ハイスクールD×D〜転生したら騎士(笑)になってました〜   作:ガスキン

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今回、オリ主は空気です。



第九十九話 覚悟のススメ

祐斗SIDE

 

ロキにより別の場所へ転移させられていた先輩が僕達の前に姿を現した。それは別に驚く様な事では無い。先輩があの程度の策でどうにかなる様な人じゃないと、僕達はこれまでの経験でわかっていたから。

 

でもですね、先輩。確かに僕達も前回の一件でフェンリルは既に先輩の脅威ではないとわかっていましたけど、流石にフェンリル達を後ろに従えながら戻って来るとは予想してませんでしたよ。見てくださいよ。僕達どころかロキやミドガルズオルム達までも固まってるじゃないですか。

 

・・・こうやって心の中で冷静に状況を見れている辺り、僕の神経も随分太くなってしまったなぁ。エクソシスト達を一人で無力化させたり、エクスカリバーを素手で破壊しようとした・・・なんて程度で驚いていた僕が懐かしい。

 

(・・・いや、ちょっと待て僕! 驚く理由としては十分だよね!)

 

先輩・・・あなたの所為で僕の中の価値観がいろいろとんでもない事になってる気がします・・・。

 

「おい木場。なんでそんな“ガビーン”なんて擬音がピッタリな辛気臭い顔してんだよ。まさか、もう参っちまったわけじゃねえだろうな?」

 

「はは、大丈夫。・・・参っているのはロキに対してじゃなくて僕自身にだから」

 

そんな会話をしている間に、先輩が僕達に気付いてこちらに向かって近づいて来た。その後ろを、地面を揺らしながら当然の様に着いて来るフェンリル達。当然、そんなフェンリル達にロキが黙っているはずが無く、明らかな狼狽の混じった声を張り上げた。

 

「ま、待て! 何をしているフェンリル! お前達の役目はその男の抹s・・・」

 

刹那、フェンリル達の一睨みにロキが言葉を失う。フェンリル達が彼に向ける目は、最早完全に敵に対して向けるそれになっていた。そこに、主への忠誠心は欠片も残っていない風に僕は感じた。

 

「リ、リョー・・・マ? どうしたの、ソレ?」

 

僕達の気持ちを代弁するように、部長が顔をひくつかせながらフェンリル達を指す。普段の部長ならまず先輩の無事を喜んでいただろうけど、やっぱり彼女も相当驚いているみたいだ。

 

「ああ、気付いたらキミ達とは違う場所にいてな。そこにこの三頭もいたんだ。相変わらずのヤンチャぶりだったが、元々頭が良かったんだろうな。二、三回声をかけたら大人しくなってくれたよ。こうして俺をみんなの所へ連れて来てくれたし、いい子達で助かった」

 

そう言って神崎先輩はフェンリル達を撫でた。たったそれだけで、フェンリルは誇らしげに天を仰ぎ、他の二頭は甘えるような声を出しながら先輩に顔を近付けていた。

 

「し、信じられません。あの神喰狼がまるで犬の様に・・・。スコルはまだしも、ロキ様でも制御が難しいとされていたハティまでもがこれほどまでに大人しくなるなんて」

 

(・・・ご主人様の手は危険にゃ。私がまだ正体を隠していた頃、ご主人様のナデナデで何度イキかけた事か・・・。特に真耶の家に預けられる直前なんか・・・ああ、思い出しただけで体が疼いちゃう・・・)

 

完全に服従モードの三頭に、ロスヴァイセさんが目を丸くしている。あと、黒歌さんは何であんなに悩ましげに体をくねらせているのだろう。

 

「それがこの二頭の名前なんですね? ならスコルは・・・」

 

「がうっ!」

 

赤い方の神喰狼が元気よく返事をする。・・・本来であれば心の底から恐怖を抱くであろう存在のはずなのに、これではまるで忠犬だ。

 

「では、こっちがハティだな」

 

「くぅーん」

 

名前を呼ばれた途端、子犬の様な声でその場にペタンと横たわるハティ。目が凄くトロ~ンとしていて、今にも眠ってしまいそうだ。

 

「ふふ、可愛いじゃない。でも、これじゃあまるで亮真がマスターみたいね」

 

冗談めかしてヴァーリさんがそう言うけど、おそらくそれで正解なんだと思う。であれば、さっきフェンリル達がロキに対してみせたあの敵意や殺意の込められた視線にも納得がいく。新たな主である神崎先輩の敵であるロキを自分達が排除してやろうと思っているのかもしれない。

 

「今度こそ殺れると信じて送りだしたフェンリル達が神崎先輩の撫でテクで骨抜きになってトロ顔を見せるなんて・・・」

 

「イッセー君?」

 

「あ、いや、前に元浜から借りたゲームに似たようなタイトルのヤツがあったんだけど、まんま今のロキの心情じゃね? とか思ってしまっただけだ」

 

ロクな内容じゃなさそうだね、そのゲーム。でも、確かにこの状況はロキにとって予想外どころのレベルじゃないんだろう。前回の一件で味わった屈辱を晴らす為にとった作戦なんだろうけど、完全に裏目に出てしまったな。少なくとも、フェンリル達を先輩に関わらせなければ裏切る事も無かっただろうに。

 

けれど、全てはロキの自業自得だ。先輩が合流し、神喰狼が味方となった今ならば一気に押し込めるはずだ。

 

「我を裏切るかフェンリル! 創造主たる我を! ならばお前達も共に始末してくれる!」

 

憎悪と怒りを込めた叫びと共に、ロキはさらにミドガルズオルムを召喚した。

 

「リアス、アレは・・・?」

 

「ミドガルズオルムよ。ロキはアレも量産していたみたいなの。でも、見た所生物というよりも、ロキの命令に従うようにプログラムされた肉人形といった感じね」

 

「わかった。ならアレの相手は俺に任せてくれ」

 

「え、いや、むしろミドガルズオルムは俺達に任せて先輩はロキを・・・」

 

「待って、イッセー君。アザゼル先生の言葉を思い出してみて」

 

―――出来ればお前が出るのは最後の最後にしてくれるとありがたい。

 

先輩の家でアザゼル先生が言った言葉。アレは先輩にではなく、むしろ僕達に対する忠告だったのだろう。先輩に頼ってばかりでは、いつまで経っても強くなれないと。そういう意味だったのかもしれない。コカビエルとの戦いの最中に先輩から喝を入れてもらってそんな考えは捨てたはずだったんだけど、アザゼル先生にはまだ僕達がそんな甘えを持っている様に見えたのだろうか。

 

「ッ・・・そうか。そうだよな。先輩! やっぱり何でも無いッス! ミドガルズオルムはお任せします!」

 

イッセー君もそれに気付いたのか、ハッとした様子で先輩にそう言った。これでいい。僕達は僕達の手でロキを倒し、今日こそ甘えと完全に決別してみせる!

 

祐斗SIDE OUT

 

 

 

IN SIDE

 

(・・・気付いたらフェンリル達に懐かれていた件について)

 

いきなり三頭に増えたり、揃いも揃って噛みつき魔だったり、お互いに噛み合ってものっそい血を流しまくったり、とにかく予想外だらけだったが、こっちの言葉を理解出来るほどに頭のいい子達だったので、少し強めの語気で注意したら驚くほど素直に言う事を聞いてくれるようになった。やはり問題はこの子達自身では無く、飼い主であるロキの躾が悪かっただけのようだ。

 

「おのれフューリー! いったいどのような手でフェンリル達をたぶらかした!」

 

たぶらかしたって・・・人聞きの悪い。俺はただ噛みついて来るのを避けて、注意して、怪我を治してあげただけです。

 

「俺は大したことはしていない。フェンリル達が自らの間違いに気付いただけだ」

 

何でもかんでも噛みついたら駄目だってな。むしろそっちにとってはいい事だと思うけど。

 

(間違い!? 貴様に牙を剥く事が間違いだったとでも言いたいのか!)

 

「さあ、お前達。これからどうすればいいかわかるな?」

 

ご主人様に、自分達が変わった所を見せてあげなさい。

 

「「「アオォォォォォォォォォォン!!!」」」

 

任せろと言わんばかりに力強く吠えた三頭が一斉にロキに向かって走りだす。・・・って待て待て待て! 何でそんなに歯を剥き出しにしてんの!? 明らかに噛みつく気満々じゃないの!

 

「待て!」

 

慌てて止めると、三頭はピタリとその場に停止した。こんな風に他の言う事は聞いてくれるのに、やっぱり噛みつき癖だけは完全に直って無いようだ。

 

「「「・・・(じ~)」」」

 

いや、そんな「噛ませてください!」みたいな目をされても・・・。あ、そうだ。ならさっきから視界に映りまくっているあのでっかい蛇みたいなドラゴンでいいんじゃね? リアス曰く、生物ですらないみたいだし、アレなら全力で噛みついても問題は無いはずだし、ヘタレな俺も遠慮なく戦える。

 

「お前達。どうせ噛みつくのならばアレの方が大きくて噛みごたえがあると思うぞ」

 

フェンリル達がミドガルズオルムへと顔を向ける。その瞬間、人形であるはずのミドガルズオルム達が委縮したように見えたのは気のせいだろう。

 

・・・さて、そろそろ俺も気持ちを切り替えよう。自らの意思で戦うのはこれで二度目だ。任せろと言った以上、あの大群は絶対にリアス達には近づけさせない!

 

SIDE OUT

 

 

 

イッセーSIDE

 

鎧を纏った先輩がフェンリル達を従えてミドガルズオルムへ突撃していった。もうあっちについては勝敗は決まってるみたいなもんだ。俺達は俺達の戦いに全力を注ごう!

 

「我には見向きもせずにミドガルズオルムへ・・・。我が矮小なる者とでも言いたいのか! どこまでも・・・どこまでも我を挑発してくれるなフューリーィィィィィィィィィ!!!」

 

ブチ切れるロキ。あー・・・まあ、確かにさっきのフェンリル達への言葉は「最早お前達が相手をする価値は無い」みたいな感じに聞こえたけど・・・。先輩も結構エグイ挑発するなぁ。

 

「ロキ! あなたの相手は私達よ!」

 

「調子に乗るな悪魔風情が! もう手加減も慈悲も与えん! 貴様等全員、嬲り殺してくれるわ!」

 

ロキから濃密な殺気と共に魔力波が迸る。それに対し、俺達は密集形態をとり、魔力や魔剣、聖剣による防御結界で凌ぐ。

 

「へ! 中々に強烈だぜぃ!」

 

「ですが、完全に怒りに呑まれている所為か、隙だらけですね。プレッシャーや力は上昇していますが、アレでは先程の冷静な状態の方がずっと強敵でしたね」

 

確かに、今のロキは俺でもわかるくらい隙だらけだった。懐に飛び込みさえすれば、いくらでもぶん殴れそうだ。問題は、どうやって近づくかだけど・・・。

 

「・・・ねえ、一誠?」

 

「な、なに、ヴァーリちゃん?」

 

耳元で囁かれるってこんなにもゾクゾクするもんなんだな。って、何くだらねえこと考えてんだ俺は!?

 

「あなた・・・ロキを仕留める自信がある?」

 

「じ、自信つーか、ぶん殴ってやるって気持ちはあるけど」

 

「もしもあなたにその“覚悟”があるのなら、私があなたに道を作ってあげる」

 

「え・・・!?」

 

その言葉に思わず振り返った俺に、ヴァーリちゃんは言葉を続けた。

 

「私が戦いたかったのは、“強者”であるロキよ。あんなにも余裕を無くした“ただの”ロキには興味は無いわ。だから、一誠。あなたにその気があるのなら、あなたの拳をあの男に届かせてあげる」

 

―――どうする、相棒?

 

「わかった。やる。やらせてくれ」

 

なんだっていい。アイツを・・・ロキをぶっ飛ばせるなら! オーディンの爺ちゃんの思いを踏み躙ろうとしているアイツは絶対に許してはおけない!

 

『ワシの執政が祖国とここの若い者達に迷惑をかけておる事は十分理解しておる。じゃからこそ、ワシの手で若い連中の未来を広げる為に、新しい道を用意してやりたいのじゃ』

 

『やりたいじゃねえ。アンタが本気でそう思っているんなら、何があろうともやるんだよ。ウチの連中はこれまでそうして来たんだぜ』

 

偶然聞いてしまったアザゼル先生とオーディンの爺ちゃんの会話。難しそうな話だったけど、爺ちゃんの声には深い愛や慈しみといった感情が込められているのはわかった。それが爺ちゃんの言う“若い連中”へ向けられているものだとも。

 

『主神であるアンタが自ら表舞台へ出て来た。それだけで俺はアンタを尊敬するぜ』

 

『ふん、おだてるでないわ。・・・無駄な争いなど必要無い。そんな事をするくらいならば、ワシは女の子とキャッキャウフフしとる方がいいわい』

 

『・・・そういう事にしといてやるよ』

 

爺ちゃんは爺ちゃんなりに、みんなの事を考えてここに来たんだ。それを、話を聞くでも無く、ただ気に食わないなんてふざけた理由で台無しになんかさせてたまるか!

 

「ふふ、即答してくれるなんて嬉しいわ。その代わりと言ってはなんだけど、あなたにお願いがあるの」

 

「お願い?」

 

「ええ。ちょっと欲しい物が出来たから、この戦いが終わった後、一緒に亮真に譲ってくれるようお願いしてくれないかしら」

 

「い、いいけど。その欲しい物って?」

 

「・・・神喰狼」

 

あ、神喰狼ね。ハイハイ・・・って、え!?

 

「交渉成立ね。なら約束通り、あなたに道を作ってあげる」

 

そう言って、ヴァーリちゃんは一人俺達から離れ、ロキへ接近した。

 

「白龍皇! まずは貴様から死にたいようだな!」

 

「死ぬ? ・・・はっ。あなた程度に私が殺せると思っているの?」

 

「神である我を侮辱するのは許さん!」

 

「侮辱じゃないわ。あなたに私は殺せない・・・。それは純然たる事実よ。その証を今からあなたに見せてあげるわ」

 

ゾッとするほどの冷たい微笑みを浮かべ、ヴァーリちゃんが何やら唱え始める。同時に、背中の光翼が展開し、白銀のオーラが周囲に放たれ始めた。

 

「我、目覚めるは―――覇の可能性を極めし真の白龍皇なり―――」

 

―――相棒、よく見ておけ。アレがお前が目指すものの正体だ。

 

ああ、わかる。わかるよドライグ。間違いない。ヴァーリちゃんが今から発動させようとしているのは・・・!

 

「覇に終わりは無く、その在り方は永遠に留まる事は無い―――」

 

『我等の力に形は非ず!』

 

『我等の力に限界は非ず!』

 

いつしか、ヴァーリちゃんの声に合わせる様に、老若男女様々な声が聞こえて来た。誰に教えられるでもなく、俺はその声が歴代の白龍皇のものだと理解出来た。

 

「今、この場に現れし白龍の可能性を以って―――」

 

ッ・・・! 来る!

 

「「「「「「「「「「汝を白き輝きの向こう側へ送り届けよう―――!」」」」」」」」」」

 

『Juggernaut Drive!!!!!!!!!!!!』

 

初めて耳にする機械音声が耳に届くと同時に、戦場全てを呑みこんでしまうほどの超大出力の光が俺達を包み込んだ。そして、そんな状況でも感じられる圧倒的という言葉すら生温い強大な力の波動。これが・・・このとんでもない力が『覇龍』・・・!!

 

徐々に視界が戻って行く。完全に目が見える様になった所で、俺はすぐにヴァーリちゃんの姿を確認して・・・固まった。

 

―――銀色のティアラ。

 

―――肘まで包み込む白い手袋。

 

―――眩い耀きを放つ白銀のドレス。

 

最早『禁手』時の面影など欠片も無い。どこからどう見ても、正真正銘、完全無欠の“お姫様”の姿がそこにはあった。か、可愛い・・・! けど、あれがヴァーリちゃんの『覇龍』の正体なのか?

 

「・・・なるほど。“今回”はこの格好というわけね」

 

「ヴァ、ヴァーリちゃん。その姿は・・・?」

 

「前に言ったかもしれないけど、歴代の白龍皇達は私が『覇龍』へ至るのを認めて欲しければと条件を出して来たわ。それがこれ・・・『覇龍』を使う度に、歴代の連中が望んだ格好にならなければならないという条件よ」

 

な、なんじゃそりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!? それってつまりコスプレしろって事じゃねえか! いくらなんでもそんなふざけた条件をつけるなんて・・・!

 

『ふおぉぉぉぉぉぉ!!! お姫様ヴァーリちゃんカワエエ!』

 

『プリンセスヴァーリ! さあ! 共に参りましょうぞ!』

 

『プリプリヒップが見れないのは残念だが、似合ってるから良し!』

 

おいこら先輩白龍皇共! さっきまでの威厳とか迫力に溢れてた声は何処に行った! ドライグゥ! まさかこっちの先輩達が俺を認めてくれないのって、あっちの変態先輩みたいな人達ばかりだからなのか!?

 

―――ソ、ソンナコトナイゾ。ウン、アッチ二クラベレバスクナイハズダ。

 

カタコトで答え・・・ってやっぱいるんじゃねえかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

「くっ、こんな恥ずかしい格好をさせられるなんて」

 

いや、一般的には『禁手』の方が恥ずかしいと思うんだけど・・・。あの子の中の恥ずかしさの基準はどうも一般人とはずれているみたいだな。

 

「・・・決めた。もう言いなりになるのはゴメンだわ。こうなったら力づくで認めさせてやる。帰ったら憶えてなさいよ先輩。ふ、ふふ、ふふふふふ・・・」

 

あ・・・絶対殺る気だあの子。うん、まあ・・・ご愁傷様とだけ言っておこう。

 

「ふ、ふはははは! これはこれは可愛らしいプリンセス! どうやって我に証を見せてくれるのかな?」

 

ロキが皮肉を交えてそう言った刹那―――ヴァーリちゃんの周囲の空間が文字通り“潰れた”。彼女は何もしていない。ただ、その体から発せられるオーラだけでそれを行ったのだ。

 

「ええ・・・見せてあげるわ。この屈辱と引き換えに私が手にした力を!」

 

「何を・・・ッ!?」

 

ロキの姿がその場から消える。―――正確には、消えた様に見えるほどの超スピードでヴァーリちゃんの元へすっ飛んで来た。そこへ、ヴァーリちゃんが拳を構え、ぶつかる直前にロキの腹へそれを叩き込んだ。

 

「ご・・・ぶ・・・」

 

口から血を吐き出しながら、ロキが殴り飛ばされる。かと思えば、再びヴァーリちゃんの元へ飛んで来る。いや、飛んで来るというより・・・引き寄せられている?

 

「はい、いらっしゃい。そして・・・さようなら」

 

「があっ!?」

 

殴り飛ばされ、引き寄せられ、再び殴り飛ばされる。まるでゴムでもつけられているかのような動きを見せるロキ。ドライグ、アレもヴァーリちゃんの力なのか?

 

―――間違いないだろう。自分とロキの間の空間を“削り取り”、強引に距離をゼロにしているのだ。だからああして殴り飛ばしても、次の瞬間には互いの距離がゼロになる。引き寄せられている様に見えるのは、離れていた者同士が一瞬でゼロ距離で向き合うという“結果”を世界が無理矢理“過程”づけているだけに過ぎん。

 

そ、それってヴァーリちゃんの力が世界を越えてるって事だよな? ・・・凄いとかそういう次元の話じゃねえな。

 

「ふむ、どうやらかなりご立腹の様ですねヴァーリは。あなたにとっては懐かしい光景じゃないですか美猴?」

 

「・・・止めてくれぃ。あの時の事は思い出したくねえんだよぅ・・・」

 

美猴、お前もか・・・。

 

「んな事より赤龍帝。ボケーっと見てていいのかぃ? このままじゃヴァーリがロキをブッ倒しちまうぜぃ?」

 

「あ、ああ、そうだな・・・!」

 

あれだけカッコつけておいて出番無しとかギャグでも酷い。俺は慌ててブースターを噴かせてヴァーリちゃんの元へ飛んで行った。

 

「ヴァーリちゃん!」

 

「あら、来たのね一誠? このヨーヨー面白いわよ。あなたも遊んでみる?」

 

「い、いや、俺には空間を削るなんて芸当出来ませんから」

 

この余裕・・・。ヴァーリちゃんの言う通りだったな。この子の力は完全にロキを上回っている。この戦場において、神崎先輩の次に強いのは間違い無くヴァーリちゃんだ。

 

「そう。なら予定通り、止めはあなたに任せるから、頑張ってね。そろそろタイムオーバーなの」

 

ヴァーリちゃんの姿がお姫様から『禁手』状態へ戻ってしまった。そんな彼女と入れ換わるように、俺はロキと対峙した。

 

「ロキ! 今度は俺が相手だ!」

 

「・・・」

 

? なんだ? なんかブツブツ呟き始めたぞ。

 

「ありえん。我はロキだ。神だ。その我がこうまで追い込まれるなどあり得ん。あり得ん。アリエンアリエンアリエンアリエンアリエンアリエンアリエンアリエンアリエンアリエンアリエンアリエンアリエンアリエンアリエンアリエンアリエン・・・」

 

こ、コイツ・・・。目が普通じゃ無くなってやがる・・・。

 

「あら、あの程度で壊れるなんて情けない神様ね」

 

「アリエン! アリエン! 我はロキだぞ! 貴様等などに、貴様等などに負けるはずがないのだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

絶叫しながら滅茶苦茶に魔力弾をぶっ放し始めるロキ。やべえ、見境無しかよ!

 

―――相棒! 今がチャンスだ! ミョルニルを使え!

 

そ、そうか! すっかり忘れてたぜ! よっしゃあ! いくぜミョルニル!

 

俺は腰につけていたミョルニルを持ち、それに魔力を注ぎ始める。途端に巨大化していくミョルニル。重さも凄い勢いで増していくが、俺は魔力を送るのを止めなかった。

 

「ぐ、が、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

お、重い・・・! でもまだ耐えろ!

 

振り上げたまま尚も魔力を注ぎ続ける。後の事は考えない。俺の全てを込めた一撃を叩きつける!

 

「ミョルニルだと!? それもオーディンが用意したのか! 忌まわしい雷槌め! この場で処分してくれる!」

 

とんでもない数の魔力弾が迫って来る。ま、マズイ! 今食らったら・・・!

 

「やらせないよ!」

 

「ッ、木場!」

 

木場がその身を挺して俺を魔力弾から守ってくれた。木場だけじゃない、部長やゼノヴィア、さらにはタンニーンのおっさんや美猴達までもが俺を守るように周りを囲んでいた。

 

「イッセー! 私達の事は気にしないで! あなたはあなたのやるべき事をやりなさい!」

 

「準備が整うまで、お前の事は私達が絶対に守ってみせる!」

 

み、みんな・・・! ありがとう! もう少し、もう少しだけ耐えてくれ!

 

「はーっはっはぁ! 自ら矢面に立つとは。どうやら全員死ぬ覚悟が出来た様だなぁ!」

 

「ざけんな! 俺達は誰一人そんな覚悟してねえ!」

 

「なにっ!?」

 

「死ぬ覚悟とか、命を捨てる覚悟とか、そんな後ろ向きな覚悟は俺達には必要ねえんだよ! 大切なものを守る為に、何があっても生き残る・・・それが本物の“覚悟”って言うんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

「ほざけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

魔力弾の勢いがさらに激しさを増していく。まだか、まだ終わらねえのか・・・!

 

―――相棒! ミョルニルの準備が完了したぞ!

 

待ってたぜ・・・この瞬間を!

 

顔を上げれば、ミョルニルはタンニーンのおっさんやミドガルズオルムの全長すら余裕で越えた大きさにまでなっていた。後はこれをロキに叩きつけるだけ―――。

 

―――どうした、相棒?

 

・・・駄目だ! 腕が・・・腕が動かない!

 

―――何!? くそ、ミョルニルの重さに相棒の体が耐えられなかったのか!

 

動け! 動けよ! 一ミリでいい! ほんの少し傾ければ後は重さで勝手に落ちるだけなんだ! みんなが俺を信じてくれたんだ! この一撃だけは絶対に失敗出来ねえんだ! だから・・・だから・・・!

 

―――最後の最後に情けないガキだ。“生き残りたい”んだろ? ならさっさと終わらせてしまえ。その為の力をくれてやる。

 

ドライグじゃない別の声。それが聞こえたと思った次の瞬間・・・俺の腕を覆う籠手がその大きさを二倍、三倍、それどころか五倍、六倍を越える物へと変化した。同時に、支えるだけで精一杯だったはずのミョルニルがまるで羽の様に軽くなった。

 

よくわかんねえけど、考えるのは後だ! いくぜロキィ! こいつの神の雷で・・・!

 

「光にぃぃぃぃぃ・・・なぁぁぁれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 

俺の力の全てと、仲間達の想いの全てを込めた光の槌による超ド級の一撃を・・・ロキは呆然とした表情でその身に受けるのだった。雷が・・・爆音が・・・振動が何もかもを呑みこんでいった。

 

(へ、へへ、これだけのモンを叩き込めばロキだって・・・)

 

魔力を全て失った所為か、意識がどんどん遠くなっていく。そして、俺はそのまま意識を失うのだった。

 

・・・・・・・

 

・・・・・

 

・・・

 

「ん・・・」

 

「あ、イッセー先輩が目を覚ましましたよぉ!」

 

ギャスパー・・・? あれ、俺何で寝てたんだっけ?

 

「・・・ッ! そうだ! ロキは! ロキはどうなった!?」

 

慌てて起き上がると、勢ぞろいしていたみんながホッとした様に溜息を吐いた。神崎先輩とフェンリル達もいる。

 

「安心して。イッセー。あの一撃で、ロキは戦闘不能になったわ。既にロスヴァイセによって幾重にも封印をかけてあるから暴れる心配も無いわ」

 

「な、なら・・・!」

 

「ええ・・・私達の勝ちよ!」

 

部長の勝利宣言を聞き、ようやく俺は戦いの終結を実感する事が出来たのだった。




ようやくロキ戦が終わりました。いや、今回の話は大変だったな・・・。

ヴァーリの『覇龍』の詠唱は思い切ってオリジナルにしてみました。割と真面目に考えた結果ああなりましたが、最初は“残念”“ドM”“露出強”に関係する言葉にしようとしましたが、流石にシリアス嫌いの私でも自重しました。

最終的に色々原作から変えてしまいました・・・これから益々苦労しそうだな。

それと匙君。出番まるまるカットしてごめんなさい。ちゃんと見せ場は作るので許して。

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