神を喰らいし者と影   作:無為の極

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外伝21話 (第68話)戦局と決意

 ディアウス・ピターと言えど、4本足の生物を模している以上、急な方向転換や攻撃対象が散った際には確認の為に動きが止まる。3人はその瞬間を狙ったかの様に各々が一気に捕喰しバーストモードへ移行していた。

 反射的に前足で無明を攻撃しようとモーションを起こした瞬間、前足の可動域では不可能とも思える場所へと一気に潜り込み、死角から前足を一瞬にして斬り落とした。

 足が一本無くなった事で大きくバランスを崩し、ファンブル状態になると、リンドウとエイジがマントに向かっての一斉射撃を始める。本来であれば耐久力が高いはずのマントだが、銃撃との相性なのか、それとも何らかの力が働いたのか、対象はすぐさま結合崩壊を起こしていた。

 

 

「なあ、バーストモードに入ってから急に威力が上がった様に思えるけど、何かしたのか?」

 

「それは仮面の副次的な能力だ。神機に付ける制御装置に似た物が組み込まれている。その影響で威力と瞬発力が上がっているから気を付けないとスタミナが一気に無くなるぞ」

 

「なるほどね。まぁ、気にしながら戦う事にするぜ」

 

 

 この時点で制御する事で優勢を保っていたはずが、一転して劣勢に変わる。こんなはずではと思う気持ちと同時に、あいつ等は誰なんだとの考えが同時に働いていた。明らかに攻撃能力の高さはこれまでの人生の中でも記憶が無く、仮にゴッドイーターだと仮定しても、こうまで対人戦に慣れている可能性は無いとも考えていた。それ程迄にアラガミと人間には大きな隔たりがそこには存在していた。

 しかし、いくら考えた所でその答を知る物はおらず、このままでは放ったはずのアラガミでさえも無くなるのではとの思いから、すぐさま脱出を図ろうと行動に移す。テロ組織とは言え、一つの集団の長ならではの危機管理能力が発揮されていた。

 

 

「貴様には聞きたい事がある。この場から動くな!」

 

 無明の叫びと同時に鋭利な物が足を貫き、すかさず行動制限をかける。テロ組織の人間とは言え、ある程度の痛みだけならばこらえながら移動する事は出来るが、それは想定外とも言えるレベルの痛みが走り、目をやれば生憎と刺さったのは一つではない。

 両足を見れば、そこには二本の大きな針の様な物が刺さり、太腿を貫いたままだった。

 

 本来バーストモードは生きたアラガミの力を神機へと流し込んで新たな力として流し込む。本来であればこの工程はどんな神機使いであったとしても皆同じ条件となっている。しかし、今回のバーストモードはそれ以上とも思える効果を発揮していた。

 無明の説明では仮面の影響とは言うが、実際には若干内容が異なっていた。どんな物でも外部から何かを摂取してエネルギーに変換する場合、必ずと言って良いほどエネルギー変換に対するロスが発生する。

 その影響は大局的な見方からすれば僅かとも取れるが、ギリギリの戦いや戦闘時に起因する制御装置が取り付けられていた場合、使用者には大きな差となって反映される事になる。にも関わらず、今回はそのロスが全くと言って良い程起こらず、結果としては高効率のエネルギーをそのまま摂取していた。

 その結果として多大なる恩恵があるが、それと同時にその際における消耗も早くなる。

 本来であれば時間をかけてその欠点とも言える部分も克服するが、緊急出動の為に今のままでの使用となった。その為に大きな弊害とも言える部分が生じていた。

 しかしながら今はデメリットよりもメリット方が大きく、任務の内容から時間に制限があると感じている為に些細な部分には目を瞑っての行動だった。

 

 あらゆる部分が結合崩壊を起こすと同時に、今まで活発に動いていたディアウス・ピターは一気に瀕死にまで追い込まれ、そこからの絶命はあっと言う間の出来事だった。

 現状ではディアウス・ピターを超える様なアラガミは殆ど存在しないと思われている事もあり、事実上はほんの一時とも言える様な時間での討伐が完了していた。

 いかなる状態であろうともコアの回収はゴッドイーターとしての責務である以上、エイジはコアの回収に向かうと同時に、無明は動けなくなった組織の人間に詰め寄った。

 

 

「あの装置を作ったのは誰だ?」

 

「貴様に言う必要性はあるまい」

 

 テロ組織のトップだけあってか、詰問程度では意にも解さない様な話ぶりを続け、肝心情報に関しては何も話すつもりは無かった。本来であれば即斬り捨てるが、今回のアラガミの制御に関しての情報は必要だと判断した結果、生かす事になっていた。

 

 

「まさかとは思うが、その話をしなければ殺されないとでも思ったのか?」

 

 無明の慈悲も感じる事がない言い方に、普段から接しているリンドウですら戦慄を覚えていた。

 本来であればこの任務はゴッドイーターが受けるべき任務ではない。となれば、こんな場面に遭遇する事は当然無い。それほどまでに今の無明と普段の無明はどちらが本当なのかを判断し兼ねていた。そんな思考は男の悲鳴と同時に現状の戻される事になる。

 思考の海にもぐりつつあったリンドウはそこにいた男の腕が見当違いの所に落ちていた事に気が付いた。本来であれば、制御装置が手元にあるのであれば、わざわざ確認する必要は無い。

 その中身のデータを解析すればこの一連の状況をある程度把握できる。にも関わらず無明は態々生かし確認する事で時間の短縮を図っていた。そんな考えは相手に伝わる事もなく、ただ命が惜しいのか意地で答えないのかその考えは本人以外には分からない。

 

 

「時間が無い。何も言わないのであればこれで終わりだ」

 

「待ってくれ。これは大車から受け取ったものだ。やつの研究については何も知らない。本当にこれ以上の事は知らない……だから……」

 

「そうか」

 

 そこから先の言葉を聞く事は出来なかった。当初の予定通り、情報を全部吸い上げれば用が無いとばかりに無慈悲に斬り捨てた。肩口から袈裟懸けに鋭く振り下ろした斬撃が身体を一瞬にして分断している。

 そこには握られていたはずの制御装置だけが転がっていた。

 

 

「無明、そこまでしなくても」

 

「どのみち生かすつもりは無かった。仮に生きながらえさせても、後々刃を向ける可能性は高い。こんな状況で改心するなら最初からこんな事にはならない」

 

「でもよ……」

 

「リンドウ、気持ちは分かるが、最初に言った様に今回の任務は最初から血塗られる事が前提だ。ここで手心を加えても良い事は何も無い。ならば最初から斬り捨てた方が後々の為だ。だからこそ忠告したはずだ」

 

 そこまで言われて今のリンドウに反論するだけの材料は何も無かった。

 確かに最初に忠告はあった。その結果がこれである以上は自分でも覚悟をしていたつもりだった。しかし、この現場を見て思ったのは、覚悟のつもりであって、覚悟した訳ではない事を改めて理解していた。

 そして以前の戦いのさなかにヨハネス支部長が出たした言葉を口に出していた。

 

 

「だから極東の影か……」

 

「そうだ。だから俺は表舞台から退いたんだ。これはあくまでも汚れ仕事だ。これについては俺だけではない。屋敷に居る者すべてに当てはまる事だが、自分の命は自分の物であると同時に誰かの役に立たせる事も前提として過ごしている。

 この辺りはゴッドイーターと変わらないかもしれないが、アラガミと人間は同列には出来ない。だからこそ自分だけで出来る事をこなす。ただそれだけだ。現実は残酷で儚いものだ。理想は大事だが、俺にとってはそこまで大事だとは思わない。目先の事が出来ずに未来を見る事は出来ないのは道理だからこそやるんだ」

 

 甘い考えと言われればそうなのかもしれない。この時代は無常とも言える程に残酷な物。

 そんな事を一番理解しているのは極東支部の中ではリンドウ位なのだろう。長く任務に付くのは、それと同時に数多い犠牲も見ている。無明の言葉はある意味真理である事は理解しているが、今の段階では何も言う事は出来なかった。

 

 

「むやみやたらにこんな事をしている訳ではない。今は時間が惜しい。この先を急ぐのが先決だ」

 

《無明、目の前にある扉の隣が地下へとつながっているはずだから、恐らくはそこが最終地点のはずだ。リンドウの馬鹿には私からも言っておく。先ほどの話の内容はこちらでも調べておく。あとは頼んだ》

 

「大車がからんでいるならアリサが危ない。兄様、早くしないとアリサの身の安全が」

 

「リンドウ、その話は帰ってからだ。とにかく急ぐぞ」

 

 状況がおぼろげにも見え始めるも、リンドウ自身が知らない事実を聞かされ、僅かながらに動揺が走る。本来ゴッドイーターも人類の守護者と言われ、アラガミ討伐をこなしてきた。しかしその根底にあるのは一般人をアラガミから護る為になったもの。

 ただ、相手がアラガミではない事を無条件で許している自分がそこに居た事も改めて理解していた。考えは無明もリンドウも同じだが、方向性が違うだけ。そう気持ちを切り替え、改めて先を進むことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大車博士!放たれたアラガミが逆に討たれました。侵入者はこちらに向かっています」

 

 ディアウス・ピターを放ち、 勝利を確信していた筈の人間は驚きを隠す事無く、次に向かうであろうと考える先で先手を打つことに決めていた。

 

 

「所詮はこいつらもここまでか」

 

「博士?今何か?」

 

「いや、目的の前にネズミの駆除が先だ」

 

 訝しく大車を見るが、それ以上の言葉を発する事がない以上、確認する事は何も無かった。周りは想定外の動きの影響なのか時間の経過と共に大車の事は意識から徐々に無くなり始める。

 これ以上の事は此処では何もえる物が無いと判断した大車は誰にも公表していない次の事へと予定を早めていた。

 

 

 

 

 

 


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