いつかは本物の龍に   作:大空の天音

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皆様、おはようからこんにちはを経てこんばんは。

早速第二話を投稿させていただきます。
相変わらず犬千代が喋りませんが、その点はご容赦を…。
大丈夫、戦場にもなれば犬千代にも出番が来るはずです。

では、どうぞ。


稲葉山城の戦い② 【下克上】

「ご乱心なされたのですか、お父様! 仁を持たずして、人の道理を外れた行いでは民はついては……」

 

 一足先に稲葉山城に到着した斎藤龍興を待っていたのは、不破光治のもたらした不穏な情報であった。美濃三人衆、安藤守就が自身の父である斎藤義龍によって囚えられ、竹中半兵衛の出仕を求めているというのだ。

 これが自身の感じた嫌な予感だったのかと、龍興は稲葉山城の階段をかけあがり、勢い良く父の部屋の扉を開くと座して待っていた義龍へと詰め寄った。

 

「半兵衛の屋敷へと行っていたようだな」

「そんなことより……私の質問に答えていただけませんか、お父様!」

「そんなこと……だと?」

 

 お前は何を言っているんだと言わんばかりに、義龍は龍興を睨みつけた。今までにこれほどの怒りの感情を父から浴びたことのない龍興は、思わず父の態度に言葉を噤んでしまった。

 

「竹中半兵衛は、織田と浅井の調略の対象らしいな」

 

 ついで義龍の放った言葉に、龍興の動きは止まってしまった。半兵衛を織田家に出奔させるために来たというのに、最悪なタイミングで調略がバレてしまったものだ。

 今更ごまかすことも出来ないだろうと、龍興は覚悟を決めてそのことを切り出そうとしたのだが、義龍はその言葉を遮って更に言葉をつないだ。

 

「だから儂は、竹中半兵衛を妻として迎え入れることとしたのだ」

「……な、何を言っておられるのですか?」

 

 その言葉は、瞬く間に龍興の思考能力を奪ってしまった。龍興の周囲の温度が一気に冷えきるのが、安藤守就の投獄に抗議しに来た他の美濃三人衆にも感じられるほどだった。

 言葉の数は少ない家族ではあったが、お互いがお互いのことを想い合っている関係だったために、ここまで敵意を剥き出しにしあった龍興を誰もが見たことがなかった。

 

「半兵衛は私の親友です! それを、無理やり娶って……斎藤に縛り付けるおつもりなのですか!」

「……斎藤家の存続のためには仕方のない犠牲であろう」

 

 戦国の習わしだとでも言いたげに、堂々とその敵意を受け止める義龍。そんな態度を崩さない義龍に、龍興は冷静ではいられなかった。

 美濃のために起こした行動ではない。斎藤家存続のために行われようとしているのは、親友の身を犠牲にすること。父は祖父の幻影に取り憑かれて冷静な判断ができていないだけだと、龍興は信じてやまなかった。

 

「織田と親父殿を倒すために、半兵衛は必要な人材だ。それが分からぬお前ではないだろう?」

「織田を打ち倒したその先に……何が待っているというのですか。今のお父様は、お祖父様への敵意で周りが全く見えていないのです!」

 

 そんな父だから、きっと今の美濃は上手く回っていないのだ。道三との一番の違いはそこにある。義龍は、道三を意識しすぎていたのだ。

 美濃の民のことは二の次。まずは道三の首をとることこそが肝要だと考える義龍では。

 

「そんなお父様だからこそ、美濃は乱れたのです! 周りの見えていないお父様では……民心が離れていくことも納得できますから」

 

 売り言葉に買い言葉。義龍が龍興を蔑ろにするような発言をすれば、龍興も自身の暴言を止めることなど出来なかった。今まで隠してきた思いが爆発していく。

 言ってはいけないと思っていながら、言葉はとめどなく吐き出されていくのだ。

 

「お父様はお祖父様の幻影に惑わされているだけです。美濃のことも、斎藤家のこともどうでもいい。お祖父様さえ討ち倒せれば、それで」

 

 互いが互いのことを想い合っていたとしても蓄積していく不満。それが解放された途端に、我慢は意味をなさなくなる。立板に水の如く、すらすらと淀みなく、言いたいことだけを言葉にしてしまう。今まで我慢してきた言葉も、何もかもすべて。

 

「お祖父様という逃げ道に、いつまでも逃げているだけじゃないですか!」

「お前に……何がわかるというのだ! 親父殿に無能だと称され続けたこの儂の、何が!」

「何も分かりませんし、分かりたくもありません! お祖父様が行なってきた、美濃を豊かにするための数々の政策を反故にし、既得権益にこだわる土着の国人ばかりを優先するお父様のことなど……!」

「儂は斎藤道三の息子ではなく、土岐の嫡男じゃ! 古の美濃の姿を取り戻そうとして何が悪い!」

 

 激昂した義龍が、覇気をむき出しにして龍興に迫れば、龍興もそれに応えて向き直る。正に一触即発と言える状況だ。睨み合ったまま一言も発しない二人の背後では、大きな雷鳴が鳴り響く。

 再び空が大きく光った。雷の到来を予期させるほどの光であったが、その光が終息する前には、義龍は既に刀を手にしていた。

 

「お前は儂の娘などではなかったわ! 本当は斎藤道三の娘なのであろう! ここで叩き斬ってやるわ!」

「義龍様、それだけはやってはいけません!」

 

 義父にも娘にもその心情を理解してもらえないことは、義龍にとっては何よりも堪えるものだった。よくよく考えてみれば、斎藤道三は自分ではなく、娘の龍興ばかり気にかけていた気がする。だが何よりも、娘になじられることだけは我慢ができなかった。

 もとより、娘に危害を加えるつもりはなかった。だが、頭に血が上ってしまった義龍には、こみ上げてくるその衝動を抑えこむことが出来なかった。

 だから義龍は止まれなかった。乱心してしまっては歯止めがきかない。自分の娘とも懇意にしている忠義の将、不破光治が静止の言葉を投げかけたところで、はっと思い直したものの、振り下ろした刀というのは止まるわけがなかった。

 まさか突然父に斬りかかられると思ってもいなかった龍興は、思わず目を瞑った。武勇に優れる義龍とは異なり、龍興は即座に動くことなどできない。自分の死期を悟ってか、いつ振り下ろされるともわからない刀が首に達するのを静かに待ち続けることしかできなかった。

 だが、一方で龍興はこうも思っていた。仮に義龍が娘を斬ったとすれば、半兵衛はにべもなく織田家へと出奔することになるだろうと。死ぬ前に親友が信じた相手を助けるために。半兵衛が斎藤家に固執している大きな理由は、親友が斎藤家の姫であることだ。その親友が死んだとなれば、斎藤を恨みはすれど固執する理由は消えてなくなると。

 予想が大きく外れたことは否めないが、結果的に問題はなかったのではないだろうか。龍興は自分の中でそう結論づけると、刀がいつ振り下ろされるものかと考えていた。

 直後、ガキンと金属同士が勢い良くぶつかり合うような音がなった。いくら忍びのものである光治であっても、あの一瞬の間に義龍と龍興の間に入り込むことはできない。何の音だろうか、と龍興が目を開けてみると驚きたくなるようなものが目に入ってきた。

 

「ご無事でござったか、斎藤氏」

 

 いたのはまさしく忍者だった。光治ではないものの、確かに忍者だった。

 光治よりも小柄ながらにして、忍者刀一本で義龍の刀を受け止め、反らしてみせたのだ。

 

「相良氏に言われて先行していて良かったでござる。後少しでも遅れていれば、しょの首が身体からはなれちぇいるちょころでごじゃった」

「……舌っ足らずなのですね。長文が苦手なようで」

 

 義龍の刃を受け止めるほどの武勇を誇りながらも、その噛み噛みな口調が龍興のツボにはまったのだろう。ついつい目の前の忍者にそう言ってしまっていた。

 蜂須賀五右衛門。相良良晴に仕える乱破にして、川賊の川並衆の頭領をしている人物だ。見た目からは到底考えられない武勇と、自らに仕える光治よりも優れた忍術を使うことの出来る少女忍者の登場で、義龍の動きも止まっていた。

 

「相良氏が心配していたのでござる。斎藤家の姫君は、どこか無鉄砲だりょうちょ」

 

 五右衛門が主君である良晴の命で先行しているとすれば、ついで現れるのは相良良晴にほかならない。織田に行くにしろ行かないにしろ、このまま龍興を置いていくわけにはないかないと言う半兵衛の頼みであった。

 

「龍興様……けほけほ……ご無事、ですか?」

「半兵衛、あなたがここに来たらお父様の思う壺……!」

 

 しかし、半兵衛が思いがけずとってしまった行動は、斎藤義龍にとって好機だった。安藤守就が投獄されたことは未だ知らされてはいなかったが、龍興が危険を冒していると知れば、半兵衛は自分自身の意志で助けに来てしまうということを龍興は失念していた。

 人見知りの激しい半兵衛は、それが故に人に依存しやすい。斎藤家においても、半兵衛が積極的に関わろうとしていたのは姫である斎藤龍興だけであった。依存というものは恐ろしいもので、どんなに優秀な人間であっても、その思考力を奪ってしまうものなのだ。

 

「半兵衛ちゃん! 一人で先に行ったら危ないからダメだ!」

「半兵衛、お父様に捕まる前に逃げて!」

 

 のこのこと龍興に近づいてしまった半兵衛を挟みこむように、良晴と龍興から声がかけられる。半兵衛に迫る危険を事前に知らせ、その危険を遠ざけようとしたのだ。

 忍者である五右衛門は龍興を守る形で忍者刀を構えているため、半兵衛を助けにまわることは不可能であったし、光治も名目上は義龍に忠誠を誓っているために簡単には半兵衛を擁護できなかった。

 階下から上がってこようとしている良晴では間に合わなく、その後ろを走っている犬千代も同様だ。義龍に斬られそうになった龍興は、まだ足腰がガクガクといっていた。唯一動くことができたのは、他でもない斎藤義龍ただひとりだった。

 

「くく……飛んで火にいる夏の虫とはこのことよな。竹中半兵衛よ、斎藤家のために、この儂と結婚してもらおうぞ」

「あぅ……!? 離して……ください……!」

「くっ……半兵衛に手を出さないで下さい! 半兵衛に手を出すのならば、もう二度とお父様の薬は調合しませんよ!」

 

 軽々と抱え込まれてしまう半兵衛。身体をよじらせて必死に逃げようとしているものの、非力な半兵衛では義龍の拘束から逃げることなど叶わない。追いついてきた犬千代や、体勢を戻した五右衛門であっても、半兵衛の身体を抱え込まれている現状では、下手に打って出ることも出来なかった。

 龍興は龍興で抗議の声をあげてはいたが、もとより自分の体よりも織田を打ち倒すことを考えている義龍の心を動かすことは出来なかった。義龍は無情にも、嫌がる半兵衛を連れ去ろうとしたのだ。

 しかし、たった一歩を踏み出したところで、その目論見は失敗に終わった。

 ようやくこのとき、龍興が調合した薬に混ぜていた睡眠薬の効果が現れたのである。正に天の助けと言っていいほどのタイミングで、義龍はふらりと身体をよろけさせた。その隙に五右衛門が半兵衛を救出すると、犬千代が良晴と半兵衛をかばうようにして槍の先端を義龍へと向けた。

 それに加えて、半兵衛の信者である美濃三人衆も、その心中は穏やかなものではなかった。先代当主、斎藤道三に惹かれて仕え始めた彼らは、斎藤義龍に対しての心からの忠誠は持っていなかったのだ。そこに今回の騒動が加わったことで、彼らの心は反義龍へと球速に変わっていった。これを機に、龍興の派閥に乗り換えることも考えようかと思っていたところであった。

 龍興はといえば、これはしめたと思っていた。自分で調合した睡眠薬であるからこそ、その効き目はよく知っている。如何に大柄の義龍であるとはいえ、一度効果が出てしまえば睡眠に至るまでの時間は極めて短いことだろう。

 

「身体の自由が効かぬ……これはどうしたことだ」

「お父様……どこかお身体に障ったのでしょう? 今回は半兵衛のことは諦めて、身体を休めることに集中していただければと思うのですが……」

 

 不自然にならないように、龍興は義龍へとそう進言した。普段から義龍の病状を見続けてきた龍興の言葉であれば、こと体調に関していえば疑う余地はないというのが義龍を含めての斎藤家の総意であった。それだけ、かつての美濃の領主であった斎藤道三の治療にあたってきた功績は大きかったのだ。

 ふらりと身体を倒した義龍を見て、光治へと視線を向ける龍興。眠ってしまった義龍を部屋へと運ばせることを目的としていることを、光治は即座に理解すれば義龍を抱えあげるために近づいていった。龍興は龍興で、念の為に義龍の脈を確認し、かつしっかりと眠っていることを確かめるために、義龍へと寄り添ってはその身体へと手を伸ばした。

 首筋、腕、腹に胸。幾度と無く確かめた龍興はやがて、その場で立ち上がった。立ち上がってから一呼吸。周りの家臣や相良御一行が何事かと戸惑っている間、龍興は自分の心を落ち着かせ続けていたのだ。

 下克上は世の常だ。父である義龍が、祖父・斎藤道三から美濃を奪い取ったのと同じように。この機会に、自らの父から、愛する美濃を奪い取ることは悪いことではない、と。

 

「良晴様。こちらの手紙を、私の祖父に届けていただきたい。父の病状と、私の個人的なことが書かれていますので……封を開けるだなんて野暮なことはしないでくださいね?」

 

 下克上を成功させるだけでなく、美濃を織田家に譲ろうと考えている龍興の目論見を成功させるためには、もう一つの布石を打っておかなくてはならなかった。

 そのためには、半兵衛を送り届けることを証明する手紙を祖父に出しておきたかったのだ。自分の祖父であれば、筆跡で自筆のものだとわかってもらえるだろうとの考えであった。そんなこととはつゆ知らず、良晴はと言えば、ただの孫が祖父にあてる近況報告のようなものだと思ってそれを受け取ってしまった。

 これで策はなったとばかりに、手紙を良晴が受け取ったのと同時に、龍興は声を張り上げて宣言した。大きな声をあげるのは苦手だが、激しく打ち付ける大雨にかき消されないためには、ひときわ大きな声を出す必要があったのである。

 

「皆も承知の通り、私の父である斎藤義龍は病床の身。……ここは、不肖この龍興が斎藤家を継ぐこととする。相良良晴様、私達斎藤家は織田家に臣従を誓うこととします」

 

 突然の龍興の宣言に、美濃三人衆だけでなく、光治や五右衛門、半兵衛ですらも唖然としていた。突然の下克上宣言に、突然の臣従宣言とあれば無理もないことであった。

 良晴はといえば、「鼻の下が伸びすぎ」と犬千代のきつい一撃を脇腹に受けるまで、口をあんぐりと開ている始末だった。

 龍興はと言えば、皆の反応が芳しくないことを疑問に感じていた。おかしい、完全に決まったはずだったのに、と。

 

「臣従宣言を……あの……良晴様?」

 

 斎藤龍興は、一度信じこんだら考えを改めにくい人間だった。そのような理論が通るはずはないのだが、彼女はこれで下克上が上手くいくと思い込んでいたのだ。父である義龍がどのようにして斎藤道三から美濃を奪い取ったのかを知らないがために。

 彼女は世間知らずであった。医学や政に関しての知識は、確かに師や道三から再三叩きこまれていたものの、第一に彼女は戦場をほとんど見たことがなかったのだ。

 それが故に常識に疎い。下克上はいつでも起こすことが出来、すれば皆がついてきてくれると思い込んでいたのだ。

 

「龍興様、それは少し無理があります……。あぁ、怒らないで下さい……くすんくすん」

 

 半兵衛がその発言を諌めようとすると、逆に困惑したのは龍興の方だった。いつでも自分の味方だと思っていた半兵衛ですらこう言ってくる始末では、何かを間違えてしまったのだろうと理解したからだ。だが、何を間違えたのかまでは理解は出来なかった。

 そんなやりとりを横目でみながら、良晴はどこか安心していた。しっかりしているような気はしたものの、やっぱり人はそう変わらないものだと。どこか抜けている感じからして、確かに斎藤龍興は斎藤龍興なのだろう、と。「何か苛々する」と、犬千代に突かれるまで、良晴はじっと龍興を見つめていた。

 

「何を言われても、私はもう決めたのです。お祖父様の決めたように、この美濃は織田家に……」

「ならぬわ! このおおうつけ者が……!」

 

 それでもなお主張を繰り返そうとする龍興を、半兵衛は必死に押しとどめようとしていた。だが、その説得も無駄に終わった。突如、龍興へと雷が落ちたのだ。

 その事態に、再び五右衛門と犬千代が半兵衛の前へと歩み出た。しかし、その怒りは最も義龍の近くにいる龍興へと向いていた。半兵衛への悪意は既に霧消していたのだ。

 

「あぅ……。半兵衛……にげ、て……」

 

 義龍の拳が龍興の腹を抉ると、未だ斎藤家の主導権は自分が握っていると証明するべく、野太い声で義龍は大きく宣言した。

 龍興は急激な腹への打撃に身体を痙攣させると、そのままその場に倒れてしまっていた。

 

「斎藤義龍は健在よ! 織田家は不倶戴天の敵……これより我らは、織田を討ち滅ぼす!」

「やばい……逃げるぞ、半兵衛ちゃん! 五右衛門、犬千代、行くぞ!」

 

 大きな声で宣言をした義龍はそのまま睡眠薬の効能でバタリと倒れてしまったため、美濃三人衆は相良良晴一行の追撃を行わなかった。義龍に心服しているわけでもなく、かつての領主道三の派閥にあり、半兵衛の信者でもある彼らにしてみれば当然の配慮であったといえるだろう。

 かくして、斎藤龍興による稲葉山城でのクーデターは失敗に終わった。しかし、当初の彼女の目的を達成することができただけでも儲けものであっただろう。

 稲葉山城を脱した半兵衛と、良晴一行は長良川ヘと急行。良晴の中では特別な場所、墨俣の地へとたどり着いていた。天然の要害、稲葉山城を見上げながら、半兵衛は良晴の心に触れていた。

必ず斎藤龍興を救い出してみせるという決意と、優しさに竹中半兵衛は惹かれてしまった。この人を支えてみたいと、そう思える相手に半兵衛が出会ったことは、龍興にとってこれ以上ないほどの収穫だった。

 ただ、無性に半兵衛は良晴へと小生意気なことを言ってやりたくなってしまった。別に良晴のことが気に入らないと言うわけではない。自分の心の中で芽生えてしまった思いを、認めたくなかっただけのことである。

 

「……良晴さんは本物のお馬鹿さんです。いくら龍興様が私の親友であるとはいえ、敵方の姫を助けるだなんて」

「俺は欲張りだからね、半兵衛ちゃん。いくら今は敵であるとは言っても、俺を信じて半兵衛ちゃんを預けてくれたんだし……何より俺は、あの子も外に連れ出してあげたいんだよ」

 

 自信満々に言ってのける良晴の姿が眩しかった。きっとこの人なら、自分の親友を救い出してくれると、根拠のない自信が半兵衛の心のなかに巻き起こっていた。

 それと同時に、半兵衛自身感じたことのない気持ちを胸の中に起こし始めていた。

 

「良晴さんが、龍興様を救い出そうとしてくれることに感謝します。それと同時に……」

 

その先を言ってしまえば、半兵衛の人生は変わってしまう。そもそも彼女はもう斎藤家には戻ることが出来ない。ここで彼女が続く言葉を発しないだけの理由はなかった。

彼女が斎藤龍興を主として仰ぐことは、もう出来ない。だが、心のなかに芽生えてしまったその気持に嘘も偽りもしたくはなかった。目の前の人なら、きっと救いたい人をも救ってくれるであろうから。

 

「わたし、竹中半兵衛は……良晴さんを我が殿として仰ぎ、この知略と陰陽の術をお預けいたします。だから……」

 

 夢の形は少し変わってはしまったものの、まだ半兵衛の夢は破れてはいない。彼女の新しい夢は、織田家に行っても薄れることはないだろう。

 彼女の新しい主は、可愛い女の子には滅法弱い仁君なのだから。

 

「私にも、龍興様にも……これ以上ないほどの夢を、見せてくださいね?」

 





ということで、第二話でした。
如何だったでしょうか?

私もこれが処女作な上に、戦国時代に関する知識もやや曖昧なところがあります。
それが故に、文章内に所謂矛盾に相当するもの、あるいは間違った知識が書かれていること、急展開な他無理な展開が行われていること、あるいは描写不足などがあるかもしれません。
そのような場合には、どうか広い心でご容赦いただければと思います。

では、また次回第三話でお会いしましょう。
ようやく織田の姫様登場になります。

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