とある科学の極限生存(サバイバル)   作:冬野暖房器具

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複雑化していく


012 表舞台の裏側 『7月25日』 Ⅱ

 木原数多(親父)との会話をひとしきり楽しんだ後、俺は病院の1階に設置されている公衆電話の受話器を取った。自分の携帯が無事だったら良かったのだが、残念ながらダメだった。外装部分はなんとか持ったのだが、液晶部分が見事に破損。修理費は必要悪の教会(ネセサリウス)に請求すればよいだろうか。いや、この際だから学園都市製の最新機種を自分で選びに行くのも面白そうだ。

 かける先は担任の小萌先生宅である。原作通りなら上条が失神中であり、禁書目録(インデックス)がその看病をしているのだが……望みは薄いだろう。今回の件で神裂とステイルは学園都市から離れてしまっている可能性がある。その場合禁書目録(インデックス)の解呪は絶望的となる。

 頼むから居てくれ、と願いながら電話をした結果、出たのは意外な人物だった。

 

「もしもし、小萌です」

 

「ん?……この声、上条か?」

 

 気絶中だと思っていた上条当麻の声である。

 

「その声は木原? お前、入院してるんじゃ……」

 

「まぁその通りなんだが……待て、なんで俺が入院していることを?」

 

「えーとそれはだな「貸してください」お、おう」

 

「もしもし、あなたを病院に運んだ者ですが」

 

「か……えーとお名前は」

 

「神裂火織と申します」

 

 危ない、まだ神裂さんの名前を聞いていないんだった。

 

「神裂さんですか。その節はどうも……じゃなくて、そこにいるということはもしかして」

 

禁書目録(インデックス)も一緒です」

 

 驚くべきことに、禁書目録(インデックス)、神裂火織、そしてステイル(気絶)までもが小萌先生宅に揃い踏みしているらしい。どうしてこうなった。

 

「あなたの言っていた、必要悪の教会(ネセサリウス)の嘘ですが……裏が取れました。どうやら真実(ほんとう)のようですね」

 

 若干だが、声が震えているように聞こえる。それは怒りなのか、それとも悲しみなのか。……裏が取れたというのはどういうことだろうか?

 

「裏が取れたというのは……」

 

「完全記憶能力に関して、この家の家主と私たちの仲間の意見が一致しました。少なくとも、完全記憶能力のせいで記憶が圧迫されるということはない、というのは共通見解のようですね」

 

 私たちの仲間……土御門のことだろうか。学園都市に潜入中の魔術側のスパイ。今は今回の件の混乱を収めるために奔走中だろう。だが神裂とステイルに対して完全記憶能力の真実を告げるとは意外だった。今の神裂とステイル、そして禁書目録(インデックス)の関係を知っていてなお、あえて放置しているものだと考えていたのだが。

 こうなると、土御門は禁書目録の抱えていた事情を知らなかったのか? その辺りの匙加減はあの最大主教(アークビショップ)の采配次第だ。

 

「なるほど。……詳しい話は直接会って、ということでいいか?」

 

「ええ。私たちはここで待っています。それでは「あーちょっとまった、貸してくれ」なんです?」

 

 ゴト、という音とともに、再び通話相手が変わる。

 

「もしもし、上条だけど。お前怪我は平気なのか?」

 

「ああ。俺( 、)大丈夫だ」

 

「親父さんは……」

 

「わりと重傷だが、今は看護師(ナース)の尻を追っかけてるよ。まぁ大丈夫だろ」

 

カエル顔の医者に同好の士ができたようだ。よかったな。

 

「そうか。……巻き込んじまって、ごめんな」

 

「お前が謝る事じゃねーだろ。そこのクソ神父には言いたいことがあるがな」

 

 そうか、上条視点では俺が巻き込まれた事になってるのか。まぁ確かに1度目は巻き込まれたと言えるが、2回目は自業自得である。上条が気にする事ではない。だがステイル、てめーは許さん。携帯の修理費と入院費くらいはむしり取ってやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴトリ、と上条当麻は受話器を置き、小萌邸の新たな住人に向き直った。すぐ傍にいるのは神裂火織、必要悪の教会(ネセサリウス)の魔術師であり、インデックスとはかつて旧知の仲だったらしい。その後ろで寝かされているのはステイル=マグヌス。こちらも同じようなものだ。

 つい先日までは敵対関係にあった二人なので、上条としてはすぐに警戒を解くことはできない。頭では理解しているが身体がそうはいかないのだ。長い日本刀を携えた神裂にはつい昨日、ボコボコにされ、ボロ雑巾一歩手前まで追い込まれた。友人である木原統一の話題を振ったおかげで攻撃が止み、同僚を止めに行くと言ってその場を去った神裂を見た時は思わずほっとしたものだ。

 その後、神裂がもう一度目の前に姿を現したときは、本当に死を覚悟した上条であった。

 

「それで上条当麻……もう一度聞きますが、彼に魔術の話は一切していないのですね?」

 

「ああ。インデックスが魔術って単語を何回か言ってたけど、必要悪の教会(ネセサリウス)とか完全記憶能力の話はしてないはずだ」

 

「では彼はどこでその話を? 相打ちとはいえステイルを倒し、禁書目録(かのじょ)の事情のみならず、私たちが何故こんなことをしていたのかまで把握していたような節があります。……彼も魔術側の人間なのでしょうか」

 

「いや、アイツは間違いなく科学側の人間。俺のクラスメートで、同じ学生寮に住む隣人だ。それが魔術師なんて」

 

 どこかの陰陽師が吹き出しそうな根拠である。

 

「きはらはご飯をくれたから、きっといい人なんだよ」

 

「いやインデックスさん、その基準は改めたほうがいいぞ……それで、お前らこれからどうすんだ? ステイルが起きてからインデックスをなんとかするとして、その後は?」

 

「わかりません。禁書目録(インデックス)にかけられた魔術が壊されれば、おそらく教会は彼女を回収する方向で動くでしょう。最悪の場合、学園都市側への亡命も考えています」

 

「亡命か、そんな簡単にうまくいくのか? インデックスって、かなり重要な人物なんだろ? 10万3000冊の魔道書を記憶してるとかなんとかで」

 

「ええ。ですから他の魔術教会や魔術結社に逃げ込めば、間違いなくイギリス清教との抗争に発展します。私とステイルだけではイギリス清教には対抗できない以上、魔術とは無縁の勢力である学園都市に頼らざるを得ないのです」

 

「うーん、学園都市がそんなこと認めるかな……」

 

「いま現在、私たちの仲間が学園都市に交渉中です。その結果次第ですね」

 

「仲間、ねえ。信用できるのか? そいつも必要悪の教会(ネセサリウス)の一員なんだろ? 学園都市に潜入中のスパイって話だけどさ。インデックスにかけられた魔術を、俺たちが壊そうとしてることをイギリス清教(む こ う)に知らせちまう可能性だって……」

 

「確かに軽薄そうな男ですが、裏切りはしないでしょう。人を見る目は、それなりにあるつもりです。むしろ、私は木原統一という男を警戒しています」

 

「おいおい、完全記憶能力について教えてくれた張本人だぜ? それに俺の友達だ。大丈夫、あいつは敵になんかならねーよ」

 

「そうだよ、きはらはいい人なんだよ!むしろ貴方達の方が、私的には信用できないかも!」

 

「……」

 

 一抹の不安を拭えない神裂だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーむ、やはり携帯はコレだよな」

 

 歩く戦術兵器に疑いをかけられている中、木原統一は携帯ショップに訪れていた。

 

(それにしてスマホ型が前時代の遺物で、一周回って二つ折りが再来しているとは……学園都市限定の機種もあるみたいだし、ホントに特殊な市場だな)

 

 型落ち気味の烙印を押されている中、あえて最新機種としてスマホ型を推している会社を発見。なんとなく購入してしまった男がここにいた。

 

「アドレス帳の吸出しも無事完了。これで目的が果たせるってもんだ」

 

 そう、なにも戯れで携帯ショップに訪れていたわけではない。画面が破損してしまった携帯の中身に用があったのだ。小萌先生宅への電話は番号を暗記していたものの、それ以外の番号となるとお手上げ状態だったため、携帯を買い換える必要があったのである。

 携帯ショップを出て、歩きながらとある人物に通話を開始。今回の件について、色々と聞いておきたいことがあるのだ。

 

「あ、もしもし木原だけど」

 

『木原っちから電話なんて珍しいにゃー』

 

 アロハグラサン、上条当麻にとってのもう一人の隣人、土御門元春。そしてその正体は、イギリス清教と学園都市、その他もろもろの機関と繋がりを持つ(らしい)多重スパイの土御門元春である。

 今回の件で、学園都市とイギリス清教の動向を一番よく把握しているのはこいつだろう。最悪、一時的に敵対しても構わない。まずは現状把握である。

 

『もしかして、小萌先生からの課外授業(勉強会)のお誘いだったりするかぜよ? だったら今忙しくてにゃー』

 

「いや、折り入って相談があるんだがな」

 

『相談? なんかあったのかぜよ?』

 

「いや実は、最近変な格好した能力者に立て続けに襲われてさ」

 

『……』

 

「それで結局、2度も病院送りにされちまって」

 

『そりゃご愁傷様だにゃー。でも、木原っちの能力はたしか……』

 

「そうそう、肉体再生(ア レ)のおかげで今は無傷だ」

 

『うらやましいぜよ。俺のはてんで役に立たないからにゃー。……それで、相談って言うのはなんなんだぜい?』

 

「いやー2回も襲われると3度目4度目がありそうでな。正直不安で、誰かに相談したい気分でさ」

 

『……俺に相談されてもにゃー。そもそもなんで俺に』

 

「だってお仲間だろ? お前」

 

『……』

 

「なんちゃって」

 

『ヒドい事いうぜよ。コレはファッションなんだにゃー』

 

「いやー、普段からアロハはちょっとキツイぜ?」

 

 建前としては変な格好をした能力者仲間。本音としては魔術師仲間である。声色が少しきつくなったが、コレは聞いておかなければならない。

 

「それで、どうなんだ?」

 

『……ま、流石に3度目は無いんじゃないかにゃー』

 

「そっか。それを聞いて一安心……そういえばさ、上条がまた不幸な女の子を引っ掛けてて、それを助けるのに俺も力を貸すことになってるんだけど」

 

『……』

 

「そっちの方は大丈夫かな?」

 

『さてにゃー……カミやんの引っ掛ける女の子は、結構訳アリが多いぜよ。ま、助けた結果何かあるかもしれないが、そこはカミやんだしなんとかなるんじゃないかにゃー』

 

「あー、そうだよなぁ」

 

 上条ならなんとかなる。その認識はこの時点からあるのか。

 恐るべし上条当麻。

 

「『それと』」

 

 カチャリ、と何か金属音がした。背中になにか小さい筒のような物が押し当てられているようだ。まぁこの流れで何が突きつけられているのか、それくらいは見当がつく。

 

「今度は俺が質問する番だ」

 

「……流石に白昼堂々すぎやしないか?」

 

通話を切り、両手を控えめに上げる。

 

「同感だ。そこの路地に入れ」

 

人生初の路地裏デートである。もしかしたら人生最後かもしれないが。

 


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