私はブラックトリガーになりたい   作:駄作製造工場長

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 過去3回の減給の詳細。

・米屋に乗せられる形で防衛任務担当外にトリオン兵を狩り続け、出来高のB級隊員の反感を買ったため。

・出水と防衛任務に就いた際にどちらの火力が高いのか?という話になり警戒区域の一部を更地に変えたため。

・木虎と仮想空間で決着が付かなかったという理由で警戒区域内で私闘行為を行った挙句、ビル1棟を倒壊させたため(木虎のみ口頭注意)。


第2話

四年程前に起こった近界民の侵略によって三門市が突然戦火に曝された。直後に現れたボーダーの活躍によって最悪の事態だけは避けられたが、近界民からの侵略を完全に防いだわけではない。近界民からの侵略行為は終わりを見せないが、三門市の一部地域に意図的にゲートを誘導して開かせる事によって、三門市全体の平和は保たれたのであった。ゲートの誘導先は警戒区域と呼ばれ、一般人の立ち入りを禁止している。その影響で警戒区域内は無人化、伴って録な復興がなされず当時の爪痕を色濃く残している。

 

近界民との戦いの最前線である警戒区域内で黄色の隊員服を身に纏った俺は、この区域で一番のお気に入りのビルの屋上で佇み、柄にもなく風を感じている。両脇には様々な理由で俺専用の武器と化した改造型の銃器トリガーを携える。外見は落ち着いている様に見えるのだろが、内心では自身が望む一瞬を今か今かと待ち焦がれている。待ち切れずにオペレーターの綾辻さんにゲートが開く時間を確かめると、苦笑混じりに「もうすぐですよ」と言われた。

 

綾辻さんの追加で発せられた「今です」という言葉の直後、地震に似た揺れを感じる。ゲートを開く位置は事前に知らされているので、その位置を確かめると廃墟を映していた空間に巨大な穴がいくつも現れ、その穴から爬虫類みたいなフォルムの化け物が何体も飛び出す。近界民のトリオン兵が三門市の警戒区域内に現れたのだ。

 

「嵐山隊広瀬、トリオン兵を確認。攻撃に移ります。」

 

綾辻さんに事務的な連絡を済ませ、待ってましたと言わんばかりに両脇に軽く挟んでいたライトマシンガン風の銃器トリガーの銃口を近場に居たトリオン兵に向け、即座に引き金を引く。たかが2丁から放たれたとは思えない量の弾丸が、たった一体のトリオン兵に吸い込まれる様に当たり、原型を留めないレベルで爆散する。生き残ったトリオン兵は弾丸の射出地点を探ろうと首を右往左往するが、その隙に2体のトリオン兵に銃口を向けた後に再び射撃を開始する。標的の2体のトリオン兵は首部分に多数の弾丸を浴び、頭部を飛ばすように首部分が爆発した。次の目標に移ろうとした最中、一体のトリオン兵が俺の姿を捉える、トリオン兵同士でのリンク機能でもあるのか他のトリオン兵が同じ挙動で一斉に俺の姿を捉える。仲間の仇でも取るかの様にトリオン兵が一斉に砲撃を加えようとする。

 

この状況下ではテレポートを使って回避をしたり、シールドを使って防御するなどの選択肢が鉄板なのだろうが、左右に銃器トリガーをセットしている俺の選択肢は基本的に攻撃一択だ。先程のような精密射撃は止めにして、得意の掃射に切り替える。切り替えると言っても、狙いを付けずに適当に撃ちまくるだけだ。幸いな事にこの区域は過去の失敗で大半の建物は瓦礫とかしているので、建物への誤射を気にする必要はない。綾辻さんに引かれるので心の中で雄叫びを上げながら左右の銃器トリガーの引き金を引きっぱなしにする。放たれた弾丸はトリオン兵を凪ぎ払うような台風と化し、トリオン兵を一体残らず文字通りの蜂の巣にする。蜂の巣にされたトリオン達は活動を停止させ、その場で崩れ落ちた。

 

こうして俺が担当する区域に現れたトリオン兵は一体残らず撃退された。撃ち漏らしたつもりは無いが確認為にお気に入りのビルからテレポートを連続で使って、トリオン兵の残骸が重なっている地点に向かう。一体たりとも原型を止めている物はいないので、生き残りはいなさそうだが、念には念を入れて綾辻さんに確認をさせると、一拍置いた後にトリオン兵全滅の報告を受けた。

 

 

 

折角圧勝で仕事を終え、綾辻さんから労いの言葉を貰ったのだが鬱憤は晴れそうにない。むしろ戦闘によって極限まで感情が高ぶっているせいで「あの件」へのイライラが増してる気さえする。こんな事なら、単位の足りない太刀川先輩の代わりに防衛任務に付くんじゃなかった。綾辻さんに聞こえないように溜め息を吐こうとした直後、見知った顔が視界に入る。

 

「すっげぇ騒がしいと思ったら、やっぱり広瀬かよ。太刀川さんはどうしたんだ?」

 

B級10位諏訪隊の隊長である諏訪先輩が加えタバコで此方に近付いてきて、本来居るであろう人がどうしたのかと確かめる。

 

「どうしたって...太刀川先輩が防衛任務に来ない理由なんて1つしかないですよ」

「単位か?」

 

こちらの問い掛けに諏訪先輩が即座に返答し、首を静かに縦に振って肯定する。太刀川先輩の単位事情は思った以上にボーダー内に知れ渡っているようだ。太刀川さんの単位事情を知った諏訪さんがおっさんみたいな笑い声あげた直後、俺の不機嫌なオーラを感じ取ったのか渇きを失ったように押し黙る。

 

「その...まぁ、災難だったな...」

 

大雑把で有名な諏訪先輩が柄にもなく俺を慰める始めた。俺の事情についても太刀川先輩の単位事情並みにボーダーに知れ渡っているようだ、いや太刀川先輩以上だ。太刀川先輩の事情はボーダーの上層部によって外に漏れないように隠匿されているが、俺の事情はボーダーを飛び越えて三門市全体、果ては世界中に知れ渡る事となってしまったのだから。

 

ボーダー隊員同士の初のカップル。

二週間程前に俺と木虎に新しく付けられた称号だ。

当然俺と木虎は根付さんに抗議をしにいったのだが、根付さんは「君達の仲が険悪だったなんて知らなかった」「あの雑誌社以外に大々的に報道しているので訂正は嵐山隊延いてはボーダーの印象に関わるので無理だ」などという理由で俺達がカップルではないという訂正は無理だと言われた。それを聞いた木虎は俺に向かって様々な罵倒した後に泣き崩れ、どうにか撤回して貰おうと脅迫の意味を込めて根付さんに戦闘体で掴みかかろうとしたが、騒ぎを聞き付けて駆け付けた忍田本部長によって即効ベイルアウトされたのであった。その後は司令達に物理的にも精神的にもこってり絞られて、辞書かと見間違える程の反省文を書かされた後に4度目の減給処分となった。ここまで来たら素直に除隊にして欲しい。ってか俺に除隊という二文字はないのかよ。

「木虎との一件は棚牡丹だと思って諦めた方がいいぜ。それよりも楽しめよ」

 

嫌な思い出にふけていると、諏訪先輩に頭部を脇に抱えられ、犬を扱うかの如く頭をゴシゴシと撫でられる。諏訪先輩から発せられるヤニ臭を鼻腔に捉えながら、先程の助言を自分なりに考えていく。

 

自身に取り巻いた状況を必死にポジティブに変換してみたが無理だった。むしろ現実を思い知ったみたいで未来に対して不安が増していくのだが。

 

「木虎の彼氏役を楽しめとか無理なんですけど」

「かぁ~分かってねぇな広瀬は、こんなんだからお前はガキなんだよ!!!」

 

不意に漏れた発言を聞かれたのか拘束が離れ、諏訪先輩が加えタバコを落としながら溜め息を尽く。諏訪先輩は落としたタバコをそのままに新しいタバコを懐から取り出し、慣れた手付きでタバコに火を付けて一服、口内のタバコの煙を吐き出すと同時に口を開いた。

 

「いいか広瀬?木虎は女だ」

「諏訪先輩、本部長に通報していいですか?」

諏訪先輩がトンでもない発言をしたので、反射的に右手をインカムに伸ばす。諏訪先輩でも忍田本部長は恐いのか諏訪先輩に右手を掴まれた後に「いいから黙って聞け」と怒鳴られる。黙ってて聞けと言われても、これから始まるのは俺の苦手な下世話な話だろう。内容が身内な分よりえげつない。姿の見えない堤先輩に心の中でヘルプを求めながら、一応といった感じ諏訪先輩の話に耳を傾ける。

 

「広瀬の為に話をズラすが、広瀬は木虎の事を嫌いか?」

「まぁ...そうですけど、っていうか普段の関係を見てたら分かるでしょ」

「そう怒るな怒るな。因みに木虎のどの部分が嫌いなんだ?列挙してみろ」

 

諏訪先輩の要領の得ない質問に律儀に指折りで答えていく。まずは...俺に対してだけ異常に喧嘩腰で嘗めた態度を取るところ。2つ目は無駄に高飛車でエリート思考が強いところ。あとは...思い付かない、相当邪険に扱っていたが2つしか上がらなかったのは驚きだ。その2つ目は嫌いな所と言うより、治して欲しいところなので諏訪先輩の質問とはちょっと意味が違う。そう考えると俺が木虎を嫌っている理由は1つだけなのだ、ってもその1つだけの理由は強烈なんだけど。そんな考えを諏訪先輩に伝えると、合点がいったような満足げな表情を浮かべていた。

 

「広瀬の答えから分かるように、お前は木虎をそんなに嫌っていねぇんだよ!!」

 

諏訪先輩が事件の犯人を告げる探偵のように高らかに宣言する。...先輩に対してこんな事を思うのは失礼極まりないと思うが、口に出さないので許して欲しい。なに言ってるんだコイツは?そんな考えを当然口に出さなかったが表情に出ていたのだろう、諏訪先輩が「話は終わってねぇから失礼な顔してねぇで聞いてろ」と告げ、根拠のないであろう理論を説明しようとする。

 

「木虎を嫌う理由が1つなら、その理由が消えちまえば広瀬は木虎を好きになるだろ?それなら現状を楽しめる筈だ」

「ならないと思う」

 

諏訪先輩のヘンテコ理論を即座に否定する。なんで嫌いな要素がなくなれば、即好きという極端な話になるのだろか?そもそも、この理論は木虎が俺に対して喧嘩腰と嘗めた態度を取らないというのが前提となる。前提条件で既に破綻だ。木虎が俺に対して嘗めた態度をとらず、好意的な態度を取ってる姿なんてありえないし、想像すらできない。

 

「話は戻るが広瀬は木虎の事を本当に嫌いか?」

 

諏訪先輩の前振り通りに、本当に話が巻き戻った。

ひょっとして諏訪先輩は俺を慰めるフリをしておちょくっているだけではなかろうか?そんな疑問が湧いた途端に真面目に返答をする気が失せた。乱暴な口調で「嫌いです」と答えると諏訪先輩は先程にも増して下世話な台詞を口にする。

 

「因みに内面の話じゃなくて外見の話な。さっきの列挙に木虎の外見の事が全く触れなかったから気になったんだよ。もう一度質問する。広瀬は木虎の外見をどう思う?好きか嫌いかじゃなくて良い、イケるかイケないかの2択でいいから正直に答えろ」

 

諏訪先輩に両肩を掴まれ、今までに見た事のない肉食動物の様な鋭い眼孔を向けられる。諏訪先輩に出会った時点で適当な理由を上げて帰ればよかった、本気で後悔させる質問内容だ。こう言う下世話な質問には答えたくない、そんな価値観から答えを良い淀ませるが、それを許さないのか俺の両肩を掴む手は一層強くなる。なにを諏訪先輩を本気にさせるか分からないが、正直に答えないと後が恐い。諏訪先輩の質問に対する返答を必死に考える...今は木虎の性格によって外見まで憎たらしく写ってしまって答えにならない。偏見のない初対面の頃の木虎の外見を評価しよう。木虎を初めて目にしたのはボーダーの新入隊員向けの訓練の時だった筈だ、その頃の木虎は...

 

「...可愛かった...です」

「そうか!そうだろ!!やっぱり可愛いか!?」

 

目を伏せながら諏訪先輩の質問に答える。過去形なのはせめてもの抵抗だ。俺の答えに満足したのか両肩を掴んでいた手は離れたが、代わりに背中をバンバンと叩かれる。えっ?何なのこの人?木虎の親戚の叔父さんなの?木虎と諏訪先輩の関係を疑問視していると、諏訪先輩の口から信じがたい事を言われた。

 

「ほら、やっぱりお前達は両思いだったんだよ!!」

 

両思い?両思いって双方が双方を好いているっていう意味だよな?誰が?話の流れから俺と木虎である事ぐらいは推測出来るが、意味が分からない。俺は木虎の外見を可愛いと言ったが好きとは一言も言ってない。それ以前に木虎が俺を好いている筈がない、万が一好いているとしたら、今までの行動はツンデレという形に収まるがあまりにも不自然過ぎる。殺気を溢れさせるツンデレってツンの領域ではないし、木虎のデレなんて見た事がない。そもそも俺は木虎の好きな人を知っているので、諏訪先輩の発言はデマだろう。謎理論を前提に進んだ諏訪先輩の見解だったのだが、予想以上に呆れさせるものだった。只々時間を浪費させただけだったが、どうでもいい話を永遠と聞いていたせいなのか気持ちが穏やかになった気がする。諏訪先輩なりに俺に気を使ってくれたのだろう、なんてプラス思考で考えていると、視界に見知った人達が映る。諏訪隊の堤先輩と笹森だ。

 

「諏訪さん、早く本部に戻り...って?広瀬先輩じゃないですか。お疲れ様です」

「太刀川さんじゃないと思ってたけど、広瀬君だったんだね。お疲れ様」

 

笹森は俺の存在に気が付いていなかったのか慌てて挨拶をされ、堤先輩には年上の風格を感じさせる落ち着いた挨拶をされた。そんな堤先輩と笹森に挨拶を返す。こんな所で立ち話もあれなので、本部に戻ろうという提案を2人にしようとした最中、先を越すかのように諏訪先輩が2人に詰め寄る。

 

「大地、日佐人、2人とも丁度良いタイミングで来てくれた!!広瀬と木虎の件で話があるからちょっと時間をくれ」

「うわっ、しつけぇ」

 

思わず失礼な言葉を口に出てしまったが、誰にも聞かれてなかったのか諏訪先輩が2人に向かって先程までの会話を説明する。一部の人しか知らないカップル事件の裏側の話では堤先輩と目が合い、俺の「(木虎は)可愛かった」発言の説明のところでは笹森と目が合う。こっち見ないで下さい、恥ずかしいでしょ。俺の精神を削る説明がようやく終わり、堤先輩が一言述べた。

 

「2人の事は前々から気にはなってたけど、ここまで深刻だとは思わなかったよ。良い機会だから言わせて貰うけど広瀬くんは木虎に謝った方がいいよ」

 

どうせ下世話な話で盛り上がると思っていたところに至極真っ当な事を言われて思わずたじろぐ。

 

「堤先輩、俺は悪くないです。木虎に謝る筋合いはないと思います」

 

まるで先生に抗議する小学生みたいだ。そんな場違いな事を考えながらも諏訪先輩と笹森を置き去りにして話は続く。

 

「うん、それは分かってるけど今回の話は悪い悪くないじゃないんだよ。取り敢えずどちらか一方が謝る事が大事なんだよ」

 

つまりは年上の俺が先に折れろという話なのだ。そう言えば堤先輩には綺麗な彼女がいるという噂だ。つまりは彼女持ちのアドバイス、加えて堤先輩の人柄も合わさって話に信憑性が増していく。確かにこれ以上の争いは勘弁だ、その為にはどちらかが謝って仲直りしなくてはならないのだが木虎から謝る筈がないので、俺から謝るしかないのだ。う~ぐ~あ~、頭では分かっているが謝りたくねぇ、そもそも木虎から始めた争いなんだけど。頭を抱えながら唸っていると、この状況で一番会いたくない人と会う。

 

「太刀川先輩達、どうして本部に戻ら...なんでアンタが此処に居るのよ?」

 

話題の中心である木虎が俺達の近くに着地する。本部に報告なしで警戒区域で駄弁っていた俺達を何事かと確認しに来たのだろう。最悪のタイミングで現れた木虎は此処に居る筈のない人の名前を上げて、不思議そうな表情で辺りを見回し、俺と木虎の目が合う。途端に木虎の表情が険しくなり、あからさまに不機嫌そうな口調で本来ならば居る筈のない俺を問い詰める。

 

「太刀川先輩は大学で、俺はその代わり」

「アンタが太刀川先輩の代わり?冗談言わないでよ」

 

太刀川先輩の名誉の為に簡潔に説明をする。A級最強と名高い太刀川先輩の代役が俺なのが不満なのか、木虎が悪態を吐く。代役の話で思い出したが、今回の防衛任務では木虎の参加はなかった筈だ。俺みたいに他の隊員の代役、追加の人員などによって直前まで参加する隊員が分からないのは稀にあるが、同じ隊員の情報を管理している綾辻さんがこの事を伝えないのは違和感を感じる。

木虎にバレないように綾辻さんに通信をすると「仲直り頑張って下さい」と告げられ、一方的に切られてしまった。

 

ふと木虎の方を向くと、対して縁のない笹森に話しかけられていた。笹森のヨイショが上手なのか、木虎が自身の戦術論をイキイキと語っている。一見すると笹森が木虎に好意を抱いている様に見えるが、綾辻さんとのやり取りで俺が行動を起こすまでの時間稼ぎだと察する事が出来る。どうやらこの一件で綾辻さんや諏訪隊の面々にも手を煩わせてしまった様で、非常に申し訳ない気持ちだ。ここまでされたら謝る以外の選択を取れないのだが、なかなか行動に起こせない。そんな情けない姿にイラついたのか、諏訪先輩に背中を思いっきり蹴られ、その勢いで笹森と木虎の間に割り込んでしまった。

 

「ちょっと話をしてもいいか?」

 

木虎に了承を求めたが、また挑発的な言動を取られる様な気がしたので一方的に喋る事にした。

 

「木虎、喧嘩は止めにしないか?

ちょっと前までは俺と木虎だけの喧嘩だったから良かったけど、あの一件から嵐山先輩達どころか、ボーダー全体に迷惑を掛けちゃってる」

 

話の前振りを終え、本格的な謝罪をするために木虎に向かって土下座をする。同期に謝るには少々行き過ぎた行動かも知れないが、それが逆に良かったのか木虎の困惑する声が微かに聞こえた。木虎の困惑に畳み掛けるように額を瓦礫に押し付けながら話を進める。

 

「俺がボーダーや嵐山隊を抜けたり、恋人の件を解消するのは無理だが、それ以外ならなんでもやる。今までの喧嘩も全て俺が悪かった。だから許して下さい」

 

言い切った。かなりの弱腰外交だが、言い切ってしまった。途中から俺が謝んなきゃいけないのかな?なんて思ってしまったが、とにかく言い切った。諏訪先輩から秘匿通信で告白しろという雑音が聞こえるが、木虎からの反応はない。呆れて帰ってしまったのではないかと思い、顔を上げてみると哀れむような悲しむようななんともいえない表情をした木虎と目が合う。直後、木虎の口から溜め息が漏れた。

 

「分かったわ、そこまで言うなら特別に許してあげる。

仲良くは無理でも、以前の関係ぐらいになら戻してあげてもいいわ」

 

発言が上から目線だが、とにかく許して貰えた。これで司令達に怒られずに済む。そんな安堵感に浸る間もなく、木虎は不可解な質問を口にする。

 

「その代わり、ひとつだけ質問しても良い?

私と広瀬さんが初めて出会って、その時にした話を覚えてる?」

 

 

 

えっ?何それ?俺と木虎の初見ってボーダーの新入隊隊員向け訓練の時だよな?その時に何を話した?なぜこのタイミングで質問をする?意味があるからか?様々な疑問が渦巻き、木虎からの質問に口を閉ざしてしまう。「覚えていない」そう捉えられても仕方がない程の時間が経過し、自身の視界が突然急速に回転する。聞き慣れた合成音声と共に、自身の身体が浮遊する感覚を感じる。

 

一連の現象には、ある緊急措置と非常に酷似している。

だがありえない。ありえる筈がない。俺ですらやった事はない。自身の考えを必死に否定していると、それが間違いであるかの如く内蔵を動かすような不愉快な感覚が襲い掛かり、マットレスのような物に叩き付けられた。

 

「あの野郎、俺をベイルアウトしやがった!?」

 

自身に陥った状況を一言で説明する。

正しくは木虎にトリオン体の首を跳ねられ、本部にベイルアウトされたのだ。つまりは味方殺し、数々の問題を犯した俺でさえ一度もやらなかった大罪だ。トリオン体だったからベイルアウトで済んだが、生身だったら即死だ。普段の木虎から想像が出来ない程の感情的で短絡的な行動だ。なんで攻撃された?原因は分かる、分かるのだが意味が分からない。俺が木虎の質問に答えられなかったのが確実な原因だが、意味が分からん。あの質問にそれ程の意味があるとは思えないのだが、木虎にとっては違うようだ。

 

綾辻さんの心配する声を余所に、俺と木虎が初めて出逢った頃を思い出すが特に問題はなかったという以外の答えが出そうにない。それ程平凡的な出逢いだ。お互いの名前を聞いただけ。思い返す価値もない程だ。俺自身で答えを出している以上、一人で考えても埒が開かない。インカムを使って木虎に全力で謝り、質問の答えを聞こう。行動に移そうとした最中、端末の前に座っていた綾辻さんが申し訳なさそうに口を開く。

 

「あの...忍田本部長が先程のベイルアウトの件で説教があるそうなので、

広瀬くんを本部長室に出頭させるように言われました...え~っと、御愁傷様です。本当にごめんなさい」

 

俺だけ!?そう絶叫すると、綾辻さんが申し訳なさそうに首を縦に振った。

 

「いやいやいやいや、今回の一件は俺関係ないでしょ!?、只の被害者でしょ!?」

 

全く関係ない綾辻さんに抗議するが、忍田本部長は相当お冠なのか綾辻さんに背中を押される形で嵐山隊のオペレーター室を出され、戻ってくるなと言わんばかりに勢いよく扉が閉められ、鍵をかける音が響く。緊迫感は伝わったが、拒絶感が半端ではない。...えぇ~行くのかよ。ボイコットして帰宅したい気分だが、忍田本部長相手では後が恐いので嫌々本部長室へ向かう。どうせ怒られるだけだ、それなら慣れているので平気だ...これだけ聞くと俺って本当に問題児だな。

 

各部隊のオペレーター室から、本部長室までの距離はそんなに離れていない。うだうだ考えている内に本部長室の扉が目に入る。渋々扉を開けると、先客が居た。太刀川先輩だった。太刀川先輩が忍田本部長の前で正座をさせられていたのだ。事情を聞くとお腹が痛いから大学をサボったそうだ。

 




書き上がった時点で投稿してるのでストック一切ないです。
時間は掛かりますが、自分が納得できる完結を目指して行きたいです。

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