神を喰らいし者と影   作:無為の極

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外伝25話 (第72話)暴露

 部屋での事を目撃され走り去ったシオを追いかけるべくエイジは無明の部屋へと急いだ。先ほどの状況を見たシオが一体何を報告するのか。そう考えるだけでも身震いしそうな気持を抑え、今はただ無明の居る部屋へと急いだ。

 

 

「兄様、入っても宜しいでしょうか?」

 

「良いぞ」

 

 一言そう伝え、返事と共に入った部屋には今回の任務に携わった人間が一同に勢揃いしていた。その表情は明るく穏やかながらに何か言いたげな表情から、きっと何か言われるだろう事を考え様子を伺いながら部屋へと入った。

 

 

「アリサが目覚めたんだってな。検査の結果も何も影響が無かったらしいから、まずは一安心ってとこだな」

 

「アナグラも一時は騒然としてましたが、今は平常ですよ。アネットさんには私から伝えておきましたのでご安心ください」

 

 シオから言われた事かと構えていたが、純粋に心配された事でタツミとヒバリには心の中で詫びながらも話をしていた。今回は緊急特化条項は発令されていた関係上、全員がこの事実を知る事は無い物の、その場に居た当事者たちは任務に励みながらも心配はしていた。

 アナグラの中でも攻撃特化型の2人が不在であれば、何かが起きたのではと一時は混乱寸前の所まで行ったものの、結果的にはヒバリのフォローで事無き事をえていた。

 

 

「アリサ君に関してだが、暫くは衰弱していた事もあるから療養してもらう事にするよ。ここなら人の手があるし困る事も無いだろうから、少しは落ち着くだろう」

 

「エイジ、お前もご苦労だったな。今回の任務に関しては極秘事項がいくつか含まれている。知っての通り、部隊長ならばその意味が分かると思うが他言無用だ。ついでに暫くの間出撃が続いていたから、お前も明後日までは休暇とする」

 

「姉上の言う通りだ。お前は少し無茶をしすぎだ。これを機に少しは身体を休ませろ」

 

「しかし、アラガミの襲撃は?」

 

「あれは大車との繋がりが確認された。今は以前よりも出撃の頻度は少なくなっている。既に第2.第3部隊だけで討伐は可能だ。心配する必要はないぞ」

 

 無明からそう言われ、それ以上の事はエイジには何も言えなかった。今回の任務においては今までの任務とは全く性質が異なり、エイジの人生の中でも対アラガミ以外の戦闘はほぼ初めてとも言える内容でもあった。

 幾ら来るべきに時に備えて鍛錬しているとしても、今回のミッションでエイジは生まれて初めて人を斬っている。アリサの救出が目的とは言え、罪悪感は消える事は無い。

 それは見えないまでも過大なストレスとなり、結果的には目に見ないレベルでの疲労感がエイジを蝕んでいた。

 

 

「ま、大好きなアリサもここにいるから良いじゃねえか」

 

 しんみりとし始めた頃、まさかの爆弾がリンドウから落とされていた。今までの話からすっかり警戒心は解けていたが他のメンバーの顔を見ても何となく見守られている様な空気がそこには存在していた。

 

 

「え、な、何の事でしょうか?」

 

「今更何言ってんだ。あんなにアリサって叫びながら攻撃しておいて、その後も俺たちの事なんて眼中にすらないまま走って行ったのはお前だろ?あんなに大事抱きかかえてて見てるこっちが恥ずかしかったぞ」

 

「シオもさっきアリサとエイジがくっついてたの見たぞ」

 

「避妊はちゃんとしておけよ。あと、病み上がりなんだから無理はさせるなよ」

 

「は?え?え?」

 

 エイジの気力が回復する間もなく、今度はシオの口から第二弾が飛び出した。これ以上言われると自分がどうすれば良いのか分からなくなる。そんな状況がそこにはあった。

 改めて他のメンバーの顔を見ても、タツミは隣にいたヒバリに先ほどの発言に対しての注意から頭をはたかれたのか頭を抑えながらヒバリとニヤニヤし、リンドウも何か言いたげなのが分かる。シオは恐らく見たままの事をそのままダイレクトに言った事だけが理解できていた。そんな雰囲気が皮肉にもアナグラに帰って来た事を実感させられていた。

 それ以上は勘弁してほしい。今のエイジにはそれ以外考える事が出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ無明、任務中に言ってた事だが、あの説明をしてもらおうじゃないか?」

 

 散々エイジをからかいながも用意された食事を楽しんだ後、ここに残る人間以外はアナグラへと戻った。この場にはリンドウ以外にツバキとエイジしかいない。今回の任務は特例中の特例とも言える内容である為に、あの場にいた人間にすら知らされていなかった。

 食後とは言え、まだ明るいにも関わらず若干酒が入っていたが、リンドウの目は真剣そのものである以上、これ以上の秘匿は無理と判断し改めて関係者に説明する事となった。

 

 

「どこから話したものかだな」

 

「今までの事全部だ」

 

「…仕方ないか。なあリンドウ、お前はこの極東支部の中では恐らく現役の最古参だよな?」

 

「ああ。それがどうかしたのか?」

 

「今までの任務のミッションの中で他の支部と比べて異様な程に殉職が多いのは理解しているよな?」

 

「アラガミが他よりも強いからだろ?」

 

「まあ、それも原因の一部なんだが…」

 

 この時点でも本当の部分を話しても良いのだろうか?僅かな時間とは言え、無明は本当の事を話すのにためらいが生じていた。話した所で現状では裏を取る事は最早出来なくなっている。仮に出来た所でそれを弾劾する事は最早不可能とも言えた。

 しかしながら、今回の騒動の一因に今は居ない当事者が関与されているのであれば、これ以上隠した所で問題は無い。そう判断して改めて話す事を決めた。

 

 

「今回の任務の元凶とも言える一端を作ったのは前支部長のヨハネス・フォン・シックザールの政策が要因なんだ」

 

 突如として出た名前にリンドウだけでなく、エイジも思わず息を飲んでいた。今回の内容とヨハネスの名前に関連性が見いだせない。やはりと言った思いでその表情を確認した事で、無明はそのまま言葉を告げていた。

 

 

「いくらフェンリルとて、この地域の全人口をこの外部居住区に住まわすのは不可能と判断し、一部の住民を切捨てた。当時の事を考えれば仕方ない部分もあったのは否めないが、それでも当時の事を今でも不満に思う人間は少なくないのもまた事実だ。

 アラガミ防護壁が無い状態での生活は無理もあるし、毎日が怯える結果となる事を分かった前提でだ。もちろん、単に放り出した訳では無く一応はゴッドイーターの派遣も踏まえた上での話だった」

 

 この時点での話にはリンドウも良く知っている話だけあったのか、理解の度合いは早く大よその見当もついていた事が無明にも理解出来ていた。また、それが全ての理由にもならない事も同じく理解していた。

 

 

「そこまでは良かった。大義名分もあったからか、本部からも特に何も言われなく過ぎたんだが、ある日を境に何か引き返す事が出来ない事があったんだろう。突如全ての事を放棄し、守護するゴッドイーターを引き上げる事になったんだ」

 

「幾らなんでも唐突過ぎるだろ」

 

「まあ、話は最後まで聞け。当時は十分な説明も無く突然の事で問題が生じ、その結果、守護していたゴッドイーターは住民によって殺されたんだ。

 なあリンドウ。ゴッドイーターはアラガミに頭と腕輪以外の部分を捕喰されても大丈夫なのは知っているだろ?」

 

「まあ、それ位は…」

 

「住民もそんな事は知っていたから、意識を失わせた所で頭を潰したんだ」

 

「おいおい…そりゃ幾ら何でも…」

 

 初めて知る事実に、リンドウは驚きを隠す事は出来なかった。護っていた筈の住民からまさか背後から刺されるような真似をされるとは思っていなかったのだろう。話はこれだけでは無かった。

 

 

「当たり前の事だが、そうなった事で激怒した前支部長が今後の防止策と称したゴッドイーターの改造計画を打ち出し、実行する間際まで来た際にこの事実を俺は知ったんだ。

 結果的には知っての通りだがアーク計画の破綻によって一部の人間の脱出計画と当時に改造計画も無かった事にされたんだ。もちろん、住民は自分のIDは削除されてるから配給も受ける事は出来ない。後はどうなるか考えれば分かる話だ」

 

「そこまでは分かったけど、お前とは関係ないだろう?」

 

「関係あったんだ。その中に俺の身内も入っていたのと、やり方があまりにも姑息すぎたのも原因だ。表に出すと何かと面倒だから、表面上は従ったフリはしたが、向うは何事も無かったかの様に気にもしていない。そんな事が続いたときだ。半死半生の神機使いの討伐任務が入ったんだよ」

 

 

 この時点で、今まで気にした事が無かったはずの事実が突如思い出されていた。

 隊長には部隊員が万が一アラガミ化した際には介錯とその情報を隠蔽する義務が生じている。これは隊長になった際の責務の一つではあったが、リンドウが部隊長になってからは一度もそんな場面に遭遇する事は無かった。

 

 

「そのゴッドイーターは外部居住区から放り出された人間がなっていたのと同時に、その住民たちも守っていたんだ。俺は交換条件として介錯し続ける事を前提に、その後を引き継いだんだよ。だからこの極東では同族殺しとも言える行為が一切無いんだ」

 

「ちょっと待て。IDがなきゃ適合確認出来ないだろ?」

 

「住民としてのIDは抹消したが、適合に関しては残したんだろう」

 

「マジかよ…」

 

 話を聞いた所で、リンドウは後悔していた。本来であれば、部隊長がやらなければならないはずの責務を一人に押し付けていた時点で問題があったが、まさかそこまでだとは想像もしていなかった。

 この内容から判断すれば糾弾されるのは間違いなくフェンリル側になる。しかもその矢面に立つのは亡くなった前支部長ではなく、間違いなく現場に出る事が多い部隊長なのは考えるまでも無かった。

 

 

「まあ、そんな暗部が今も続いている事は一部の人間以外は誰も知らない。今の時点では榊博士とツバキさん位だ」

 

「だからか……姉上、何で俺に話してくれなかったんだ?」

 

「お前に話した所でどうにも出来ないだろう。一個人の見解とは言え、相手が大きすぎるならば、その部分は知った人間だけで処理すれば良いと判断したんだ。お前が気に病む必要はない」

 

「じゃあ、行方不明になったゴッドイーターが多いのは……」

 

「お前が想像している通りだ。改造計画に巻き込まれているんだろうな」

 

 人類の守護者であるはずが、暗部では一部とは言え家畜同様の扱いをされているとは全く想像出来なかった。今あるのは自分達の努力の結果だと信じていたが、その実は誰かの犠牲の上で成り立っていた事にリンドウだけなくエイジも憤りを感じていた。

 しかも実行した当事者は既に他界しているのであれば、怒りの矛先をどこに向ければ良いのかすら考える事が出来なかった。

 

 

「もちろん、こちらにもメリットがあったから引き受けたんだがな」

 

「それが屋敷の事か」

 

「そうだ。そんな背景があったからこそ自分が手の届く範囲の人間位はと思ってやっているんだ」

 

 想像以上に厳しい内容ではあったが、今いるこの屋敷の中に住んでいる人間はある意味外部居住区の人間よりも生き生きしている事は初めて来たときから分かっていた。聞かされた理由を聞いて漸く納得できる部分があった。

 

 

「だから、ここは事実上の治外法権なんだ。全員は無理だが出来る限りの支援はしている。これは極東だけではなくフェンリルも知らない事だ」

 

 衝撃の事実に理解が追い付かないのか落ち着かせる為なのか、リンドウはタバコは反対に咥え火をつけようとしていた。

 

 

「リンドウ、タバコが反対だ。で、ここは禁煙だ」

 

「そうだったな。すまん」

 

「湿っぽい話はここまでだ。俺自身は何も後悔はしていない。理解者もいるからそれで十分だ」

 

「兄様、それってツバキ教官の事ですか?」

 

「そうだな。エイジ、お前はそろそろアリサの所へ様子を見に行ってくれ。衰弱していたとは言え、ゴッドイーターの身体能力ならばそろそろ大丈夫だろう。これでこの話は終わりだ今後は話すつもりは何も無い。お前も胸の内にだけしまっておいてくれ」

 

 

ここで漸く極東支部にとっての重苦しい時間が終わろうとしていた。

 

 


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