私はブラックトリガーになりたい   作:駄作製造工場長

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お久しぶりです、暫く更新できなくて申し訳御座いません。


第13話

三雲から相談があると言われた俺達であったが、他の隊員が此方に近付いて来るかも知れないと言うレプリカの指摘もあって、取り敢えずこの場から離れる事になった。そして辿り着いた場所が旧弓手町駅内のホームである。警戒区域内なので一般人は居ないし、市街地との地理的関係もあって本部帰りの隊員にバッタリ出会すことも無い。まさに密談には打って付けの場所だ。駅ホームの適当なベンチに腰掛け、迅さんから渡された(と思われる)ぼんち揚げとジュースを三雲、空閑、雨取の三人に配り、渋々ながら木虎にも配ろうとした。

 

「私、無駄な栄養は摂取しない主義なので結構です」

 

木虎がモデルみたいな理由で拒否をする。言い方は格好が良いが、要するにストレス食いで肥ったのでダイエット中なんですって事だ、下手に突っ込むと確実に殺されるので、自分の分のぼんち揚げとジュースを食べ終えた空閑に渡す事にした。しょうない理由とはいえ、用意した分がこの場にいる全員に行き渡らなかったのって迅さんの予知が外れたって事なのか?よく分からないし、大した影響もなさそうだからどうでもいいけど。

 

「それで、相談って言うのは?」

 

ぼんち揚げとジュースで適度に和んだ所で三雲に話を振る。話を振られた三雲は神妙そうな面持ちで話を始めた。

 

「千佳は昔からトリオン兵を引き寄せてしまうんです。それを空閑に相談しようと思ったんですけど、広瀬先輩と木虎は原因が何なのか分かりますか?」

 

トリオン兵を引き寄せてしまう?

先程の一件を見ると、引き寄せられているのは雨取の方だと思うんだが…兎に角、三雲の相談内容から原因を探ろう。

 

「原因もなにも、トリオン兵の目的なんて一つよね?」

 

同意を求める様に木虎が此方を伺う。

 

「雨取…ちゃん?のトリオンが優秀だからトリオン兵に狙われている、俺達はこの結論だけど空閑は?」

 

初対面の年下少女である雨取の呼び方が分からず、慎重に「ちゃん」付けで答えていると木虎に睨まれた。雨取と同じ扱い(どっち基準か知らないけど)をして欲しいみたいだが、それは勘弁して欲しいので木虎からの圧力を無視する。

 

「俺も同じかな、ってかそれぐらいしか思い付かん」

 

近界民の空閑が言うならそうなのだろう。

それにしてもトリオン兵が一個人を狙い続けるモノなのだろか?やられると腹が立つけど他の人を狙った方が色々と効率的だろ。

 

「そうなると雨取のトリオンは相当って事だよな?計測するか?」

 

「仮説は立証する為にある」って好きな漫画で言ってたし、雨取のトリオンを測るか、トリオンの計測自体は血圧計みたいに手軽に行えるが、近界民である空閑の関係もあるので本部ではなく玉駒の方が良いだろう。宇佐美なら簡単に機器を貸してくれそうだ。そんな事を一人で考えていると、俺達の話を黙って聞いていたレプリカが雨取の前に出る。

 

『私が計測しよう』

 

レプリカが口を軽く開き、口の中から掃除機のコードみたいな舌がにょろーんと現れた。ラッドを単騎で仕留めたり、解析するだけじゃなくて、トリオンの計測まで出来るのか…随分と多機能だな。レプリカが凄く欲しい。売ってないかな?

 

『舌の先が計測機器になっている。軽く握ってくれ』

 

レプリカが雨取に向かって計測方法を説明するが、当の雨取が掴もうとしない。トリオン兵に狙われ続けていると聞いているし、レプリカであっても恐いのだろう。

 

「レプリカ、俺から測って貰っていいか?」

 

雨取の不安を払拭する為に俺が率先する事にした…本音は近界民式のトリオン計測を試してみたいからだ。

 

「あぁ、そっか。ヒロセは優しいな」

 

俺の行動で雨取の怖気に近い反応に気が付いたのか、空閑に賛辞を言われた。三雲からは頼れる先輩みたいな眼差しで見られている。本当は俺自身が試したいからなんですよー

 

「優しい?広瀬さんが?そんな訳がないでしょ。

どうせ「近界民のトリオン診断って楽しそうだなー」って思ってるだけよ、そうでしょ?」

 

俺の心を的確に読む木虎さん。当たってるので反論出来ない。このままだと頼れる先輩から、太刀川さんとか米屋みたいな残念な先輩にシフトしそうなので、話題を逸らす意味を込めてレプリカの舌の先を掴む。

 

『…これは時間が掛かりそうだな、楽な姿勢で構わないぞ』

 

トリオンが多いと計測にも時間が必要なのだろう、そんな事を考えながら残ったジュースを一気に飲み干す。行列の順番待ちのように雨取が俺の隣に座る。なんで俺の隣なんだ、そう思いながら辺りを見渡していると木虎、空閑、三雲の三人が俺達から少し離れた位置で話し合っていた。雨取に話せない話をしているのだろう、それを察して雨取は親しくもない俺の隣に座っているのだ。雨取は察しの良い娘だ、だからこそ心配になってしまう。レプリカは計測中で話せないそうなので、雨取の気分を紛らわせる様な会話をしようとする。

 

「雨取…ちゃん、大丈夫?怪我とかない?」

「あ、あの、さっきはありがとうございます」

「え〜っと、大丈夫だよね?」

「えっ?あ、はい、ごめんなさい、大丈夫です」

「……」

「……ごめんなさい」

 

会話終了。めっちゃ謝られた。

嵐山先輩や佐鳥の真似は無理でした。

そもそも同年代の異性とすら会話が危ういのに、年下と会話を弾ませろとか無理過ぎる。あっ、木虎は別。アイツは年下の男友達みたいだし。下手に気取らずに自然体で話そう、うん。

 

そう言えば雨取には聞きたい事があったのだ。

もしも俺と木虎の仮説が正しければ、雨取のトリオンは相当なモノだ、それを知った雨取は何をしたいのか?ボーダーに保護されたいのか、それとも俺達みたいに防衛隊員になりたいのか、どちらにせよボーダー、ひいては俺と木虎にとっては大事な話だ。今の内に聞いておこう。

 

「雨取ちゃん、ちょっといいか?」

「なんでしょうか?」

『話し中にすまない、計測が終わったので表示する』

 

もの凄いタイミングでレプリカが計測を終わった事を告げた。レプリカの頭上に真っ白な立方体が現れた。一辺の大きさは俺の身長ぐらいある。

比較対象がないので凄さが分からないので反応に困る。

 

「おぉ〜、かなりデカイな。

このレベルの大きさは初めてみたぞ」

 

空閑が好意的な反応をする。

 

『若干の疑問はあるが尋常ではない数値だ。

近界でも文献でしか知れないクラスだろう』

 

レプリカの説明につられて三雲と雨取が驚きの声を上げる。思わぬ展開。久しぶりの俺様最強状況に顔を綻ばせていると近くで舌打ちが鳴った。舌打ちが鳴った方向を向くと、仮にもアイドルとは思えない醜悪な顔付きをした木虎が仁王立ちをしていた。女子供とか平気で攻撃しそうだ。

 

「なんすか?」

「チッ」

 

質問に対して舌打ちで返答された。

三雲と雨取の顔が引いている。

こういう時の木虎は刺激しないのが一番。

私情で脱線した話を元に戻す為に雨取にも計測をさせる。俺がやっていた事もあり、恐る恐るではあるが雨取がレプリカの舌先を掴んだ。先程の感じからすると時間はそれ程掛からないだろうが暇だ。座ってじっとていた身体を解そうと立ち上がる。適当に上半身を動かしていると、見知った二人組が視界に入った。

 

米屋陽介と三輪秀次。

ボーダー隊員所属、A級7位三輪隊の面子だ。

米屋と三輪がゆっくりとした足取りで此方に近付いて来る。三輪は何処かに連絡を取っているのか携帯電話を耳元に当てている。こんな意味もない場所で何故二人が此処に居る?何をしに此処に来た?嫌な予感しかしない。友人と言っても差し支えない関係である米屋に二人が此処に居る理由を確かめようとする。

 

「米屋、何しにここに来た?」

 

返答とばかりに米屋と三輪が戦闘体になる。

悪い予感が当たった。二人の目的は空閑だ。

 

「んで、誰か近界民なんだっけ?」

 

米屋が三輪に呟く。

どうやら二人は空閑が近界民であるという確信はないみたいだ、それなら誤魔化せるか?そんな希望を抱いていると三輪が衝撃的な事を口にした。

 

「そのトリオン兵は女に付いている、殺るのは女の方だ」

 

三輪が標的を雨取に決めた。

勿論雨取は近界民ではなく、

トリオンが高いかも知れない普通の女の子だ。

三輪は「殺る」と言った、拘束でも話を聞くでもなく「殺る」だ。このままだと雨取が殺されてしまう、米屋と三輪を止める為に二人の前に立つ。

 

「待て、お前達は何をする気だ?」

「何って、俺等は城戸司令の命令で近界民を殺りに来たんだよ。あ~でも、相手が女の子ってちょっと嫌だな」

 

ちょっとどころじゃないだろ。

前から思っていたが米屋はノリが軽い。

 

「ウズウズしているところ悪いが勘違いだ。

あの黒い炊飯器は玉駒支部の支援型トリオン兵、勿論俺達三人はボーダー隊員で、あの二人は第三中学校の生徒、此処に近界民は居ない」

 

だから物騒なモノは仕舞って、さっさと帰れ。

矢継ぎ早で二人に告げる。俺の説明を真に受けてくれたのか米屋が露骨にガッカリする。争い事は避けられたかと期待をしていると、浮遊感と首を締められた様な痛みが突然襲いかかる。

 

「証拠は上がっているんだ、下手は嘘を吐くな」

 

不快感の正体は三輪に首を締められた事によって生じたものだった。三輪は依然戦闘体、俺は米屋と三輪を欺く為に前に出たので生身だ。生身よりも戦闘体の方が身体的能力は高い、握力も当然高い。生身では戦闘体の首締めを解けない。首を締める力が徐々に増していく。首の骨が軋む。誰かの声が遠くで聞こえ始め、意識が失いかけた最中、首を締められる力が突然なくなった。

 

「アンタ、私の彼に何をしてんのよ?」

 

視界がボヤけるが、戦闘体姿の木虎がスコーピオンで三輪の片腕を斬り落としているのが微かに見えた。三輪からの首締めがなくなり、その場に倒れ込みそうになるが木虎に抱き上げられた。三雲達が立ち尽くしている地点まで離れ、ゆっくりとした地面に降ろされた。

 

「貴様、自分が何をしているのか分かっているのか!?」

 

此方の体調なんてお構いなしに三輪が木虎に叫ぶ。それは此方の台詞だ、三輪に言い返してやりたいが喉を締められた痛みで声が出ない。

 

「それは此方の台詞です。

突然同僚の首を締めるなんて正気ですか?」

 

俺の言いたかった台詞を木虎が代弁してくれた。

 

「近界民を庇った裏切り者の肩を持つのか?

俺達は城戸司令の命を受けている、邪魔するな」

「人が殺されるのを黙って見てろと?

ボーダーは一体いつからマフィアかヤクザになったんですか?」

 

感情を押し殺す様な声色で木虎が三輪に問う。

木虎が時間を稼いでくれたお陰で呼吸が楽になり、思考が正常に働く。木虎と三輪の問答はそれ程長くは続かない。これからどうする?言い逃れは出来そうにない、なら戦うしかないか。保身とかその後の事とかもっと色々と考えなくちゃならないと思うが今はどうでも良い、空閑には恩がある、だから助ける、それだけで充分だ。トリガーが仕舞っているポケットに手を突っ込んで戦闘体に切り替える。

 

俺が戦闘体に切り替わった事により木虎と三輪の問答は終わり、全員の注目を浴びる。三輪の眼光は鋭くなり、米屋は意外そうな顔を見せた。

 

『倒すのは前提としてどうします?』

 

同じ隊にしか通信出来ない周波数から、木虎の声が聞こえる。三輪隊との戦闘を拒否されると思っていたが、偉く好戦的だ。俺は空閑に恩を感じての行動なのだが木虎も同じなのか?

 

『相手は「三輪隊」だよな』

『でしょう』

 

俺の問い掛けに木虎が肯定する。三輪隊は米屋と三輪以外にあと二人居る。奈良阪と古寺、共にスナイパーだ。佐鳥に匹敵するスナイパーと佐鳥以上のスナイパーだ。それに対して此方は俺と木虎のみ。処罰の軽いA級隊員同士の私闘で事を済ませたいので三雲の力は借りられない。近界民である事を隠したい空閑は論外だ。つまりは二対四、状況は最悪だ。せめてスナイパー二人が居なくなるか、先程の不意打ちで三輪が消えてくれれば…

 

『…こんな事なら首の方を切り落とせば良かった』

 

状況の悪さに木虎が悪態を吐く。

同意見だが、今更言っても仕方がない。

 

此方が動かないからか三輪隊に動きはない。

このまま膠着状態を続けても意味がない。

どのタイミングで仕掛けるか木虎と伺っていると、遠くから聞き慣れた声が聞こえた。

 

「呼ばれてないけど実力派エリート、只今参上」

 

この場の雰囲気には合わない軽いノリで迅さんが現れた。迅さんの後ろには三輪隊所属の奈良阪と古寺が戦闘体姿で居た。狙撃されないと思っていたが、そういう理由か。

 

「一応聞く、何をしに現れた?」

 

三輪が皆の気持ちを代弁する。

答え難い質問をされたのか迅さんが頭を掻く。

 

「お前達を助けに来たんだよ」

 

迅さんが三輪達を指差して答える。

それは逆じゃないのか?

そんな疑問を余所に迅さんが空閑に近寄る。

 

「何せコイツのトリガーは特別、ブラックトリガーだ。加えて広瀬と木虎も居る、マトモに戦ったら負けるのはお前達だ、だから助けに来たんだよ」

 

驚きの声が無意識に口から出る。

空閑がブラックトリガー所有者という理由ではない、迅さんが三輪に空閑がブラックトリガー所有者だとバラしたからだ。只の近界民と、ブラックトリガーを所有者している近界民とではボーダー側の脅威度がまるで違う、それなのにわざわざ教える意味が分からない。空閑は空気を読んで一般人を装っていたのに迅さんの一言で無意味になってしまった。迅さんに向かって非難の目を向けるが、向けられた本人は気にせず三輪と話している。お互いの話はよく聞こえない。

 

「近界民は人ではない!!」

 

突然三輪が大声で叫ぶ。この場から一秒でも早く去りたいのか三輪が緊急離脱を行った。流れ星が地面に落ちる様を逆再生しているかの様に三輪が消えた。緊急離脱の行き先は本部だ、この感じだとブラックトリガー含めて城戸司令達に報告されるだろう。面倒臭い事になった。

 

「で、マジでコイツが近界民でブラックトリガー持ちなのかよ?」

 

いつの間にか戦闘体を解除していた米屋が此方に近付いて来た。どうせ隠しても仕方がないので正直に答える事にした。木虎は忍田本部長に連絡を取ると告げ、俺達から少し離れた場所に移動を始めた。そう言えば早急に報告すべき内容だ。

 

「ブラックトリガーは俺も初耳

近界民かどうかは本人が認めてる」

 

米屋が空閑の方を向く。

空閑の方は特に警戒してない様子だ。

空閑の人となりを知らないのに米屋も無警戒だ。

 

「持ってるけどそれが?」

「いや、一度でいいからブラックトリガーとヤりたかったな〜って、因みに一対一でヤってたらどっちが勝ってたと思う?」

「普通に此方が勝つと思う」

 

米屋からの質問に空閑が間を置かずに答える。

大して意外でもなかったのか米屋が「だよな」と答えた。さっきまで一触即発だったのにフランクだ、空閑自身も疑問に思っていたのか米屋に質問をした。

 

「棒の人は近界民とか嫌いじゃないの?」

「俺は別に、特に被害とか受けてないし。

因みに棒って武器の話だよな?だとしたら槍な」

「ふむ、ありがとう槍の人」

 

 

話を続けるようとしているのか、米屋が迅さんと話し合っている奈良阪と古寺を指差す。少しだけ遠くに居る三人は米屋の指差しに気が付いていない。本人達に聞かれたくないのか米屋が声量を落とした。

 

「だけど、あっちに居る二人は多少恨んでるかもな、だって大規模侵攻で家とか壊されてたらしいし。そして、さっき緊急離脱…飛んでいった秀次は姉さんを近界民に殺されているから一生許さないだろうな」

 

米屋が俺の方を向く。

俺に対しての説明の意味もあるだろう。

三輪の行動に納得出来たのだが……

 

「米屋、それって言っちゃダメなヤツだろ」

 

人の過去、それも身内が死んだなんて言い触らして良い物じゃない。本人は気が付いているのか?

 

「だな、言ってから気が付いた。絶対内緒な」

 

米屋がバツの悪そうな顔で話す。

罪悪感はあるらしいが口が軽すぎる。

コイツに内緒話とか絶対に出来ないな。

 

それにしても身内が近界民に殺されているのか…

ここは近界民との戦いの最前線、そう言った人が居るのが当たり前とは言え、いざ目の当たりにしてしまうと何とも言えない。

 

「なんて言うか、どうすればいいんだろな?」

 

自分自身でも意味が分からない呟きだったのだが米屋が律儀に答える。

 

「どうにも出来ねぇよ」

 

随分と薄情な台詞だがそうなんだな。


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