とある科学の極限生存(サバイバル)   作:冬野暖房器具

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 4巻(禁書目録とは言ってない)



第3章 救われぬ者に
026 心の距離感  『8月13日』  Ⅰ


 最近わかってきたのだが、上条当麻は不幸な人間だ。

 何故最近かと言えばその原因自体がまず不幸の第一要素であるのだが、端的に言ってしまえば記憶喪失なのである。

 喪失というよりは破壊、というほうが正しいと医者は言っていた。つまりは治る見込みがないということであり、もうこれだけで不幸と言っても差し支えないのではないかとさえ思う。

 しかもその記憶喪失の要因は、レンガが上から落ちてきたとか殺人現場を目撃したショックとか、精神系能力者の陰謀とかでもない。

 

「あいさが料理を作り始めてから、食事が豪華になったんだよ!」

 

 どうやら、この修道服を纏った銀髪の少女を助けるためにこうなったらしい。名前はインデックス。現在我が家の家計を焦土にしようと画策しているその1だ。

 不幸な事故の結果として記憶を失ったのではなく、人助けをした結果の記憶喪失。となれば、被害者の前でその悲劇を嘆くわけにもいかないばかりか、()()()()()()この少女を悲しませる原因になりかねない。……よって、わたくしこと上条当麻は記憶喪失を隠して生活している。この隠し事自体は自分で選んだ道なので、もちろん不幸だなんて思ってはいない。

 

「上条君。ちゃんと食べなきゃダメ」

 

 最近になって、我が家で手料理を振舞ってくれている女の子、名前は姫神秋沙という。つい先日、アウレオルス=イザードという錬金術師に監禁されていた、吸血殺し(ディープブラッド)という希少な能力を持つ彼女。

 

 何故手料理を振舞ってくれているかはわからないのだが彼女曰く、「お世話になったから」だそうな。その料理の腕は確かだし、男子高校生としては同年代の女の子の手料理なんて夢のような幸せではある。あるのだが……チラリと出された食事に目をやると……

 

具沢山の味噌汁

ご飯(特盛り)

焼き魚(魚が特大)

だし巻き卵(+大根おろし)

もやしとレタスとその他もろもろのサラダ

ひじきの煮物

肉じゃが少量(おそらく夜用の味見)

 

「今日()大量なんだよ!」

 

 多い。上条さん家の食卓にしては多いのだ。隣人からの補給があるとはいえ料理を出されるたびに「あ、これで冷蔵庫の中身がこうなって」と考えてしまう貧乏人の性には逆らえない。「冷蔵庫の中身が気になるから料理はこうして!」と姫神本人に言う気も起きないし、そもそもこの料理の材料の大半は───

 

「……だってさ、……あの流れなら……大丈夫だと思うじゃん?……」

 

 隣で何故か落ち込んでいる男。木原統一の買ってきたものなのだ。

 医者を除けば上条当麻の記憶喪失を知っている唯一の人間である。上条が自宅にいないときにはインデックスの世話を見てくれるし、なにより上条当麻自身に勉強を教えてくれている(コレは担任からの命令らしい)貴重な存在だ。更にはインデックスの持つ魔術の知識に興味があると言って、代価に食材を持ってきてくれるという……上条家の生命線のような奴である。

 落ち込んでいる理由はよくは知らない。父親となにかあったらしいが、深くは突っ込めない雰囲気だ。いつもは普段どおりなのだが、ふと気がつくとこういう状態になっている。なにやら精神的にくる説教を貰ったらしい。

 

「木原君。お米がなくなってきた」

 

「……うーい」

 

 姫神は一部の調味料を除いて、その殆どを木原が買ってきた食材で料理している。木原と言えばインデックスのために食材を買ってきているという認識なわけで、そのインデックスのGOサインが出ているためにこの形と相成った。上条家の食卓に家主が介在する余地がないと言う、なんとも奇妙な生態系が出来上がっている。

 

 もともとマイナス(インデックス)だったものが、プラス(木原)になり、それが少し減った(姫神)が付加価値がついた(料理の手間+手料理)のだ。なにも問題は無いように見える。

 

「とうまの作る朝ご飯と夜ご飯は少ないんだよ。あいさがいなかったら今頃餓死してるかも」

 

 否、問題はあった。姫神の作る料理につられて、上条家では食事改善運動(ストライキ)が勃発中である。姫神の料理と上条当麻のソレでは大きく差が開き過ぎているのだ。最近ではインデックスの勢いに負けて、一食辺りのおかずを1品増やしてしまった。近いうちに2品、3品と増えていくかもしれない。このままだとまさかのマイナスにまで転落する可能性も低くないのだ。

 

 おかしい。勉強、食材、料理、子守。これら全てにおいて面倒を見てもらっているというのにこの状態。ここまでの後方支援(バックアップ)があるのにも関わらずである。

 

 上条当麻は不幸だった。それを不幸だと、嘆く事も出来ない状態であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『てめェ、俺がその話題を出されるのがどれだけ癪に障るか、わかってやってんだよなァ?』

 

 すいません、知りませんでした。……なんて言えるはずもなく。「あー、うん」としか言えなかった。

 

『あー切れちまったわ。久しぶりに切れたわ。お前、一回死んだぞ?』

 

 どうやら俺は死んだらしい。

 

『丁度、さっき使()()()()()()があんだよなァ。狙ってやってたのかな? マゾ太クン?』

 

 いやもうホント、そんな趣味はないってなんども明言してるんで。なんですかね、その血塗れのドライバーとペンチは。

 

『ぎゃははははははは!!!』

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 気がつくと、我が家の玄関及び台所は殺人現場になっていた。この出血では被害者は助かるまい。……あ、俺だった。

 

 警戒というのは普段は過剰過ぎるとかなんとかぬかしてた男、木原統一です。あの惨劇から3日後。未だに夢に出てくるわ思い出すわで、肉体再生(オートリバース)は心因性のトラウマまで修復する説は怪しい気がしてきた。……まさか魂に刻み込まれたとでもいうのか。それとも俺の自分だけの現実(パーソナルリアリティ)を解析したうえでの拷問だったのか。その真偽を確かめることは絶対にしたくないので、この事件は迷宮入りということになる。

 

 そんなこんなで、精神的にくる物理説教を貰った俺なのだが、別に興味本位であの質問をしたわけではない。あの流れならいけると思ったのだが……この惨状を見る限りではダメだった。

 

 何ゆえあんな質問をしたのかと問われれば、一方通行(アクセラレータ)に関する資料、及び絶対能力進化(レベル6シフト)計画における戦闘データが欲しかったから、と言うしかない。では何故そのデータが欲しいのかと聞かれれば……一方通行と戦わなければならない未来が来るかもしれないからだ。

 

 9月30日、木原数多を殺害するのは学園都市の超能力者の第1位、一方通行その人なのである。

 一方通行の戦闘データが欲しいとすれば、最も多くのデータが得られるのは絶対能力進化計画だろう。4桁ほどのデータが既にあるのは確定事項なのだ。というより、それ以外に得る場所がない。つまりは当てがないのだ。

 一方通行自身のデータが欲しいとなればだ。一方通行の能力開発に関わった人間に直接話を聞くのが手っ取り早い。ならば、「てめぇの能力、自分だけの現実、全て解析済みだ。伊達にその能力、開発してねぇぞ!!」と豪語する(予定)の人に話を聞くのが一番である。つまりは木原数多だ。

 さらにいうなら、9月30日に緊急で呼び出されたのにも関わらず、一方通行の全てを把握していた男なのだから。現状、絶対能力進化計画の情報だって手に入る立場にあるのではないか、というのが俺の推測である。

 

 ほら、おれわるくない。俺は悪くないぞー!

 

「……読み違えたなぁ」

 

 今回俺が得るべき教訓は、『親しき仲にもなんとやら』だろうか。まさかあんなに怒られるとは思わなかった。

 

「まーこれからどうするかは置いといて……米を買いに行くか」

 

 巫女服にエプロンを装着した主婦モードの姫神のオーダーに応えるべく、俺は血塗れ(汚れが落ちない)の玄関を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、重い……」

 

 最近、姫神が現れた事による食料消費事情はなんとなく察してはいた。上条のあの顔はバレバレである。でも姫神にはそんな顔は見せないその優しさに敬意を表し、ならば米だけでもと思って20kgの袋を見つけてコレにしようと思った矢先の出来事である。

 

 

『特大感謝セール 味噌+醤油+お米 購入で、全商品3割引』

 

 

 3割とはまた大胆に出たものだ。まぁなんとか持てるかなと考えてたその矢先だった。

 

『ただ今2千円以上購入の方に、感謝セール記念の商品くじを行っておりまーす』

 

 とレジのお姉さんに言われ、進められるがままにくじを引いた。というかセールの記念ってなんやねん。学園都市は食料品などに関してはかなり安い値段が設定されている。どこまで安いのかと言えば米と醤油と味噌の最大サイズを購入しても2千円は超えないくらいにである。今回2千円を超えたのは一緒に買ったお菓子(カナミンチップス)のせいだろう。インデックスの昼間、夜の食欲抑制のための布石として2つ購入した。嗜好品に関してはやはり高いのが学園都市クオリティである。

 そんなこんなで、感謝セールとしておきながらも2千円以上の購入欲を煽ってくるスーパーのくじを引いた結果当たったのが───

 

 

『学園都市産 お米 20kg』

 

 

 2等である。当たった直後から賞品を聞かされる5秒間くらいは喜んだ。商品を聞かされた後も「ま、まぁ自宅用で消費してもいいよな」くらいに考えていた。問題は帰り道である。

 

「俺が非力なのか……いや、これはもやしっ子でなくてもきついんじゃねえか?」

 

 右腕20kg。左腕20kg+α。非常に微妙なラインだが、軽いと言うやつはいないと思う。もしいたらそいつは人類じゃない筋肉だ。……やっぱ俺がもやしなだけか。畜生。

 とにかくこんな真夏日に、こんな重さの荷物を持って延々と歩いて自宅に帰らなければならないハメになってしまった。一体誰のせいなのか、もしかしたらアレイスターの陰謀なのか、もう全部あいつのせいでいいんじゃねえかな。ああもう暑い。のんびりと歩けばその分この地獄は長くなるしもう……

 

 そんなこんなで現在、俺こと木原統一は路地をショートカットしようと画策し、その浅はかさに後悔しはじめた所である。

 

(荷物が邪魔で人とすれ違う事ができねえ……しょうがないから曲がって広そうな道を選んだはいいが)

 

 なんだかどんどん目的地から遠ざかっているような。「あ、この調子なら引き返した方がいいんじゃね」というところで少し広い場所に出た。道がいくつか分岐しており、廃棄された建物みたいなのが真ん中に建っている。つまりはどういう場所かと言うと、

 

「不良の溜まり場だよなぁ」

 

 長居は無用である。まだ昼間だからいいが、もうすぐ悪そうな人たちが集まってくるかもしれない。否、もうあの建物内にいて、すぐにでも顔を出す可能性すらある。んなもんステイル直伝の(勝手に盗んだだけだが)炎の術式でやっちまえと思うかもしれないがアレは手加減ができない。問答無用で焼き殺されなきゃいけない不良はそうはいないだろう。

 

 ということで建物内の様子をチラチラと窺いながら離れる事にする。と、建物の中から誰か出てきた。見たところ女性のようだ。やっべ、目が合っちまった。何故かこっちに近づいて来る。……どっかで見たことあるような───

 

「こんなところで会えるなんて」

 

 あ、アニメ仕様だ。なんてアホなことを考えている俺がいた。

 

「貴方はマネーカードなんていらないでしょうに。however,再会自体は喜ばしい事なのだけど」

 

 




味噌「は、早く冷蔵庫へ…!」



 いつも通りにやるといいながら2回もボツに……ビビり過ぎな作者です。

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