私はブラックトリガーになりたい   作:駄作製造工場長

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ひと月以上も更新できなくて申し訳ございません。


第10話

ボーダーの隊員服を着た集団が大きなごみ袋を携え、早朝で人が疎らな町中を一心不乱にナニかを探している。ある隊員は町中にも関わらず近接用のトリガーを手にしているが誰一人それを咎める者は居ない。白い服を着た隊員がナニかを見付けたのか大声で他の隊員を呼び、呼ばれた隊員が慌ただしく駆け寄る。

 

「なんかゴミ拾いやってるみたいだな~」

 

隣に立っていた迅さんがボーダー隊員が現在行っている任務について皮肉を言う。

ボーダーは動かせる隊員を全て投入して、イレギュラー門の原因であるラッドを根絶やしにしているのだ。レプリカの言う通りにラッドの数は膨大だが技術スタッフのお陰で全てのラッドの位置情報は手元の端末に表示されている、加えて忍田本部長の命令で出せるだけの隊員が作戦に投入されているので根絶やしは時間の問題だろう。

 

「暢気な事を言ってないで仕事したらどうです?」

 

ベンチに座ってぼんち揚げをボリボリ食っている実力派エリートを注意する。

C級隊員、技術スタッフ、非番の隊員まで作戦に投入されているんだから働けよ。

 

「そういう広瀬はなんで俺の隣に座って居るんでしょうかね?」

 

迅さんの言う通りに俺も仕事をサボっているのだがちゃんとした事情がある。

 

「本部長が休めって言ったんですけど、気になって見に来ただけですよ」

 

ラッドを本部に届けた際に俺の顔色が悪かったのか、本部長に早朝の作戦は休んでキチンと療養しろと命令されたが、全てが終わったのを確認せずに休める程の図太い神経は持ち合わせていないので重たい身体を必死に起こして経過を見届けているのだ、だから決してサボりではない。

 

「そっか...まぁいいや、俺が働かなくてもこの人数なら平気だろ」

 

勝手に自己解決してベンチに深く座る迅さんであった。

...確かにこの人数なら数人ぐらいサボっても支障はないだろう。

特に迅さんと話す内容もなかったので、ポケットから携帯端末を取り出して弄る。

 

「なにしてんの?ゲームか?」

 

携帯端末を弄り始めた最中に迅さんが興味深そうに質問をする。

残念ながらゲームではない、昨晩に現れた新型に関する報告書を製作していたのだ。

 

「新型の報告書製作です」

「昨日の奴か...なんて書いた?」

 

ざっくりとした質問をされた。

昨晩に現れた新型は爆撃と見せ掛けて、本命は自爆もしくは特攻を目的としている。

町中に突っ込んできた同様にボーダー本部に突っ込まれたら面倒臭いことこの上無いだろう。

今回の報告書には本部の外装強化と防衛砲台増設の是非を中心に書く予定だ。

 

「そんだけしっかりとした報告書なら俺が書く必要はなさそうだな~」

「迅さんもちゃんと書いて下さいよ、それじゃなくても書ける人間が少ないんですから」

 

例の新型と戦闘した隊員は俺と木虎と迅さんの3人だけだ。

俺だけでは報告の穴があるかも知れないので迅さんにもちゃんとした報告書を出して欲しいのだが、本人は面倒後とが嫌いなのか目線を外した上に露光に話題を逸らされた。

 

「広瀬、新型と戦ってどうだった?」

 

どうだったって言われても...ムカつくとしか言えないよな。

ナニに対してムカついているのかと聞かれれば当然ながら敵に対してなのだが、自分自身に対するムカつきの方が勝っているのかも知れない。昨晩の戦闘は新型の自爆による衝撃波によって若干数の負傷者が出たが事態を考えれば幸運な結果に終わった、だがそれは色々な偶然が重なった奇跡に過ぎない。もしも迅さんや空閑の到着が遅かったら未曾有の事態に陥っていただろう。

 

「強くなりたいですね...やっぱり」

 

昨晩の事を色々と考えていると無意識に願望を口にしてしまった。

幼稚にも思える呟きを聞かれてしまったのか迅さんが演技染みた動作で納得した。

そこそこの付き合いなので迅さんのわざとらしい動作が話の前フリだと察する。

 

「いやいや、普通のトリガーでイルガーを2体も倒したんだから充分だろ...」

 

迅さんがなにかを告げようとした最中に空閑が現れた。よく見れば三雲と木虎も居る。

 

「空閑君に三雲君...それに木虎さんじゃないですか、どうしたんですか一体?」

「なんで他人行儀なんですか同じ隊でしょ?」

「いや、はい、そうですね、これからも頑張りましょう木虎さん」

「うぅ、なんて私がこんな目に...」

「仕方ないと思うぞ」

 

木虎にだけ余所余所しい態度を取る。

昨晩の一件から「木虎もしかして本当にヤバイ奴説」が浮上しているのが原因だ。

会うまでは昨晩の事は忘れてやろうと思ったが、いざ本人を目の前にすると駄目だった。

木虎を無視する為に話題を逸らす内容を探していると三雲の隊員服に気が付く。

C級隊員の象徴であった白い隊員服ではなく、黒を基調とした隊員服に変わっていたのだ。

 

「三雲君はもう昇格したのか、おめでとう」

「迅さんと広瀬先輩のお陰です」

 

晴れて正隊員になれた三雲だったが表情が嬉しそうではない。

三雲は真面目そうだしコネや運みたいなので昇格するのは嫌なのかも知れない。

 

「昇格については深く考える必要はないと思うぞ、これから頑張れば良いだけの話だ」

「僕の代わりに誰かのチャンスが失われたかも知れないのにそんな考えで良いんでしょうか...」

「そうだとしても三雲がその誰かより強くなれば良いだけだろ?あんまり深く考えるなよ」

「ヒロセの言う通りだ、深く考え過ぎるとハゲるぞ」

「強くする為にマンツーマンで指導してやるか?基礎ぐらいならなんでも教えられるぞ?」

 

趣味のお陰でボーダー本部の全トリガーの扱いは熟知、は言い過ぎだが取り合えず一通り扱える。どのトリガーも指導者の教え虚しく基本的な戦術は切り刻む撃ちまくる常時展開という俺のみの許されたモノになってしまったが、全トリガーを学ぶ際にそのトリガーの熟練者に指導して貰ったので伝言ゲームみたいに教えれば他人に基礎を教えるぐらいは出来る。

 

「なんで広瀬さんは彼を贔屓するんですか!?私にも色々と教えて下さいよ」

「ははは、僕なんかがエリートの木虎さんに教える事なんて一つもありませんよ」

 

入隊時点でポイントが3000点超えの天才になにを教えれば良いって話だ、

そもそもプライドの高い木虎が宿敵である俺に教えを請うとか何事だよ。

木虎の件は深く探ると昨日の二の舞なので考えないようにするが、木虎達と話をしたお陰なのか心が晴れたような気がする。身の丈に合わない状況や使命感に踊らされて必要以上に気負っていたのかも知れない。そりゃそういった感情はないよりあった方が良いが、それで余裕を失うようじゃ駄目だって話だ...普段通りの俺を取り戻すために本部長から貰った休暇を満喫しようと自宅へ帰ろうと席を立とうとしたが、それよりも先に席を立った者が現れた。迅さんだった。

 

「そろそろいいか?ってか帰ってもいいか?」

 

いじけている様子の迅さん。

話を無視するみたいに漫談していたのが気に入らなかったのだろう。

それだけでいじけるとは器の小さい先輩だ、もしかして意外と寂しがりやなのか?

 

「広瀬全部聞こえてるぞ、最近俺に対する尊敬とかどこいった?」

 

俺の考えが口から漏れていたらしい。

迅さんは後輩から尊敬されていない事を嘆いているがそんなものだろう。

迅さん本人が知っているのかは微妙だが、迅さんは本部の隊員に嫌わ...面倒臭がられている。

迅さんの実力は誰しもが認めているがそれでも尊敬より面倒臭いが勝ってしまっているのだ。

そんな失礼な事を本人に伝えようとか悩んでいると迅さんが話を進めた。

 

「広瀬、力が欲しいか?」

「結構です」

「なんで!?さっきと話が違うぞ!!」

 

迅さんの誘いを反射的に断ってしまった。

胡散臭かったから仕方がないのだが、力とは興味深い話だ。

 

「内容が抽象的なんですよ。なんですか「力」って?」

「玉狛支部で広瀬専用のトリガーを開発しているんだが完成したら受け取ってくれないか?」

 

迅さんが言葉の後に懐から携帯端末を取り出し、画像でも出そうとしているのか携帯端末を弄り始めた。俺と迅さんだけの会話の筈なのだが木虎、三雲、空閑の三人が興味深そうに迅さんを眺める。自分専用に開発されたというトリガーを口元を僅かに緩ませて待っていると迅さんが手にしていた携帯端末を俺に渡してくれた。高まる気持ちを押さえながら携帯端末の画面を見る。

 

携帯端末の画面に表示されている画像には二つの銃器が映っていた。

銃器そのものはボーダー本部の銃手用のトリガーと大きな差異はなさそうに見える。

俺専用に開発されたという話だが何が違うんだ?もしかして中身か?

 

「もしかしてコレで一丁なんですか?」

 

木虎が迅さんに質問をする。迅さんはニヤニヤするだけで返答はしない。

改めて画像を見てみると二つの銃手トリガーの位置が密着しているみたいに近い。

木虎の言う通り、この銃手トリガーは二つではなく一つみたいだ。

 

銃器の照準部分を潰して鏡合わせのように接合されている二つの銃器。

予想が正しければトリガーでは、一つの銃手用のトリガーとして認識されるだろう。

つまりこのトリガーは左右にセット出来る事となり、単純な威力は今までの倍だ。

見た感じ持ち難そうで、精密射撃なんて糞食らえ、トリオン効率は度外視という欠点だらけのトリガーみたいだが俺のトリオン力と大雑把な戦法ならば特に気にはならない、正しく俺専用のトリガーだと言える。俺が現在使っているトリガーは本部の技術スタッフが半ば俺用にと造ってくれたモノなのだが、あのトリガーでは俺の膨大なトリオン力を発揮出来ているとは言い難いのでこういうコンセプトはありがたい。

 

「名前は双牙、察しの通りに二つの銃器を一つにする事によって火力を高めている。

連射力は広瀬が使っている奴より向上しているし、弾丸補助も大幅に可能になっている

その代わりに一発一発のトリオン消費が桁違いだけど...まぁ広瀬なら大丈夫だろ」

 

受け取ってくれるよな?と迅さんは質問をした。

悪魔の契約を思わせるような胡散臭い口調だが、俺と迅さんは協力関係なので今更だ。

 

「くれるのならありがたく貰いますけど今からですか?」

「あ~話題を出しといて悪いけど現物はないんだよ、ってかまだ完成してない」

 

迅さんが両手を交差させてバッテンを作る。

 

「画像のそれって実は弾丸のプリセットが一種類しか組めないんだよ。

その欠点も本部の鬼怒田さんと協力して改善中だからそれまで待ってくれ」

 

鬼怒田さんと協力?玉狛支部の迅さんが?

鬼怒田さんの玉狛支部、特に技術スタッフ嫌いは話の愚痴で知っている。

その鬼怒田さんが玉狛支部と協力なんてどういう風の吹き回しだ?

 

「可愛い広瀬の為だからって渋々協力してくれたんだよ」

 

可愛い?迅さんの冗談だよな?でなきゃ鬼怒田さんがツンデレになっちゃう。

 

「報酬、貰えるの楽しみにしてます」

「報酬?なんの話だ?」

「迅さんの目的達成に協力した報酬って意味なんですけど」

 

特別的外れな事を言ったつもりはなかった。

迅さんの察しに説明出来ない不安を抱いていると、迅さんがゆっくりと口を開いた。

 

「まだ終わってないぞ」

 

周囲の人間に配慮したのか簡潔な説明を告げられる。

木虎達には意味が分からないだろうが、事情を知っている俺には分かる。

これから訪れる最低最悪の未来、まだ終わっていなかったのだ。

 




双牙(ソウガ)であって二重牙(ダブルファング)ではないので悪しからず。

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