ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜 作:ガスキン
今日も今日とて文化祭の準備に追われる俺。ただ、これからリアス達は今度のレーティングゲームにむけてのミーティングを行うので、俺とアーシアはそこで帰る事になっている。
「イッセー先輩、大丈夫でしょうか」
ヴラディ君の視線の先では、兵藤君が木場君と共に作業している。けれど、相変わらずの心ここにあらず状態で、作業中のミスも多くなっていた。
「自分が情けないです。プライベートでも戦闘でも役立たずな僕をイッセー先輩はいつも励ましてくれるのに、こういう時に何の力にもなれないなんて」
「キミは役立たずなんかじゃないさ。それに、キミのその優しさはちゃんと兵藤君にも届いているはずだ」
どうも兵藤君が元気を無くしてから、他の子達もそれに引っ張られる様に元気が無い様に見える。これはあまり良い状態では無いのではないだろうか。
「そうだな、俺も一度彼と話をしてみるべきか」
「それは待ってくれないかしら」
兵藤君の元へ向かおうとした俺を止めたのはリアスだった。
「リアス?」
「ど、どうして止めるんですか部長。神崎先輩ならきっとイッセー先輩を」
「そうね。だけど、それは本来私がやらなければならない事なのよ。眷属の悩みは王の悩み。イッセーの悩みは私が解決してあげないといけないの。だからリョーマ、彼の事は私に任せてくれないかしら」
そっか、そういうものなんだな。なら、出しゃばったりせず、ここはリアスに任せておこう。
「わかった。けど、俺に出来る事があったらすぐに言ってくれ」
「ええ、その時はお願いするわ」
その後、ミーティング開始時間となった所で、俺とアーシアは一足先に帰宅するのだった。
SIDE OUT
イッセーSIDE
「・・・セー。おい、イッセー!」
「え・・・」
気がつくと、目の前に松田の顔があった。あれ、何してたんだっけ俺?
「どうしたんだよ、イッセー。さっきからボケーっとマヌケ面晒しやがって。あれか? 授業中からずっとエロい妄想でもしてたのか?」
「はあ、そんなんじゃねえよ」
「なら何なんだよ。ハッキリ言わせてもらうが、最近のお前おかしいぞ? 俺達ですら心配になるレベルでな」
「そうだぜ、イッセー。悩みがあるなら言えよ。この松田様がビシッと解決してやるからよ。あ、お礼はエロ本一冊でいいからな」
何が心配だよ。普段そんな事一言も言わねえくせに。けど、だからこそコイツ等なりに励まそうとしてくれているのがわかった。
「なあ、松田、元浜。お前等、夢ってあるか?」
「夢? そんなんお前、モテモテになるって事に決まってるじゃねえか!」
「二次元では無く、リアルで幼女と結婚したい」
「・・・お前等に聞いた俺が馬鹿だったわ」
呆れた俺が席を立とうとしたその時、松田が俺の腕を掴んだ。
「なんだよ松田」
「・・・悪い。茶化すつもりは無かったんだけどよ、お前から夢なんて言葉が出て来たからついふざけちまった」
「座れよイッセー。・・・ガチの悩みならガチで聞く。俺達だってそれくらいの分別はあるぞ」
二人の雰囲気に圧される様に、俺は席に着いた。
「それで、夢を持ってるかどうかって話だったよな。ぶっちゃけ、俺は胸を張って言える様な大層な夢は持ってねえな。・・・けどよ、それって悪い事か?」
「え?」
「そりゃよ、夢を持って、それに向かって努力してるヤツはすげえと思うぜ。安っぽい言い方だけど、輝いてるって表現がぴったりだと思う。なら、夢を持ってないヤツは輝けないってか? 俺はそうは思わない。だって、それなら夢を持ってないヤツはいくら努力したって輝けないって事になっちまうからさ」
「イッセー、お前は夢という言葉に拘り過ぎてるんだよ。そんな大げさなモノじゃなく、ちょっとした目標とかを持ってみればいいんじゃないのか」
「目標?」
「さっきの元浜の言った事を踏まえて聞いてくれ。例えばある陸上部員が幅跳びの記録を一メートル伸ばすという目標を立てた。その目標を達成する為に、連日遅くまで練習をして、ついに記録を塗り替える事に成功した。けど、その記録は同年代の平均レベルとあまり変わらない飛距離だった。別に飛び抜けた記録じゃない。でも、その部員にとってはそれでよかった。別にオリンピック選手になりたいわけじゃない。ただ、自分の記録を伸ばしたかっただけなんだからな。イッセー、お前はこの平均レベルを目指して努力を重ねた陸上部員は夢の無いヤツだから輝けないと思うか?」
そんな事思わない。思えるわけが無い。きっと、記録を伸ばす為、毎日頑張っていたその陸上部員は誰の目から見ても輝いて見えたはずだ。結果じゃない。その結果に向けて努力する姿に。
そういえば松田、中学の時は陸上部だって言ってたっけ。ひょっとして、今の例え話はコイツ自身の・・・?
「結局、夢や目標ってのはソイツ自身の物であって、他人の存在なんて一切関係無いんだよ。お前の夢はお前だけの夢だし、俺の夢は俺だけの夢だ。他人から何を言われたり思われたりしたって知ったこっちゃないと思うぞ」
「だよな。そもそも、夢なんて見つけろと言われて見つけられるもんじゃねえよ。色々経験してさ、気付いた時には持ってる様なもんじゃないのか。俺は、無理矢理捻り出した夢より、そうやって出来た夢の方が絶対良いと思うぞ」
そう・・・なのかな。うん、そうなのかもしれないな。俺、周りを見て少しばかり焦ってたのかもしれない。でも、コイツ等の言う通りだ。他の人達がどんな夢を持って様とも、俺の夢には一切関係ないんだ。俺の夢は俺だけが持てるものなんだから。
「・・・ありがとな、二人とも。ちょっと気が楽になった」
「そう思うならエロ本の一冊でも寄越せ。ったく、慣れない事語った所為で恥ずかしくてしょうがねえ。なんか周りの女子がこっち見てヒソヒソ話してるしよ」
「ほっとけ。どうせ変態が集まって何やってんだ~とか言ってんだろうよ」
いや、あれは嫌悪とかそういうのじゃなくて、驚いてる様な感じなんだけど、何なんだろうな? お、桐生もこっち見てる。・・・と思ったら思いっきり視線を逸らされた。解せぬ。
四時限目開始のチャイムが鳴り、俺は教科書を出した。今までと比べて、少しだけ授業に集中できるようになった気がした。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
放課後、俺はオカルト部の部室へ向かった。
「来たわね、イッセー」
俺を迎えてくれたのは部長だけだった。あれ、他のみんなは?
「今日は私とイッセーの二人だけよ」
二人っきり!? ま、まさか・・・!
「ここに来てまさかの愛の告白!?」
「よかった。それくらいの冗談が言えるくらいには元気になったみたいね」
お、おおう。わかっていたけど、笑顔で冗談だとぶった切られるのってキツイな。けど、元気になったって言うって事は・・・やっぱり部長にも心配かけてしまってたみたいだな。
「すみません、部長。俺・・・」
「いいわ。ゆっくり話しましょう。まずは座ってちょうだい」
「はい」
俺は部長と向かい合う様にソファに座った。しばらく無言で過ごした所で、部長が口火を切る。
「イッセー。最近のあなたは溜息が多く、何か悩んでいる様子だった。他のみんなも心配していたわ。・・・理由、話してくれるわよね?」
「・・・はい」
ここまで来たら逃げられない。何より、王や仲間にまで心配をかけてしまうなんて眷属失格だ。だからこそ、ここで全てをぶちまけてしまった方がいいんだろう。
覚悟を決め、俺は深呼吸を済ませた所で、改めて口を開いた。
「この前、サイラオーグさんが神崎先輩を訪ねて来たじゃないですか」
「ええ」
「その時、あの人の話を色々聞いて思ったんです。俺には、サイラオーグさんみたいに立派な夢は無い。サイラオーグさんだけじゃない。部長達だってそれぞれに夢を持って頑張ってる。それに気付いた時、自分という存在が酷く小さいものだと感じてしまったんです。夢を持たない俺の拳がサイラオーグさんに届くのか。そもそも、俺にサイラオーグさんと戦う資格があるのか。考え出したらどんどん気分が沈んでしまったんです」
「・・・ちょっと聞いていいかしら? イッセー、あなたは夢が無ければ戦えないと言いたいの? そうだとしたらおかしいわね。なら、どうしてあなたはこれまで戦ってこられたの? 夢を持たないまま、ライザーやコカビエル、ロキに曹操といった相手とどうして戦う事が出来たの?」
「それは・・・俺の大切な人達を傷付けようとしたのが許せなかったから・・・」
・・・そうだ、俺はずっとその気持ちを抱いて戦って来たんだ。自分だけの為に戦っていたのなら、きっと早い段階で死んでいた。仲間が、大切な人達がいたからこそ、その人達を守りたくて、自分の限界を越えた力が出せたんだ。
「みんなを傷付けるヤツが許せなかった。そんなヤツ等からみんなを守りたかった。だから、俺は今まで戦って来れたんです」
みんなを守りたい。だから強くなりたかった。だから戦えた。だから悪魔にも堕天使にも神にも英雄にも勝てたんだ。
「そう、あなたはいつだってその想いを胸に戦ってくれていた。私、思うの。あなたの夢は、その真っ直ぐな想いから生まれるんじゃないかって」
「夢は・・・想いから生まれる」
「みんなを守る為、あなたはどうなりたいのか。・・・それに気付けた時、きっとあなたの胸の中には、絶対に揺らぐ事の無い素敵な夢が生まれているはずよ」
「部長・・・」
「そして、あなたならきっとすぐにそれに気付く事が出来るはずよ。私の知っている兵藤一誠はそんな子ですもの」
「・・・はい!」
部長。俺、部長の眷属になれて本当に幸せです。見ててください。俺、絶対に夢を見つけてみせます!
「私もね、以前に似た様な悩みを持った事があるの」
「え、部長もですか?」
「ええ、その時はリョーマに励ましてもらったの。私があなたに言った事も、彼の受け売りが入ってたわ。リョーマもあなたの事心配してたわよ」
「そう・・・ですか。俺、本当にたくさんの人に心配かけてたんですね」
「そうね。だから、次に会う時には元気な姿を見せてあげなさい。それが一番のお礼になるはずよ」
「了解ッス!」
俺は部室を飛び出した。何だかよくわからんが、思いっきり走りたい気分だった。すれ違う生徒達がギョッとしているが、そんなの今の俺には関係ないぜヒャッハァァァァァァァァァァァァァァァ!!!
(どうやら、いつもの兵藤に戻ったみたいね。だからどうだってわけでもないけど、あの馬鹿が調子悪いと何だかこっちまで調子が狂っちゃうし、まあ、よかったんじゃない)
お、桐生。今から帰りか! お前も一応女の子なんだから帰り道には気をつけろよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
久々のハイテンションを保ったまま、俺は校舎を飛び出し、そのまま家に全力疾走で帰るのだった。
イッセーSIDE
IN SIDE
数日後、俺の知ってる兵藤君が帰って来た。やっぱり彼には明るい表情の方が似合ってるわ。見ているこっちも明るくなる。学園祭の準備も目に見えてスピードが上がった。
でもって、俺は絶賛買い出し中。目的の物も買ったし、そろそろ戻るかな。
「ん・・・」
そうして学園へ戻ろうとした俺の服を後ろから誰かが引っ張って来た。おやおや、どこのどちらさんですかな。早いとこ戻らないとみんな困っちゃうんですけど。
そんな感じで振り返った俺は、思わず両手の買い物袋を落としそうになってしまった。何故なら、俺の背後に立っていたのは・・・。
「はあい、リョーマ」
『ナマコ』とデカデカと書かれたTシャツに、ジーンズ姿のヴァーリさん。そして・・・。
「我、約束を果たしに来た」
ゴスロリを纏った黒髪幼女・・・即ち、オーフィスちゃんだった。
先輩が励ますと思った? 残念! 悪友と部長でした!
次回、アザゼル先生は(胃が)爆死する恐れアリ。