その後、涙目になりながら上条当麻はその日あった出来事を話した。さすがに魔術師や魔術の話は出てこなかったが、おおまかな流れは原作沿いで進んだらしく、ひとまず安堵した木原だった。
(……ということは、後は上条や他の主要キャラへの接触を避けていれば安心、ということか。いや、今後の展開も俺の記憶と一致するかどうかはやはり知りたいな。要所要所さりげなく確認していくしかないか)
上条の説明に眉をひそめながら、難しい表情をする木原。そんな木原を見ながら説明を続ける上条は戦々恐々といった感じだ。
(ヤバイ、めちゃめちゃ怪しんでいらっしゃる。コイツ頭いいしなー。やっぱ
「……んで、IDもないから病院にも行けず。しょうがないから怪我をしたインデックスを抱えて、俺は小萌先生の家に来たんだ」
「なんで小萌先生の家なんだ? 怪我はどうした?」
モッシャモッシャとハンバーガーを貪り「ここが楽園か!」みたいな表情を浮かべるシスターを見ながらたずねた。まさに世紀末みたいな光景である。というかお前、上条の分を残す気はないのか。
「……いや、軽い怪我だったから、応急処置で」
「……おい」
木原としては、魔術の存在に関して上条を問い詰める気はない。下手に関わって原作の内容から逸脱してしまえば大変なことになるからだ。今回の質問も別に揺さぶりをかけたわけではないのだが、汗をだらだらとかいてこちらの顔色を窺うということはつまり。
(なにも考えてなかったのか。てっきりなにかうまい嘘でも用意してあるのかと)
(なにも考えてなかった。状況的にコイツは背中をバッサリやられたインデックスを見てるんだ。怪我をどうやって治したかなんて聞かれて当然……いや、まて。なにかおかしくないか?)
「さっきからなんのはなしをしているの?」
事情を聞いている間に、インデックスはハンバーガーを全部食べてしまったらしい。インデックスが話しかけた直後、上条の汗の量が3倍増しで噴出した。
「いや、昨日のことを聞いてたんだ。もう大体の話は聞けたし、そろそろ帰ろうかな」
「昨日のこと? あの魔術師のことかな?」
「魔術師?」
「ちょっとインデックスさん!? なにを……い、いやーコイツ、この年になってまだ魔術とか魔法みたいなファンタジーを信じちゃっんぎゃああああああああああああああ!!!!」
「魔術はあるもん! とうまってば、私の歩く教会を壊して恥ずかしい思いをさせたことをもう忘れたの!!?」
「恥ずかしい思いをさせた? ……これは」
「だーっもう!ちょっとは空気を読めよインデックス! ん? ちょっとお待ちになって木原君? どこに電話をおかけになっているんですの?」
『はいこちら
「ちょっとまてですのおおおおおおお!!!」
瞬間、インデックスの目に映る上条がその姿をブレさせるようなスピードで木原に飛び掛かった。木原の携帯をとんでもないスピードでぶんどり、通話終了ボタンをフンス! と押し込んでからホッとため息をつく。
「頼むから通報だけはやめて? ね? 木原君? いえ、木原さん?」
「いやだって、市民の義務だし……自首しようぜ? ついてってやるからさ」
「お前……俺がなにしたと思ってんだ」
「夏休みに入って、大人の階段を駆け上がろうとした上条は怪しいお店から」
「だから! なんで! そうなるの!!」
「ねぇとーま、大人の階段ってなんなの?」
「インデックスちゃん、大人の階段というのはだね」
「なにやってんだてめーはっ!!!」
「そげぶ!!」
上条渾身の右ストレートが突き刺さる。左頬に痛みを感じながら木原は思った。
(上条っていじられキャラなんだな)
「あー痛ぇ……さて、記念にいいもん貰ったし、そろそろ帰るかな」
「記念ってなんだよ……それより木原」
「わかってるって。
こちらの問いかけにうなずく上条。決心は固そうだ。これなら、インデックスの抱えてる事情もあの右手で解決してくれるだろう。
(だけど、もし
「困ったことがあったら連絡しろよ。できるだけ力になるから」
そういって木原は立ち上がり玄関に向かう。
「あ、ありがとう……なぁ木原」
「なんだ?」
がちゃりとドアをあけた木原を上条当麻はこう続けた。
「なんでお前は、俺が小萌先生のところにいるってわかったんだ?」
瞬間、木原の動きが止まった。
「……青髪ピアスに聞いたんだよ。お前、アイツから小萌先生の住所聞いたんだろ?」
「あぁ、そうだったな。なるほど」
「ごちそうさまなんだよ、ありがとうきはらー」
「おう。んじゃ、またな」
木原統一は小萌先生の家を後にした。
「あぶねー、割と鋭いとこもあるんだな。いや、あの鋭さが
帰り道、一人ごちる木原。上条の不意の質問にうまく答えられたかが心配になり、思わずため息がでる。
原作での上条当麻は、小萌先生の家の住所を知るために青髪ピアスに電話をしている。その際青髪ピアスが小萌先生の住所を知っている理由については謎であり、ストーカー疑惑が浮上していたのだが、おそらくクラス全員が持っているであろう連絡網に書いてある住所を、そのまま読み上げただけなのだ。上条がうっかりしていたのか、いつもの不幸で連絡網をなくしたのかは不明だが。
しかし、こんな細かい原作知識まで引っ張り出せるのは何故だろうか。木原統一としての頭の良さが原因か?
「あれー? そこにいるのは木原ちゃんじゃないですかー?」
噂をすればなんとやら。振り返って見下ろせば、そこにいるのは合法ロリの月詠小萌先生だった。
「あ、先生、こんにちは」
「はい。こんにちはなのですよー。もしかして、これから帰宅です?」
「はい、えーと、じつはさっきまで小萌先生の家にお邪魔してまして……」
家主の留守中に家に上がりこんだのだ。聞かれる前に答えておこう。
「そうなのですか。そういえば上条ちゃんは昨日、木原ちゃんがどうとかぶつぶつ言ってたのですよー。もしかして、あのシスターちゃんと関係があったりするんです?」
「ええまぁ……昨日俺も少し怪我をしましてね。それを見た上条があわててたんで、今日は顔を見せにですね」
「怪我、ですか?」
ものっそい心配そうな顔をしている。なんだこのかわいい生き物は。ロリコンの気がない俺でも、若干目覚め……いや落ち着け。
「いやー怪我といってもかすり傷ですよ! 大丈夫です。能力のおかげでいまは傷一つありませんから!」
「そうですか……」
かすり傷、と聞いて小萌先生は安堵の表情を見せた。うむ、これでよい。小萌先生には心配はかけまいて。
その後、小萌先生となぜか夏休みの補習計画の話をすることになった。大半は普段の上条への愚痴だったが。上条が授業に出席してくれないとか、授業中も上の空だとか、試験の成績が残念だとか……残念ですが小萌先生、この先もずっとそうです。
「というわけでですね、木原ちゃん。できる範囲でいいので、上条ちゃんの勉強を見てあげて下さい。このとおりなのですよ」
幼女に伏して頼まれるとは……いや、頼ませるとは。おのれ上条。もうちょっとからかってやればよかったか。
「わかりました、やるだけやってみますよ。あとは本人のやる気次第ですね」
「その点はばっちりなのです! 今から帰って、上条ちゃんを説得するのですよ。必ずやる気にしてみせるのです!」
とても助かるのです! と言って小萌先生は去っていった。とても熱心な教師だ。あんな人もいるのだから、やはり学園都市も悪くはないな。
さて、今はお昼過ぎといったところ。このまま帰宅してもいいのだが、やはり俺も男というもの。最先端の科学と聞いて、心躍るのはごく自然の反応だろう。というか正直な話、次に原作が動くのは24日。インデックスの傷が完治してから、エロ聖人登場まで3日もある。
「最寄の家電量販店は……ここから徒歩20分くらいか。よし、まずはそこだな」
暇をもてあます木原だった。
「先ほどの電話はなんだったんですの?」
「いたずら電話じゃないでしょうか?」
「まったく……
「はい、気をつけてくださいね」
「なんだか今日はアバラ骨を痛めそうな気がしますですの」シュン
いたずら電話の犯人「AI搭載型全自動洗濯機、布団丸洗いOK……ってわりと普通じゃねぇか。何故AIを搭載したんだこれは」
洗濯機「カンザキサーン」
まったく話が進みませんが、まったりやっていきます。ちなみに風紀委員第177支部の場所はアニメ準拠ということにしておきます。