神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第9話 歩み寄り

「いや~第1部隊のメンバーが一人でもいるとやっぱり違うな。次もまた頼むな」

 

 

エイジは常に第1部隊での任務だけではなく、他の部隊のメンバーとミッションに出る事もあり、今回はタツミ達と合流したミッションに出動していた。

 ここ最近の戦績の影響もあってか、これまでのアナグラの昇進の中では群を抜く速度で上等兵へと昇進していた。

 エイジ自身もまだ新兵から上等兵になった状態である以上、ミッションの難易度は少しづつ高くなる。

 難易度が高くなればそれだけ報酬は増えるが、それ以上にアラガミも強固となる為に、今以上に更なる経験と神機の強化が必須条件となっていた。

 そんな事情も手伝ってか、第1部隊の討伐ミッションが無い日にはエイジは積極的に参加する事にしていた。

 

 

 1週間ほどアリサと合同でミッションに行っていたエイジだが、そろそろ他のメンバーとの連携も考えて第2、第3部隊のメンバーともミッションに行き始めていた。

 エイジが最初に気がついたのは、今まで他の部隊とミッションに行く事が無かった事だけではなく、討伐が最優先の第1部隊とではミッションの進め方が違う事だった。

 

 単に戦いに明け暮れるのではなく、自身の戦闘技術の向上と今後の事も踏まえ、戦術もそろそろ考慮しながら戦う術を覚える事により、更なるレベルアップのを目指す段階の途中だった。

 

 

 いくらゴッドイーターと言えど、連戦が続けば精神的にも肉体的にも消耗の度合いは大きい。

 ここ極東が世界最大級の激戦区と呼ばれる由縁は常時決められたミッションだけではなく、突発的なミッションが頻繁に存在する事だった。

 

 連戦が続けば加速度的に疲労は蓄積する。疲れた身体でこなす事になれば、疲労が原因での集中力の低下から来る判断ミスを招く恐れがある。そうなれば常時戦場に居る人間の未来は一つしか無かった。

 万が一があった時点では既に手遅れとなる。その防止策の為にまずは一息入れようと、エイジは休憩がてらロビーに来ると何だか騒がしい一団が見えていた。

 

 

「討伐と防衛では戦術が違うのは当たり前だ。あそこは一般人優先で行動するのが基本だ」

 

「一般人が優先だと、こちらまでアラガミに襲われるのでは本末転倒です。人的な事を考えれば、討伐してから保護の方が効率が良いはずです」

 

「比べる前提が間違っている。討伐と防衛の違い位ならゴッドイーターなら誰でも理解できるはずだ。まさかロシア支部ではそんな基本的な事すら教わらなかったのか?」

 

 

 遠巻きに話を聞いてると、どうやら先ほどのミッションでの行動に問題があったのか、珍しくブレンダンとアリサが口論となっていた。原因は分からないが話を聞いている分には、現場での行動理念の祖語が発生した様だった。

 

 同じ任務に着いたはずのカレルやシュンは巻き添えを食らわない様に遠目で見ているだけで、間に入る気は全く無い。いつまでくだらない事をしているのか?そんな空気が漂っていた。

 

 

「そんな甘い考えだから、スコアも他の部隊に…」

 

 

 

 それ以上は流石に暴言と思われても文句は言えなくなる。これ以上言い出すと今度はどんな発言が飛び出すのか分かったものではない。

 アリサが着任して以来、こんな些細な事での言い争いをアナグラでは割と見かける事が多くなっていた。

 

 どちらの言い分が正しいかの是非では無く、今後の事も考えれば周囲の協力は不可欠になってくる。今の状況が続く様であればアナグラの雰囲気も悪くなるのは明白となるだけでなく、最悪は戦場での信頼関係が構築出来なく可能性もあった。

 このままでは最悪の可能性しか有り得ない。これ以上アリサが何も言わない様に慌ててエイジはアリサの口を抑えた。

 

 

「どうしたんだブレンダン。らしくないぞ」

 

 アリサの言葉はそのまま止められたところで、チャンスとばかりにタツミが仲裁に入る。

 

「なあ、アリサ。気持ちは分かるが第1部隊と第2部隊では役割が違うんだ。第2部隊の連中がアラガミを討伐したくないと思う人間は誰一人いない。戦場は生き物と変わらない以上、自分の考えが全て正しいと考えるのは間違いだ」

 

 普段は大そよ真面目とは言い難いタツミが真剣な表情で言えば、今回の話は真剣に考えるのは当然だと誰もが認識出来た。

 確かに仕事だと割り切れても、自分の命を戦場に持ち込む時点で軽々しく扱って良い話ではない。自分の判断ミスが他人の命を脅かすなんて事は、ここでは日常茶飯事と言える程に過酷な環境となっている。

 些細とも言える会話の中にタツミの思いが滲んでいた。

 

「こんな事で口論するなら、もっと自身のレベルアップに励む方がよっぽど効率が良いし、お互いの為になるはずだろ?」

 

 アリサも何か言いたげだが、エイジに口を抑えられ止めれている以上反論は出来ない。仮に言えたとしても、タツミの言葉は正論であればそれ以上の事はアリサ自身が何も言えない。ここでは生き残った人間がそのまま実力と反映している。

 

 いくら新型と言えどその人のキャリアまでは否定する事は出来ない。それ程までにタツミの言葉には今まで培ってきた経験と重みが含まれていた。

 これ以上はこの場に居てもいたたまれなくなる。

 そんな雰囲気になりそうな所で遠巻きに見ていたカレルからの辛辣な一言があった。

 

 

「お前が何を考えているか分からないが、今のお前はこちらの足手まといだ。騒ぐ前に少しは自分の行動に責任を持て。おかげで余分な仕事が増えて報酬と見合わない任務に成り下がるのは御免だ」

 

 ぶれる事が全くない報酬第一のカレルからの一言。

 辛辣と言われればそれまでだが、一方的に言われたままでは流石のアリサも何か言いたげになっている。

 

 

「エイジ、とりあえずこの場は、俺に免じて後は頼む。新型同士何か思う所は共通するだろ?」

 

 タツミから手を合わせ、頭を下げられての無茶振りだが、この場はこのままには出来ない。気が付けばこのやり取りは、他の神機使い達も視線こそ合わないがどんな結果になるのか注目されていたのか視線を感じる。

 タツミの事もあったが、エイジ自身も疲れた体にこれ以上疲労を溜めこみたくないので、アリサを連れてその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

「何で私があんな事言われなくちゃならないんですか?ここの人達は自分勝手すぎです!」

 

 あの場で何も反論でき無かった反動が、人気の無いこの場でエイジに炸裂した。

 言われっぱなしがお気に召さないのは目で見て簡単に分かる。色々と先ほど言われた事に腹がたったのか目の前のエイジに当り散らす。

 やれやれと思いながらも表情に出す事は無く、アリサの一方的な話を聞きながらも、ブレンダンや他のメンバーの言ってる事も一理あるのは間違いなかった。

 

 本音を言えばこの問題は間違いなく正解が無い。仮にあるとすれば互いが共に認識を摺り寄せる事が正解でしかない。

 立場が変われば考えが変わる事は本来のアリサであれば気がつくはずが、先ほどの口論でヒートアップしてる以上、納まるのは時間がかかるだろうと予測していた。よほど溜め込んで居たのか、アリサの言葉か゜止まる気配は微塵も無いのを察知したのか、エイジは嵐が過ぎるのを待つ様にひたすら聞き流す事に専念していた。

 言いたいことを一通り言った事でスッキリしたのか、アリサも漸く落ち着いてきた。

 

 

「アリサの言い分は分かる。でもリンドウさんが前に討伐が仕事ではなく守る事が任務だと言ってたの忘れたの?」

 

「それは分かってますけど…でも、ここの人達は適当過ぎます。ここは人類最後の砦なんですよ。私達がこんなだと守られる人も安心できないはずです」

 

 

 何だかんだとリンドウから言われた事はしっかりと頭の中に入って居た事に感心しつつも、このままでは雰囲気が悪くなり、最悪の場合はアリサがアナグラ内部で孤立してしまう。

 本人は気がついて無いかもしれないが、既にアリサだけの問題では無く、その結果的として同じ部隊の自分自身にも影響が出始める内容となっていた。

 しかしながら、この状況だけは何とかしない事には後々影響が出ないとも限らない。そう考えたエイジは一つの賭けに出る事にした。

 

 

「ねえアリサは趣味とか、気になる事はないの?」

 

「突然なんですか?今その話と関係無いですよね?」

 

「いや、何もないなら寂しい人生だけど、息抜きや気持ちも切り替える事でギスギスした気持ちが癒される事があるんじゃないかと思ってね」

 

「そりゃ…趣味位はありますし、やってみたい事だってありますよ」

 

何気ない一言だったが、この瞬間エイジは賭けに勝ったと核心していた。

 

 

「僕らゴッドイーターだって所詮は人間だ。戦闘マシーンじゃない。嬉しい時もあれば悲しい時もある。気持ちを引きずったまま戦場に出ればそのまま戦死なんて事になり兼ねないんだ」

 

 半ば強引な話題転換が功を奏したのか、アリサからの反論は無く話だけは聞いてくれる体制が整っていた。

 

 

「それに、ここ極東支部は世界中で有数の激戦区だ。皆こんな環境の中で生き抜いている以上はキャリアなんて僕ら以上だ。アリサの目からすれば皆が適当に見えるかもしれない。でもそれは戦場では常に最高のコンディションで戦おうとする気持ちの表れなんじゃないかな?」

 

 エイジの言葉は詭弁にしか過ぎない。しかし、この場では確認する術はどこにも無い。断定的に言われるとアリサは何も言えなくなっていた。

 常に高圧的な態度ではなく時折見せる素直な面も備えている。残念ながらその本質を知っている人はまだ誰も居ない。

 エイジ自身が1週間ほど一緒にミッションに行って初めて分かった事でもあった。

 

 

「沈黙は肯定と同じだよ。折角綺麗な顔しているのに、そんな顔ばかりだと眉間にしわがつくよ」

 

 まるで子供を諭す様に言われ、さりげなく褒められた事に気が付く。

 そう言われハッとアリサは眉間を触ると同時に子供扱いされた事に若干怒りが混みあがったが、何故か悪くないと思っている自分がいる事に気が付いた。

 

 

「屋敷の子供より聞き分けが良くて結構だよ」

 

 少しは見直そうかと思った矢先にこのセリフ。

 全く持って残念な位に人の気持ちには鈍いエイジ。アリサがどう考えるかなんて気にもした様子は一切ない。せいぜいが子供の喧嘩の仲裁程度にしか考えていなかった。

 そんな事に気がついたアリサは何と無くだが、面白く無かった。

 

 

「子供扱いしないでください。ちょっとばかり先に配属されたからって、私とはそれ程変わらないはずです」

 

「ごめんごめん。そんなつもりじゃなかったんだけどね」

 

 

 ようやく落ち着いたと思ったところでエイジの腹が鳴った。

 よくよく考えればミッションから帰って晩御飯と思った所に今回の騒動に巻き込まれた形となった為にまだ何も準備すら出来ていない。謝りながらも今晩はどうしようかと思案している最中だった。

 

 

「エイジか。時間あるなら食事でもどうだ?それとも、もう食べたのか?」

 

 後ろから声をかけたのは暫くの間アナグラに滞在する事になった無明。

 気がつけば時間的にはもうそんな頃合いでもあった。

 

 

「いえ。兄様、まだこれからです。ひょっとして何か食べられるんですか?」

 

「実験農場で好評だった食材がようやく流通に乗ったからその品質チェックがてらの試食会だ」

 

 

 アリサが居る事などすっかりと忘れていたエイジだったが、その存在に無明が気づく。

 

「エイジ、彼女は誰だ?」

 

 そう聞かれて存在を忘れていた事にようやく気が付いたのか。慌てて紹介する事になった。

 

 

「アリサ・イリーニチナ・アミエーラです。現在は第1部隊所属です」

 

「リンドウの部下か。あいつは適当な所があるから大変だろうが、よろしく頼むよ」

 

 腕輪とエイジの会話からベテランなのはすぐに気が付いたが、何より体から出るオーラが他の人間とは違う。圧倒的な存在感があると同時に、話かけられるまではその存在に気が付く事も無い程の異質な何かがそこにはあった。

 

 

「デートだったか。邪魔して悪かったな」

 

 そう言いつつ無明は去ろうとしていたが、エイジとしてはここで引き止めないと食事にありつけなくなるのは非常に困る。自分で作っても良いが、無明が作る食事は自分が作る以上の出来栄えなのは確認するまでもなかった。

 

「いいえ、ちょっとした話があっただけで問題ありません」

 

「そうか、他のメンバーもいるが、良かったらそこの彼女も一緒に来るか?」

 

「アリサもまだだよね。兄様のメ食事は旨いから一緒に行こう」

 

「えっ?ちょ、ちょっと待って下さい…」

 

 アリサの返事も録に聞かずにそのまま強引に手を引かれる。突如の展開にアリサの意識は追いつく事はなく、そのまま一緒に行く事になった。

 

 

 

 

 

 


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