神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第8話 配属

 コウタとの任務遂行にも慣れ、それなりに結果が出始めた頃、第1部隊に新しく新人が入るとの連絡がリンドウから聞かされていた。

 

 

「もう新しく配属されるんだね」

 

「だったら女の子が良いよな~」

 

「コウタはそればっかりだね」

 

 第一部隊はロビーに集合する様にとツバキからの指示で第1部隊の面々は集合する頃、ヒールの音がツカツカと聞こえ、全員がその音の元へと視線を集めていた。

 

 ツバキと共に歩いてきたのは2人。

 一人はまだ少女とも言える銀髪の女性。もう一人も同じ様な年齢の黒髪の男性が歩いてきた。

 

 

「本日一二○○付で極東支部に配属となったアリサ・イリーニチナ・アミエーラです」

 

 そう言いながらに軍人らしい敬礼をしたのはロシア支部から異動して来た少女。

 言葉の口調からか、その表情からなのか凛としながらもどことなく張りつめた雰囲気を醸し出している。その少女よりも驚かされたのは隣に立っていた黒髪の青年、エイジが衝撃を受けたのはその今日配属されたのはもう一人だった。

 

 

「同じく本日付で配属となった(まゆずみ)ナオヤです。よろしくお願いします」

 

 彼はエイジの友人でもあり、良きライバルでもあったその人だった。

 エイジは今日付けでまさか配属されるなんて事は聞かされてなかった事もあり、他のメンバーよりも驚きは一段と大きく、思わず驚きの声が漏れる。

 声が発せられた事で注目は浴びたが、そんな事よりも今の現状を誰よりも確認したい気持ちで溢れていた。

 

 本来ならば真っ先に問い詰めたい所ではあったが、流石にツバキの目の前でそんな暴挙に出るほど大胆な神経はエイジは生憎と持ち合わせていなかった。

 

 

「アリサは実戦での実績は殆ど無いが、訓練ではかなりのスコアを常時出している。」

 

 新人の教導には厳しいとされるツバキがここまで言及する事は稀なのか、リンドウとサクヤの表情に驚きと共に、若干の変化が見られていた。

 

 

「アリサは第1部隊、ナオヤは整備班に編入される。それとリンドウ。お前がアリサの面倒を見ろ。あとはエイジ、お前も若干ではあるが先に配属している関係上、その分面倒を見てやってくれ。新型同士何か共通する物もあるだろう」

 

 ツバキからも言われはしたが、自分の実績を考えれば指導する様な事は無い。

 せいぜい共通する何かがあればと考えながらも、自己紹介がてら話をすれば良いだろう。この時点ではエイジにそんな気持ちしか無かった。

 

 

「用件は以上だ。ナオヤは技術班に移動しろ」

 

 

 自己紹介が終わった事を確認したのか、そう言い放つと同時にツバキはロビーから立ち去って行った。

 

 

「女の子なら大歓迎だよ」

 

 予想外の美少女に喜びを隠しきれなかったのか、コウタは歓迎するかの様な口調で話かけた。

 

 

「よく、そんな浮ついた考えでこれまでやってこれましたね」

 

 何気ないコウタの発言に、まるで汚物でも見るかの様な冷たい視線。流石のコウタもこの物言いにはかなりへこんでいた。

 新人にありがちな緊張を和らげる手段だったのか、それとも本心だったのかは本人にしか分からない。恐らくコウタは場の空気を和ませようと軽い気持ちで言ったはず。

 そんな背景があったからこそ、流石のエイジもこれには内心驚きを見せた。

 

 見た目が綺麗なだけに、容赦のない言葉の一つ一つに鋭い棘がある。

 どんな人間であっても、初めて来た場所に対して中々こんな態度で臨む事は出来ない。

 もし出来るならば、余程の大馬鹿か大物のどちらかなのは間違いない。

 

 しかしながら言葉尻は確かに尊大とも取れるが、雰囲気だけ見れば、どこか張りつめた糸が切れる寸前の様にも見えている。

 目の前の少女は気負いすぎなのか単純にそんな性格なのかは今の段階で判断する事は何も出来なかった。

 

 これから同じ部隊となると苦労しそうだなどど、そんな事を考えつつもエイジは心の中ではコウタにドンマイと言うのが精一杯だった。

 辛辣な言葉をかけられた影響なのか、今だ立ち直る気配が無いコウタはそのまま放置し、エイジはサクヤやソーマの自己紹介しているのをどこか他人事の様な感覚で何気に見ていた。

 

 

「あなたが先に配属された新型適合者ですか?」

 

 他の事を考えていると、目の前に来ていた事に気が付かず、不意に話しかけられた。

 

「ああ、この支部初の新型適合者の如月エイジだ。新型同士よろしく」

 

 先ほどのコウタへの対応から気が強いと判断したエイジは失礼の無い様に笑顔で手を差し出す。

 

「あなたは先ほどの方よりはマジメそうですね。せいぜい足を引っ張らない様にお願いします」

 

 握手するつもりで差し出した手には関心すら持たず、何事もなかったかの様にスルーだったのはのはともかく、ちょっと挨拶しただけでのこの物言い。感覚的に恐らくは前途多難になる未来が容易に想像できた。

 エイジとしてはなるべく穏便に過ごしたい事もあってか、出来る事なら任務以外ではお近づきにはなりたくない。それがアリサに対する第一印象だった。

 

 未だに動く気配が無いコウタの事は見なかった事にして、リンドウも流石にこの空気のままでは今後の事も考えると拙いと判断したのか、この空気を払拭するかの様に早速エイジとアリサを引き連れてのミッション受注の為にカウンターへと足を運ぶんでいた。

 

 気が付けばソーマは既にどこかへ避難をしに行ったのか姿は見えず、サクヤはリンドウと共にそそくさとカウンターへと足を運んで行った。

 

 未だへこんだ状況から立ち直れないコウタを尻目に、確実に面倒な事になりそうだと思いながらも表情に出す事はなく、その様子を遠くから見ていたヒバリでさえも流石に苦笑しながらリンドウに発注していた。

 

「では1時間後に宜しくお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミッション開始の5分前になり漸くリンドウが姿を現した。遅れて来た事は意にも介さず何時もの如く飄々とした雰囲気のままだった。

 

 時間が押し迫っている事もあってか、既に2人はスタンバイ状態となっている。

 

「相変わらずの重役出勤ですね」

 

「そう言うなよ。こっちも色々とやる事だけは多くてな。準備が出来てるなら早速だがミッションを始めるぞ。今日は新型2人とか。まぁ、足を引っ張らないように頑張らせてもらうわ」

 

 どんな人間でも初戦は緊張感から動きが硬くなり、その結果まともに動くことすら困難な事もある。

 それは今まで訓練してきたシミュレーションではなく、命がかかった戦場ではある意味当然とも言えた。

 

 ただでさえ貴重なゴッドイーターの中でも新型神機使いとなれば、希少性はがぜん高くなってくる。そんな状態では出陣した後で直ぐにKIAで強制帰還となりかねない。

 緊張しているのであれば少しでも緊張をほぐし、元に戻したい、そんな心情を察したリンドウなりの配慮がそこにはあった。

 

 

「旧型は旧型なりの仕事をしてもらえればいいです」

 

 軍隊ほどの厳しい戒律がある訳ではないが、立場としては明らかに上官でもあるリンドウにありえない位の暴言。本来ならば即刻懲罰になってもおかしくない発言にその場に居たエイジも驚きを隠せず顔が引き攣っている。

 

 

「まあ、肩ひじ張らずに気楽にやろうや」

 

 そう言いながらアリサに対してリンドウは何気に肩に手を置く。

 その瞬間、何か起きたのかほんの一瞬顔を歪ませアリサが飛び退く事で流石のリンドウも唖然としつつも彷徨う手をそのままに平静を取り戻していた。

 

「おー随分と嫌われたな。アリサ、何があったかは知らんが焦っても仕方ない。とりあえず空を見て動物に似た雲を探せ。見つかってからこっちに来るんだ。それまでは絶対に来るんじゃない」

 

 先ほどの反応にアリサ自身も訳も分からないまま驚いていた。アリサとしても謝ろうにもなぜそうなったのか自分でも原因も分からず、リンドウに上官命令としてそう言われれば何も反論は出来ない。

 

 

「そんな事は不要です」

 

「ダメだ。これは命令だ」

 

 今までに無い真剣な表情で命令だと断定されれば、それ以上は何も出来ない。

 不満気な顔を隠すつもりもなく、アリサは1人空を見上げていた。

 予想外の素直な一面を覗かせたアリサを尻目に一先ずはエイジと共に安全地帯から戦場に駆け降りた。

 

 

「さっきの件だが、どうやらアリサはメンタルケアのプログラムがスケジュールに組み込まれている。詳しい事は知らんが、恐らくは何かあったんだろうな。エイジには悪いが、しばらくの間はミッションに関して付き合ってやってくれ」

 

 リンドウからそう言われれば、エイジも拒否する理由が無い以上、反論は出来なかった。メンタルケアが組み込まれているのであれば何らかの心理的な要因が影響しているのかもしれない。

 仮に何かあっても今のレベルでは出来る事はたかが知れている事も理解している。

 エイジも性格のキツイ人間の対応は今までに何度もした事があるので、今はそのまま頷く事にした。

 

 

 索敵をし始めた頃、ようやくアリサが現地に合流し始めた。

 物陰から見るとシユウが一体捕喰しているのが見て取れる。

 

 

「エイジは背後から攻撃、アリサは支援だ。良いな分かっ…」

 

「そんな作戦は不要です」

 

 リンドウが作戦の説明をし終わる前にアリサが独断先行とばかりにアサルトで発砲しだす。

 続け様に放った3発の内の最初の一発が頭部に着弾し、残りが背中に直撃する。

 背後からの攻撃にシユウがこちらに気づくと同時に、こちらに向かって走り出し一気に距離を詰めだしていた。

 

 

「チッ!仕方ないこのまま応戦だ」

 

 作戦なんて物ではなく、最初から乱戦覚悟の突撃をしたが、そもそも一体しかいないのであれば一人でも討伐出来る。

 本来の予定とは違い、力押しでも簡単に倒せる事は分かっている。

 しかしながら、初めてのチームであれば連携も確認しなければ今後のミッションにもそんな影響が出るかが判断できず、その為に敢えてこのミッションでは連携を確認する予定だった。

 そんなリンドウの意図も残念ながら今のアリサに伝わる事は無かった。

 

 

「なぜ、命令を無視した」

 

「私の仕事はアラガミを倒すことで、仲良しになりたい訳ではありません」

 

「今回はシユウ一体だったから問題なかったが、ここはロシアじゃない極東だ。突然の乱戦に巻き込まれる可能性も十分にある。今回はたまたま大事にならなかったから良いが、万が一の際にはお互いのフォローは必要不可欠だ。

 良いか。本来の俺達ゴッドイーターの仕事はアラガミを倒すのが仕事ではなく、人類をアラガミから守るのが仕事だ。討伐はそのついでだ。決して勘違いするんじゃない」

 

「でも」

 

「言いたくはないが、これは上官としての命令だ。死にたくなければ大人しく従え」

 

 普段は飄々としているリンドウがここまで真剣な表情で激しく言うのは珍しい光景だった。今では、そこそこ付き合いのあるエイジでさえも驚きを隠す事が出来なかった。

 

 

「すみませんでした」

 

 まさか素直に謝られるとはリンドウも思わなかった様だが、自分に非があれば謝罪する事が出来る事に驚くも、それを顔に出さずに内心感心していた。

 

 

「すまん。こっちも言い過ぎた。今後は気を付ける様に。あとエイジ、お前とアリサは暫くの間はミッションは必ず二人以上で受注する事。これは命令だ良いな」

 

 

 リンドウからの命令に一先ず了承するも、このままで大丈夫なんだろうかとエイジの胸中に不安がよぎる。

 それだけではなくリンドウから聞かされたメンタルケアのプログラム。これが一体どう影響するのか。現状を嘆いても何も変わる事はない。

 

 

 悲観した所で事態が変化するでもなく、一先ずはアナグラに帰投してからこれから先を考える事に決めていた。

 

 

 

 

 

 


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