神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第7話 相談

「悪いな無明。で、どうだった?」

 

 

 帰投したリンドウは片手に先ほどロビーで配った物とは違う物が握られていた。

 話の内容は先日の休暇の際にエイジに持たせたディスク。解析した結果の一部が分かった関係で簡単にメールでは無く、敢えて直接話す事にした。

 

 

「その前にリンドウ。あの中身の件だが他に誰が知っていて、どこまで把握している?場合によってはお前の命を危険に晒す事になるかもしれんぞ」

 

「流石にお前でも情報の出どころは言えない。迷惑がかかる可能性が高いのと、今後の動きにも影響が出るからな。で、結論はどうなんだ?」

 

 やんわりとした警告に怯む気配は微塵も無い。これ以上の事は聞いた所で大人しくリンドウが話すとは思えなかった。

 機密情報の取扱いがどれほどまでに危険なのかは、リンドウ以上に無明が一番良く知っている。だからそ、危機感が薄く感じるリンドウの心配をしていた。

 

 

「残念ながらお前が想像している通りの結果だ。かなり危険な内容だから取扱いには用心した方が良いかもな」

 

「やっぱりか。その件は何とかするさ。で、話は変わるけど、これどうした?俺としては折角何か食べるんだったら、酒の肴の方が良かったけど」

 

 リンドウが手に持っているのはクレープ。ただし、中身はクリームではなくリンドウの物は生ハムやチーズ、野菜をが包んであるガレット。ケーキやタルトは第1部隊が帰ってくる頃には跡形もなく、急遽別で用意した物だった。

 

 

「サクヤは作り方と材料がどうだとか言ってたから、後で頼むわ。ソーマも何だかんだと食べてたけど後は知らね」

 

「そうか。レシピは後日伝えておこう」

 

「それと、エイジとコウタは喜んでたな。って言うか普段からお前はあんなもの作ってるのか?」

 

 無明が来てから、リンドウが出撃前の状況から考えると今の状況が、ありえない事になっているのか、帰ってくれば予想外の出来事になっているのが不思議で仕方ないと言いたい状態でもあった。

 リンドウ自身、表舞台から消えた無明に関しては知らない事も多く、以前に一度本人に聞いては見たものの、結果的にはぐらかされて終わっていた。

 

 

「これも踏まえて今後の極東支部全体としての打合せを支部長としてたんだ。勿論ディスクの事は伏せてだがな」

 

 無明はロシアでの掃討戦以降、表舞台から幻だったかのの様に遠ざかっていた。

 当時の部隊長でもあったツバキにはしつこい位に理由を聞いたが、答は何も返って来ない。

 

 仮定にしか過ぎないが、あの一級品とも言える戦闘能力だけではなく、その分析や行動力。いかなる状況であってもそこから状況を立て直す事が出来る能力は、間違いなく将来のアナグラを背負う事が出来るはずだった。

 だからこそ、その能力を表に出そうとしない無明には、ある意味憤りを感じる事もあった。今でこそリンドウがは第一部隊長を勤めているが、本来ならば無明こそが隊長に相応しいと考えていた。

 

 そんなリンドウの思いを他所に、たまに来る連絡と言えば食材や神機制作などおおよそ戦場からはかなり遠い存在となっていた事に対し、リンドウは無明の能力の高さを誰よりも知っているからこそ歯がゆい思いで聞く事しか出来なかった。

 

 

「心配しなくても戦場には材料収集で出てる。先日も新型の装備の試作と試運転を兼ねて特務でスサノオを3体討伐したばかりだ」

 

「お前、スサノオ3体って本当に特務なのか?少なくとも俺には無理だ」

 

 今いるメンバーで無明の戦い方を知っている人間は意外と少なく、他からすれば退役した神機使いか、せいぜいが技術班程度にしか思われていない。

 仮に現役として戦線に出たところでその動きを認識し、理解する事が出来る者はごく僅かとも言えた。

 

 今の世代はリンドウ達がまだルーキーだった頃の人間は既にツバキ以外誰もおらず、更にはアナグラに殆ど居ない事も手伝ってか人によっては腕輪があるから何となくと言った程度の想像をする事でしかない。

 

 

「俺がそれ以上言っても無意味だな。ま、互いに死なない程度にやろうぜ」

 

「わざわざお前に言われるまでもない。ところでツバキさん見かけなかったが、どうしている?」

 

 

「あー、姉上ならちょっとした事で今は出張中だ。予定だと明日には戻るはずだ。何か用事でもあるのか?」

 

「ちょっと相談したい事があってな。居ないなら仕方ない」

 

「随分とご執心だな。何か怪しくないか?」

 

 無明としてはこれ以上の話題について説明するのも面倒だと感じ、強引に話を別方向へと転換する事にした。

 

 

「折角良い物持ってきたが、これはお前には勿体ないから他に持っていくぞ」

 

 そうやって出されたのは、実験農場でつくられた日本酒。今では貴重な米を極限にまで磨く事によって余分な雑味を抑え、その精米をふんだんに使用する事で飲みやすさを追及している。

 本来であれば現場に勤めるゴッドイーターが受け取るのは不可能とも言われるほど貴重かつ上等な一品。

 

 ゴッドイーターも嗜好品の配給チケットを使用する事で様々な物と交換できるが、今回持ってきた物は上級官職以上で無いと交換出来るはずの無い士官配給チケット交換品。

 幾らリンドウの立場と言えども交換は難しいとされる代物でもあった。今回の支部長との会談の一つが、これら上級嗜好品の製品化と量産化の話だった。

 

 

「ゲンさんなら喜ぶだろうから持っていくぞ」

 

「分かった。これ以上は何も言わないからそれは置いてってくれ。とりあえず呑んで良いよな?」

 

 早速、日本酒の蓋を開け軽く飲んでみると、純米酒でもあるはず日本酒でも中々味わう事が無いほどフルーティーな香りとキレのある味。

 今までの人生の中で一番とも言えるレベルなのは最初の一口で分かる。これを飲んだ後では配給ビールは水かジュースだと言われても納得できる程の味わいだった。

 

 口に合ったのか、気が付けば一口どころか既に一升瓶の半分位は消え去っている。どれほどのレベルなのかは考える必要性が無い程に呑んでいた。

 

 

「そう言えば、例の絡みか分からんがロシアから新型適合者がここに来るらしいぞ。支部長の話だと今後は新型の発掘に力を入れるらしいな」

 

「新型ねぇ。旧型は益々追いやられる事になるのか知らんが、戦力が増強されるなら少しは楽出来そうだな」

 

 リンドウは既に半分以上出来上がり、顔も若干赤く意識も怪しい。無明に対してだけなのか、酔っているからなのか普段以上に饒舌になっているも、一升瓶だけは手放すつもりは全く無いのかしっかりと握られていた。

 

 

「暫くはここに出入りするから何かあったら声をかけてくれ」

 

 恐らく今日はこのままになる事に間違いないのは見ただけで分かる。

 酔っ払いの介抱をするほどお人よしではない。いざとなればサクヤに丸投げすれば良いだろう。そう思いつつ無明はリンドウの部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、無明君。今日はどうしたんだい?」

 

「実は先日試運転で試した神機の制御の件ですが、もう少し改良が必要になりそうなので、時間がかかります」

 

「データはこちらでも確認したけど、中々ユニークな試みだね。並行励起させる事で解放レベルを引き上げるのは良いが、扱うには代償が大きすぎるんじゃかな」

 

「暫定仕様なので、今後は改良する事にしますが、現状だと実戦に対して厳しい部分が多すぎます。あとは元々の使用するコアレベルにもよるのかもしれませんが」

 

「こちらでも開発はしているけど、実際には君の開発の方が一段上に行っているから、こちらとしてはそのデータを元に検証するのが手っ取り早いかもしれないね」

 

 新型神機使いの発掘と開発が優先とは言え、現実的な部分では極東支部は依然として旧型神機使いの数が圧倒的に多い。今の所は本部でさえも新型の開発が一番となり、旧型の開発が遅れている事実があった。

 

 しかしながら、神機の開発に関しては全部が本部で開発している訳ではなく、各支部ごとにその導入や運用は異なっている。実際には神機の内容も各支部ごとに開発度合いが大きく異なる為に、最前線でもある極東支部に比べれば他の支部の神機のレベルが極東に比べれば劣っているのは紛れも無い事実となっていた。

 

 

「この調子だと、そのうち本部から招聘なんて事もあるかもしれないね。その時君はどうするのかな?」

 

「今の現状で手一杯なので無理でしょうね。屋敷の事もありますから」

 

 神機の開発はそのまま戦力に反映される。その関係もあってか、新規開発が進んでいくと、開発者は争う様に本部へと招聘されていた。

 この事は榊も知っていたが、今の状況をそのまま見捨てて本部へ行くなどとは思っても居ない無明に改めて問いかけていた。

 

 

「そう言えば、いつまであそこは秘匿状態にするつもりだい?」

 

「もうしばらくはこのままで行こうかと。時期を見て公表します」

 

「そうかい。楽しみにしているよ。そう言えば君の屋敷から来たエイジ君。戦績が随分と伸びているらしいね」

 

 現在第1部隊に所属している如月エイジは、元々無明の屋敷に居た。

 エイジに限った話ではないが、アラガミに両親が殺されたりした子供を引き取り、場合によっては手に職をつける様な事もして各自の能力を高めていた。

 事実、屋敷の人間は一定以上の訓練が常時されている事もあり、一般人の中ではあらゆる面で高水準の能力を有している事が多かった。

 

「あれは、自分の動きを真似ながら、色々と改良して現在のスタイルになっています。出来る事なら、こちらのシガラミは受け継いでほしくは無いんですが」

 

 無明の言葉には色々な意味での実感がこもっていた。第6部隊は公には存在していない事になっている。

事実他の隊員は誰も所属せず、実際には無明が一人で所属しているワンマンアーミー。

 

 下手に公にした場合、フェンリル上層部の人間の何人かのクビが飛び、場合によっては一つの支部が壊滅する可能性を秘めた様な機密を扱う事が多い為に、万が一情報漏えいが発覚するとなれば、色々と混乱が生じる関係上アナグラではごく一部の人間のみが知る事となっていた。

 それ故に一部隊長の権限ではその存在そのものを確認する事は不可能だった。

 

 

「あと近々、技術開発班にも一人回します。腕は確かなので、その時はお願いします」

 

「人手は多いに越した事はないからね。我々としては人員の補充は助かるね」

 

 

 神機の開発状況の報告と新たな人員の報告に関してそう伝え、無明は榊が居る研究室を後にした。

 

 

 

 

 


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