とある科学の極限生存(サバイバル)   作:冬野暖房器具

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 禁書っぽさ(ちがう、そうじゃない)



 お待たせして申し訳ないです。




043 雲の上に浮かぶ鋼の牢獄 『8月27日』 Ⅲ

「ウィンザー城の場所はその名の通り、イングランドのウィンザーにあります。建設は11世紀後半、主に軍事目的で建てられた騎士派所有の建造物でした。ですがその役目を終えた後に、王室派の開祖、ウイリアム1世の指導の下に建てられた国家記念品として取り扱われ、現在その管理権は王室派に委ねられています」

 

「……」

 

「その管理権ってのも形式上ってだけの話だけどにゃー。当時は国取り合戦の防備のために建てられた城なもんで、鎧を着込んだおっさん連中には強いが、杖持った老人にはお菓子の城同然の建物だったんですたい。こんな物騒な城を、王室派に献上なんぞできるかーって事で、当時の騎士派は清教派に改修を依頼。改修、増築、取り壊し……城の原型を留めながら魔術的要素を加える作業に、清教派は相当苦労したらしいぜい。んでもって、完成した魔術的結界の維持管理が、脳筋の騎士派や王室派に出来るはずもなく……実質その管理権は、清教派の独占状態ってことですたい」

 

「……ふーん」

 

「今回私達が向かうのは、そのウインザー城で行われる審問会に出席するためです。詳しい内容についてはまだ不明ですが……」

 

「俺と木原っちも出席となると、おそらく科学サイド、学園都市に関する報告会のような感じになると思うぜい。ま、木原っちは()()()()()()()()()()と思うけどにゃー」

 

「…………そうか」

 

「……ところで土御門。どう見ても、彼が話を聞いているようには見えないのですが、私の説明は余計だったでしょうか?」

 

「……ま、無駄ではないと思うけどにゃー」

 

 イギリス所有の自家用ジェット機。イギリス国民が捻出した血税、その結晶たる航空機の一室。適温に保たれた客室にて、高級感溢れるリクライニングシートにゆったりと腰掛けながら、土御門元春は溜息をついた。隣には、長さ2メートルを超える刀を携えた神裂火織が控えており、そしてその向かい側で、この世の終幕を迎えたような表情のクラスメート、木原統一が佇んでいた。

 

 土御門としては、木原統一が意気消沈している理由はなんとなく理解できる。つい数日前まで、科学サイドの住人であった彼が、魔術サイドの一角を成すイギリス清教に強制連行されているのだから。禁書目録(インデックス)争奪戦では何度も死にかけたりもした。「下手を打てば解剖コースだった」と脅したこともあった。客観的に判断するならば、木原統一が考えるイギリス清教の印象は最悪と言わざるを得ない。そこへ連れて行かれるとなれば全力で抵抗するだろう。その結果としてしょぼくれるのも無理はない。

 

(ま、その割には、行く事自体は嫌がってないようにも見えたけどにゃー。やたら日付を気にしていたのは一体……)

 

 それよりも問題なのは、先ほどからどこかよそよそしいエロ聖人こと神裂火織である。

 

(禁書目録を助けてもらったという感謝の念。謎の多い木原っちに対する疑念の芽に、禁書目録の解呪の際の失態……どうも考え込み過ぎて、会話が事務的になってるぜよねーちん)

 

 失態、というには酷かもしれない。話に聞くあの場面、自動書記(ヨハネのペン)を上条当麻が押さえ込んだ瞬間の、木原統一の魔術行使の前兆を感知し潰したという、彼女の判断は概ね正しい。あの時点では、というよりも現段階でもそうだが、木原統一には謎が多過ぎるのだ。寧ろ、瞬時に殺さずに無力化した彼女の判断(と言うより優しさ)を褒めるべき場面であると言えるだろう。

 

(褒めると言うよりは感謝かにゃー。俺がねーちんの立場なら、迷いなく木原っちを斬り捨てる場面ぜよ。このままギクシャクされても困るわけで……最近の、木原っちの命知らずな行動に対する当て付けとしての意味も兼ねて、ここは一肌脱ぐとしますか)

 

 むふふ、と悪巧みをする土御門だった。

 

 

 

 

 

 仮眠、もとい不貞寝を5時間。そして土御門と神裂の世間話やこれからの話を適当に聞き流して2時間が経過した。あと3時間と少しでこの機はイギリスに着くらしい……予定よりも早いのはこの機が旅客機ではなく民間機だからだろうか。とはいえ、やはりイギリスまでの道のりは長いものだ。そのお陰で心の整理もついて、ようやく思考が戻ってきた。

 

 世界中で行われる見た目と中身の椅子取りゲーム。御使堕し(エンゼルフォール)が発動するまであと半日。本来なら既に上条家への放火が完了し、泊まる宿を探していたはずだったのだが……なんやかんやで俺は今、日本国外にいた。正確には着陸するまで機内は日本国内扱いらしいが、そんな刑事ドラマの脚本家が食いつきそうな設定はどうでもよろしい。重要なのは上条家への放火が完了していない事にあった。

 

 神裂に頭を鷲掴みにされ、引き摺られること10分間。その間に彼らの説得を試みはしたのだが、「あーはいはい話は機内で聞くにゃー」と土御門に後頭部を一撃。気がつけば空の上であり、これは夢だと二度寝をかました男。それが俺こと木原統一だった。

 

(……絶望的だ)

 

 もしかしたら俺は、二度と日本の地に足を踏み入れる事はないかもしれない。このままではあの預言が的中してしまう。内容が明日の天気とかなら問題は無いが、生憎とそういうレベルの話ではない。晴れのち天使。所により神の力(ガブリエル)が降るでしょうと言ってしまった人間が辿る末路を、俺は想像できないでいた。

 

『預言者の降誕……十中八九、神の子の性質を宿しているだろうし、聖人としても相当格の高い存在になるかも。その人物がどこの宗派に所属するかで、抗争が起きるくらいには大事件だね』

 

 そう言っていたインデックスの言葉が思い出される。実際には、俺は預言者なんてものじゃない。この世界によく似た物語を知っているだけなのだ。だがそんな事を言ったところで誰が信じてくれるだろうか……アレイスターくらいか? アイツは信じる信じない以前に見抜いてるっぽいのだが。

 

 預言者ではない。つまり俺は、神の子の性質も宿してはいない。聖人という、目の前に座っている人間離れした彼女(大変失礼だが、俺の常識では人間は音速を超えない)と同じ性質も宿してはいない。それなのに、このままでは俺はその怪物集団の一人にカテゴライズされてしまう。

 

(さらに言えば、"聖人"の判定はかなり曖昧だったはず……調べる方法が無い以上、そうではないと否定する事も出来ないってことだ)

 

 鳴護アリサ。聖人としての疑惑が出ていた彼女は、暫定で第9位の判定を下されていた。あの彼女だって、音速を超える速度で動けたわけでもないし、天使の力(テレズマ)を自在に操れたわけでもなければ、新感覚日本刀ツッコミアクションや巨大メイスをぶんぶん振り回せるわけでもない。そして事実として、彼女は聖人ではなかった。それでも暫定で順位が出てしまうのだから、聖人判定がどれほど曖昧な物なのかは推して知るべし、というところだろう。

 

 そして、巨大エレベーターを用いた大規模術式を展開しようとしている魔術師、レディリー=タングルロード。その存在が明らかになる前に、鳴護アリサは殺されようとしていた。学園都市に聖人が身を置くというだけで、その性質を解析される事を嫌ったイギリス清教が彼女を確保、あるいは殺害しようとしていたのだ。「聖人かもしれない」彼女でコレである。禁書目録曰く「十中八九聖人である」俺はどうなるのだろうか?

 

(……落ち着け。こうなっちまった以上、御使堕しが発動してしまった時の対応策を考えるしかない)

 

 ここでジェット機をぶち破り、インド洋かユーラシア大陸のど真ん中に飛び降りたところで意味はない。着いた瞬間に神裂や土御門を出し抜いて、ジェット機でとんぼ返りしても間に合うはずはない。だがしかし、盤面が完全に詰んだわけは決してない。

 

(やってやるさ。俺は俺自身のために、そして俺が大切にしている、俺を大切に想ってくれる人たちのためにも、絶対に生き延びなきゃいけねえんだ)

 

 イギリス清教に解剖されてしまうかもしれない未来。それを全力で回避して、学園都市に帰る。それが俺の、木原統一の現在掲げる目標だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……気まずい。そう簡単に心を開いてくれるとは思っていませんでしたが、まさかここまで一言も口を利いてくれないとは……どうやら相当に嫌われたようですね)

 

 あるいは、それも当然かもしれない。少年と最後に会ったのは、インデックスを助けた夜の事だ。学園都市の用意した機器越しに、声を聞いたあの日の事をカウントするなら話は別だが。

 

 実の所、神裂は先ほどから木原統一との距離を縮めるために、積極的に話を振っていたつもりだった。そしてその尽くが無視され、打つ手なしの状態をなんとか土御門が取り成しているのが今の状態である。躍起になって、頼まれてもいない旅のガイドのような解説を始めてしまったのだが、それでも木原統一から会話のキャッチボールが返ってくる事はなかった。

 

(やはり最初に謝罪から入るべきだったでしょうか……その必要はないと言い切った土御門のアドバイスに従ったのは間違いだったのかもしれません。結果的に、上条当麻やインデックスは助かったものの。私のあの一撃がなければ、上条当麻の負傷は……)

 

 土御門に話を聞いたところ、インデックスを助けるために木原統一が動いてくれたのは、神裂に自分の父親が助けられたからだという。だがそもそもの話、その父親を窮地に追いやったのは同じイギリス清教の魔術師、ステイル=マグヌスだったりする。つまり神裂個人で言えば助けた事にはなるのかもしれないが、組織単位で言えば自作自演である。受けた恩で言えばこちらが貰い過ぎではないか? というのが今の神裂の率直な心情だった。

 

 謎は多い人物だが、自分たちのために身体を張ってくれたのだ。その事実だけでも信頼には十分値すると、神裂は考えていた。

 

(悩んでも仕方ありません。機を見て、彼と2人で話し合いを……彼だけではなく、上条当麻にも謝罪とお礼をしなくてはいけませんね)

 

 神裂火織。聖人であり、ロンドンで5本の指に入ると言われる実力者。人間離れした彼女の今の悩みは、ごく普通の人間が抱く、ありきたりのものだった。

 

 

 

 

 

 

「んにゃー、やっと着いたぜよ。さ、イギリスへようこそだぜい木原っち」

 

「俺としてはこんにちはイギリスってより、さようなら日本って感じなんだが」

 

「まーたまたそんな事言って」

 

 俺の嘆きを笑い飛ばす土御門だが、こちらとしては冗談ではない。畜生、普段俺の厄介事をなんとかしてくれているのがなければ、一発くらいはぶん殴ってもいい気がする。……いや、ダメか。冷静に考えると今回の件は俺の自業自得だった。

 

 ヒースロー空港。ロンドンの西部に位置する、イギリスの空のアクセスポータル。国際線では世界で1,2を争うほどの需要のある空港らしいその飛行場の一角に、俺、土御門、神裂は降り立った。

 海外、という感覚は未だに沸いてこない。景色は平らな飛行場。メンバーは見慣れ……てはいないものの顔見知りしかこの場にはいない。実は日本国内ですと言われてもギリギリ信じてしまいそうな、そんな心境だった。

 

 ……日本国内であってほしいという、ただの願望なのかもしれないが。それはそれで木原病理が襲ってきそうなので考えたくない。

 

「安心してください。貴方の身の安全は、私が保証します」

 

「…………タヨリニシテマス」

 

「何故片言なのですか?」

 

 俺には見える。「御使堕しを早く止めなさい」みたいな事言いながら、斬りかかってくるこの人の姿が。殺さずを誓う彼女は、死なない程度にボコボコにしてくるはずだ。そんな彼女に「安全は保証します」と言われても、一欠片も安心出来るはずもない。

 

「いえ、ナンデモナイデス……と、ところで土御門。ここからは何で移動するんだ?」

 

「ん? アレぜよ」

 

 土御門がおもむろに指差した先には、鋼鉄の4枚羽が鎮座していた。端的に言ってしまえば、ヘリコプターである。

 

「時間に若干の余裕があるとはいえ、なにがあるかわからんからにゃー。審問会の前に、済ませなきゃならない手続きもあるわけだし。とりあえず、ウィンザー城までは最短で行くぜよ」

 

「はー、まだ飛ぶのか……もしかして操縦は」

 

「もしかしなくても俺ですたい」

 

 土御門がヘリの操縦が出来ることは知っている。先日、『スタディ』のアジトの屋上にミサカ9982号を連れて来たのがコイツだからだ。

 

「……バイクの運転も凄かったが、よく考えたらヘリを操縦できる事の方が凄いよな」

 

 木原印の駆動鎧相手にバイクでデッドヒートを行える技術も大したものだが、ヘリをサラッと一人で操縦してしまうのも大概である。

 

「こう見えてもスパイだからにゃー、色々と必要になるもんだぜい。ま、バイクに関しては久しぶりだったんだが。人間、危機的状況になれば自然と思い出すもんだにゃー」

 

 まぁたしかに。駆動鎧(パワードスーツ)の群れに追いかけられるというのはかなりの恐怖だった。命が掛かっているからこその「必死」。人間の底力の凄さはよく知っている。何を隠そう、その必死さでここまで来ているのが俺だ。

 

「そういやあのバイク。高かったんじゃないのか? よくあんなの買えたな」

 

 生憎とバイクの相場には詳しくはない。見たところ新車のようだったが、それをキャッシュとは恐れ入る。後部座席の乗り心地は最悪だったが。

 

「まあにゃー。悪人からぶんどった金を、パーッと使うのは中々いいもんぜよ。最初に乗せるのは舞夏が良かったんだが……道理としては、木原っちを助けるのに使うのも間違ってはないかにゃー」

 

「ああ? ……いやちょっとまて、まさか」

 

「『スタディ』に木原っちを売っ払った時の金ですたい。いやーいい商売だったにゃー! これからも、定期的に売り飛ばされる気はないかにゃー木原っち?」

 

 殴りたい。心の底からそう思った。

 

 

 

 

 

 殴りかかったのはいいが、土御門にその拳が当たる筈はなかった。むしろホイホイと足を引っ掛けられては転ばされ、わっはっはとヘリに乗り込む土御門を恨めしく見送りながら、俺と神裂は客席に乗り込んだ。

 ウィンザー城まで、離着陸の手間を鑑みても20分少々。イギリスまでの道のりを考えれば短いものだ。

 

「………」

 

 目の前に、しかめっ面をした聖人がいなければ、だが。

 

 客室から操縦席は見えない。軍用ヘリとは違い、民間人を運ぶための物だからだろう。事故防止のための仕切りがきちんとしてあるようだ。つまり、土御門と会話は出来ず、密室に神裂と一緒に放り込まれる形となってしまった。まさに二人きりと言うやつだ。でもラブロマンスの雰囲気は微塵もせず、どちらかというとアクションムービー一歩手前というか。達人同士がこれから斬り合うぞー的な雰囲気がひしひしと伝わってくる。もしそうなれば斬り合う以前に、一方的に俺が両断されるだけなのだが。

 

(やべぇよ、滅茶苦茶警戒されてるよ……そうか、土御門は信頼してくれてるみたいだけど、ステイルや神裂からしてみれば、俺はただの怪しい奴でしかないんだった……)

 

 気を引き締めなければ、と姿勢を正す。どんな質問が飛んできてもいいように思考を整理し、神裂からのアプローチに備える。

 

「木原統一」

 

 不意に名前を呼ばれる。なんかコレ、面接みたいになってるな。相手は18歳、そして俺は16歳。必要悪の教会(ネセサリウス)の先輩後輩の関係にあたるのだから、失礼のないよう対応しなくては。

 

「……なんでしょう?」

 

「あの子は元気にしてますか?」

 

「……ああ、インデックスですか。元気にしてますよ。病気も怪我もしてないし、健康そのものです」

 

 ただし、元気すぎて上条当麻が持たない。そうだ、禁書目録の管理費ってイギリス清教に請求できるのかな? この際聞いてみるのもいいかもしれない。

 

「……そうですか。それはよかった。土御門からもある程度は聞いていたのですが、護衛に就いている貴方が言うのなら、より確実です」

 

 護衛……そうか。俺はインデックスの護衛任務に就いているって扱いだった……だがしかし、こんなに護衛対象から離れてしまっていいのだろうか? まぁ元から四六時中張り付いてるわけではないから、1日離れたところで大して問題はないのかもしれない。「何かあったら責任を取ってね」ってやつかな。あ、なにかフラグが建った気がする。

 

「……ま、今後も微力ながら力になりますよ。と言っても、僕の事は信用できないでしょうけど」

 

 あはは、と笑いかけてみたのだが、その瞬間に神裂は「ごふっ!」という、どこかの中ボスが死んだときのようなうめき声とともに胸を押さえて膝をつき、床に伏してしまった。

 

「な、なんだ!? どうした神裂!!?」

 

 思わずタメ口を利いてしまった。聖人である神裂が倒れこむとは、とんでもない大事件である。魔術師の攻撃か? 学園都市の超兵器(極小サイズ)による暗殺? まさか刺突杭剣(スタブソード)が実在していて、その延長線上に偶然入ってしまったとか!?

 

 ひとまず駆け寄り、神裂の肩に手を置いて揺すってみる。「大丈夫です」という返事は聞こえるが、その顔がこちらを向くことはない。床を見つめる彼女の両の手は強く握り締められているし、とても辛そうだ。大丈夫にはまったく見えない。

 

「おいおい、これは土御門を呼んだほうが……」

 

「それはダメです!」

 

 がばっ! と顔を上げた彼女の顔は、何故かとても焦っているように見えた。

 

(………ダメってどういうことだってばよ)

 

(この機を逃す手はありません。このような千載一遇のチャンスを台無しにされるわけには……一刻も早く謝罪を。そしてこちらから、インデックスの事を改めてお願いしなくては)

 

 

 それはタイミングの問題だった。飛行作業の都合上、音声無しの映像のみで客室の様子を見ていた土御門には、神裂が土下座し、木原がたしなめ、神裂が顔を上げた。客室でのやり取りが、彼の目にはそう見えてしまった。

 

 全てが丸く収まった。そう判断した土御門による悪戯が、最悪のタイミングで炸裂した。

 

『この先少し揺れますにゃー。安全のためしっかりと()()に掴まる事をおすすめするぜい』

 

 といい終わるか否か。宣言どおりに機体は大きく揺れた。聖人であり、そして床に両手を突いていた神裂は問題なかった。問題は不安定な姿勢で彼女に駆け寄っていた、とある高校生のほうである。

 

「あ」

 

 そうして彼女は、謝罪の機会を完全に失った。

 

 そしてインデックスの時以上の一撃を、木原統一はその身に受けた。

 

 具体的には、ヘリが大きく揺れ動くくらいの一撃を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウィンザー城。数あるイギリス清教の拠点のうちの一つであり、表向きには英国女王の別邸という扱いになっているらしい。公務に使用するバッキンガム宮殿に対して、こちらは主に休養に訪れる場所とされているが……俺の記憶が正しければ、公務で使用するはずのバッキンガム宮殿にジャージでエレキギターを持ち込んでいたような気がする。あれ以上の休養って……

 

 広々とした、どこまでも綺麗に整えられた草原。道に沿って、きっちりと整えられた街路樹。歴史を感じさせる城壁は、見るだけでイギリスという大きな枠組みが完成するまでの激闘を想起させる。まさに別世界、海外旅行と言うよりは時間旅行(タイムトラベル)のような錯覚を覚えるその景色を、素直に楽しめない人間がここにいた。

 

「さーて、お待ちかねのウィンザー城だぜい! 何か感想はあるかにゃー!?」

 

「帰りたい」

 

「感動で言葉もないって感じかにゃー? 中に入ればもっと凄いモノが見れるんだぜい。まだまだ、驚くには早過ぎるってもんぜよ!」

 

 俺の言葉なぞガン無視である。まぁその選択肢がないのはわかっているのだが。そして土御門が、この気まずい雰囲気をどうにかしようと頑張ってくれているのが、痛いほど伝わってくるのが逆に辛い。

 

「……」

 

 殺意……とでも言うのだろうか。怒りの感情を押し殺した、日本刀を携えた聖人と共に、俺は魔術要塞に足を踏み入れなければならない。御使堕し(例のアレ)が発動した際に、彼女が七閃ではなく唯閃をぶっ放してきても、今なら俺は驚かない。この数十分で、俺の生存確率はだいぶ下がった気がする。

 

 あんな事故が起こってしまうなんて、一体誰が予測できるというのか。まさかこれが噂に聞くカミやん病というやつか? 上条当麻にその幻想をぶち殺された者が、シリアスをラブコメに侵食されると言う恐ろしい病……いや、依然としてシリアス状態は続いているので、この可能性は却下だな。

 

 ラブコメと言えば。これがただの観光なら、携帯で何枚か写真を撮って布束に送ったりもしたのだが。生憎と携帯電話は駆動鎧に吹き飛ばされた際にお亡くなりになっていた。肉体は治っても携帯は直らず。そしてその衝撃プラス、新感覚音速そげぶアクションのせいで服も所々血が滲んでしまっている。流石にコレで女王陛下の住まいに入るのはどうだろうか? 着替えるタイミングがあれば着替えたい。幸いにして1泊2日の旅行セットは持って来ている。

 

「まぁでも……アロハシャツがアリなんだから大丈夫か」

 

 ゆっくりと、巨大で荘厳で、古めかしい城門が開いていく。よく目を凝らしてみれば、門には幾重にも魔術的結界が張られているのが確認できた。つまりは……この先に踏み込めば、簡単には出られないということか。

 

 

(こうなりゃ自棄(ヤケ)だ。エロ聖人だろうが騎士団長だろうが、英国女王だろうがなんでも来い。なにがなんでも、絶対に生き残ってやる)

 

 

 

 ……そう。この時の俺はまだ知らなかった。

 

 イギリス清教への幽閉以上に、辛い結末が待っているなんて。考えたこともなかった。

 

 それは当たり前に用意された世界の終幕。誰が手を下すまでもなく、誰にでも訪れる一つの終わり。

 

 炎の魔術師よりも

 黄金の錬金術師よりも

 学園都市最強の超能力者よりも

 

 今まで出会ったどんな敵よりも恐ろしい相手と、俺は対峙する事になる。

 

 救われぬ者に救いの手を。

 救いようのない者に絶望を。

 

 

 世界はある日突然終わる。

 ありきたりの終幕が、最悪の絶望と共に訪れる

 

 

 

 

 

 




神裂「腕や足が生えてくる貴方のほうが人間を辞めていると思いますが」

木原「いや音速越えの方がヤバイって」


土御門(俺からしたらどっちもヤバ過ぎるぜよ)



ウインザー城を資料で見てみましたが、湖のない魔法魔術学校って感じでした。その建設背景は史実を元にした原作にはない捏造(4巻とか17巻にちょこっと出番があるだけでした)ですのでご了承下さいませ。……どこか設定を間違えてたらごめんなさい(´・ω・`)



主人公の原作知識について、小説情報に更新しました。ここにも載せておきます。


※主人公の原作知識について

・知っているもの(概要)
旧約全巻(上条2度目の死)
とあるSS(根性VS優男)
新約10巻(☆VS魔神)
超電磁砲10巻(わがまま力高すぎ)
偽典超電磁砲(寮監強すぎ)
とある魔術の禁書目録SP(ステイルさんSP)
アニメ禁書Ⅰ&Ⅱ(Ⅲ期早く)
エンデュミオン(真空ですよ!?)
アニメ超電磁砲Ⅰ&Ⅱ&OVA(御坂さん、貴方は飛んじゃダメです)
インデックスたんシリーズ(驚きのどうでもよさ)

・知らないもの
新約11巻〜(酵母マンとか木乃伊とか椎茸とか)
超電磁砲11巻〜(まさかの予知能力登場)
とある科学の一方通行(扱いが難しい作品です)
とある偶像の一方通行さま(むしろ知らんでいい)
神裂さんSS(聖人VS聖人?)
超電磁砲SS(果物爆弾)
天草式SS(編入試験編)
下敷きSS(開幕食われそうなアレ)
公式かまちークロス(実は私も知らない)

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