ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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第七十三話 誇り

支取さんとのレーティングゲームの前夜、リアス達はアザゼル先生の部屋に集まって最後のミーティングを行っている。ここまで来ればもう出来る事は無いので、俺は自室のベッドに寝転がって明日の事を考えていた。

 

リアス側は七人、支取さん側は八人と聞いている。人数的には支取さんが有利だが、リアスには“赤龍帝”こと兵藤君がいる。アザゼル先生曰く、八十パーセントの確率でリアスが勝つと言われているらしいが、正直、そんなもの当てにはならない。言いかえれば二十パーセントの確率で負けるという事だし、そもそも、人の意思が関わる事に計算上の確率なんて何の証明にもならないと思う。

 

まあ、何が言いたいかというと、結局はどちらにも頑張って欲しいという事だけだ。

 

さーて、このまま起きててもやる事無いし、そろそろ寝ようかな。

 

俺は部屋の電気を消し、目を瞑るのだった。

 

・・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・

 

翌日の早朝、俺とアーシア、黒歌の三人は電車に揺られながらある場所へ向かっていた。その場所というのはもちろん、リアス達の試合が行われる会場だ。

 

「ふわあ・・・。まったく、アザゼルはケチにゃ。どうせなら私達も連れて行ってくれればよかったのに」

 

あくびと共に不満を口にする黒歌。アザゼル先生は転移魔法で会場入りするそうなのだが、俺達には普通の交通手段で会場入りしてくれと指示されてしまった。

 

「お前は言わずもがな、人間であるアーシアも冥界では目立つ。今日の主役はあくまでもリアスとソーナだ。観戦は許可するが、あくまでもひっそりとという条件の上でだ」

 

そういうわけで、一般観戦用のチケットを三枚渡され、俺達は試合会場へ絶賛移動中というわけだ。ちなみに現在、俺は以前アザゼル先生に貰った認識阻害眼鏡をつけていて、アーシアと黒歌もそれぞれ同じ機能のあるネックレスと腕輪を身につけている。

 

「アーシア、大丈夫か?」

 

「ふにゃ・・・。は、はい、大丈夫れすぅ・・・」

 

未だに眠そうなアーシアを気遣いつつ吊り革に掴まる。なんでも、リアス達の事が心配過ぎて寝られなかったらしい。全く、彼女らしいというかなんというか・・・。

 

「アーシア、本当に辛かったら寄り掛かってくれていいからな」

 

「だ、駄目ですぅ。そんな事したら耐えられな・・・」

 

あ、そうですか。俺に寄り掛かるのがそんなに苦痛なんですか。・・・これは泣いていいですよね。

 

(気持ちはわかるにゃ、アーシア。眼鏡をかけたご主人様は新鮮だもんね。だけど、こういうチャンスはしっかり活かさないと。というわけで、代わりに私が・・・)

 

地味に傷付いた心を誤魔化す様に車窓からの景色に目を移そうとした途端、電車が大きく揺れた。咄嗟にアーシアを支えたら、横の方からも女性が一人、バランスを崩してこちらに倒れて来たので受け止めた。

 

「大丈夫です・・・か・・・」

 

「ええ、助かったわ。って、あら・・・」

 

その女性の顔を見るなり俺は目を疑った。女性の方も俺を見て目を丸くする。いや、だっておかしいよ。何でここにこの子が・・・。

 

「亮真じゃない。ふふ、久しぶりね。元気だったかしら」

 

露出強ことヴァーリさんがいるんですかねぇ!? しかも眼鏡をかけた俺に気付いてるし! ・・・あ、待てよ。確か既に繋がりがある相手には効果が無いんだっけ。

 

「大丈夫かいヴァーリ? っと、おんやあ? そこにいるのはあの時の兄ちゃんじゃねえか」

 

「美猴。まずは謝罪が先でしょう。すみません、連れがご迷惑をおかけしました」

 

さらにそこへ、あの時ヴァーリさんを連れて行った美猴さん。そして初めて見る眼鏡にスーツ姿の男性が現れた。うん、ちょっと待とうか。あまりの急展開に頭が追いついて無いわ。

 

「『禍の団』の連中がこんな所で何をしてるにゃ・・・?」

 

警戒心たっぷりにヴァーリさん達を睨みつける黒歌。はっ、そうだった! ヴァーリさんは今やペロリストの一員だったんだ!

 

「ふふ、そんなに警戒しないでちょうだい。私達だっていつも『禍の団』としての活動をしているわけじゃないわ。今日はプライベートよ」

 

「そういうこった。だから睨むのは止めてくれねえか。せっかくの美人が台無しだぜい?」

 

ヴァーリさんと美猴さんにそれぞれそう言われ、黒歌はフッと表情を緩めた。

 

「ところで、あなた達はどうしてこんな朝早くから電車に? ひょっとしてデートかしら?」

 

ヴァーリさん。それだと、俺が女の子二人と同時にデートしてる最低野郎って事になるよね。誤解にしたって酷いわ。

 

「実は・・・」

 

なので、俺はすぐさま本当の理由を話した。それを聞いたヴァーリさんはどこか楽しそうな顔で頷いた。

 

「ふうん。面白そうね」

 

「ん、ヴァーリ。お前さん、興味があるのかい?」

 

「ええ。といっても、リアス・グレモリーやソーナ・シトリーじゃなく、イッセーにだけどね」

 

お? その興味ってのはひょっとして男の子として・・・。

 

「あの“覚悟”からどれくらい強くなったのかしら。ふふ、一度やりあってみても面白そうだわ」

 

あ、そっちですか。残念、兵藤君。

 

「・・・二人とも、盛り上がっている所すみませんが、そろそろ私にもそちらの方々を紹介してくれませんか?」

 

蚊帳の外だった眼鏡スーツの男性がヴァーリさんと美猴さんに声をかける。実は俺もそろそろ彼について触れるべきだと思ってました。

 

「あら、ごめんなさい。そういえばあなたは初対面だったわね。亮真。彼はアーサー。私達と同じチームの一員よ」

 

「どうぞ、お見知りおきを」

 

凄く・・・紳士です。なんてアホな感想言ってる場合じゃない。こちらも自己紹介しないと。

 

それぞれ順番に自己紹介を済ませる。アーサーさんは俺がフューリーだと知っても特に驚く事は無かった。それどころか、「気苦労が絶えないでしょうが、どうか頑張ってください」なんて励まされてしまった。やっぱり紳士だわこの人。

 

「お前さん、仙術が使えるらしいな。実は俺っちもそうなんだぜい」

 

「ふうん・・・。興味無いにゃ」

 

「ヴァーリからあなたがフューリーの保護を受けているとは聞いていましたよ、聖女殿」

 

「あ、あの、私はもう聖女では・・・」

 

「いえ、あなたは聖女ですよ。誰がなんと言おうと・・・ね」

 

そして気付けば、黒歌と美猴さん。アーシアとアーサーさんという構図になっていた。で、最後に残った者同士、俺はヴァーリさんと話をしていた。

 

「亮真。あなた、眼鏡をかけるのね」

 

「ちょっと事情があってな」

 

効果を説明すると、ヴァーリさんは納得した様子で微笑んだ。

 

「なるほどね。確かに、今のあなたがそのままで出歩くのはよろしく無いわね。お披露目会の中継を見たけど・・・ふふ、あの時の会場内の様子は見ていて滑稽だったわね。まあ、気持ちはわかるけれど」

 

止めてヴァーリさん。あの時の事は思い出したくないです。

 

「ところで話は変わるけど。亮真、あなたは今回の勝負、どちらが勝つと思っているの?」

 

「それはわからない。俺に言えるのは二人とも悔いの無い勝負をして欲しいという事だけだ」

 

「ふうん。てっきりリアス・グレモリーに肩入れしていると思ったけれど」

 

「本人達からも言われたよ。だけど、俺にとっては二人とも大切な友人だからな。どちらかだけを応援するなんて事は出来ない」

 

これがサイラオーグさんとかが相手だったらまだ違ったんだろうけどな。

 

「ふふ、相変わらずな様で安心したわ」

 

「それはこちらのセリフだ」

 

「え?」

 

「あんな別れ方をして、心配していなかったと思っているのか? まさかこんな所で再会するなんて夢にも思わなかったが、こうしてキミの元気な顔が見れて俺がどれだけ安心したかキミはわからないだろうな」

 

少し語気を強めながらそう言うと、ヴァーリさんは僅かにたじろいだ。

 

「り、亮真ったら、それは流石に大袈裟・・・」

 

「友人を心配するのに大袈裟も何もあるわけないだろう」

 

「ッ・・・!」

 

友達になったばかりの子がいきなり居なくなるだけでもアレなのに、加えてこれから露出強を更正させようと思っていたのにペロリストの一員になるなんて聞かされたこちらの身にもなってくださいよ。こんなの俺じゃなくても怒りたくなるさ。

 

「キミが何の目的で『禍の団』に入ったのかは聞かない。だが、キミはそんな所にいるべきではない。それだけは今この場で言っておく」

 

今の所、彼女にペロリスト属性がついた様には見えないけど、これ以上彼女の属性が増えたらもう大変な事になるぞ。そうなったら絶対ヴァーリさんの為にならない。今は若いからいいけど、将来絶対後悔するって。

 

「亮真・・・。私、私は・・・」

 

ヴァーリさんが何かを口にしようとしたが、不意にそれが止まる。気付けば美猴さんとアーサーさんに興味深そうな表情を向けられていた。

 

「ああ、俺っち達の事は気にしなくていいぜぃ。存分にイチャつけばいいさ」

 

「初めてですね。ヴァーリのその様な顔を見るのは。ふっ、これはいい土産話になりそうです」

 

「・・・あなた達ね」

 

そう言ってヴァーリさんが目に危険な光を宿らせた瞬間、電車が突然停車してしまった。車内がざわめく中、ヴァーリさんに対して美猴さんがジト目を向ける。

 

「ヴァーリ・・・」

 

「ちょっと、まだ私は何もやってないわよ」

 

「まだって事は、何かしようとしていたのですね」

 

「・・・早く動かないかしらね」

 

「誤魔化したぜぃ」

 

「誤魔化しましたね」

 

『ただいまトラブルが発生し、電車を停止させて頂きました。原因究明まで今しばらくお待ちください』

 

そんなアナウンスが流れてきた。あれ、これってまずくね? 時計を見たらゲーム開始まで三十分を切っていた。会場へは次の次の駅を降りてさらに歩かないといけないのに。

 

「ご主人様。このままじゃ間に合わないにゃ」

 

黒歌も事の重大さに気付いたのか少し焦っている。でも、電車が動かない以上どうしようも無い。

 

「ん? それならドアぶっ壊してやるから走って行くかぃ?」

 

「い、いえ、結構です」

 

近くのドアへ目をやる美猴さんを止める。考え方が物騒だよこの人。それに、走って行っている間に電車が動いたら意味無いし。

 

結局、電車が動いたのはそれから二十分後。目的の駅に着いたのはさらに二十分後。もう完全に遅刻していた。

 

「それじゃ、お別れね。また会える時を楽しみにしているわ」

 

ヴァーリさん達と別れ、俺はアーシアを抱え、黒歌と共に会場に向かって全力疾走した。そうやってようやく辿り着いた会場の入り口で入場チケットを係に渡す。

 

「遅かったな。もう決着がつきそうだぜ」

 

「「「え!?」」」

 

係の一言に俺達は顔を見合わせ、慌てて会場内に飛び込む。正面に据えられた大型のモニター。そこに映し出されていたのは、支取さんや真羅さん。そして他の眷属の子達に囲まれたリアスの姿だった。

 

SIDE OUT

 

 

 

リアスSIDE

 

「さあ、追い詰めましたよリアス」

 

余裕そうな口調だけど、決して油断はしていない顔で私を見据えるソーナ。私を取り囲む他の眷属達も皆同じ表情だった。

 

ソーナ側でリタイアしたのは四人。対するこちらは私とギャスパー以外全滅。どうしてこうなってしまったのだろうか。

 

ゲーム開始前のアザゼル先生の言葉が頭を過る。

 

『リアス。どうも必殺技を覚えさせたのは間違いだったようだ。昨日のミーティングで感じたが、イッセー以下、全員自信を通り越して慢心がみられる。よく言い聞かせておけ。例え技を習得出来たとしても、それ自体が即強さに繋がるわけではないとな』

 

まさにその言葉通りだった。イッセーは匙君相手に壮絶な殴り合いを展開し、最後は必殺技で決着をつけたけれど、その後すぐに倒れてしまった。原因は、匙君の神器。彼はイッセーと殴り合っていた間も神器を使いイッセーの血を吸い取り続けていた。その結果、大量の血を失ったイッセーは戦闘不能となりリタイア。

 

朱乃はトラップを設置するのに夢中で相手の接近に気付かず奇襲され、直前にトラップを発動させて相手を道連れにした上でリタイア。

 

小猫は一人で二人を倒す活躍を見せてくれたけど、疲弊した所を狙われアウト。ゼノヴィアは必殺技を使おうと剣に光の刀身を伸ばさせたらそれが天井に突き刺さって身動きが取れなくなってやられた。

 

そして祐斗はさっきまで私を守る為に戦っていてくれたけど、数の力には叶わず倒れた。そして今、私の前にギャスパーが両手を広げて立っている。

 

「どきなさい、ギャスパー君。あなたはこの勝負、神器の使用を禁じられています。ハッキリ言ってしまえば、あなたは脅威になりえない」

 

「か、関係ありません!」

 

「ギャスパー?」

 

ソーナ達の視線を一身に受けながらも、ギャスパーは決して引こうとしなかった。その姿は少し前までのこの子からは想像も出来なかった。

 

「た、確かに、僕は役立たずです! だけど! それでも! こんな僕でも部長の盾にはなれますぅ! イッセー先輩も小猫ちゃんも、みんな一生懸命頑張ってたんです! なのに、このまま何もせずに終われないんですぅ! じゃないと、こんな僕を色々気にかけてくれた神崎先輩にも顔向け出来ません!」

 

ギャスパー・・・。それがあなたの“覚悟”なのね。あなたのその勇気、私は尊敬するわ。そして、そんな物を見せてくれたあなたの思いを無駄にするわけにはいかない・・・!

 

リアスSIDE OUT

 

 

 

ソーナSIDE

 

ギャスパー君。引き籠りで自分に自信が持てないとは聞いていたけれど。今の彼を見てそんな風に思う者がいるとは思えない。

 

彼を変えたのは兵藤君を初めとするグレモリー眷属。それと“彼”の存在も影響しているのでしょう。そして、それはきっと自分達も同じ。

 

ゲーム開始前、私は眷属達に神崎君の言葉を伝えた。結果、皆の目の色が変わったのはちょっと面白かった。やはり、伝説の騎士に応援されるのは嬉しいのだろう。

 

もちろん、私も同じ気持ちだ。それと同時に、何だか神崎君の事を考えると妙に気持ちが高揚してしまうが、それは今関係無いので置いておこう。

 

サジに至っては泣いていた。「絶対、絶対負けねえからな!」と叫んでいた姿は今回の勝負に並々ならぬ思いをかけているのが見えてとても頼もしかった。現に、サジは自分の役目を見事に果たし、兵藤君をリタイアさせた。

 

他の子達も皆私の予想以上の働きを見せてくれた。まさか、ここまでの人数が残るとは思っていなかった。だけど、油断だけはしない。何せ、相手はリアス。彼女の諦めの悪さは、前回のフェニックス家との勝負でよく理解しているから。

 

「・・・ギャスパー。ありがとう。下がっていなさい」

 

来た・・・! 目に力強い光を宿らせるリアスに、私は警戒心を強めた。それと同時に不謹慎だがワクワクした。果たして、彼女はこれから何を見せてくれるのだろう。

 

「ソーナ。やっぱりあなたは凄いわ。戦術面で言えば、あなたは私の遥か上にいる。一体追いつくのにどれくらいかかるのかしらね」

 

「追いつかせませんよ。今までも、そしてこれからも」

 

「ええ。そうね。私があなたに追いつこうとすれば、あなたはきっとそれ以上のスピードでさらに先へ行ってしまう。追いかける事は出来ても、追い抜く事は出来ない。それぐらい、私とあなたには差がある」

 

初めて聞かされるリアスの弱音。・・・いえ、これは弱音じゃない。彼女はただそれを結論として受け入れているだけに過ぎない。その証拠に、リアスの目の光は益々その強さを増している。

 

「戦術が無理なら能力面で・・・と言いたい所だけど、それもサイラーグに比べたら全然だわ。どっちつかずな私は、結局リョーマから提示された技も覚える事が出来なかった」

 

神崎君からそれぞれに教えられたという技。確かに興味深かったけれど、使うタイミングが良く無かった。でも、今後さらに磨きをかければきっと大きな戦力になる。それが私の感想だった。

 

「あなたやサイラオーグと違って、私にあるのは誇りと呼ぶ事すらおこがましいちっぽけなプライドだけ。・・・それに気付いた時、私は絶望したわ。それこそ、自分を無能だと思ってしまうほどにね。だけど、リョーマはそれら全てを聞いた上で言ってくれた。私は・・・決して無能なんかじゃないと。自分はそう信じていると」

 

リアスの中から何かが膨れ上がるのを感じる。本来であればすぐに指示を出して決着をつけるべきなのだろう。だけど、私はそうしなかった。リアスの・・・私の幼馴染でありライバルである彼女の思いを、私は受け止める義務があるから。

 

「私は信じるわ。私自身じゃ無く、私を信じてくれたリョーマを! だから、いつまでも無能のままでいるわけにはいかないのよぉ!!!」

 

刹那、リアスの体から膨大な魔力が迸り始めた。それは凶暴な風となり、私達に襲い掛かる。だけど、それは余波。本命は別にある。

 

「椿姫!」

 

「ええ! 巴柄! 桃!」

 

号令と共に一斉にリアスに迫る三人。だけど、それは小さな蝙蝠に変化したギャスパー君によって妨害された。

 

「さ、させません!」

 

「くっ! 邪魔をしないで!」

 

椿姫の一撃でギャスパー君が退場する。だけど、彼女にとってはそれで充分だったようだ。

 

「はあぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

雄叫びと共に魔力を掌に収束するリアス。魔力球となったそれは手を離れ、彼女の周囲を衛星の様に回り始める。濃密な滅びの魔力で作られた魔力球。触れればリタイア必至だろう。

 

「・・・なるほど、見た所相手の接近を許さない防御用の技と言った所でしょうか。ですが、それなら近づかなければ良いだけの事・・・」

 

「残念。これはね、攻防一体の技なのよ! いきなさい、ガン・スレイブ!」

 

リアスの叫びに呼応したかのように、魔力球が凄まじい速度で巴柄に向かって飛んで行く。狙われた巴柄は僅かに表情を強張らせながらも回避行動に移る。

 

「ッ! こ、こんなの避ければ・・・!」

 

「今よ!」

 

避けたはずの魔力球から巴柄に向かって三つの光弾が発射された。直撃を受け、巴柄の姿が消える。

 

『ソーナ・シトリー様の『騎士』リタイア』

 

「これが・・・リアスの奥の手・・・!」

 

いや、呆けている場合じゃない! 考えなさい私! 先程の射撃の正確さ。おそらく自動追尾機能もついているはず。消そうにも、あれ自体が滅びの力を有している以上、触ればこちらが危ない。

 

「い、今の内に本体を・・・!」

 

「待ちなさい桃! 不用意に近付いてはいけません!」

 

私の制止も届かず、桃がリアスに肉薄する。対するリアスの手には先程と同じ魔力球。まさか、制御出来るのは一つだけではない!?

 

「おあいにく様! 私の奴隷は一つだけじゃないのよ!」

 

その言葉通り、二つ目の魔力球から放たれた光を受け、桃が倒れる。不用意に動けない私達の前で、リアスはさらに三つ目、四つ目、そして五つ目の魔力球を展開させた。

 

「くっ・・・はあっ・・・さ、流石に、キツいわね・・・」

 

「ッ・・・! リアス、血が・・・!」

 

リアスの右目から血が流れ始めた。まさか、あの技は体に相当の負担をかけているのだろうか。

 

「ふ、ふふ。さっきから頭の痛みも半端無いわ。今の私じゃ制御処理能力が足りないから脳への負担が凄いみたい。でも、それがどうしたっていうのよ。あなたに勝つ為に、そして、今も会場のどこかで見てくれているだろう彼の前で、私の全力を出し切らないでどうするのよ!」

 

いつもの優雅さや余裕など欠片も無く、さながら幽鬼の様な佇まいを見せるリアス。だけど、その姿こそが彼女の“誇り”の強さを物語っていた。もし、今の彼女の姿を見て無様だと嘲笑う者がいれば、私はきっとその者を許さないだろう。

 

「リアス・・・。その思い、確かに受け取りました。受け止めた上で私は勝ちます! あなたの誇りと同じように、私にも譲れないものがあるのだから!」

 

「それでこそソーナよ! そんなあなただからこそ、私は絶対に勝たないといけないのよ!」

 

私は椿姫を下がらせた。・・・おそらく、今回のゲームの評価は散々だろう。互いの王がこうして直接戦うなんて本来であれば下策中の下策だ。

 

・・・だけど、それ以上に今回のゲームは私達にとって評価以上の何かが得られたものになった。それは経験だったり、はたまた幼馴染の凄さに改めて気付かされたりといった感じだった。

 

「ソーナァァァァァァァァァァ!!!」

 

魔力球を展開させたままリアスが私に迫る。それに対し、迎撃態勢を取ろうとした私の前で、不意にリアスが魔力球を全て消してしまった。

 

そして、その直後、リアスはゆっくりとその場に崩れ落ちた。

 

『投了を確認。この度のレーティングゲームはソーナ・シトリー様の勝利です』

 

そのアナウンスを、私はどこか他人事の様な気分で聞いていたのだった。




というわけで、原作と違ってソーナの勝利です。ゲーム自体はサクッと終わらせるつもりでしたが、流石に適当に書くのはまずいので、リアスだけ頑張らせてみました。どうもオリ主が関わらないと書く気にならないんですよね。朱乃、ゼノヴィアファンの方はおそらく激おこでしょうが、どうぞご容赦ください。

次回で五章は終わりになると思います。

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