あと、あらすじがあらすじしてない気がしたので追加しました。
017 全ては手のひらの上 『8月7日』
魔術。それは異世界の法則を無理矢理この世界に適用し、様々な現象を引き起こす技術。元々は一部の宗教的奇跡への羨望から開発されたものであり、「才能の無い人間がそれでも才能ある人間と対等になる為の技術」とも表現される。
「今は流派が細分化されてて、具体的な形を明言するのは難しいかも」
「でも、なんらかのエネルギーを魔術的記号に通して発動するってのが、やっぱり基本なんだろ?」
「うん。一部例外もあるけどね。魔力を用いない魔術ってのも存在するし」
「魔力を用いない魔術……あ、
「そう。あれは音に魔力パターンを乗せて、命令を誤認させるんだよ。適切な発音よりも、タイミングや術式への理解が重要だね」
「物理で言うところの共振みたいなものか……あれって要は、こちらの声自体も術式の一部として認識させる技だよな?」
「あのー、木原君にインデックスさん? 上条さん家でなにをおしゃべりしてるんでせう?」
おしゃべりではない。勉強だ。
「なにって、魔術の基礎について勉強している。それより上条は俺の出した課題は終わったのか?」
「いや、それはまだなんですが……というかまたわからないのがいくつか……」
「しょうがない。解説してやるか」
「魔術の講義はもういいの?」
「いや、同時並行で頼む」
8月7日現在。俺は上条宅で家庭教師をしている。以前、小萌先生に頼まれた上条の学力アップの件を思い出したのだ。そのことを小萌先生に打診し、復習用のプリントを預かって来たのが5日前。丁度俺も上条家に用があった手前、渡りに船とはこのことだ。
「さてどこだ……三角比の2次不等式か。なぜこれがわからんのだ」
「いや、面目ない……」
「まぁまだ習ってないからな」
「おい」
「でも既存の知識で実はいけるんだがな……ここをtと置いてやれば……」
実は小萌先生が復習担当で、俺が予習担当である。だが上条にはそれに自力で気づく事が出来ない。例の記憶障害のせいだ。
思い出の喪失。いわゆるドラマや漫画でおなじみのタイプの記憶喪失だ。これにより、上条当麻には知識の記憶しかない。数学の問題を出したところで「解ける」か「解けないか」の判定は出来るのに、「習った」か「習ってないか」の判定は出来ないのだ。そして解けないからといって、それが学習済みか否かの判定は下す事は出来ない。習っていても解けない問題はあるからだ。特にこの男の場合は。
「さて、どうだ」
「おお、これならなんとか」
「んじゃ、類題やってみろ。それが出来たら次は小萌先生のプリントだな」
予習も頑張っとけよ上条当麻。お前、今年はまともに授業に出られると思うなよ。
「さて待たせたなインデックス」
「別に待ってないんだよ。どこまで話したかな……」
上条当麻への個人授業はおまけ。本命は
あの日土御門に「魔術は使わない」と約束した日以降、俺は自室で魔術を練習していた。約束? 10分と持たなかったな。ちなみにその10分は自室の火災報知機をOFFにする時間だ。
練習する事数日。ステイルの使っていた魔術については概ね理解したつもりである。『
だが、独学にも限界があった。術式に応じて必要な魔力量を調整し、発動する事は出来るようになった。だが魔力量が何故違うのか。それはどういった理屈なのかがさっぱりわからない。発動時の動作やルーンの配置にしてもそうだ。よくはわからないが、それで発動する。ルーンの意味も理解はしていない。
これは数学に例えるなら、解き方はわかるが意味を理解していないという現象に近い。数学が苦手な人はとにかく反復練習をして解き方を覚えて試験に臨む。そして問題文を見て、練習した通りの解き方を展開する。いじわるな先生がいなければ、これで大体は解けるだろう。
別にこのやり方が悪いわけじゃない。数学を専門にするならまずいだろうが、そうでないならこれでも良い。
だが俺は、魔術を専門に学びたいのだ。故に、ステイルから見て盗んだ術式がただ使えるだけではダメだ。しばらくはパズルのピースを組み合わせるように、術式の応用方法を考え続けた。遠隔で炎剣を出してみたり、それを複数にしてみたり……一応は出来た。壁が一部炭化することになったが。やはり未知の物は制御が難しい。
だがそれまでだ。炎剣は炎剣のまま。というかステイルの術式は熱関係しかない。これ以上はないし、それへの理解もおざなりである。
これではまずいと思い、いろいろ考えた。考えた結果がこのインデックスとの個人授業である。
わりとダメ元だった。科学側の住人に魔術の知識なんて……と思っていたのだが、インデックスは別に構わないとのことだ。そういえばこの子は原作でも、科学サイドの住人(小萌先生、上条、姫神、御坂etcetc)に結構ペラペラしゃべってたな。セキュリティ大丈夫か魔道図書館。と思ったので聞いてみたが「魔道書の知識」はしゃべるつもりは無いらしい。少し残念だが順当だろう。
「つまり魔力は波という事か?」
「力の流れという点ではそうだろうね。その流れに声を乗せるのが」
「強制詠唱のメカニズムか……全体のシステムを崩さず、その一部だと認識させることで術式に反映させる。ラジオの混信……いや、魔力を使わないのだから違うな。こちらは声を出して、ラジオの音と誤認させる……あれ、結構難易度高いぞこれ」
「そうだよ。プロの魔術師でも難しいかも」
やはりあの土壇場で成功したのは運だったのだろうか。それとも俺に才能が……いやいや、俺は木原の出来損ない。やっぱアレは運だな。
「ん? もうこんな時間か。上条ー」
「お、そろそろ昼飯どきか。よっこらしょっと」
「とうま、それちょっとおじさんくさいかも」
「あのねインデックスさん。……女の子におじさんくさいとか言われると、男は結構傷つくんですのことよ。さて、好きに使わせてもらっちゃうけどいいか? 木原」
「好きにもなにも、今日は全部お前ん家に置いてく予定なんだが」
「マジで!?この材料が全て上条さん家の冷蔵庫に永久就職……これであと5日は戦える……フ、フフフ」
俺の見立てでは2日持つかどうかだな。主にこの白い奴のせいで。
インデックスに魔術講習を受けるにあたり、俺はその報酬を『食材』という形で提供した。色気より食い気。まあこの年頃なら当たり前か。ちなみに初日の食材は米10kgだったが、その時上条は泣いていた。インデックスを自宅に迎えて数日。白い悪魔の胃袋の恐ろしさを存分に味わった後なのだろう。上条との勉強会も、この報酬で継続中なところが多い。まさにwinwinの関係だ。
「はっ!? いや、次回の勉強会への繋ぎを考えると、ここで贅沢に行くのはまずい……ここはこのもやし殿に頑張ってもらうか。でも───」
チラチラと上条がこちらを見てくる。ああ、俺がお客さんだからか。
「俺は何でも構わんぞー」
上条はわりと料理がうまい。ありつけるだけ恩の字だ。
「私が構うかも! どーしてとうまはそんなにもやし炒めが好きなの?」
お前のせいだな。
「逆に問おうインデックス! もやしが嫌いな一人暮らしがいると思うか!?」
多分いる。
「いままではそうだったかもしれないけど、今は私がいるんだよ! 育ち盛りの女の子にもやしばっかりは身体に毒なんだよ!」
毒。それは緩やかに
「も、もやしだってちゃんと栄養あるんだぞインデックス」
「そうだぞー美容にいいんだぞー」
「え?そうなの?」
「ほ、ほら、見てみなさいインデックス! 木原もこう言ってるし。もやしを食べればお前のガサガサの肌もツルツんぎゃあああああああああああ!!!!」
毒ではなく凶器じゃったか。上条は栄養無いと思うぞインデックス。
『では、学園都市側の見解はこれで出揃ったということね』
『そうだ。こちらはそもそも魔術師を有してなどいない。そちら側の人間に干渉する気もない。今回は不幸な事故だった、という事で納得していただけたかな』
『こちらの知り得た情報によれば、未だ不審な点もいくつか残りしなのだけれど。その点は都合よく忘れろとでも言いけるのかしら』
『その情報は確かなのかね。よければ
『明かせない人員もありけるのだけれど、こちらに戻りし魔術師達の証言だけでも、件の少年が怪しい存在であるのは明白。わざわざ不審点を指摘させたるような真似は……イギリス清教との友好を考えたるなら、当然避けるべきではないかしら?』
『別段、隠す気も無い。あの少年というのは
『そうでない方の少年も、頼めば教えてくださるのかしら』
『そちらについては、元々話すことなどないと思うがね』
『……』
『件の少年はいくつかの特異性を有している。その内の一つが共感能力の異常発達。君たちの技術が漏洩した件については、それで結論がつくはずだが』
『たしかに。更に言えば魔術の素養もありけるようね』
『
『して、その共感能力とやらは、知りたるはずのない情報を得る事も可能になるのかしら』
『……それはないな』
『では───』
『ああ。あの少年にはまだ秘密がある。限定的ではあるが』
科学サイドの総本山。学園都市統括理事長、アレイスター=クロウリーは微笑みながら告げた。
『あの少年には、未来を見通す能力がある』
ちなみにステイルはいま飛行機の中ですね。
ミス等ありましたら教えていただけると幸いです。見直してはいるんですがね……視覚阻害(ダミーチェック)でも使われてるのか、たまにトンでもないミスがあったりします。
あとローラの口調が何故かすごい難しいです。書いてて違和感しかない……その辺は後でいじるかもしれません。