艤装開発遊撃隊-備忘録-   作:朽木翠

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第三章 艦隊日誌その1

『私、雪風が呉に着任して早三日が経ちました。まだ日が浅いですが、良いところに転属できたのかな、と思う今日この頃であります。

 と言いますのも、篠宮提督も、夕張さんもすごく距離感が近いというか。何だかすごく親しみやすいのです。

 さて、今日は朝から夕張さんと一緒に提督の執務室の整理を行った後に、雪風の部屋の荷解きを手伝ってもらっていました。

「私の部屋より少し小さいんだね」

 まだ多くの段ボールで埋められた部屋を見て、夕張さんはそんなことを言いました。でも、私としては横になって眠れるだけのスペースがあるだけで十分です。

「分相応と言うか、艦相応と言うか……。雪風にとってこの部屋でも大きいくらいですっ」

「艦相応って、ちょっと面白いかも。正直、私もこんなくらいで十分な気がする。艦相応かは知らないけど、今の部屋の感じは落ち着かなくて」

 そう言って夕張さんは段ボールを開く手を止めて、両手を部屋に広げました。夕張さんは旗艦だから、私の部屋よりもう一回り大きいくらい。十畳でしょうか。それくらいの広さがある部屋が執務室の近くにあります。

「でも、夕張さんは旗艦だし、物を集めるのが好きらしいじゃないですか。そうだったら、あの部屋でも手狭かも知れないですよっ」

「えぇ……。確かに色々集めちゃいそうだけど……」

 ちょっと小耳に挟んだこと含むと、夕張さんは困った風にして今後の部屋の在り方について案じているようでした。

 こうやって話していると雪風たちは艦娘である前に、女の子なんだなと思ったりします。私は思わずクスリとしてしまってから夕張さんとの話を弾ませて、部屋の整理を午前中には片付けました。

 お昼は篠宮提督と夕張さん、三人で食べるお昼です。ほんの数日前はむず痒い思いがしたものですが、やっぱり誰かと一緒に食べるっていうことは楽しいです。

 今日の篠宮提督は西京焼き(何の魚かは忘れてしまいました)、夕張さんはまた蕎麦が良いと言って山菜のかき揚げの盛り合わせと選んでいました。私は何となく秋刀魚が食べたくなったので、生秋刀魚を一本塩焼きにしてもらいました。

 内地にいなければ鮮度の良いものはいただけないので、いっぱい新鮮な物を食べておきたいと思う故の選択です。

 午後からは執務室で今後の話し合いを二時間ほどしっかりと。長距離遠征、硫黄島に行くことが決まっているため、それに関する物でした。

 一時は深海棲艦に奪われた場所でしたが、今では制空・制海権が共に確保されています。

 現地に行く日程で顔合わせする可能性があるのは、水雷戦隊と小規模機動部隊とのことですけど、雪風の顔見知りの方はいるんでしょうか。今から気にかかることの一つになりそうです。

 今日はその後には特になく、夕張さんと一緒に自主訓練をしていました。

「雪風は私よりずっと前に艦娘になったんだよね。まだまだ私ダメダメだし、色々見てくれないかな」

 なんて言われてしまったら、お手伝いしないわけにはいけません。雪風は出来る限りの協力を、と思い、艤装の取り扱いに関して、雪風なりの使い方を伝えしました。

 今日の分だけではまだ夕張さんには伝わらなかったですが、完全に私のそれにならなくとも、夕張さんなりに扱いやすい艤装の取り回し方を覚えるきっかけになったらと思います。

 それから、夜は篠宮提督がお忙しいということで、二人でドックの傍にある波止場に腰かけておにぎりを食べました。梅とおかか、それに昆布のおにぎりでした。

 夕張さんは蜂蜜漬けの梅干しじゃないとやっぱりダメ、と言って、雪風に塩辛い梅干しのおにぎりを渡しました。色々な部分で私よりずっとお姉さんに思えるんですが、食べ物の好き嫌いではこちらがお姉さんかもしれません。

 以上が本日の日誌になります。今はまだ二人ですが、これからもっと多くの艦娘がこの艦隊にやってきて人が増えて、たくさんの艦娘と長く一緒にいられたらなと思います』

「長く……か。そういえば彼女は同じ所属でいた事は少なかったか」

 彼女、雪風は提督の間では幸運の艦とも言われている。しかし、それと同時に彼女以外の艦娘は酷く傷ついた者もいるとかいう話だ。うちでもそうなるか、あるいは……。

 藍色の表紙で綴じられた簡素なノートを読み終えると、執務室の扉が開いて夕張が入ってきた。

「あらら、篠宮提督。用事は全て済まされたんですか」

「ああ、ほんの少し前にね。今日は割と自由な時間が多かったと思うけれど、どうだったかな」

「これと言って特別なことはないですよ。提督にご報告するようなことは全く」

 お茶を啜っていると、彼女は普段と変わらず何でもないような風でいた。どうやら夕張は隠れてしている努力。所謂、自己研鑽と言ったものは表に出さないようだ。

 目に見えて明らかな成果として上手く行っていれば別かも知れないが、少なくとも今日の艤装に関することは彼女の報告ラインという物に届かないんだろう。なかなか骨のある娘かもしれない。

「提督。何か楽しいことでもありました?」

 思わず笑みを浮かべてしまっていたのか、察した夕張が訝しげに尋ねてくる。そのうち、この日誌もばれるに違いないだろう。けれど、こうしていつもより自然な姿というのを知れるのは貴重だから、雪風には悟られないように続けてほしいものだ。

「いや、今度の航海はどうなるかと思ってね。この前のような短いものでなく、ある程度長期間の遠征を他艦、雪風と行くのは初めてのことじゃないか」

「ああ、それなら大丈夫です。雪風はしっかりした良い子ですし、私もそれなりに形にはなってきました。快適な航海をお約束しますよ」

「快適……なぁ。どういう意味かは聞かないが、こちらとしては安心できる航海をしてもらいたいものだ。それこそ、色々な場所を転々としても大きな傷を負っていない雪風のようにね」

 含んだ笑みを浮かべると、夕張はあからさまにムスッとした顔をした。先任艦として、旗艦としてのプライドのようなものを覚えているんだろうか。それで早く成長してくれればありがたいことこの上ないが。

「今に見ててください。篠宮提督を必ず驚かせてあげますから」

「できることなら、明日からの遠征で見せてもらいたいところだね」

「うぅ……。良いです。明日に備えてもうお休みさせてもらいます! 篠宮提督、失礼します!」

 嫌味っぽく言うと彼女は余計に声色を荒げて部屋を後にした。少し意地悪をしすぎたかもしれない。しかし、それほどまでに面白い、魅力的な娘なのだ。




ほぼ二ヵ月振りの更新です。
オリジナルと二次創作のどっちが良いのか。
とか考えながら、時間の合間に文章を捻ってました。

さて、今回の文章ですが、ちょっと今までと趣向を変えました。
誰かが加入したらこんな風にする予定です。
物語的にようやく呉を離れそうですが未だに二艦とは……。
次回分はもう少し進展する気で頑張ります(多分)。

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