くっ・・・仕方ない!」

 

「俺も手を貸そう」

 

「頼むぜタンニーン! オーフィス・・・はまあいい! 俺達だけでやるぞ!」

 

さーて、見せてもらうぜフューリー。お前が言う“絶望”とやらの形を。

 

アザゼルSIDE OUT

 

 

 

イッセーSIDE

 

モードF・・・そう唱えた先輩の姿がさらなる変化を遂げた。肩や腕のパーツがスライドし、隠された部分が露わになる。スラスター部から吹き出る炎はより激しさを増し、いつしか翼の様な形を成していた。

 

「・・・抜き放たれた剣は大いなる怒りによりさらなる力を解放する。それを静める方法はただ一つ。怒りを呼び覚ましてしまった愚者が滅びるのみ」

 

アガレスの姉ちゃんの言葉が呪文の様に俺達の耳へと入って行く。

 

「モード・フューリー・・・あれこそがあの鎧の真の姿です」

 

「モード・・・フューリー・・・」

 

いつしか世界の揺れは治まっていた。まるで、暴れ狂っていた力の全てが神崎先輩に取り込まれてしまったかのように。

 

『モ、モードFだと? そ、それがどうしたというのだ! この“皇帝機”と私の力を合わせれば上級悪魔百人以上の力を発揮出来るのだぞ!』

 

足りねえよシャルバ。たったそれっぽっちの力で今の先輩を止められると思うなよ。

 

『負けるはずが無い! 騎士は所詮皇帝の前に平伏すしかないのだからなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

「・・・確かに、騎士は皇帝に命を捧げる存在だ」

 

先輩へ向かってブースターを噴かせながら剣を振りかぶるシャルバ。そして、その剣が先輩を捉えようとした刹那、シャルバの剣は半ばから先が消えていた。

 

「だがなシャルバ・ベルゼブブ。愚かな皇帝を討つのもまた騎士の役目だと知れ。貴様がどれほどの力を持とうが、神崎殿にとって貴様はただの討つべき愚帝でしかない」

 

サイラオーグさんの言う通りだ。アイツが何者で、どんな力を持って様が、先輩には関係無い。アーシアを傷付けようとしたヤツの仲間・・・先輩がヤツをぶちのめす理由なんてそれだけで十分なんだからな!

 

『ば、馬鹿な!? この剣が折れるはずが・・・!』

 

『シャルバ・ベルゼブブ』

 

『ッ・・・!?』

 

『見せてやる。俺がリアス達から・・・仲間達から与えてもらった力の集大成を!』

 

そう叫んだ直後、先輩の姿がかき消えた。アレは・・・まさか例の瞬間移動か!

 

『なっ!? ど、どこへ消え・・・』

 

『遅い!』

 

先輩の声と共にシャルバの鎧の一部が弾け飛んだ。どうしよう、速過ぎて何がどうしてそうなったのかまるでわかんないんですけど。

 

「な、なあ、木場。今どうなったんだ?」

 

「・・・辛うじて確認出来たけど、先輩が両手の爪でシャルバの鎧を抉り飛ばしたんだ」

 

「まさか・・・神崎様、アレをやるつもりなのですか・・・」

 

「アガレス。アレとは何だ?」

 

「大いなる怒りを静める為、愚者を終焉へ導く刃を振り降ろす。それこそが“大いなる怒りの終焉”・・・エンド・オブ・フューリー。私が考えた唯一のコンバットパターンです」

 

「つまり、先輩の必殺技って事か!?」

 

「その通りです。そして、本当の終焉はここからが本番です」

 

三百六十度から迫る蒼の軌跡がシャルバを襲い、ヤツの鎧が見る見る内にその姿を変えて行く。頭部の角が折れ、右腕が吹き飛び、両足が同時に地面に落ちる。その様子は恐ろしくもあり、どこか幻想的でもあった。

 

「綺麗・・・」

 

部長が呆けたようにそう言う。それと、ここでわかったが、あれは鎧じゃなくて本当にロボットみたいに乗り込むタイプの物の様だった。じゃなかったら今頃グロイシーンが展開していたはずだ。

 

「爪、両手剣、双刃剣、合体剣、膝のブレード、それら全て使い敵を追いこむ。そして一定のダメージを与えた所で最後の仕上げに入ります」

 

スラスラ説明してるけど、アガレスの姉ちゃんには先輩の動きが見えてるのかな。いや、見えて無くてもこの人が考えた技だからわかるか。

 

『ぬおぉぉぉぉぉぉ!?!?!? 馬鹿な! この皇帝機は我等が総力をあげて作りだした物なのだぞ! それがこうも簡単にやられるはずがぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

『戦闘中にしゃべる所はディオドラと同じだな』

 

『ファッ!?』

 

やっと俺の目に先輩の姿が映った。呆然自失状態のシャルバを正面に見据え、先輩は右肩のスラスターから刃が結晶で出来た巨大な槍を取り出した。それを水平に構えたと思ったら今度は先輩だけじゃなくシャルバの姿も消えてしまった。

 

「今度はどこだぁ!?」

 

なんかもう“先輩を探せ!”なんて本でも出せそうな気分だぜ。

 

「ッ・・・空だ!」

 

木場が叫ぶ。すぐに確認すると、唯一残った左手で槍を防ぎながら空へ向かってロケットの様に飛んで行くシャルバの姿があった。・・・ってかちょっと待て! 先輩はどこだ!? いつの間にか槍しか見えないんですけど!?

 

「上よ! シャルバの上!」

 

今度は部長が叫んだ。シャルバの上・・・確かにそこに先輩はいた。槍、シャルバ、先輩が一直線に並ぶ。そして、先輩は左肩からあのヤバそうな大剣をゆっくりと引き抜いた。

 

さらに、抜くと同時に大剣が形を変えた。刀身が二つに割れ、その中心から天に向かって光の刀身が伸びて行く。・・・いや、待ってください先輩。いくらなんでもそれは可哀そう過ぎますって!

 

『これで終わりだ! シャルバ・ベルゼブブ!』

 

自らに迫るシャルバに向かって大剣を振り上げる先輩。やっぱりそうだ! あの人やる気だ!

 

「止めたげてよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

俺の叫びも虚しく、先輩はシャルバに向かって迷い無く止めの一撃を振り降ろした。閃光が辺り一面を覆い尽くし、俺は咄嗟に目を瞑った。

 

そして、視界を取り戻した俺達が見つめる中、先輩は右手に大剣、左手に槍を持ったまま静かに口を開いた。

 

『・・・わかったか。これが本当の絶望だ』

 

ああ、うん、そうですね先輩。確かにこりゃ絶望だわ。

 

素っ裸+黒焦げのコンボで地面に落ちて行くシャルバを見て、俺は心底そう思うのだった。




「わかったか? つまり皇帝機は皇帝機(笑)だったわけだ」

「な、何だってぇ!?」

というわけで、こんな感じで決着です。どこからか中二乙なんて声が聞こえて来そうだぜ!


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