これで以前に比べて様々な人にこの作品を読んで貰えます、
嬉しいですけどなんだか恥ずかしい気持ちで一杯です。
感想を書いて下さってありがとうございます。
なんて返信すれば良いのか分からなくて、未だに返信は出来ていませんが
励みに繋がり、皆さんが満足する完結を目指さなくてはという気持ちになります。
「あの人の方が面倒臭いと思うんだけどなぁ...」
会う度に「お前は面倒臭い奴だ」と愚痴ってくるエリート様に向かって悪態を吐く。迅さんから緊急の話があるとメールで伝えられ、指定された場所に急いで行ってみれば肝心の本人が居なかったのだ。しかも此方から連絡しているのに一向に返事が返ってこない。
「おちょくられてるのか...?」
単純に迅さんの到着が遅れているだけなのかも知れないが、多分違う。
だって指定された場所に怪しげなクーラーボックスと黒いビニール袋が置かれているからだ。出来る限り触れたくはないのだが、無視すると迅さんの機嫌が悪くなるので確認する事にした。クーラーボックスを開け、中身を見ると缶ジュース数本が入っていた、保冷剤が引き詰められていて、どの缶ジュースもキンキンに冷えている。意図が分からずに黒いビニール袋の方も確認すると、ぼんち揚げが数個入っていた。双方を数えてみると同数、五個ずつだ。一人分にしては多すぎるので誰かと分けるのか?そんな事を考えながらクーラーボックスを持ち上げてみると、一枚の紙が下敷きになっていた事に気が付く。手に取って見ると、迅さんらしき字で「川沿いを町の外に向かって歩け」とだけ書かれていた。やっぱり俺よりも迅さんの方が面倒臭い、そう確信した後に仕方がないので指示通りに動く事にした。
迅さんの指示通りに川沿いを町の外に向かって歩く。
道中になにかあるのではないかと警戒するが何も起こらない。
もしかして意味なんてないんじゃ?なんて思い始めた頃に、見知った姿が目に入った。白髪で小柄な少年、空閑悠真が同じく川沿いを自転車に乗って走っていたのだ。自転車に馴れていないのか、ヨロヨロと自転車を走らせている。川に落ちないか心配だ。そんな空閑の様子を心配そうに見詰めている少女が目に入った、空閑の知り合いか?だとすると少女も近界民なのかも知れない。意図の見えない迅さんの指示に億劫になっていたので休憩がてらに空閑達に会うことにした。
「何やってるの空閑君?」
空閑の知り合いらしき少女が驚いた表情を微かに浮かべる。
どうも萎縮しているみたいなのだが、俺には思い当たる理由はない。
もしかして俺の顔が恐いからなのか?兎に角此方からの接触は避けないと...
「え~っと...ヒロセだっけ?」
俺の事を忘れていたのか空閑の反応が鈍い。
此方は空閑に対して恩を感じているのに忘れられているとか地味にショックだ。
「ヒロセが修と同じみたいなモノを付けてたから迷った。
それって目が悪い奴が付けるって聞いたけどヒロセもなのか?」
あ~そっか、そういう事か、素で忘れてた。
空閑の発言で自身が眼鏡を掛けていた事を思い出す。迅さんからメールを受け取り、玉狛支部を離れる際に宇佐美から眼鏡の重さに慣れる為という理由で眼鏡を受け取ったのだ。宇佐美のお下がりらしいのだが俺の顔にキチンとハマっている、宇佐美と俺では顔の大きさが違う筈なのにどういう理屈なのだろ?。ちなみに装着している眼鏡に度は入っていない、話に合った付加価値もないので単なるお洒落眼鏡なのだ、この事を空閑に伝えると「ふ~ん」と興味無さそうな返事をされた。まぁそうなる。
「あの...二人は修君の知り合いなんですか?」
話の蚊帳の外に置かれていた少女が口を開く。
「修って...三雲修君の事?眼鏡が似合ってて、第三中学校の?」
少女の言う修が誰なのかは分からないが、三雲修の事なのではないかと確かめる。
修に対する認識が一致したのか、少女が「知ってるんですか?」と、か細い声を上げた。
「お前も修の知り合いなのか?」
空閑が少女に向かって質問をする。
空閑と少女は知り合いだと思ったのが初対面だったようだ。
それじゃあなんで二人は此処に居るんだ?
「二人はどうして此処に?」
「修から話があるって此処に、待ってる間が暇だったから自転車乗ってた」
「私も修君から話があるって...」
二人は修繋がりで此処に呼ばれていたらしい。
なんの話をするのか分からないが空閑が呼ばれているという事はトリガー関係か?
俺は三雲に呼ばれていないが多方面にコネを持っているので一応居といた方がいいかも。本格的に迅さんからの指示をなかった事にする。だってダルいもん。
「そう言えばヒロセはなんの用で...あれっ?」
二人が質問に答えてくれたので、今度は俺が質問される番だ。
空閑からの質問になんて答えようと悩んでいたのだが、突然口を淀ませる。
何かに気が付いた様子だがどうしたのだろう?
「ヒロセ、ヤバい奴に見張られてるけど大丈夫か?」
ヤバい奴?空閑が指差す方向を見詰めると見知った奴が居た。木虎だった。
橋の上で隠れる様に俺達を窺っていた木虎だったが、俺達に見付かった途端に隠れやがった。こそこそした行動から偶然の出会いって訳ではなさそうだ、って事はストーカーか?ストーキングされる謂れはない、と思う...理由を聞きたいんだけどキレる可能性があるからなぁ~、後で烏丸にでも聞こう。
「行かないのか?一応仲間なんだろ?」
空閑が動こうとしない俺を不思議がっている。
一応って言うか同期で同じ部隊員なんですけどね。
「日本には触らぬ神に祟りなしって言葉があってだな、
つまりは関わるのがスゴく面倒臭いから見なかった事にするっていう話だ」
木虎が隠れてくれるなら此方にとっても好都合だ。
俺の適当な説明に納得してくれたのか空閑がうんうんと頷いている。
「俺もアイツがウザいから、それが一番だな」
さっきから思ってたけど木虎に対して辛辣過ぎじゃないか?
理由は三雲関係なので納得だが、数回会っただけで嫌われる木虎が哀れだ。
あんなんだからこそプロ意識は高いし、戦闘になると頼れるパートナーなのだ。
木虎のフォローをしようと空閑に木虎の良い所を紹介しようとしたが、
再び話の蚊帳の外に置かれていた少女が突然、警戒区域の方向に向かって駆け出した。一体どうした?空閑と顔を見合わせるが答えは出ず、お互いに小首を傾げてしまう。
突然駆け出した少女を追い掛けた方がいいのでは?
そんな考えが過った最中、警戒区域の方向から聞き慣れたサイレンが鳴り響く。
つまりは警戒区域内でゲートが開かれ、防衛任務が始まった事を示している。
警戒区域内に駆け出した少女とゲートが開かれた事を示すサイレン、これはヤバい。
「ごめん空閑君、荷物を頼む!」
懐からトリガーを取り出し、戦闘体に切り替える。
トリガーの使用はやり過ぎかも知れないが万が一の事を考えると一秒でも惜しい。
軽く跳躍して民家の屋根に飛び乗り、屋根伝いに少女が駆け出した方向を目指す。
ボーダー隊員とトリオン兵の戦闘が始まっているのか彼方に爆発の光がちらつく。
今回の目的はトリオン兵の殲滅ではなく、少女の捜索なので防衛任務については無視だ。建物が密集していて人探しは難しい。此方から声を出してみた方が良いかも。
「修君の知り合い!近くに居るのなら返事をしろ、此処はトリオン兵が来て危険だ!!」
大声で叫ぶが反応はない、別の場所に居るのか?
そもそも警戒区域内に駆け出した少女が俺の声に反応するのか?
見付からない少女に焦りを抱いていると、ボーダー隊員の網から逃れたであろう一体のトリオン兵がキョロキョロと首を動かして移動しているのが目に入った。まさかとは思うが、あのトリオン兵の近くには居ないよな?最悪の事態を想定してしまった。
嫌な予感ほど、良く当たるものだ。
うろうろと辺りをさ迷っていたトリオン兵が突然動きを止める。
あの動作はトリオン兵が自身のセンサーに人を捉えた事を示すサインだ。
つまりは少女がトリオン兵に見付かってしまったのだ。
一刻も早く駆け付けないと少女が殺されてしまう。大きく跳躍を始めた。
幸いな事にトリオン兵との距離は然程遠くはない。
一回の跳躍で落下地点がトリオン兵と重なるまでに近付けた。
右手に銃手用のトリガーを発動。トリオン兵に攻撃を喰らわせようとしたのだが、トリオン兵のすぐ近くに少女が居た事に今になって気が付いた。俺の高火力な武器では少女を巻き込んでしまう。アホか俺は、ちょっと考えたら気付くだろ普通。頭の中で自分自身を罵倒しながらも最善の行動を取ろうとする。
銃手用のトリガーは使えない。
近接用のトリガーなんて持っていない。
一秒にも満たない内にトリオン兵の頭部目掛けてへと落下してしまう。
仕方がないのでそのまま落下して、ライダーキックを喰らわせる事にした。
攻撃は成功したがトリオン兵の頭部を僅かに揺らしただけで終わる。
トリオン兵の頭部から跳躍して、少女に覆い被さるように着地する。
この場で攻撃出来れば良いのだがトリオン兵が爆散した際に少女の身体を傷付けてしまう。困惑する少女を胸に抱え、トリオン兵を心置きなく攻撃する為に一時的に逃げようとする。首だけを動かしてトリオン兵の動きを確認していると、捕獲用のトリオン兵にも関わらず此方に砲撃を喰らわせようと口を大きく開けていた。生身の少女は当然、戦闘体の俺であってもトリオン兵からの砲撃の直撃はマズい。お互いの身を守ろうと全身を包むようにシールドを二重に発動させた、だかその行動は無駄に終わった。突然現れた木虎がトリオン兵の頭部を首から切り離したからだ。
少女を襲っていたトリオン兵は沈黙。新たなトリオン兵が現れる気配はない。
つまりは少女を守る事が出来たのだが、反省すべき点が多過ぎて手放しでは喜べない。自己嫌悪に陥りながら胸に抱えていた少女をゆっくりと地面に降ろそうとする。少女を降ろしている間に、ドヤ顔の木虎が此方に近付いて来たのが見えた。
「広瀬さんは私みたいな優秀なパートナーが居ないとダメダメみたいですね。
それで広瀬さん、危険な所を助けてあげた私に何か言う言葉があるんじゃないですか?」
いつもの悪意たっぷりな口調なのだが、反論する気力がない。
実際に木虎が居なかったらヤバかった。
「ありがとうございます、木虎さん...」
「ん?声が小さくてよく聞き取れませんでした、もう一度大きな声でお願いします」
「普通の声量で喋ったんだから聞き取れてるだろうが、調子に乗ってると潰すぞ」
とは言える訳がなく木虎の言う通りに大きな声で先程の台詞を繰り返した。
二度目のお礼で納得したのかホクホク顔だ。今日の木虎は尋常じゃなくウザい。
「広瀬さんを弄るのはこれぐらいにして...
そこの貴女、警報が鳴っているのに警戒区域に入るなんてどういうつもり?
彼が駆け付けるのが遅かったら貴女は死んでいたのよ」
気が済んだのか木虎が話の矛先を少女へと向けた。
少女の行動については気になっていたので少女の事は木虎に任せる。
年の離れた男より、年の近い女の子の方が喋り易いという判断だ。
「こ、これには意味が...だから、あの...ごめんなさい」
「私はその意味を聞いてるのよ、謝ってないで答えて貰える?」
「言えません...これだけは絶対に言えないんです」
「あ?」
木虎さんが爆発する寸前だったので急いで羽交い締めにした。
ちょっとだけ気持ちは分かるが突然ブチキレるな、沸点が低過ぎるぞ。
「相手はちっちゃい女の子なんだからキレるな。ここは我慢、我慢だ」
「...私もちっちゃい女の子なんですけど、喧嘩売ってるなら買いますけど?」
「素で忘れてました。え~っと...木虎さんもちっちゃくて可愛らしい女の子ですよ」
かなりの棒読みだったのだが納得してくれたのか木虎が大人しくなった。
羽交い締めにしていた木虎を放し、少女と木虎の間に立つ事にした。
これで木虎が突然ブチキレて少女に襲い掛かっても十分な対処が出来る。
もう一回木虎にブチキレられても面倒臭いので、木虎に代わって少女に問おうとする。少女を恐がらせないように言葉を選んでいると、三雲と空閑が此方に近付いて来ているのが目に入った。
「千佳、どうして警戒区域内に入ったんだ!?
広瀬先輩と木虎が助けに入ってなかったら死んでたかも知れないんだぞ!!」
「これが良いと思って...ごめんなさい」
三雲が一目散に千佳と呼ばれた少女に駆け寄り、危険な行動について叱り付けた。
千佳の発言に引っ掛かりを覚える「警戒区域内に入るのが良いと思った」とは?
どういう意味なのかと三雲と千佳に質問しようとしていると、空閑から話しかけられた。
「お疲れさま、頼まれてたモノはちゃんと預かってたからな」
空閑が、担いでいたクーラーボックスと黒いビニール袋を地面に降ろした。
空閑は俺からのお願いを律儀に守り、クーラーボックスと黒いビニールを持っていた。言っていてなんだが、中身はジュースとお菓子なので置きっぱなしでも良かったのに...
「あっ、そういう異図だったのかな?」
ジュースとお菓子の数を思い出して一人で納得する。
ジュースとお菓子の数は5つずつ、この場に居る5人で分ければ丁度良い数だ。
よく分からないが、この状況が最悪の未来を回避する分岐点なのかも知れない。
迅さんの目的がようやく明らかになった、無論何が起こるのか分からないけど。
自分で言うのは情けないが、迅さんにとって俺はかなり貴重な協力者なのだと思う。その貴重な協力者に対して指示以外の事は一切伝えず、盤上の駒みたいに動かすのはどうなのだろうか?不用意に未来を変えたくない気持ちは分かるが、今だって木虎みたいに何処かに隠れて監視しているに違いない。もしかして迅さんって面倒臭い先輩じゃなくて、性格の悪い先輩なんじゃなかろうか?そんな事を考えていると三雲から雨取の事で相談があると言われた。
誤字脱字、物語の指摘をして下さった方、ありがとうございます。
極力無いようにしているのですが、自分一人だとどうしても起こってしまうので助かってます。