ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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第百三十二話 天然の恐ろしさ

黒歌SIDE

 

「飽きたわ」

 

昼下がり、ご主人様達学生組のいない家のリビングで、ソファに座るヴァーリが煎餅片手にポツリと呟く。別に一々反応してあげる事も無いけど、とりあえず聞き返す事にした。

 

「飽きたって・・・何に?」

 

「こうやって家の中で過ごす事によ。いいかげん体を動かさないと鈍っちゃうわ」

 

「・・・アンタ、自分の立場がわかってるの?」

 

本来であれば、この女はこうして煎餅食べながらまったり出来る身分じゃない。オーフィスという超危険な存在を何の連絡も無しにいきなり連れて来たのだ。ご主人様が受け入れなければ間違いなく大騒ぎになっていたはずだ。

 

「わかってるわよ。正直、私だってここまで好意的に受け入れてもらえるなんて思ってなかったもの。亮真と聖女様には本当に感謝しているわ」

 

リアス達には立場があるから難しい。だから自分達だけでもこの家にいる間は、テロリストの親玉でも、構成員でも無い、ただのオーフィスとヴァーリとして接してあげよう。・・・初日の夜、ご主人様とアーシアが言った言葉だ。ご主人様の眷属である私も、その言葉に従って普通に接する様にしている。

 

「良い子よね聖女様。亮真が天使だって大事にする理由がわかるわ。オーフィスも気に入ってるみたいだし」

 

「あの『無限の龍神』と一つ屋根の下だなんて、アーシアは怖く無いのかにゃ」

 

「まあ、人間である彼女からすれば、『無限の龍神』と言われてもピンと来ないんでしょうね。それに、もしも何かあっても、亮真が守ってくれるって信じてるのでしょうし」

 

信じる・・・。そうね、確かにアーシアはご主人様を信じてるんでしょうね。けど・・・。

 

「その答えは五十点ね」

 

「え?」

 

「アーシアはご主人様だけじゃない。アンタとオーフィスも信じてるのにゃ。アンタ達は決して自分を傷付けたりしないって。アンタ達は既にあの子の信頼を十分に得ているのにゃ」

 

例え初対面でも、例えテロリストでも、自分の目で見て、耳で聞いて、心で感じて、その上で信じられると思ったら、どんな相手だって信じる事が出来る。それがアーシアの強さだ。それは、私達悪魔には絶対に得る事の出来ない強さ。

 

「・・・敵わないわね」

 

ヴァーリにも理解出来たのだろう。アーシアのそれは決して甘さなんかじゃない。誰よりも清く、正しく、優しい心を持ったあの子だから得られた強さなのにゃ。

 

「ふふん、天使の力を甘く見ないで欲しいにゃ」

 

「何であなたがドヤ顔するのよ・・・」

 

「あの子だったらきっと恐縮するにゃ。だから代わりに私がやってやったにゃ。ふんす」

 

「ふんす・・・じゃないわよ。というか、あなたの所為で話が脱線しちゃったじゃない」

 

「アンタが先に振って来たんでしょ。・・・で、何を話してたんだっけ?」

 

「家の中にいるのが退屈って話よ。オーフィスだって外に出たがってるわ」

 

「いやー、あっちは今でも十分楽しんでると思うけどにゃ」

 

もの凄く意外・・・というか、未だに信じられないけど、オーフィスは私が持ちこんだゲームにドハマりしている。昨日の夜なんか、マダオファイターⅣのストーリーモードを最高難易度にも関わらずノーコンティニューでクリアしてた。私やミッテルトでも未だに達成出来てないのに。

 

『・・・我、マダオを極めし者なり』

 

うん、間違いじゃなかった。間違いじゃなかったけど、自慢気に言うセリフじゃないよね。極めたらダメじゃん。ダメ人間一直線じゃん。まるでダメなオーフィス・・・つまりマダオってことかにゃ。

 

「そういえば、そのオーフィスはどこに行ったにゃ?」

 

「亮真の部屋じゃない? あの子、「フューリーの日常に入る方法を探す」って言ってあの子なりに色々やってるみたいだし」

 

「にゃにい!? この後ご主人様のベッドでご主人様の香りに包まれながらお昼寝するつもりだったのに! 余計な匂いをまき散らすなんて許さんにゃ!」

 

「匂いって・・・あなた、中々に残念な思考の持ち主ね」

 

「アンタ、ブーメランって知ってる?」

 

「それくらい知ってるわよ。投擲型の武器の事でしょ?」

 

(あ、この顔はわかってないな)

 

「ま、我慢してちょうだい。今まで、次元の狭間とグレートレッド以外に何の関心も持たなかったあの子が、ここに来て初めてそれ以外に興味を持ったの。理由はどうあれ、それ自体はいい事だと私は思っているわ」

 

「でも、結局オーフィスはグレートレッドを倒すのにご主人様を利用したいだけでしょ。ハッキリ言って、私はあの人を争いに巻き込もうとするのは許せない」

 

「それは・・・」

 

声色の変わる私に、ヴァーリもその表情を変えた。

 

「ご主人様は優しい。口では平穏を望んでるなんて言うけど、誰かを助ける為なら、躊躇い無くその身を投じる。それが自分を平穏から遠ざけるって本人だってわかってるはずなのに。・・・ヴァーリは『鋼の救世主』を読んだ?」

 

「ええ、少しだけだけど」

 

「ならわかるでしょ? ご主人様が以前いた世界。それがどれほど凄まじい世界だったかを。人間同士の争いなんて可愛いもの。意思疎通の出来ない化物。異星人の襲来。数え上げればキリが無いにゃ」

 

そんな存在達を相手に、ご主人様は戦い続けた。まだ全てを読み終えたわけじゃないけど、これから先、もっともっと、ご主人様を追いつめる様な相手が現れるのだろう。私は所詮文字でしかご主人様の戦いを知る事は出来ない。そんな私ですら恐ろしさや絶望感を持ってしまった相手とご主人様は戦ったんだ。私の感じたものは、ご主人様のそれの何十、いや何百分の一にも満たないものなんだろう。

 

「それでもご主人様は戦い抜いた。司令官として、仲間達の先頭に立って、名前も、顔も知らない人達の為に戦った。・・・でもご主人様は言った。自分は一度死んで、それからこの世界に来たんだって」

 

誰よりも誰かの為に戦ったご主人様が、なんで死なないといけなかったのか。私にはそれがどうしても納得出来なかった。ご主人様よりも、死ぬべき人間なんて山ほどいたはずなのに。そいつらじゃなくて、何でご主人様だったのか。

 

「でも、それは所詮別の世界の事。私には永遠に関係の無い事にゃ。この世界にご主人様がいる。私を救ってくれたご主人様がいる。私にはそれで十分。だから決めたの。ご主人様が誰かを助けるのなら、私がご主人様を助けるって。ご主人様が誰かを守るのなら、私がご主人様を守るって」

 

それが眷属として・・・ううん、あの人を愛する一人の女としての私の誓いなんだ。

 

「それ、亮真には伝えているの?」

 

「必要無いにゃ。ご主人様にはご主人様のやりたいようにやってもらいたい。オーフィスに力を貸したいっていうなら、私はそれに従うだけ。そこに私の感情なんて関係無いわ」

 

あの人にはもう少し“自分勝手”に生きてもらいたい。元の世界でそうだったからといって、こっちの世界でまで誰かの為だけに生きる必要なんて無い。これは私だけじゃない。リアス達も共通の思いにゃ。

 

「・・・なんだか意外ね。こう言っては失礼だけど、あなた、そんなに健気なタイプに見えなかったのだけれど」

 

「自分でもらしくないってわかってるにゃ。私自身、ご主人様に出会うまでは自分勝手に生きて来たんだから。・・・それが結局、白音を悲しませる原因になったにも関わらずね」

 

あげく、自分の感情を優先してご主人様まで騙してしまった。これが自分勝手でなく何になるのか。正体がバレてしまった時のあの恐怖を、私はずっと忘れる事はないだろうにゃ。

 

「どうして、そこまで亮真に尽くそうと思えるの?」

 

その問いに、私はただ目を丸くしてしまった。

 

「は? え、いや、ここまで来たら察せるでしょ?」

 

「わからないから聞いているのよ。あなたは亮真の眷属で、亮真はあなたの恩人なのはわかるわ。けど、あなたが彼に向ける目はなんだかそういうのとは違う気がする。上手く言えないけど・・・」

 

何でそこまで来てわかんないのよ!

 

「それは、私がご主人様の事を・・・だから」

 

「え? 何ですって?」

 

「だから・・・きだから」

 

「もっと大きな声で答えてちょうだい」

 

ブチ!

 

「あぁぁぁぁぁぁ! もう! 私はご主人様が好きなの! カッコ良くて、優しくて、強くて、いっつも私を大切にしてくれるあの人が大好きなの! アンタにはわかんないでしょうけどね、あんなの惚れるなっていう方が無理にゃ! あの人に比べたら、今まで出会って来た雄共なんかみんな石ころ以下よ!」

 

それから、感情に任せて色々ぶっちゃけまくって、少し気分が落ち着いた所で、黙って聞いていたヴァーリがようやく口を開いた。

 

「・・・とりあえず、あなたが亮真をどう思っているのかはわかったわ。でも、それならどうして告白しないの?」

 

「私だって色々アピールしてるわよ。でも、真面目で鈍感なご主人様は全っ然気付いてくれないのにゃ」

 

「そういえば、アザゼルが言ってたわね。「アイツはきっと力と引き換えに性欲を失ったんだ。俺がアイツだったらもうとっくに全員に手を出してるのによ」って」

 

「あのドスケベとご主人様を一緒にするにゃ!」

 

「前途多難ね」

 

「ふ、ふん! そういうアンタこそご主人様にちょっかい出してるみたいじゃない」

 

「? どうしてここで私の話になるの?」

 

「いや、だってアンタご主人様の事・・・」

 

そこまで言いかけて私は口を噤んだ。この様子だと、ヴァーリは自覚してない。だったら、わざわざライバルを増やす必要なんて無いにゃ。

 

「はーいはい、この話はこれでお終いにゃ。ほら、あっちも戻って来たみたいだし」

 

「・・・ヴァーリ」

 

「え? あら、オーフィス。もういいの? 何か面白いものは見つかった?」

 

「収穫無し」

 

「そう。ならあなたもこっちに来てお話しましょう」

 

ヴァーリの横にちょこんと腰を下ろすオーフィス。改めて思うけど、何でこんな姿になっているんだろう。アザゼル曰く、前は老人の姿をとっていたらしいけど。『無限』の考えはわかんないにゃ。

 

「ねえオーフィス。あなたも家の中でジッとしているより、外に出たいでしょ?」

 

「アザゼルが言った。我が外に出たらフューリーが困る。そうなれば、我はフューリーの日常に入れなくなるかもしれない」

 

「つまり、我慢するって事?」

 

「ん・・・」

 

なんというか・・・随分とご主人様を気にかける様になったわね。家の中でも、特に用事が無いのにご主人様の後ろをついて回ったりしてるし。事情を知らない者が見たら、兄に構ってもらいたい妹にしか見えなかったにゃ。流石に風呂場に突撃しそうになった時は全員で阻止したけど。

 

「ふうん、なら、亮真本人があなたを連れ出す事を望めばその限りじゃないってわけね」

 

「アンタ、まだ諦めて無いの?」

 

「要はバレなければいいのよ。例えば・・・」

 

『羊の気持ちになるでごぜーますよ!』

 

チラリとテレビに目をやるヴァーリ。そこには羊の着ぐるみを纏った女の子が本物の羊に囲まれて笑っている姿が映っていた。

 

「あんな風に変装したりとか」

 

「アレじゃ変装じゃなくて変身にゃ!」

 

「羊の気持ちは我にはわからない」

 

「わかんなくていいから!」

 

おかしい。本来であればツッコミを入れられる側の私が、入れる側になってしまっている! 

 

ピンポーン!

 

「お客さんかしら。私が出て来るわ」

 

「待ちなさい! 私が出るからアンタはここにいて!」

 

「あら、遠慮しなくていいのよ?」

 

遠慮とかいう問題じゃなくて・・・!

 

「下着姿で出させるわけないでしょうが!」

 

ヴァーリの今の姿は上下ピンクの下着を着けただけだ。こんな格好で客の応対をさせられるわけがない。

 

「我が追い払って来る」

 

「払ったらダメにゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

早く! 早く帰って来てご主人様! この一人と一匹は私だけじゃ捌ききれないにゃ!

 

黒歌SIDE

 

 

IN SIDE

 

放課後、俺はアーシアに付き添ってドーナツ屋へ立ち寄った。連日特訓を行うリアス達、そしてヴァーリさんとオーフィスちゃんへのお土産を買う為だ。友達とよく来るらしく、アーシアは慣れた感じでドーナツを購入して戻って来た。

 

「あのお店は桐生さんに教えてもらったんです。それからはよく一緒に買いに行ったりしてるんですよ」

 

「そうなのか。ところで、そのドーナツの箱と一緒に渡された袋は何なんだ?」

 

「あ、これですか? 実は今回でスタンプカードが一杯になったんで、引きかえに景品を頂いたんです」

 

そう言ってアーシアが見せてくれたのは黄色い球体がリング状に連なっている物体だった。あれ、確かこういう形のドーナツがあった様な。

 

「それってもしかして」

 

「はい! これはポン・デ・リングの形をしたクッションですよ! 前からずっと欲しかったんですけど、やっと手に入れる事が出来ました」

 

ああ、やっぱりね。にしても、人気があるんだなこれ。モチーフにしたキャラクターもいるんだっけ。

 

「私、これを貰ったらやりたい事があったんです」

 

「やりたい事?」

 

聞き返す俺の前で、アーシアは袋からクッションを取り出すと、その中心の穴へ自分の顔を通した。

 

「えへへ、ポン・デ・アーシアですよ。がおー」

 

「!?!?!?!?!?!?」

 

『さあてと、そろそろ買い物に・・・ふお!? な、何でアンタまたウチの所に!? はよ戻り!』

 

・・・はっ! 一瞬オカンの姿が見えたぞ・・・。

 

「・・・アーシア」

 

「え? あ、ご、ごめんなさい。私、調子に乗って・・・」

 

「ありがとう。とても可愛かったよ」

 

「はわっ!?」

 

アーシアがモノマネ好きなんて初めて知ったけど・・・うん、これはいいものだ。顔が真っ赤だけど、元ネタでそういうシーンあったっけ?

 

何故か熱に浮かされた様子で歩くアーシアを気にしつつ、俺達はドーナツ屋を後にするのだった。




黒歌さんがヴァーリとオーフィス限定で苦労人その二に認定されました。

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