とある科学の極限生存(サバイバル)   作:冬野暖房器具

39 / 79
 久しぶりの投稿はやはり緊張します。
 
 なんとか勘を取り戻せるように頑張ります。





EX3 Eternal Party
039 Wake up your brain. 『8月25日』  Ⅰ


「あ゛ー疲れた。ったく、毎度毎度やってくれるぜあのクソガキ」

 

 顔には刺青、服装は白衣。くたびれたように肩を鳴らしながら、科学者、木原数多は呟いた。

 普段から、暗部での仕事に従事している彼ではあるが。疲労の元はそれではない。

 

 『あーもしもし。こちら第7学区の……そうそう、先日はどうも。実はお宅の息子さん、統一君がね、ええ。……いや、まぁ今回はそれだけではなくてね?』

 

 ふざけた口調も相まって、最初は冗談かなにかかと思った。とりあえず顔を出し、カルテを見てみればそこには───やはり冗談のようななにかが。実験体をぶっ壊す事に関してはプロフェッショナルである『木原』であり、自分の息子をぶっ壊す事にも定評のある木原数多がドン引きするくらいにはイカれた内容がそこにはあった。

 

(火傷、銃創、骨折……つーか、全身が一度吹き飛んでるじゃねーか。おいおいおい、血管の裂傷に至っては数が多いってレベルじゃねーぞ。どうなってんだこいつァ)

 

 そう思ったのが2日前の出来事である。絶対能力進化(レベル6シフト)計画の凍結。その関係者として自分の息子の名前が挙がった時は眩暈がしたものだ。アレイスターのメインプランと言われる一方通行(アクセラレータ)を絶対能力者へと進化させる。そんなプロジェクトに妨害を加えるなんて馬鹿な事を、まさか自分の息子がやらかすとは夢にも思わなかった。

 

 怒りも当然ある。だがしかしそれ以前に意味がわからない。自分の息子は、あのクソガキは。何の意味もなくこんな事をするような馬鹿ではない事くらいは承知している。

 

 理由。そう理由だ。原因、動機、因果関係。それを聞き出さなければ、この怒りに方向性を付けられない。

 

 という心境で能力テストのために会いに行ってみれば。そこには車椅子の女の子と歓談する息子の姿があった。

 

 暗部での仕事明け。寝耳に水だった息子の馬鹿騒ぎによって木原数多は完全に徹夜だった。報復活動の監視に加えて断片的な情報からの裏取り作業もあって脳は丸一日フル回転状態。そんな状況で、当の本人がわいわいやってるのを見れば、木原数多がブチ切れるのは半ば必然だったと言える。

 

 とりあえずボコボコにした。能力テストの実施要領とやらをギリギリ拡大解釈しながら、気の済むまでやってみた。そしてその後に、何故このような事をしでかしたのか。一方通行に関わったのは何故なのか。計画を潰しに行ったのは何故かを問いただしてみた。

 

 女の子を助けるためだと、息子は言った。……その瞬間から5分間。木原数多は能力テストの実施要領を完全に無視した。

 

(それにしてもわけがわからねえ。普通、これだけやらかせばどっかしらから汚ねぇ手が伸びてくるはずだ。それがねぇっつうのはどういう事だ?)

 

 学園都市の、それも主軸と言っても過言ではない計画。そこへ、『木原』の出来損ないと烙印を押された高校生が関わって生き残れるはずがない。そういう意味では、今回の一件には本当に肝を冷やしたものだ。

 

(探りを入れてみるか? ……いや、下手を打てば纏めてお陀仏かもしれねえな)

 

 さてどうしたものかと、散らばった工具を片付けながら一人、木原数多は思考する。

 

(……探るならまずはクソガキの方か。戻ってきたらもう一回締め上げるのも手だな)

 

 

 

 

 

 

 

 とある雑居ビルの一室。窓がなく、機械に囲まれた薄暗い空間。絵に描いたような悪党のアジトのようなその場所は、見た目通りとある組織の本拠地だった。

 

「麦野沈利……学園都市が誇る超能力者(レベル5)の第4位。原子崩し(メルトダウナー)の誘導は完了した。早ければ明日にでも、実験を開始できるだろう」

 

 白衣の男はパソコンの画面を見ながらそう呟いた。

 

「暗部組織との話をつけるのには苦労したが、向こうもビジネスだ。金になりそうな仕事を振っただけで対応してくれたよ」

 

 そんな彼の言葉に、約1名を除き皆満足そうな顔を浮かべた。当然だ。ここに集まったのは彼と志を同じくする同志達。不服そうな顔をしているのは技術スタッフとして補充された新参者なのだから無理もない。だが賢い彼女のことだ。いずれは我々の崇高な目的を理解してくれるだろう。と、白衣の男、有富春樹は考えていた。

 

 有富春樹は暗部組織『スタディ』のリーダーであり、スポンサーでもあり、そして創始者だ。そして『スタディ』は学園都市の体制を変えるという、ただそれだけのために創られた私設組織である。

 誰に縛られることもなく、特定のビジネスパートナーも存在しないこの組織は、暗部の中ではかなり特異な存在だ。そんな組織が今日まで、この学園都市で生き残れているのは一重に、どの組織とも敵対行動を取っていない所にあった。

 

「実験ができるのは嬉しい事だけど。でも本当に大丈夫なの? 原子崩しの所属する組織は学園都市でも深い……暗部の中でも最奥に位置するとこだと聞いているわ」

 

 先日まで組織の紅一点だった、同じく白衣を着た少女。桜井がそう投げかけた。どこまでも慎重派で、細かいところにまで目が利く彼女には今まで何度も助けられてきたものだ。

 

「まぁ怪しまれはするだろうけど、こちらの目的を察するとまではいかないんじゃないかな? 気づいた時にはもう遅い。学園都市の体制は瓦解し、暗部の編成も大きく変わるだろう」

 

「それに、実験に使うのはケミカロイド(ジャーニー)の能力で操る駆動鎧(パワードスーツ)だ。大丈夫、バレっこないさ」

 

 桜井の疑問に、整備担当の関村、斑目が反証を述べていく。と言っても、このやり取りをするのはこれで2度目。第4位と接触するという議題が上がった際に1度通った道なのだ。

 

「……そうね。私たちのところには辿り着けない。それが結論だった。ごめんなさい、同じ話を何度も」

 

「気にすることはない。僕も暗部組織との邂逅はいくらでも議論するべきだと思う。もう一度穴がないか検証しよう」

 

 気難しい顔をして、黙っていた小佐古が口を開いた。彼も桜井と同じく、未だに不安を抱えているらしい。

 

「……では決を採ろう。暗部組織「アイテム」を仮想敵と設定した実験に際し、再検証が必要だと思う者は」

 

 と、有富が言った瞬間、桜井と小佐古は迷わず手を上げた。関村と斑目は渋い顔をしながら考え込んでいる。そして───

 

「おや? 君も再検証が必要だと思うのかい?」

 

「well、石橋は叩いて渡るのがセオリーじゃないかしら」

 

 この計画に唯一、技術スタッフとして加わった新参者。布束砥信はそう答えた。

 

「……まあいい、2:3か。僕は再検証は必要ないと考えている。これで3:3……」

 

「埒が明かないね。有富、君が決めてくれ」

 

 意見が分かれ、そして多数決でも決まらない状況になって初めて、リーダーである有富に決定権が委ねられた。

 

「ならばこうしよう。桜井と小佐古は実験開始まで検証を続けてくれ。簡易的にだが、やらないよりはマシだろう。関村と斑目は駆動鎧の調整だ。布束は……ジャーニーの調整だな」

 

 有富は目を細め、学習装置(テスタメント)の専門家を睨む様にして呟いた。

 

「次は目を離さないように気をつけるんだな」

 

「ええ。フェブリの時のような失態は冒さないわ」

 

 『スタディ』はその目的遂行のため、2体の人造人間(ケミカロイド)を作成した。ジャーニー、そしてフェブリである。だが先日フェブリは脱走してしまったために、手元にあるのはジャーニーのみとなっているのだ。

 

(外界に対する知識もない、薬を定期的に摂取しなければ生きられない、精神年齢にして5歳にも満たない人形が、勝手に脱走なんてするはずがない……!)

 

 桜井は歯軋りをしながら握り拳を作った。布束がフェブリを脱走させたのは明白であり、それは『スタディ』のメンバー全員の認識である。幸いにも、フェブリがいなくなったところで計画に支障はないこと。計画の遂行には布束砥信の知識が必要不可欠であることなどから見逃してはいるが、布束本人のふてぶてしい態度に、憤りを感じているのは桜井だけではなかった。

 

「まったく、忌々しい女だ。以前に所属していた場所を追い出されたというのは、どうやらこの性格が原因らしいな」

 

「実験体と真摯に向き合えないというのは、科学者としては致命的だね」

 

 辛辣な言葉を次々と浴びせられるが、布束は動じない。間違ったことはたくさんしてきた。後悔だってしている。だがこの胸に宿る欠片ほどの良心だけは、間違っているなどと考えたことは一度もない。故に、どれほど科学者としての自分を責められようとも、人間である自分は傷つかない。

 

(私は諦めない。彼がそうだったように、私も最後の瞬間が訪れるまで全力で戦う)

 

 その命を賭けて、戦ってくれた少年から貰った勇気を胸に。布束砥信の信念は揺らがない。

 

「そこまでにしておけ。僕たちが何を言っても、彼女が反省する事はないだろう」

 

 意外にも、憤る『スタディ』のメンバーを諌めたのは有富だった。フェブリの脱走に関して、誰よりも怒り狂っていたリーダーの言葉を聞いて、桜井、斑目、小佐古は驚きの表情を浮かべる。その顔を見て、有富はニヤリと微笑んだ。

 

「なに、僕たちの言葉でダメなら、彼女が耳を貸してくれそうな人物に頼むだけさ……関村」

 

 有富の言葉を受けて、関村は席を立った。自動ドアの先へとその後姿を見送り、怪訝そうな顔をしている布束に対し、ニヤニヤとした表情を有富は浮かべていた。

 

「布束君、学園都市の闇に流れてきた君を見つけたとき、僕はなんて幸運なんだろうと思ったよ。君のお陰で、僕たち『スタディ』の研究はここまで来れたと言っても、過言ではないからね」

 

「ⅰndeed、それはよかったわ」

 

 学習装置(テスタメント)の専門家である彼女が、彼らの研究に役立ったのは事実だろう。だがしかし、その事に素直に感謝するような男ではないと、布束砥信は理解していた。

 

「そして僕は先日、また一つ大きな買い物をした。言ってみるなら布束君、君の付属品のようなものだ。厄介な君に有効な商品が入ったと聞いて、僕はすぐさま飛び付いたよ」

 

 付属品、と聞いて眉がピクリと上がった。自分の付属品? 一体なんの事だろうか?

 

「……精神に作用させる妖しげな機械か何かかしら? 私なんかのために、ご苦労な事ね」

 

「いやいや、そうではないよ。そういった類の物には、万が一という事があり得るからね。精密作業を頼む君には相応しくない……」

 

「では精神系能力者でも連れてきたのかしら? ……私の行動を制限、監視出来るほどの高位能力者の力なんて、貴方が借りるとは到底思えないけど」

 

「本当に、何もかも計算通りという顔だな」

 

 実際、計算通りだった。ジャーニーではなくフェブリを脱走させたのも計算のうち。『スタディ』の構成員は寿命の短いフェブリではなく、最近めざましい躍進を遂げつつある実験を優先するであろうと言う事。現状布束の知識は必要不可欠であり、この程度の反乱ならば見逃してくれるだろうという推測。そして……

 

(フェブリに教えた『御坂美琴』という言葉。彼女なら、あの子の味方になってくれるはず……)

 

 自分と同じく、1万人のクローンのために戦ってくれた彼女ならば、フェブリのため……そしてジャーニーのためにも立ち上がってくれるであろうという確信が、布束にはあった。

 

(なら私に出来ることは、少しでも多く時間を稼ぐこと。そして外部になるべく多くの『スタディ』に関するヒントを残して、彼女の到着を待つ)

 

 フェブリの飴玉のデータを探る事も忘れてはならない。ケミカロイドが生きていく上で必要な、体内の毒素を中和するあの飴は、フェブリやジャーニーの未来のためにも絶対に必要だ。

 

(必ず助けて見せる。何があっても、私は彼女たちを諦めない)

 

 有富のいう付属品と言うのがなんなのか、布束には見当もつかない。拷問道具なのか、行動を制限する拘束具か。はたまた精神を誘導する薬品か? 様々な憶測が頭の中を駆け巡り、心に不安が広がっていく。だが彼女の心は決して折れない。その身に宿る良心と、少年から与えてもらった光がある限り、彼女が立ち止まる事は決してない。

 

「なに、付属品と言ってもただの人間さ。精神系能力者でもなければ、薬や機械のプロフェッショナルというわけでもない」

 

「ちょ、ちょっと有富? 部外者をこの建物の中に入れたっていうの!? そんな事をして万が一の事があったら……」

 

「万が一? それはありえないね。なにせその人物は───」

 

 自動ドアが開閉し、関村とその人物が入室してきた。車椅子に乗ったその人物を見て、布束砥信は絶句した。

 

「自ら動くことも出来ず、そして喋る事も出来ない。言わば廃人だ」

 

 虚ろな表情で、ぼんやりと前だけを見ている少年がいた。患者用の入院服に身を包んだその姿は、最後に見た姿とほぼ同じだ。唯一違うのはその衣服が、所々血に染まっているという一点のみ。

 布束砥信はその少年の名前も、能力も、性格も何もかもを知っている。だがなぜ……

 

「なんで……なんで貴方がここに……?」

 

 木原統一。布束の心の支柱である彼が、『スタディ』によって捕らえられていた。

 廃人だと、有富は言った。まさしくその通りだ。彼に精神というものは残っていない。自分と冥土帰し(あの医者)が全身全霊を賭けた結果、取り戻せたのは命のみ。……それでも、長いリハビリを終えれば第2の人生は送れるはずだと、あの医者は言った。それが何故────

 

 ガタリ、と席を立つ布束を見て、有富は満足そうな表情を浮かべた。

 

「どうやら効果はあったようだな」

 

 そんな有富の反応も、布束の思考には入ってこない。何故、どうして、といった疑問が彼女の脳内を埋め尽くす。いつもの平常な思考は既にどこにもない。

 

「彼は一体……?」

 

 一方、事情を知らない『スタディ』のメンバーはあっけに取られている。唯一、車椅子を押してきた関村は事情を知っているらしいが、他のメンバーにとっては寝耳に水の出来事のようだ。

 

「名前は木原統一、と言ったかな。あの木原幻生先生の関係者らしいが、まぁそんな事はどうでもいい」

 

 正直に言えば、どうでもいいとは言い難い。自分たちの計画を『夏休みの自由研究』と蔑んだ恨みは、今日まで自分たちの背中を押し続ける原動力でもあった。その関係者とくれば、思うところがないはずがない。

 

「大事なのは、彼を押さえてさえいれば、今後布束君の全面協力が約束されるという事さ」

 

 その言葉を聞いて、桜井は有富の意図を察した。誰よりも布束砥信の反乱に憤りを感じていた彼はどうやら、その心を折るのに最高のカードを持ってきたらしい。

 

「レベル4の肉体再生(オートリバース)という、なかなかの高位能力者らしいのだが、実験の影響で精神が壊れてしまったとか。その実験には布束君、君も大きく関わっていたらしいねぇ」

 

「……っ」

 

 バレている。そう布束は確信した。絶対能力進化(レベル6シフト)計画の全容を有富が把握しているとは思えないが、少なくとも彼との関係は知られているようだ。

 

「さて布束君。今後君が少しでもおかしな真似をしたら……」

 

 と有富が言うと、関村はナイフを取り出して木原統一の頬に押し当てた。布束の顔に緊張の色が走る。

 

「……っ」

 

 勝敗は決した。結果は火を見るより明らかだ。先ほどまでの強気な姿勢は見る影もなく、布束砥信の心は完全に折れた。

 

「……どうやら、本当に良い買い物をしたようだ」

 

 目を伏せ唇を噛む布束を見て、有富は満足そうに背もたれに寄りかかった。あの、どこまでもふてぶてしく自分たちを見下していたこの女が屈服する様を見れただけでも、出した金額以上の利があったと、彼は確信した。

 

「へぇ、ここまで効果があるなんて。有富、君は一体どこから彼を手に入れたんだい?」

 

 有富と同じく、満面の笑みを浮かべながら斑目は尋ねた。

 

「なに、彼女に計画を台無しにされた者からの、ささやかな復讐らしい。仲介人を挟んでの交渉だったが、この少年……木原統一君が壊されるまでの実験データ付だったからね。金額にさえ目を瞑れば、信用に足るいい取引だった」

 

 ピクリ、と布束の肩が動いた。

 

「付いてきた映像には流石の僕も目を覆ったよ。この僕が、高位能力者に哀れみを感じるくらいには残酷だった。ただの能力テストであそこまでやるとは、流石は幻生さんの関係者といったところかな。実験に対して一切のブレーキが存在しないのは見事と言わざるを得ないね」

 

 布束の思考が加速を始める。実験データが付いてきた? ありえない。絶対能力進化計画のデータは極秘中の極秘のはず。そもそも、ただの能力テストとはどういう事だ?

 

「仲介人の胡散臭ささえなければ、言うことなしの取引だったのだがね。冗談みたいな話だが、アロハシャツにグラサンという、知性の欠片もない姿だったよ。はは」

 

 その一言を聞いた瞬間、布束の中で何かがカチリとはまった。

 

「アロハシャツ……?」

 

「やはり顔見知りか。君はかなり恨みを買っているようだな」

 

 なにかが起きている。布束も有富も、この場にいる誰も知らない事態が進行しているのがわかる。だがそれがなんなのか、布束砥信には見当もつかない。その胡散臭い仲介人が、布束が想定している人物だったとしてだ。その人物が何故『スタディ』に木原統一を売り渡すのか。付いてきたデータというのは何の話だ?

 

「これでまた一つ、懸念材料が減った。さて、先ほどの分担通りに事を進めようか」

 

「そうだ有富、フェブリの捜索はどうするんだい?」

 

「……一応、最低限の捜索はしておこう。作業に支障を来たさない範囲で、監視カメラによる検索でもかけておこうか。……しかし、今頃どこで何をやっているのやら───」

 

「ああ、フェブリ(あの子)なら今頃病院だ」

 

 誰も予期していなかった声が、アジトに響き渡った。

 

「つーかよォ、お前らのせいなのか? 俺や土御門みたいな男には微塵も懐かねえんだよなあの子。……まぁ、女性でも御坂美琴(一部例外)がいるわけだが。まったく、佐天さんが面倒を見てくれてホント助かったわ」

 

「な……に……?」

 

 口を利く筈もなく、自らの意思で動くこともない。それどころか、その意思さえも破壊された筈の車椅子の男の言葉に、布束を除く『スタディ』のメンバーは息を呑んだ。

 

「あー悪いな土御門。作戦変更だ」

 

 ありえない。もしも彼があの後、学習装置(テスタメント)から知識を入力されたとしても。この短期間でここまでの人間性を取り戻すのは不可能な筈。それはあの事件以来、彼の治療法を頭の中で組み立て続けていた自分がよく知っている。

 

 ───なら、この少年は?

 

「貴方は、誰?」

 

 偽物だ。木原統一ではないまったくの別人が、変装して潜入してきた。……本物である筈がない以上、それ以外には考えられない。

 

「誰だ貴様は!?」

 

 布束の疑問に対し、畳み掛けるように有富は叫んだ。

 

「さっき自分で言ってたじゃねぇか、マヌケ」

 

 車椅子の男の刺すような視線が、有富に突き刺さる。

 

超能力者(レベル5)の第8位、木原統一だ……ま、俺が誰かなんて事はこの際どうでもいい。んな事より───覚悟しろよクソ野郎共」

 

 

 

 





 流石にこいつらのファンはいないと思いたい……いたらごめんなさい。ちなみに私はこいつらの顔と名前が一致しません。

 そして布束さんがやる気を出したため、フェブリの脱走が原作より3日ほど早いです。



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。