本文より少し抜粋///
今思えば、僕が小学校三年生の時。そう、あの時からすでに僕は彼女に惚れていたのかもしれない。まさに一目惚れだったんじゃないかと思う。だってそれは、一目彼女を見ただけで、胸がドキッと跳ね上がり、ついつい見惚れてしまっていたのだから。そして気付いたら、目で追っていた。本当に今更、いや、今だからこそ気付く事が出来たんじゃないかと思ってる。///
にじファンでも投稿されていた作品です。内容に差異はありません。作者の自ブログにも投稿されています。
今思えば、僕が小学校三年生の時。
そう、あの時からすでに僕は彼女に惚れていたのかもしれない。
まさに一目惚れだったんじゃないかと思う。
だってそれは、一目彼女を見ただけで、胸がドキッと跳ね上がり、ついつい見惚れてしまっていたのだから。
そして気付いたら、目で追っていた。
本当に今更、いや、今だからこそ気付く事が出来たんじゃないかと思ってる。
──走馬灯。
ちょっとした思い出みたいなものかもしれない。
今こうして彼女の事を考えるだけでも十分に胸が苦しく、頭の中は彼女でいっぱいになる。
それも、全てこの後の瞬間の為。
僕はこの後、今感じている以上の緊張感と不安感を抱くのかもしれないし、絶望と失望が僕を襲い、悲しき一生を過ごすことになるかもしれない。
でももしかしたら、逆に達成感と幸福感に抱かれて、さらにその先の幸せがたくさんの未来を見出すことが出来るかもしれない。
──分からない。
そうだ、全てがまだ分からない。
自分がちゃんと彼女に気持ちを言えるかも分からない。
だけど……だけども!
今日まで……今日までの三年間胸に秘めた思いを伝えなくてはもうチャンスは来ない。
これが最初で最後のチャンスなんだ……。
たぶん、僕の初恋。
初恋は叶わないとはいうけれど、そんな言葉関係ない。
僕は! 僕は!!
この初恋が枯れるまであと……
この初恋が実るまであと……
彼女が僕たちの通う小学校──私立聖祥大学付属小学校 に転入してきたのは、小学校三年生の冬のころだった。
急な転入なうえに、この学校にやってきた子は女の子。
それは飛び切りの美少女だった。
凛々しくも幼さの残る綺麗に整っている人形のような顔。腰にかかるほど長い髪をもち、太陽に光のように輝く金色のツインテール姿といい、あまりにも日本人離れしている女の子だった。
しかし、彼女のあまりの綺麗さ、可愛さに僕を含む男の子はみんな彼女が入ってきた瞬間に「おおおおお」と歓喜の声をあげるほどだった。
その様子に彼女は少しびっくりしたようだったけど、すぐに自分がみんなに喜んで迎え入れられてるのに気付き、頬を赤らめしながらちょっと嬉しそうにお辞儀した。
──か、かわいい。かわいすぎる。
僕の心の中では、その言葉ばかりが浮かび上がり、気付けば自己紹介のために壇に上がる彼女をずっと見ていた。
みんなの前で話すことに慣れていないのか、それとも人前で話すのが苦手なのかは分からないけど、最初は恥ずかしそうにして、ずっと下を向いていたが、決心したのか顔を僕たちのほうに上げ、
「あ……あの、フェイト・テスタロッサと言います。よろしくお願いします……」
頬を僅かに赤く染めながらも、弱弱しく、それでもはっきりと言った。
そのテスタロッサさんの、必死な自己紹介に僕は思わず手が動き、拍手した。
みんなもそれに合わせて拍手をし、盛大な拍手によって彼女はこのクラスに出迎えられることになった。
そんな中で僕は、手が痛くなるほど精一杯に力をこめて、色々な感情をこめて最後まで拍手をして出迎えた。
テスタロッサさんの人気はすごかった。
その理由としては、この時期の転入生と言うもの珍しさと興味というのもだったが、それ以上に彼女の容姿が原因だったのではないかと思う。
みんな魅了されたのだ。
その輝く金色の髪に、綺麗な目を持つその顔に、儚げなその雰囲気に。
同じ金髪でも、どこかのバーニングさんとは大違いだった。
正確にはバニングスさんだが、輝く金色の髪こそあれど、闘志に溢れる燃えるような目と、血気盛んな雰囲気しかない。
儚さ? 彼女にはそんなもの期待するだけ無駄と言うもの。
それが僕たち男子勢の総意とも言えるもの。
ただ、僕はそれでも見てるだけなら綺麗なのにとは思う。
綺麗な花には棘がある。
うん、彼女の為の言葉に違いない。
そんなバーニングさんとは打って変わって、同じ金色の髪を持つテスタロッサさんは大人しくてお姫様を想像させた。
一度自己紹介が終わり、休み時間になるとみんなが待っていたかのようにテスタロッサさんの下へと集まった。
僕も行きたかったけど……あまり押しかけると迷惑かなと思い、諦めた。
男女関係無しにみんなに囲まれて質問の嵐を受けるテスタロッサさん。
そんな姿にみかねたのか、輪から外れていたバニングスさんは席を立ちみんなをまとめ始めた。
良くも悪くもバニングスさんにはリーダーシップみたいなものがあり、よくみんなをまとめてる。
なんだかんだで慕われているのがよく分かる。
「あれ? 悠斗君は行かなくていいの?」
「え? あ、うん。行きたいけど、迷惑かなって」
「フェイトちゃんはそんなこと思わないと思うよ?」
僕に話しかけてきたのは、高町さんと月村さんだ。
月村さんはかわいいと言うよりは綺麗と言う言葉がよく当てはまり、高町さんはかわいいと言う言葉がよく当てはまる。
月村さんやバニングスさんはどちらかというとお嬢様気質と言う雰囲気があるけど、高町さんはむしろ普通の町っ子って感じだった。
高町さんに関しては、自分の親が運営している翠屋という喫茶店の看板娘であるから、この表現は実にピッタシだと思う。
実は僕も家族単位で、お世話になってる喫茶店だったりもする。
いつもこの二人と、バニングスさんで一緒にいて、クラスでも有名なほど仲良し三人組だ。
「そんな、二人こそ何か聞かなくていいの?」
「にゃはは、私はちょっとした知り合いだから大丈夫だよ」
「私もなのはちゃんと同じかな」
「知り合いだったんだ」
いったいどんな知り合いなんだろう?
気になることは増える一方で、自分もテスタロッサさんに色々と聞きたい衝動に駆られるがあくまで我慢する。
留学生といえども時間はまだあるだろうし、これからいつだって聞ける。
チラツとテスタロッサさんを見ながら、そう自分に言い聞かせる。
気付けば授業も終わり放課後になっていた。
たぶん気のせいだとは思うけれど、テスタロッサさんの事を考えていただけで、学校が終わってしまったような気がする。
ただ、なぜ今日の授業に身が入らなかったのか、自分でも不思議だった。
家に帰ってからも、自分の部屋のふかふかなベッドの上をごろごろと転がりながら、今日来た転入生のことを考える。
ああ、あれを聞きたいな。
これも聞いてみたいな。
でももし、すでに聞かれていた質問で二度目だったら嫌だよね。面倒だよね。
じゃあやっぱり、誰も聞いてなさそうなことがいいかな?
──なんでかな? どうしてこうも、考えることが楽しいんだろう。
学校から帰るときに味わった、授業に身が入らないのと同じような、不思議な感覚。
その不思議が不思議だった。
だけど、今この考えてる時間はこれもまた不思議と楽しかった。
楽しい日々の学校が、明日からまたいっそう楽しくなるような、そう信じて疑わなかった。
この日は結局ずっと質問の内容を考えて眠ることが出来ず、翌朝は寝坊して恥をかいて学校に行くことになった。
遅刻した事を友達にからかわれて、ちょっと散々な目にあったが、そんな僕を見て高町さんと一緒に笑うテスタロッサさんの笑顔を見られたらそれもいいかなと思った。
テスタロッサさんがケータイを買ったらしい。
買った理由は、高町さんたちに勧められたからそうだ。
僕はケータイを持っていない。
僕のお母さんは買ってあげてもいいと言うのだけれども、お父さんは子供にケータイはまだ早いと言うような人で、僕はまだ持っていない。
僕もそこまで欲しいわけじゃなかったから、お父さんに交渉とかはせずにすぐに諦めた。
何れは買ってくれるのはわかってからだ。
その日になるまで待てばいい、そう思っていたのだが、今この瞬間にその思いは裏返った。
──僕も……欲しいなぁ。そしたら、テスタロッサさんともっとお話が出来るかも。
僕はテスタロッサさんが来た二日以降、積極的とは言えないものの、それなりにお話をすることが出来た。
僕から話しかけると嫌な顔一つせずに、しゃべってくれる。
そして、僕に微笑を見せてくれた。
その微笑が、普段以上に綺麗で初めて見た瞬間は、開いた口がふさがらなかった。
そんな僕の姿を見て、テスタロッサさんが慌てたりした。
なんで慌てたのか分からないけど、そのあとバニングスさんに叩かれて、ようやく口をふさぐことが出来た。
その一連がちょっと面白くて、テスタロッサさんと一緒に笑った。
とても楽しい一時。
もしケータイがあればこんな楽しい一時がもっと増えるんじゃないか、僕はそう思った。
だから……お父さんに交渉した。
「駄目だ。お前にはまだ早い!」
「で、でも……」
「でもも、何もない。それで前に納得したじゃないか」
「う……うぅ」
お父さんは変なところで頑固だ。
前から思っていたことだけど、その思いは確信に変わった。
「まぁまぁ、お父さん。いいじゃないの」
「いや、納得したんだ。男として二言はあるまい」
「ふふ、そうよね。でも、その二言を言ってでも頼むと言うことはそれなりに理由があるのかもしれないわよ?」
「……ふむ」
「ほら、悠斗話してみなさい?」
「うん……」
僕は欲しい理由を全部語った。
改めて言った内容を思い返してみれば、テスタロッサさんのことしか言ってないような気がするけど、きっと気のせいだ。
話し終わると、さっきまで強固な姿勢で、絶対に譲らないといった雰囲気を出していたお父さんの様子が変わった。
「…… 恋、か」
「……?」
「春が来たのよね? 悠斗」
「? ?」
お父さんと母さんの言ってることはよく分からなかった。
でも、この後二人は小声で少し相談すると、再び僕を見つめなおし、
「よし、分かった。買ってやろう!」
「ほ、ほんとうに!?」
「ああ、かわいい息子の為だ。男に二言は無いとはいえ、この場合は仕方ないな」
「ふふ、そういうことよ。良かったわね、悠斗」
「うん!」
僕はあまりの喜びのあまり、大好きなお父さんと母さんに抱きついた。
それで何度も「ありがとう」「ありがとう」と言った。
二人は僕を見て「春だなぁ」とまた呟いていた。
今は春だよ? お父さん、お母さん。
最新機種のケータイを持って、学校へ登校した。
何とこのケータイ、写真はおろかテレビまで見えると言う。
その説明を受けたときは驚きは隠せなかった。
しかし、あとあと聞くと今はこれが普通らしいとのことだった。
今までケータイとは完全に無縁だったので、まるで時代に取り残されていたような感覚に陥った。
でも、そんな僕とは昨日でおさらばで今では最新の、まさに流行の最先端を走っているような爽快感がある。
僕は学校に着くと迷わずテスタロッサさんの下へ行こうとしたけど、ちょっと躊躇った。
──どうしてだろう……ケータイのアドレスを交換してもらうだけなのに、こんなにドキドキするのは。
どうしようもない胸の高鳴りを覚えた為に、踏みとどまってしまったのだ。
聞いて大丈夫だろうか。
もし、聞いて断られたら。
いや、優しいテスタロッサさんに限ってそんなことは……
どうしても、最悪の事を考えてしまう。
せっかく、せっかくケータイを手に入れたのに。
テスタロッサさんのアドレスを知ってもっと接する機会が欲しくて買ったのに!
あれ? 今、自分で少し不可思議な事を考えなかっただろうか?
テスタロッサさんと接する機会のために買った?
心の中、頭の中に疑問符が浮き上がる。
自分で自分がなにを言ってるか、考えてるか分からなくなってきた。
──……いいや。今はそんなことよりテスタロッサさんと!
心の中で未だに葛藤が続く。
そんな葛藤も長く続き、気付けば授業の時間となり、次に気付いたときには学校が終わっていた。
──そ、そんな馬鹿な。学校ってこんなに短かったっけ?
ありえない光景を目にしたような、そんな感情を抱いたものの、この放課後の時間がチャンスだとすぐに気がついた。
肝心のテスタロッサさんはどこに、そう思い回りを見渡せば、都合よく彼女一人だけになっていた。
いつもな高町さんたちに囲まれていてとても話しかけられるような雰囲気じゃないのだが、災い転じて福となすと言うのだろうか。
まさに千載一遇のチャンスだった。
ここを逃せば自分はもう一生彼女とアドレス交換ができない。
そう思い、一大決心してテスタロッサさんに近づく。
「あ、あのぅ……」
「? あ……ゆうと、どうしたの?」
いつもと変わらぬ優しい顔で、反応をしてくれた。
思わずその姿に、毎度のことながら見惚れてしまうのだが……いけない、そんな時間は無かった。
「あ、あのね! えっと……アドレスを」
「あどれす?」
「け、けけケータイの!」
「……あ、ゆうとケータイ買ったの?」
「え? ああ、うん。こ、これ!」
気が動転する。
今にもめまいが襲って倒れそうなほど、クラクラする。
だけど、ここで頑張らなくては手に入らない。
「あ、アドレスを交換してしてください!」
「…………」
一瞬の沈黙だった。
僕は思わず深く頭を下げて、お願いをしていた。
まるで告白するような、片目からみればそう見られてもおかしくなかったほどだった。
「うん、いいよ。交換、しよ?」
「え、あ……うん! 本当にいいの!?」
「友達……だから」
「そ、そっか。友達だもんね」
テスタロッサさんの了承の言葉。
その言葉に僕は、感激のあまり逆に聞きなおしてしまった。
そして、次にテスタロッサさんから帰ってきた答えは「友達だから」この言葉に、僕は……僕は!
予想だにしなかったテスタロッサさんの言葉に、さらに感激は高まる。
しかし、感激のあまり180度ひっくり返ってむしろ、冷静になってしまった。
でも、この言葉はどんな言葉よりも心に響き、たぶん一生忘れることは無いと思う。
僕はこの感激の高まりのウキウキ気分のまま、軽くステップまで踏みながら家へ帰った。
そして、お父さんとお母さんにその勢いのまま報告した。
その僕の様子を見たお父さんとお母さんは、お互いに目を合わせ「青春だな」「青春ね」と呟いた。
部屋に転がり込み、ベッドに勢いよく身体を投げる。ベッドのバネで一回高く飛び跳ねた。
心はまだ浮かれ気分。そして、そこに更なる追撃が来た。
テスタロッサさんからの初メール。
その日、あまりにもテンションが上がってハイになってしまったため、今の記憶にはそのメールの内容はあまり覚えていない。
「おまえ、テスタロッサと付き合ってるの!?」
「……はぁ?」
テスタロッサさんに初めて会ってから三年。僕はすでに六年生になり、来年からは中学生だ。
この学校は中学になると共学ではなくなり、男女別になる仕組み。
つまり、テスタロッサさんとこうやってクラスで一緒になるということはまずないということになる。
それは、非常にな残念なことなのだけれども、こればっかしはしょうがないことだった。
「いや『はぁ』って言われてもな。おまえ、テスタロッサのこと好きじゃないの?」
「好きとか……そんな」
「ま、真面目に考えるなよ。からかってるだけなのに」
「……ああん?」
「こわっ! 普段大人しいやつは怒ると怖いね! 何するか分からないよ」
僕をからかいに来ただけの、一年生以来の親友をにらみつけると、「ああ怖い怖い」と言いながら、自分のクラスへ帰っていった。
しかし、彼の言った言葉は胸に突き刺さった。
──『テスタロッサのこと好きじゃないの?』ね。僕だって、分からないよ。
三年と言う月日は、人生の中では短くも小学生である自分には長い月日。
そんな月日の間、僕はテスタロッサさんと接し続けた。
学校ではもちろん、メールもしたり、電話だってするほど仲がよくなった。
高町さんたちの次ぐらいには、仲が良いと胸を張れるくらいの仲だと思う。少なくとも僕は。
三年でテスタロッサさんの身体は、あの……その……えっちぃのはいけないとは思います。
ええ、僕の口からはいえないほどの……あれになっていた。
それでも、僕の中でのテスタロッサさんは変わらず綺麗でかわいかった。
そして、
「あ、ゆうと。おはよう」
「お、おはよう、テスタロッサさん」
昔にかわらず、僕の胸はテスタロッサさんと会うだけで、ドキドキと心臓が鳴り、話せば緊張して顔が熱く感じる。
彼女の事を考えれば、今も胸は張り裂けそうに痛くなる。それでも考えることは止められなかった。
「今日は早退とかしないの?」
「うーん。たぶん、大丈夫」
テスタロッサさんには秘密が多い。
それは僕が未だに、三年生のとき聞きたかった質問を聞けていないからかもしれないが、テスタロッサさんは……いや、テスタロッサさんと高町さんは時々学校を休んだり、早退する。
それが一番の謎なのだが、女の子は謎が多い方がいいと言うお母さんの言葉もあるので聞くことは無い。
「そっか……うん、そうか」
今日はずっと学校で一緒の教室で勉強できると思うと、いよいよテンションは上がる。
──でも、こんな時間が続くのは今年限り……なんだよな。
諦めているとは言えども、どうしようもないこととは分かっているものの、やはりどこか……悲しかった。
あるいは、残念。
それはどうしてなのか……
──もしかして、僕ってテスタロッサさんのことが!?
三年前では分からなかったこの感情の正体。
思い当たる節がある。
よくお父さんとお母さんが呟いていた言葉。
──もしかして……まさか……これが!?
そう考えると、頭は彼女のことでいっぱいになる、心臓はよりいっそう早く脈を打つ。
居ても立ってもいられなかった。
チラリとテスタロッサさんのほうを見る。
今は授業中だというのに、僕の視線に気付いてかテスタロッサさんもこちらを見て、にこりと笑う。
僕は思わず顔をそむけてしまう。
しかし、ようやく分かったこの気持ちに確信が持てた。
思わず、一人誰にも聞かれないようにぼやく、
「そうか、そうだったのか……はぁ、あいつの言っていたことは、あってたのか」
一年生以来の親友の言葉を思い返し、もう一度深いため息を吐く。
テスタロッサさんがここに来てくれるだろうか?
僕はちゃんとこの思いを言葉で伝えられるだろうか?
いいよ、と頷いてくれるだろうか?
拒絶されてしまうのでは無いだろうか?
様々な憶測が頭の中で飛び交うがそれに答えてくれる者は居ない。
あえて言うのであれば、その結果を教えてくれるのは彼女──テスタロッサさん意外には居ない。
僕にとってたぶん初恋の相手。
僕にとって初めての告白。
僕にとっての……
いまだ来ぬ彼女にどう言おうか考える。一応、台本は用意した。だけど、実際にそれがいえる保証は無い。
果たしてどんな答えが返ってくるだろうか。
反芻する思惑と憶測。
それを考えるたびに、倒れてしまいそうになる。
眩暈がする、吐き気がする、フラフラになる、今にも涙が出そうになる。
答えを知るのが怖い。
でも、知りたい。
矛盾する考えと心の思い。
そんな葛藤を人知れず、抱いていると、ようやく。
僕にとっては何ヶ月も待っていたんじゃないかと思うほどの時間を感じて、やっと彼女がやってきた。
「ごめんね、わざわざ呼び出して」
「ううん、大丈夫。ゆうと、大切な話って何?」
「あ、あのね」
台本のセリフがぶっ飛んだ。
頭の中が真っ白になる。
さっきまであんなにも、あんなにも考え、葛藤していたのに、全く何も思い浮かばない。
言うなれば、放心状態のようだった。
だけど、言わなくては、伝えなくてはという焦りだけが浮かぶ。
「じ、実は三年前から……」
ようやく出てきた言葉。
しかし、つづられる言葉は告白ではなくて、テスタロッサさんとの思い出話。
それも、僕の中の彼女のとの思い出。
その重いでは彼女にとっては思い出かも分からない、知る由も無い。
でも、僕は語る。
長々と、三年間を。
初めて見た時とのこと、ケータイの裏話、テスタロッサさんの運動神経に驚いたことなどなど。
尽きることは無かった。
テスタロッサさんはそんな僕の話を、微笑みながら聞き、時々相槌をうってくれる。
そして、ようやく語り終える。
「テスタロッサさんとの時間はとても楽しかったんだよ」
「うん、私もゆうとと一緒にいると楽しいよ」
その言葉は最大の名誉であり、僕が感極まるのには十分な言葉。
だけど、違う。
そんなことじゃない。
僕が今日ここにテスタロッサさんを呼んだのはこんなことじゃない。
一度目をつぶり、深く深呼吸。
そして、言う。
最後の、最後の力を振り絞って。
あのとき、初めて会ったときにテスタロッサさんに精一杯の拍手をした時のように思い切り力を言葉にこめて、
「僕は……テスタロッサさんのことが──」