艤装開発遊撃隊-備忘録-   作:朽木翠

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第二章 前編

―二人っきりの執務室―

「ところで提督。ちょっと質問が」

 工廠で式神さんと別れてから、呉鎮守府にある提督の執務室まであとわずかというところで、朝から続いた疲れに耐えかねて篠宮提督の後姿に尋ねる。提督は立ち止まると、言ってみなさい、という風に目線を向ける。

「何か活力が出るものってないですか。朝からずっと何かに追われてばかりで」

 お腹の辺りを擦りながら言うと、しばらく向かい合った後に、提督は納得がいったようで手を打つ。

「ああ、そうか。何も食べてなかったろう。今朝の話ついでに私の部屋で食べると良い」

「助かります。このままじゃどうなってたか……」

 それを聞いて提督は小さく笑うと、執務室の扉に手を掛けて真っ先に内線に向かった。受話口を手にかける一方で、私に三人は座れそうな黒い椅子に座るよう促す。木と違って、力に応じて深く沈み込む座り心地はふんわりと抱かれているようで心地いい。ああ、そうだ。これはソファってやつで……って、どこからそんな言葉が浮かぶんだろう。

「二十分ほどで届けてくれるそうだから、もう少しの辛抱だ。さて、ゆっくりと二人きりで話せる執務室だし、ぼちぼちと本題に行こうか」

 案外伸びているもみあげを手持無沙汰に指先に巻きつけていると、注文を終えた提督が机を挟んで向かいのソファに腰かけた。

「まず……、夕張自身のこと、艦娘のことから話そうか」

「あ、それ。すごく聞きたいです」

 慌てて居直すと足下に当たる座面の毛がくすぐったくてたまらない。

「艦娘っていうのは元々、海防を担ってくれていた守り人みたいなものだ。君たちは通常の造船では有り得ない、自分の意思と同調する艦船を生み出すことができる。それには力を持った巫女が君たちの憑代となっていることが原因だと言われている」

 提督は傍の棚からファイルと本をいくつか抜き出すと、パラパラと捲って机に置いていく。どうやら巫女と艦娘の相関を示す書類らしく、それらしい図表がいくつも載っている。

「うーん……。あんまり難しい話は得意じゃないんですけど、私の身体は今のところ半人半神みたいなものなんでしょうか」

「概ね、そういった認識で間違いじゃない。実際に夕張が喋ることができて、色々と言葉が浮かんでいるのは巫女の身体という蓄積があってのことだ」

 なるほど。だから、今着ているのがセーラー服だとか、座っているのがソファだとか、色んなことがちゃんと判別できてるってわけなんだ。一人で頷いていると、提督が改めて話を切り出してきた。

「納得してもらっているところに水を差すようだけど、夕張が何故この艦隊で兵装を作ることになるのか……とかの話は良いか。てっきりその話が矢継ぎ早に飛んでくるのかと思ったんだが」

「ああ、ごめんなさい。色々納得いく部分があったので思い耽ってました」

 両手を目の前で交差するくらい思いっきり振って謝ると、くすりと笑って提督は話を続けた。

「それで、だ。これは私の理想を語ることにもなるんだが、もう少し、君たち艦娘と話し合っての開発がしたくてね。今の開発状況は現場の技術者の考えばかりで、相互に連携しあってというものじゃない。このままではどうにもならない戦況になるのではないかと思っているんだ」

 机に肘をついて手を組むと、提督は真剣な眼差しで私を見つめる。

「それで、艦娘として生まれた私が旗艦として採用された……みたいな?」

「そういうことだ。夕張の記録を見せてもらったが、元々が試作艦の側面を備えていたようだから、適正はあると踏んでのことだ」

 語気を強くして言い終えると、手元の湯呑に手をかけて喉を潤した。

「一応、私が必要とされているのはよく分かったつもりです。それでなんですけど、そうやって作られた装備を使って、私たち艦娘で何と戦っているんですか。また、人と人が争う……そんな世界なんでしょうか」

 人の気持ちでかつての自分を眺めると、何とも形容し難かった。そりゃ、人種や性別とか、背景が異なると争いの種は芽生えるだろうけれど、人が私たちで命を奪い合う姿は心地よいものじゃない。

 提督は黙って机に広げたファイルの中から一つを抜き出し、私に手渡した。機密資料と銘打たれた資料は開くのも何やら気の引ける思いがする。生唾を飲み込んで思い切って開くと、目を見開く思いがする記述があった。

「敵は、深海棲艦というのは私たちの成れの果て……なんですか」

「単純にそういうものでもない。私たちに強い憎しみを抱いた存在だ。事の始まりは随分と昔になる。かつて、君たち艦娘は神聖不可侵なる存在だった。所謂、信仰対象と言っても良いくらいに海を司る者たちだった」

 提督の話に耳を傾けながらゆっくりと項を進めていくと、駆逐、軽巡と続いていき、私たちのような人型も確認できる。おどろおどろしい姿をしていて、負の感情を背負っているのが写真越しでも伝わってくる。

「だが、貪欲な好奇心と進展した技術という物は私たちを増長させてしまった。そうした中で箍が外れた技術者が現れたんだ。その結果、とうとう君たちを解析、研究しようと乗り出した」

 提督の話に耳を傾けながら飛ばし飛ばしに読んだレポートが終わりに近づくと、『高度な知的能力を備えた艦を発見したとの報がある。近海にはまだ現れていないが、今後の展開次第では』との文章と共に、血のように紅い姿の深海棲艦があった。こんな艦船と実際に見えることになるんだろうか。

「この国でもそうした艦娘の犠牲者が秘密裏に処理されていたんだ。それからだ。内々に沈没供養した海域が四十九日を迎えた時に、ついに私たちの前に彼女たちが現れた。かつての面影や艦影はないにしろ、明確な敵意を持って私たちと対峙している。そこから今年で二十年、蒼海戦線と言われているこの戦いは節目の時を迎えていると言って良い」

 重々しい話を聞いて、すっかり気持ちが沈んだように思えた。人同士の争いではないことは良かった。けれど、相対する存在への整理がつかない。しかも、それが自分たちから生まれた存在なのだと思うと余計に。

「提督は、そういった相手と戦うこと。どう思われてるんですか」

「そうだな……。彼女たちは私たちの身勝手から生まれたことは確かだ。しかし、私はこの国で生を受けて育てられた恩がある。護るためにも退くこともできないし、交渉の余地もないならば、戦火を交えるしかないと考えている。何か、彼女たちが報われる術があれば良かったんだが」

 自嘲気味に言うと、提督はどこか物悲しい顔をした。放っておいたら、砕けてしまうような脆さが透けて見えそうな、そんな表情だった。

 それから、自分がこの人に対してどうするか、が決まるまではすぐのことだった。私の中の本能が告げているのか、それともまた別のものなのかは分からないけれど、腹が括れた思いがしてファイルを思いっきり閉じる。

「提督のこと、それにこの世界のことがまだはっきり分かったわけじゃないです。もしかしたら、すごく間違ったことになるかもしれないけど、それもやってみないと分かりません。そうした不安より、こう、何て言ったら良いのかな」

 グシャグシャと頭に手をやって考えが落ち着かないかと思うけど、やっぱりまとまらない。提督は黙ってこちらを見つめたまま聞くだけだ。

「とにかくですよ。私は艦娘として生まれちゃったじゃないですか。それに、篠宮提督に選ばれたみたいなものです。やれる限り、その理想の助けになるように、夕張は頑張らせていただきます」

 仏頂面のまま見つめられたせいで、やけに早口に言い終えてしまう。そのまま提督と何秒見つめあっていたか分からないけれど、提督がふと口元を緩めた。

「そんな肩肘は張らなくて良いよ。別に従わせようという考えでいるわけでもない。お互い尊重して、信頼してやりたいんだ。こちらこそ、よろしく頼むよ」

 差しのべられた大きな手にそっと右手を差し出すと、不思議と手のひらだけじゃなく、身体全体に温かさが伝わる気がした。そんな時に、場を壊すような音が響いた。耐えかねた私の身体が補給を要求してきたのだった。

 

 

―初めての食事―

 それから数分して、ようやく扉を誰かがノックして提督が廊下に出た。大きく音を鳴らしてから部屋のお茶菓子を一つ残らず出してもらい、もう全部食べきってしまっていた。

 台車が室内に引き入れられ、芳しい香りが漂う。甘味物ばかり食べていたから、塩気のある物も欲しくなっていたこともあって、余計に美味しそうに思える。

「提督、提督。今並べられている料理は何ですか?」

 手際よく机に食器を置いていく提督は一通り並べ終えると、喉を整えて一つ一つ解説をするらしい。

「まず、この殻付きで焼かれたものだが、広島名産の牡蠣を使った焼き牡蠣だ。それと、ご飯とお味噌汁にお新香と菜の花のお浸し。一般的な一汁三菜の食事というやつだ」

 提督がすらすらと説明してくれたけれど、牡蠣と言われた食べ物が凄く気後れしてしまう見た目だ。私の憑代となった子は食べた事ってやっぱりあるんだろうか。

「それで、こっちが私用にと思ったかけ蕎麦だ。魚介の風味が効いた出汁が気に入っていてね。横の小鉢が中に入れる薬味というもので、旬野菜で天麩羅を用意してもらった」

 器の中に澄んだ出汁に黒い粒が混ざった細身の麺が浸してある。それに、天麩羅も美味しそうだ。気になるのは黒い粒が何なのかってことくらいだ。

「提督、この蕎麦にある黒いのは何ですか?」

「ああ、それは蕎麦殻が細かく砕けた物だよ。入らないようにはしているらしいが、篩の目がそこまで細かくないから含まれてしまっているだけだ」

「はぁー……なるほど」

 じーっと見つめて少しだけ時間を稼いで考えて、心底申し訳ないけど、やっぱり提督に意見することに決めた。

「そのですね。牡蠣の方より、せっかくなので、提督のお気に入りとかいう蕎麦が食べてみたいっていうか」

「蕎麦が良いと。しかし、その表情を見るにほかにも理由がありそうだな」

 剃り残しの髭に手を当てて、笑みを浮かべた提督は私のことを見透かしたかのように言い当てる。確かにこう、蕎麦が良いんだけど……。提督が食べようとしていたから、とかじゃなくて、もっと別にあるような気がする。

「えぇ……そ、そんなことちょっとは考えましたけど……。いや、でもホントに食べたいって気持ちの方が強いんですってば!」

 そう。爽やかな魚介の香る出汁がすごく美味しそうに見えて仕方がないんだもの。あと、添えてある薬味を色々試してみたいってのもある。

「ははは。私はどちらでもいいからね。じゃあ、夕張は蕎麦にするか。伸びない内に早く食べた方が良い」

 そう言って提督は料理を並べ替えてくれて、目の前に蕎麦がやってきた。

「ちなみに、提督はどうやって蕎麦を食べるんですか? おすすめの食べ方とかあったら教えてほしいです」

「そうだなぁ。まずは出汁、次に蕎麦で、天麩羅と言った順番かな。好きに食べたらいいと思うけれど、私はこういう食べ方が習慣になってるよ」

 理に適ったというか、口に風味が残る順番としてはすごく良さそうだ。参考にして私もその順番で食べてみよう。箸を持とうとしたところで、提督がいただきますと言って手を合わせたのを見て、自然と私もそれに倣う。

 まずは出汁、と思って持ち上げると器を含めて結構な重さがある。提督向けなのかな。少し音を立てながら啜ると、豊かな魚介の旨味がいっぱいに広がって優しい味がする。深みのある醤油が使われているのか、味わいも良い。

 器を置いて今度は蕎麦自体を持ち上げてにらめっこする。等間隔で美しく切り揃えられた麺は見ていても何だか気持ちが良い。麺はつるつるとした舌触りでありながら程よい触感が残り、あっさりとした出汁に良く合う感じがする。

「蕎麦にして良かったです……。すごく美味しいですけど、何故だかそれ以上に満たされた気持ちになりました」

「それは良かった。天麩羅も早くお上がりなさい」

 小さく頷いて、薄く緑がかったものを口に運ぶと、さくりとした衣の触感に遅れてほのかに苦い野の香りが口に広がる。どれも素材の味が生きた味わいに舌鼓を打ってしまう。

「提督……。海は譲れないと思ってますけど、山も捨てがたいですね」

「蕨が気に入ったか。夕張はなかなか面白いな。そうだ、そろそろ蕎麦の薬味を入れてみたらどうだ。味わいが変わって、また乙なものだよ」

 山葵に生姜、それと青葱の刻んだものが盛られた小皿を指して提督が促すので、手にはするけれど、同時に提督の手元も気になる。そう、見た目が好きじゃなかったあの牡蠣とかいう食べ物。

 美味しそうに一口で食べられてしまうものだから、見た目でパスしたもののやっぱり気になってくる。そんなに美味しいんだろうか。

「何だ、やっぱり牡蠣が気になってるのか?」

「いえいえそんな……あっ」

 箸を引っかけてしまっていたせいで、山葵が全て出汁の中に沈む。入れすぎたけど大丈夫かな。ある程度溶いて出汁を眺めると、何だかさっきより淀んでいるような、そしてちょっと刺激臭がしているような気がする。

 構わずに出汁と一緒に麺を流し込むと、鼻先から目頭にかけてツンとした痛みが登っていく。痛いんだけど、こう声にするくらいじゃない何とも言えない刺激。ちょっと目が潤んでるかもしれない。

「夕張、もしかして全部溶かしたのか……。辛くないか」

 一山が消えてしまった小皿と私を交差して提督が心配そうにする。

「ぜ、全然平気です。寧ろこう、なんですかね。ふわっとぶわっとしてて丁度いいっていうか……っこふっえっふ」

 耐えきれずに喉が悲鳴を上げて、それと一緒に目が決壊して涙が流れ出す。

「やっぱり無理だったんじゃないか。ほら、お茶飲んで落ちついて」

 たまらず立ち上がった提督は湯呑を寄越すと背中をさすってくれる。

「うぅ、っふ……。何でこんなのくっ付いてるんですかぁ……。美味しくなるっていうより辛いばっかりですよ」

「ある程度なら美味しいんだよ。それにそういう失敗はよくある。めげずに試せばそのうち自分に合った塩梅が見つかるさ」

 精一杯のフォローをしながら、提督はやけに面白そうにしている。不愛想な仕事一筋の人かとも思ったけれど、意外と子供っぽい部分もあるのかもしれない。

 

 そうして楽しいお昼はあっという間に過ぎた。結局、牡蠣は食べず仕舞いだったけど、そのうち食べる機会もきっとあるだろう。

「さて、明日以降に向けての話に入るけれど、良いかな」

「はい。大丈夫です」

 食後のお茶を二人で啜ってのんびりしていると、湯呑を置いた提督が改めて話し始める。

「まず、明日の予定だが、練習航海を行うので午前九時までに八番ドックに来ること。今朝の施設だから道のりも分かるとは思う。そして、それからすぐの三十分には出港する予定だ」

 手書きで綴られた用紙を眺めながら言葉を続けていく。私が造船している時にでも考えていたんだろうか。

「了解です。それで、行先と詳しい内容は何なのでしょう」

「ああ。行先は室戸岬から少し東に向かった場所だ。重巡洋艦一隻を指導役と迎えてそこまでの往路で操船の基本を主に、目的海域では基礎習熟訓練の一環として、仮想敵を用いた砲撃訓練を行う」

 なるほどなるほど、と頭のメモ帳で書き留めている時だった。目の前の机の上に執務机に積まれていた書類がどさりと置かれる。

「提督……、これは?」

「明日までの宿題だ。午後からは空いているし、そこまで読みにくい物でもないから目を通しておいてくれ」

 何でもないことのように言うけれど、分厚いまとまりが五つ分は見られる。本当に、提督の言う通り読みやすいのか、それとも……。

「まぁ、厳しいようなら操船に関する書類だけでも良い。それ自体は一冊に収まっているからね」

 そう言って提督が引き抜いた束は五冊のうちで最も厚いものだった。まずは手強そうなこれを落とすのにどれくらいかかるだろう。目の前の現実に項垂れそうになったところで、かなり重要な疑問が頭に浮かぶ。

「提督、そういえば私の部屋とか決まってないんでしょうか」

「そうだ。それをまだ話し忘れていたな。ちょっと来てくれ」

 言われるままに提督の背中に付き従って執務室を出て左に折れ、どこまで行くのかと思うと突然止まった背中に思いっきり顔をぶつける。

「っつぅ……」

 心配げに私を見つめる提督を横目に確認すると、止まった場所は執務室の隣の部屋だった。

「すぐ隣が私の部屋だったんですね」

「そうだね。まぁ、私の部屋はずっと遠くにあるんだが。とりあえず中を見てみようか」

 苦笑交じりの提督はドアノブに手をかけて、扉をゆっくりと手前に引いた。少しずつ中の様子が明らかになるのは、なかなかドキドキするものだった。しかし、その期待とは裏腹に、扉を開き終えると沈黙が私たちを包んだ。

「提督。思いの外、地味な部屋ですね」

 気が付くと私が先に口を開いていた。無言の提督も初見だった上に、予想外だったみたいだ。というのも、部屋の中があまりに殺風景だったからだ。地味な壁紙に床の敷物。シンプルな窓が一枚あるだけで、家具は本棚に机と布団、それに内線機と照明といった最低限度のものが揃っているだけ。

「隣に比べると随分とこう……何もないな。各自で用意して調度するという形なんだろうか。以前見たことがある部屋はこれよりもっと良かったんだが」

 やっぱり新規設立ってことで整ってないのかしら。別に揃ってても面白くないし、これぐらいが色々と試行錯誤できて良いかもしれない。

「埃は……なし、と」

 机に指を這わせて、放置されてなかったことを小声で確認する。

「夕張の部屋のことは今から改めて問い合わせておくから、今日はこのままでよろしく頼むよ」

「了解です」

 提督は軽く手を挙げながら去ると、ほどなくして書類を両手に抱えて置いていった。そうだ。これからこの山を片付けないといけないんだった。部屋の中に面白いものはないし……、丁度良かったかもしれない。

「明日に向けて頑張るぞっと」

 言い終えると同時に、手でぴしゃりと頬を叩いて気持ちを入れ直し、『操船のすゝめ』なる束に手をかける。どう意識して船を動かして、その上で砲戦を行うのか。書かれてることは何となく分かる。でも、実際に動かしてみないといけない気がしてならない。

 そんな気持ちを抱きつつ読み進めていると、いつの間にか眠りこけてしまって、辺りはすっかり真っ暗になっていた。身体を起こすと窓辺から呉鎮守府の夜景がよく見えた。時刻は……二十二時、それでも多くの人が働いているんだろう。

 まだ顔を見合わせない人のことを思いながら、軽く伸びをすると身体からふわりと布がずり落ちた。寝ている間に誰かかけてくれたらしい……、となるとやっぱり提督かしら。

 大きめのブランケットを四つ折りに抱えて廊下に出ると、執務室から光が漏れているのに気付く。まだ起きてるなら掛けてくれたお礼を、と思ってノックをするも反応がない。恐る恐る静かに開けてみると、立派な机に突っ伏して寝息を立てている姿があった。寝ているはずなのに、あんまり安らいでる感じはないような、そんな寝顔をしている。

「風邪引いちゃいますよー……っと」

 囁きながらブランケットを広げて、多分自分がされたように身体にそっと布を被せる。仕事熱心なのは良いけれど、無茶をしすぎませんように。

 細やかな願い事をして自分の部屋に戻ると、あることに気付く。

「夕ご飯、まだ食べてない。提督は寝てるし……、こんなことならご飯をどうしたら食べに行けるか聞いとけば良かった」

 それから空腹に耐えつつも何とか残りの操船手引きを読み終えて、ようやく布団に潜り込んだ。

 そういえば海に出たら食事はどうなるんだろう。私が作るのかな。それとも提督……、それはないか。じゃあ、式神さんに作ってもらえるとか。

 それに明日の重巡洋艦の指導艦は誰が来るんだろう。厳しくて怖い人でないと嬉しいなぁ。できれば、話しやすい年頃の……。

 意識が深いところへ沈んでいくまで、明日への期待と不安が頭の中で渦巻いていた。




約1週間で何とか次を持ってこれました。
プロット自体は大まかに仕上がってても肝心の気力が。
気持ちを乗せて取り組むまでに毎度苦労しています。
次回もこれくらいでまとめられたら良いんですけど、どうなることやら……。

はい。というわけで、今回は世界観についてさらっと触れてみました。
しかし、気付けばいつの間にか料理描写に凝っていた前編です。
美味しそうな料理を書くことは難しいと身に染みました。
鎮守府の環境についてそこそこまとまったので、後編?でようやく戦闘描写へ向かっていけそうです。

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