ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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今回は木場君のターンです。


第二十六話 真に断罪されるべきは

数分後、帰宅した俺を見て、出迎えてくれた黒歌が目を見開いた。

 

「うにゃっ!? ご、ご主人様、ずぶ濡れじゃない! 傘持って行かなかったの!? と、とりあえずタオルを・・・」

 

「黒歌、頼みがあるんだ」

 

「え?」

 

引き止めた黒歌に、俺は自分の考えを話した。腑に落ちないといった様子だが彼女は協力してくれると言ってくれた。一人より二人、それに猫になれる彼女なら色々と都合がいいからな。

 

木場君。悪いが、俺はしつこい男なんでな。俺なりの方法をとらせてもらうぞ・・・。

 

SIDE OUT

 

 

ホm・・・祐斗SIDE

 

フリード・セルゼン。エクスカリバーを所持していた彼なら、きっと“あの男”の情報を持っているはず。そう思い、ここ数日フリードを探し続けていた僕の元へ、また神崎先輩がやって来た。

 

「・・・なんですか、先輩」

 

どうしてもトゲのある言葉になってしまう。けれど先輩は特に気にしている様子も無く、僕に向かって一枚の紙を差し出した。それは、この街周辺について描かれた地図だった。所々マーカーで○と×の印が刻まれているそれを見て、僕は戸惑った。何故こんな物を僕に見せたのだろう。

 

「この地図に描かれた○の部分には、空き家や廃ビル、今は稼働していない工場等がある」

 

「それが何か?」

 

「真っ当じゃない連中は、真っ当じゃない場所を拠点にしているかと思ってな。俺なりに調べてみたんだ」

 

真っ当じゃない・・・。間違い無く、フリードの事を言っているのだろう。つまり、フリードとその協力者が潜んでいそうな場所を先輩なりに予想したって事だろうか。けど、この地図に描かれた○の数は十や二十どころでは無い。こんなたくさんの場所を、たった数日で一人で調べ上げたっていうのか? おかしい。一日の半分を学園で過ごす先輩がそんな時間をとれるはずが・・・。

 

そこで僕は気付いた。先輩の目の下にうっすらとクマが出来ている事に。つまり先輩はロクな睡眠もとらずにこの地図を作り続けていたという事に他ならない。他の誰でも無い・・・僕の為に。

 

・・・部長やアーシアさんが先輩に惹かれた理由が今さらながらわかった気がする。この人は仲間の・・・友達の為ならそれがどんなに大変でも辛くても躊躇いも無く実行してしまう人なんだ。

 

アーシアさんを助ける為、堕天使とエクソシストの集団を相手に一歩も引かなかった。

 

部長の涙を止める為、不死とされていたライザー・フェニックスすらも倒した。

 

例え相手がどれほどの存在でも、例えその結果、自分が傷ついてしまおうとも、先輩はただ仲間の為にその力を振るう。その行動理念は、正に誇り高い騎士のようだ。こうして復讐に囚われている僕なんかとは比べる事すらおこがましい。けれど、それでも僕は、仲間の命を奪った連中を許してはおけない。そうだ、その為に僕は今まで生きて来たのだから・・・!

 

「ちなみに、この×印はそこの周りで神父の姿が目撃された場所なんだが・・・どうやら、今この街には複数の神父がいるらしい。だから、木場君を襲ったあの神父がそこにいたのかどうかはわからない」

 

「・・・どういうつもりですか? 僕は言ったはずです。これは僕の問題で、僕が一人で片付けると」

 

違う。僕が言わないといけないのはそんな言葉じゃない!

 

頭ではわかっていても、感情がそれを許さない。けど、そんな僕に、先輩は優しい声で答えた。

 

「勘違いしてもらったら困る。この地図をどう使うかはキミ次第で、その結果、木場君に何か利益が発生したとしても、それはただの偶然だ。これは、俺が勝手に作った物なんだからな」

 

偶然? そんなわけ無い。これで僕がフリードの手がかりを得られたのなら、それは必然だ。だって先輩・・・あなたは最初から僕の為にこの地図を・・・。

 

ふいに込み上げて来る感情に目頭が熱くなった。駄目だ、弱い部分を見せるな。僕は一人でやるんだ。僕の復讐に・・・この人を巻き込むな!

 

顔を見られないよう、僕は先輩に背を向けた。そうして、震えそうになる声を必死に抑えながら何でも無いように言う。

 

「そうですか・・・。なら、精々有効に使わせてもらいますよ」

 

「ああ、そうしてくれ」

 

先輩はそれ以上何も言わない。それが今の僕には何よりもありがたかった・・・。

 

・・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・

 

先輩からもらった地図を頼りにフリードを探す日々。その最中だった。教会の関係者を名乗る人物が僕達の前に現れたのは・・・。

 

イッセー君の幼馴染である紫藤イリナ。そしてゼノヴィアと名乗ったその二人から放たれる聖なる気はそれだけで僕の神経を逆なでしてくれた。

 

叶うのなら、今すぐ斬りかかりたい。だが、それを実行に移すほど僕はまだ堕ちていない。まだだ。全てはこの二人から話を聞いてからだ。

 

「本題に入る前に。フューリー・・・まずはあなたに出会えた事を主に感謝しよう」

 

天界・・・いや、教会にもフューリーが再び姿を現した事は知られているのか。やはり、先輩はそれだけの存在だという事なんだな。

 

ゼノヴィアが先輩に握手を求める。それに応える先輩だったが、その顔には明らかな嫌悪が滲んでいた。

 

「だけど、“神の騎士”と呼ばれていたフューリー様が、まさか悪魔と繋がりを持っていたなんて・・・」

 

信じられないといった表情の紫藤イリナの一言に、先輩の顔がさらに曇る。けれど、それに気付いた様子も無く、二人は今度こそ本題へ入った。

 

教会の管理していたエクスカリバーが盗まれ、その犯人がこの日本へ逃れて来た。犯人の名はコカビエル。『神の子を見張る者』の幹部にして、聖書にもその名が記されている超大物だ。教会側はエクスカリバーを取り戻そうと、何人もの神父をこちらに送っているらしい。おそらく、先輩が言っていたフリード以外の神父とは彼らの事だろう。現に僕も、あの雨の中の戦いの直前、フリードによって殺される神父の姿をこの目で見た。

 

話の最中、二人が所持するエクスカリバー・・・。『破壊の聖剣』と『擬態の聖剣』を見せられ、今度こそ動こうとしたが、神崎先輩に目で制された。

 

ゼノヴィアは言う。これは自分達の問題である。故に、この街に住む悪魔は一切の介入を行わず、黙っていろと・・・。

 

突然やって来てのその言い分。ずいぶんと勝手だよね。案の定、部長も腹を立てている様子だった。

 

「・・・それは牽制のつもり? なら随分と見当外れな牽制ね。私達がコカビエルと手を組んで聖剣をどうにかするつもりだとでも?」

 

「上はそう考えてるよ。魔王の妹。もしもあなた達がコカビエルと手を組むのなら、その時は我々は完全にあなた達を消滅させるつもりだ」

 

「私が魔王の妹だと知っているなんてね・・・。なら言わせてもらうわ。私はグレモリーの名にかけて、絶対に堕天使などと手は組まない。この私が、魔王の顔に泥を塗るような真似をすると思って?」

 

「ふ、それだけ聞ければ充分だよ。ならば、次はフューリー。あなたに話が・・・」

 

「ちょっと待って、ゼノヴィア。その前に気になる事があるの」

 

紫藤イリナが神崎先輩・・・正確には、先輩の背後に隠れるように立つアーシアさんに目を向ける。

 

「まさか『聖女』・・・いえ、『魔女』であるあなたとこんな場所で会うなんてね。アーシア・アルジェント」

 

「ん? ああ、言われてみれば確かに。『魔女』として追放された後の行方は明らかになっていなかったが、こんな極東の地へ落ち延びていたとはな」

 

二人の視線にアーシアさんが体を震わせる。そんな彼女に、紫藤イリナとゼノヴィアは容赦無い口撃を加え始めた。

 

「悪魔すら癒す忌まわしき力をその実に宿す気分はどうだ? こうして悪魔と関わっているとは・・・堕ちるところまで堕ちたものだな」

 

「あなたは、『魔女』と呼ばれている今も、主への信仰心を忘れていないの?」

 

「・・・はい。ずっと、ずっと信じて来たものですから」

 

「なるほど。・・・ならばいっその事、今この場で私達が断罪してやろうか? 『魔女』であろうと、我等の神ならばきっと救いの手を差し伸べてくれるはずさ」

 

どの口が言っているのだろう。僕もアーシアさんの事情は聞かせてもらっている。持ち上げるだけ持ち上げて、かと思えばあっけ無く切り捨てる。いかにも教会がやりそうな手だ。反吐が出そうだよ。

 

部長達も同じ気持ちなのか、皆一様に怒りの形相を見せている。イッセー君なんか今にも掴みかかりそうだ。けれど僕達は失念していた。ここには僕達以上に今の言葉に怒りを抱く人がいる事に。

 

「・・・どこまでも俺を不快にさせてくれるな、貴様等は」

 

たった一言・・・。それだけで、神崎先輩はこの場を支配してしまった。抑えるつもりの無いであろう凶暴な殺気が先輩の体から溢れ出す。それを正面から受け止めてしまった紫藤イリナとゼノヴィアの顔が凍りつく。

 

「悪魔を癒したから『魔女』。貴様等はそう言ったな?」

 

「あ、ああ。その通りだろう? 神から与えられた力を悪魔に使う等、神への冒涜に・・・」

 

「それがそもそも間違っていると何故気付かない」

 

「え?」

 

「グレモリーさん、神器は誰が作った物だ?」

 

「そ、それは、『聖書の神』が・・・」

 

急な名指しに、慌てて部長が答える。それに満足した様子で先輩が一度頷き、改めて口を開いた。

 

「神器は神が作った。ならば、アーシアの神器が悪魔も癒すように設定したのは神自身だろう。アーシアは正しく神から与えられた力を使っただけに過ぎない。それを否定する貴様等こそ、神を冒涜しているんじゃないのか」

 

「「ッ!?」」

 

先輩の指摘に愕然となる二人。そうだ、言われてみたら確かにその通りだ。ならば、今の教会の連中はほとんどが冒涜者というわけか。はは、滑稽だね。自分達こそ敬虔な使徒だと思っている者達こそ、実は誰よりも神を冒涜しているなんて。きっと連中には一生理解出来ないんだろうな。

 

「わかったか? アーシアは今も『聖女』だ。それを手にかけようとする貴様等こそ、神に背いた『魔女』として断罪されるべきだと知れ。それを異とするならば、今すぐアーシアに謝罪しろ。貴様等教会は、大いなる過ちを犯したのだと胸に刻みながらな」

 

反論の余地は無い。先輩の言った事は間違い無く正しい事だったから。絶対零度の視線に晒され、ゼノヴィアは額に汗を滲ませ、紫藤イリナは全身を震わせていた。

 

「お、おい、早く謝った方がいいぞ」

 

そんな二人に近づき、イッセー君が小声でそう言った。それでも渋るゼノヴィアに対し、イッセー君は慌てて付け加える。

 

「いいから謝れ! 先輩が多弁な時ってブチ切れてる証拠なんだよ! しかもあのライザーすら“あなた”呼ばわりだったのに、“貴様等”とかもうこれ以上ないくらい頭に来てるぞ!」

 

「そ、そうなの!? ど、どうしよう、ゼノヴィア!?」

 

「う、うむ。マズイな。これではフューリーと繋がりを持つというもう一つの目的を達せられそうに無い」

 

「そう思うなら今すぐ謝れ。もちろん、形だけじゃなく、心を込めてな」

 

イッセー君。そんなヤツ等を気遣う必要なんて無いのに・・・。僕としては、このまま先輩の怒りに触れてこの二人が破滅してくれた方がよかった。

 

そんな僕の願いもむなしく、二人はアーシアさんに向かって呆気無く頭を下げた。

 

「・・・すまない。アーシア・アルジェント。私達が間違っていた」

 

「あなたは主の慈悲の御心に正しく応えただけ。それに気付く事が出来なかった私達の罪をどうか許してください」

 

「そ、そんな・・・お二人とも、頭を上げてください。そう言って頂けるだけで私は・・・」

 

そう言うアーシアさんの目に、見る見る内に涙が溜まっていく。

 

「アーシア・・・」

 

「え、えへへ。おかしいですよね。教会の方にこうやって理解して頂いて嬉しいのに。涙が止まりません」

 

味方が一人もいなかった・・・。アーシアさんは前にそう言った。だからこうして教会の人間に自分の事を認めてもらえた事が本当に嬉しいのだろう。

 

その後、ゼノヴィアと紫藤イリナは逃げるようにオカルト部を出て行った。先輩の殺気を受けた事がよっぽど怖かったのだろう。だけどその気持ちはわかる。

 

あれがフューリー・・・神崎先輩の本気。

 

パーティー会場でライザー・フェニックスに向けたものとは訳が違う。並みの者なら一瞬で意識を失うであろう濃厚なそれを受け止めただけでも大したものだろう。教会の人間を褒めるなんて癪だけどね。

 

「・・・どうやら、他の連中よりは少しはマシなようだな」

 

神崎先輩の呟きがやけに大きく聞こえた気がした・・・。




最早別人と言える超シリアスなオリ主。普段もこうなら騎士(笑)じゃなくて騎士(真)って呼べるのに・・・。

というわけで、今回は木場君への手助けとド腐れ教会から来た二人へのお説教回でした。素直に謝った事で、二人はオリ主から少しだけ評価されました。ただ、あくまで他の連中と比べてですが。

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