私はブラックトリガーになりたい   作:駄作製造工場長

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各話の誤字脱字多くてすいません。明日直しますので許して下さいm(_ _)m



第3話

屋外と錯覚させるぐらい開けたボーダーのスナイパー用の訓練場に銃声が鳴る。銃声は1つだけの筈だが手元の計器には2つのターゲットに命中した事を示している。これが意味するのは...

 

「広瀬さん合格です。もう俺に教える事はないっす」

 

免許皆伝。師匠の必殺技である「ツインスナイプ」をマスターしたのだ。ツインスナイプとは左右にセットされたスナイパー用のトリガーを使って複数の的に同時射撃を加えるのだ。言ってる事は至極単純で、ガンナー用ののトリガーで似たような経験をしているのだが左右の目で別々の景色を写すスコープを覗き、精密射撃を加えるのは全く別の話だ。そんな高度な技を習得という粋は出ないが、ともかく真似された年下の師匠、というか同じ嵐山隊の佐鳥は特に悔しがっていない。技量やセンスといった才能が桁違いなのだから、悔しがる意味がないのだろう。

 

「報酬を払っているとは言え、毎回付き合ってくれてありがとうな」

「いえいえ、毎回の報酬が楽しみだったんで卒業は淋しいぐらいです」

 

俺と佐鳥の師弟関係は昼飯という月謝を支払うことで成り立っている。同じ隊なんだからタダでやってくれと思うが、ボーダーのスナイパー訓練で4位の佐鳥に個人レッスンを組んで貰えると考えたら安いものだ、そう考えよう。遠慮なしにお土産まで要求されるけど、家族分要求されるけど。

 

「因みに今の俺の実力だと、ランクはどれくらい?」

 

空きスロットの関係で暫くは使うことがないだろうイーグレッドの銃身を軽く触りながら佐鳥に質問をする。スナイパーでの練習はもっぱら的当てだったので対人戦を一度も経験しておらず、佐鳥を含めた他のスナイパーの実力が分からないのだ。

 

「広瀬さんの今の実力ですか...取り合えず正隊員は確実ですね」

 

褒められているのか貶されているのか悩む評価だ。

一人で唸っていると佐鳥からフォローが入る。

 

「お互いの休日限定だけの訓練で正隊員なんですから才能はあると思いますよ。

どうです、ガンナー辞めて俺と広瀬さんでスナイパーでクアッドスナイプやりませんか?」

 

佐鳥から妙な勧誘をされる。四点同時狙撃は魅力的だが、俺がスナイパーに転職をすると嵐山隊への存在価値を失うので絶対に却下だ。何が悲しくて自ら劣等感を味会わなきゃならないのだ。

 

「やらない。俺の本職はガンナーだからな。他は趣味の範囲内だよ」

 

俺の強みは人並み外れたトリオン力のみで、その強みを最も発揮できるのはガンナーだ。佐鳥からスナイパーの才能があると言われたが素直に受け取れない。自分で言うのもアレだが俺は俗に言う天才で昔から物事のコツを掴むのが早く、誰よりも早く物事を扱えた、だが凄まじい程の早期熟成型なのだ。いち早く扱えた物事が何度も他者に抜かれたという屈辱的な経験を何度も体験している。童話のウサギとカメのように俺が怠けていたのなら納得出来るが、努力を怠ったつもりは一切ない。それを証明する様に、人生で最も力を入れていると過言ではないガンナーでさえ入隊時と差ほど技量は変わらないのだ。入隊時は天才と崇められたが時間が経てば凡人と大差なくなる、その差を離してくれたのが鍛練では取得不可能レベルのトリオン力なのだ。それだけ強い思いがあるのにスナイパーだけではなくアタッカーのスキルを学んでいたのは相手の兵装と定石を知れば色々と攻略法が得られるからだと思っているからだ...本当は佐鳥に言った通りにタダの趣味なんだけど。だって折角ボーダーに所属しているのに使ってないトリガーがあるとか勿体なさ過ぎだ...とにかく実益半分趣味半分だ。

 

「そう言えば歌川先輩と村上先輩にもアタッカーのイロハを教わってましたけど、それでもガンナーなんですか?嵐山先輩達みたいにオールラウンドでやればいいのに」

 

佐鳥に痛い所を突かれる。流石はスナイパーだ、急所を抉るのが上手い。俺の思いが俺自身を強くさせているのだが、嵐山隊にとっては迷惑でしかないだろう。なにせ俺の戦法は一言で表すなら固定砲台。距離を保つためにテレポートを使用するが、基本的に完全に足を止めて二枚のシールドと多大なトリオン消費と引き替えに連射を向上させたカスタムされたガンナーのトリガーを両手にセットして敵を掃射する戦法なのだ。個人戦ならこれ以上の戦法はないと言えるが、チーム戦では迷惑そのものだろう。スナイパーと違って隠れる気が全くない俺はチーム戦では必然的に部隊の中央に位置する、つまりは俺一人を嵐山隊の総出でフォローしている形だ。しかも強力な攻撃は味方への誤射を許さず、引くことが出来ない固定砲台は容易に敵の接近を許してしまい敵が嵐山隊の誰かに接近されたら対処が出来ないのだ。客観的に考えたら最近俺がランク戦に呼ばれない理由が分かったが、それでも俺はガンナーなのだ。一生涯ガンナー宣言だ。口に出さずとも俺の固い決意を感じ取ったのか、佐鳥が若干の呆れ顔だ。

 

佐鳥にガンナーに対する熱い思いをぶつけようとしたのだが、不意に背後から腰を叩かれ中断する。腰を叩いた正体を確かめようと後ろを振り向くと、此処に居る筈のない面子が揃っていた。

 

「ガンナーのお前が此処に居るとはな、随分探したぞ」

 

A級3位風間隊隊長の風間先輩だ。他にも隊員の歌川と菊地原も居る。風間先輩の話から俺を探していた様子だが何用だろうか?質問しようとした最中、菊地原がボソッと口を開く。

 

「なんで広瀬さんがスナイパーの練習をしてるんですか?佐鳥はやっぱり嵐山隊をクビ?」

「なぬ!やっぱりってどういう意味だ!?」

「おい、変な事を言うなって。佐鳥は広瀬先輩にスナイパーを教えてただけだって、そうですよね広瀬先輩?」

 

菊地原の失礼な言動に佐鳥が飛び付き、かつてスコーピオンで師弟関係を結んでいた歌川が訂正に入る。歌川の問いかけに肯定したのだが菊地原の佐鳥弄りは終わりを見せない。どうやら佐鳥の弄られ体質は全隊共有らしい、本日で師弟関係は解消されたので佐鳥弄りに参戦しようする。

 

「広瀬、いいか?」

 

佐鳥弄りに参戦しようとした最中、風間先輩に止められる。思わず風間先輩の事を忘れてしまった。風間先輩に謝ると「だろうな」と返された。話は戻るが本当に何用なんだろう?

 

「風間先輩、俺を探してたみたいですけど緊急ですか?」

 

ふと本部長に怒られるのではと思ったが、最近は特に悪い事をした覚えないので却下。ますます謎が深まるが、風間先輩から発せられた内容は更に謎を深めさせるものだった。

 

「緊急...そうだな。広瀬、お前には今から遠征部隊と戦ってもらう」

 

思わず目の前が真っ白になり、立ち眩みがする。

えっ?なにそれ?処刑?そもそも遠征部隊ってなに?

 

「風間先輩、今の説明じゃこの人が分かるわけないですよ」

「あぁ...そうだな。悪かったな広瀬」

 

菊地原の悪態混じりのフォローで、自身の説明不足に気が付いたのか風間先輩が詳しい説明を始める。

 

「まずはボーダーの遠征任務については知っているのだろう?」

「いやいや、全く知らないです。広報任務となにが違うんですか?」

 

風間先輩から知ってて当然みたいな質問をされたが、残念ながら俺には分からなかった。遠征という言葉の意味ぐらいは知っているが、それって嵐山隊の任務だろ。この間だって広報任務の為に東京に外泊したし、それって十分な遠征任務だろ。個人的にそれほど的外れな発言をした覚えはないのだが風間先輩と菊地原に溜め息を吐かれた。

 

「向こうの世界に行って調査など色々とするんですけど、広瀬先輩は本当に知らなかったんですか?」

「本当に初めて聞いた。佐鳥は知ってた?」

「普通に知ってましたけど?」

 

同じ嵐山隊の佐鳥に問うが、常識だったのか肯定の返答をされた。なんで俺は知らなかったんだよ?新人だからか?

 

「とにかくA級1位から3位までの3班が今回の遠征任務に就く事が今日の会議で決まった」

「それは...おめでとうございます?」

 

風間先輩の説明を聞き、思わず賛辞を述べた。賛辞でいいんだよな?遠征任務が赤紙みたいなニュアンスだったらかなりの皮肉だ。先程の発言が失礼ではなかったか風間先輩を観察していると、大丈夫だったのか話が進む。

 

「ようやく本題なんだが、広瀬には今から近界民の仮想敵として遠征部隊と戦ってもらう」

 

本日2回目の立ち眩み。知らない単語に動揺して忘れていたが、俺は意味不明な執行を下されていたのだ。さっきの話では遠征部隊にはA級1位から3位が選抜されているそうだ。わざわざ説明しなくても分かるが、その3部隊は精鋭中の精鋭だ。木虎風に言わせればエリートの中のエリートの中のエリートと言った感じだ。そんなスーパーエリート部隊と力押ししか出来ない俺一人が戦っても彼等に得るものないだろう、そう風間先輩に抗議すると即座に否定された。

 

「そうでもない。確かにお前の動きは単調だが、常識外れの火力とずる賢い戦術はこれから未知の敵と戦う俺達にとっては貴重な経験だ。それにお前は優れた観察眼を持っている、何度か戦えば俺達が気が付かない欠点を見付けてくれるだろう」

 

おっ...おう。ちょいちょい毒が含まれていたが、あの風間先輩から褒められて思わず頬が緩む。...って嫌々嫌々、乗せられてる見事に乗せられてるよ!?風間先輩から褒められてやってもいいかな~って思ったけど、処刑フルコースは嫌だ。トリオンで形成された戦闘体の損傷は実際の身体に影響を与えないが、精神は別だ。只でさえA級トップの彼等には少なからず恐怖心を抱いているのだ、それなのに処刑フルコースを味会わされたら冗談抜きでPTSDでも負わされてしまいそうだ。その旨を風間先輩に伝えると心配するなと告げられた。

 

「別に敵役はお前一人ではない。普段みたく気軽にやればいい」

「気軽にですか...因みに他の人って誰ですか?検討が付かないんですけど」

「S級の迅と天羽、宇佐美が製作したトリオン兵の数々だ」

「嫌だ!!」

 

風間先輩から敵役の面子を告げられ、思わず否定の声を上げた。なんで俺が魑魅魍魎の仲間入りをしなくちゃならないんだよ!?俺は本部からそっち系だと評価されているのか?だとしたら凄く不愉快だ!!ってか宇佐美のトリオン兵ってなに!?ニュアンスが凄く恐いんだけど。

 

「とにかくS級の2人が居るんなら俺なんか必要ないですよね。それじゃあお疲れ様でした」

 

不穏な空気をビシビシ感じたので即座に退散、

しようとした最中にいつの間にか戦闘体に変身していた歌川に肩で担がれた。拘束してきた歌川を非難するが、謝られるばかりで解放される様子がない。生身で戦闘体に勝てる筈もない、同じく戦闘体になっても即座に首を跳ねられて終わりだ。つまりは詰み。頼みの綱の佐鳥はいつの間にか消え、風間先輩に必死に命乞いをするが無情にも処刑台へと送られる。せめてもの抵抗に風間先輩に今回の任務に特別手当てを付けて貰えるように本部長と掛け合って貰うようにお願いした。減給が続く給料に少しでも手当てが付けば溜飲が下がる、勿論生きて帰れればの話だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

諸事情で音声のみ。

 

「あれ?俺しか居なくないですか?」

「それじゃあ、迅と天羽が来る前に広瀬で軽く揉んどくか」

「え?太刀川先輩なに言ってるの?」

「いいからいいから、さっさと殺るぞ。まずは俺達の隊からな」

「絶対「やるぞ」の漢字が違った!?出水助けろ、友達だろ!?」

「今は友達じゃなくて敵対関係だから却下」

「あ~もう!やりますよ!やらせて貰いますよ!その代わりに負けても文句言わないで下さいよ!!」

「よし来た!!」

 

《広瀬ダウン》

 

 

 

 

 

「ステルスなんて弾幕で包んじゃえば!!」

「ぐっ!?」

「超スローの弾丸で辺りを埋め尽くし行動を制限してから仕留めるか、良い戦術だが...」

「後ろがガラ空きじゃ意味ないよ」

「菊地原!?いつの間に!!」

 

《広瀬ダウン》

 

 

 

 

 

「宇佐美さん...なんですかこれ?」

「何ってバムスターだけど?知らないの?」

「バムスターはこんなにデカくない!!ぱっと見で100mはあるぞ!?」

「おぉ!流石はヒロくん正解だよ」

「あっ、そうですか...こんなのと共闘とか嫌なんだけど...」

「なんで?可愛いじゃん。この子で初白星狙っちゃおうよ」

「...頼むから踏むなよ」

 

「あっ...共闘なんて想定してなかったから敵味方の識別忘れてた。ヒロくん逃げて~」

「やっぱりかぁぁぁ!?」

 

《広瀬ダウン》

 

 

 

 

 

『ぐっ...ここまでか...広瀬、妹を頼んだぞ』

「モールモッドが喋った!?」

「ヒロくん、やしゃまるブラックがどうしたの?」

「そのなんちゃらブラック喋ったんだけど!」

「そんな設定をした覚えはないけど...大丈夫?休んだら?」

『妹?私が?もしかして...あなたが私の兄さんなの!?』

「ピンクも喋った!?」

「ヒロくん、本当に大丈夫?」

「広瀬、隙だらけだぞ」

 

《広瀬ダウン》

 

 

 

 

 

「天羽テメェ、味方もろとも敵を殴るな!!危うく死ぬかと思ったぞ!」

「ごめん、なんかウザかったから」

「ウザかったから殴るって...お前はトリオン兵と大差ないな!!」

「広瀬隙あり!」

「当真!?」

 

《広瀬ダウン》

 

 

 

 

 

「迅さん、真面目に戦って!太刀川さんがキレそう!?」

「え~ヤダよ、能あるエリートは爪を隠すって言うし」

「意味分かんないから!早くして、太刀川さんが此方に...」

「すまんな広瀬、迅とは一対一で戦いたいんだよ」

《広瀬ダウン》

 

 

 

 

 

「キレた、もうぶちキレた。こうなったら先輩後輩関係ない!!

全員俺と戦え、本当の火力ってヤツを教えてやる。今日から俺がNo.1だぁぁぁ!!」

「うわっ、広瀬が遂にぶちキレやがったよ」

「こりゃ一隊じゃキツいな、本人も言ってるんだし全隊でかかりましょうよ」

 

「ぐはぁ!?」

「たった一人で俺達をここまで手負いにさせるとはな...お前を呼んでよかったよ」

「俺を倒しただけで調子に乗らないで下さい...近界民には俺よりも強い奴等が...」

「お前本当の敵と化してないか?」

 

《広瀬ダウン》

 

 

 

 

 

こうして集団リンチという名の訓練は彼等が遠征部隊として近界民に旅立つまで毎日続いたのであった。




ちょっとした補足事項について。
広瀬の使用している銃型トリガーはカスタムタイプで、通常タイプよりトリオン消費が増している代わりに連射力と射程を向上している。元々の射程が長いので設定時に射程に数値を振らず、威力と弾速に数値を半々に振っても問題なく使用出来る。一発一発のトリオン消費が高いのにも関わらず2丁で乱射している広瀬のトリオン能力は異常でしかないと上層部に言われている(前例がないレベルなので、後に玉狛支部の新人が現れるまで広瀬は近界民なのでは?と上層部に密かに疑われていた)。因みにこの銃型トリガーは他との差分の為にライトマシンガンタイプと呼ばれている、理由は通常の銃型トリガーのマガジンが大型化している為である、勿論見た目以外の意味はない。

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