神を喰らいし者と影   作:無為の極

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外伝20話 (第67話)対峙

 光の補正により見え難くする事で、戦闘を優位にする為に用いた手段。まともに戦えば苦戦は免れる事は無く、最悪の場合にはこちらが死の淵に立つことになる。

 今までの装備からここまで高度な物を使うとは想定していなかった無明たちは当初は苦戦をしいられていた。目に頼りすぎれば視界不良の際には一方的な攻撃を受ける事になる。当初は苦戦したものの、時間と共に3人は冷静になりつつあった。

 その為に、最悪な事態でもある程度の気配を呼んで戦う事を常としていた為に、対処する事が出来ていた。

 元来保有していた身体能力と戦闘能力が圧倒的に違うだけでなく、無明とエイジに関しては従来のゴッドイーターとはまた違っていた。対アラガミが目的ではなく、常時対人訓練を課してきた2人にとって、銃器を持ったテロリストは相手にはなり得なかった。

 あらゆる可能性と、確実に相手を葬り去る技術は屋敷の人間にとっては当然の行為。慣れ親しんだ行動に迷いは無かった。

 徐々に戦闘状況が変化し、やがて何ごとも無かったかの様に戦闘は終了していた。

 

 

「まさかここまでとは。相手も少しばかり本腰を入れて来たのかもな」

 

「油断するな。この中はまだ戦場なんだ」

 

 現在の時点でアラガミの襲撃はまだ無い。敵地の中で味方まで巻き込んでの戦闘になる可能性は低いと予想したままの展開にいる物の、未だアラガミへの警戒だけは解いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大車、そろそろこちらとしても戦力の限界だ、改めて言う。その装置を渡せ。でなければお前はもう用済みだ」

 

 侵入者への攻撃に対し、未だその正体は分からずじまいだった。本来であれば何らかの手段で連絡し、敵の所在や存在について報告があるはずだが、向かった兵士はことごとく斬り捨てられ、映像も残って居いない。

 余りにも素早い行動はその証拠すら残らない。その為に、本当の正体についてテロリスト側は知る事はかった。

 

 

「そうか……もう潮時か。仕方ないが、この装置を渡そう。取扱いには注意するんだ」

 

 銃を突き付けられ、恐怖を引き出しながらの命令であれば、本来であれば余程の事が無い限り殆どの人間はここで言う事を聞く。当初はそう感じていたが、大車の様子は何かが違っていた。

 

 本来であれば、テロ集団とは言え、一つの集団のトップであれば気が付いたはずの危険信号を察知する事も無く、手渡された装置に意識が向く事で肝心の大車の事は思考から消え去っていた。

 恐らく、その場に他の人間がいれば、明らかにその表情には何か大きな物が隠されている事を理解できていたはずだったが、投入した部下を失った状態では理解する事すらままならなかった。

 渡された装置を尻目に大車はアリサに向けた物とは違った笑みを気付れる事無く向けていた。

 

 

「丁度良かった。貴様がこの実験の最後の餌となるんだ」

 

 

 呟きは誰にも聞かれる事無く、ただ響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか貴様たちにここまで邪魔されるとはな」

 

 警戒していた無明たちに開いた扉から大きな声が響く、そこには今までのテロ組織の上の人間と思われていた人物がそこにいた。

 今までの人海戦術とも取れる攻撃はこの人間が率いていた事が理解出来ていた。

 しかし、全員が仮面をつけている為にそこからの表情を読み取る事は出来ない。今までの戦闘からおおよその力量だけはハッキリと理解していた。

 事実、反フェンリルをこれまで掲げた事はあったが、まさか逆に攻撃されるとは思ってもいなかった。余りにも鮮やかな手際と淀みの無い攻撃にはテロリストも旋律を覚えていた。

 

 ここまでの戦いでハッキリとわかっている事が一つ。それはゴッドイーターと一般人との戦闘能力の差とも言える部分でもあった。いかなる戦いであっても、本来の戦力差は簡単に埋まる事はない。

 だからこそ、戦術や戦略を使う事で差があった戦力差をイーブンにするのが本来のやり方だった。外部居住区の人間を拉致した時点ではここまでの状況に陥る事は無かったが、問題なのは、偶然そこに居たゴッドイーターでもあるアリサまで拉致した事が発端だった。

 いくらテロ組織としても、圧倒的な戦力を保持するフェンリルを相手にする為には事前にしっかりとした確認と、それを実行する為に色んな策を要する必要がある。にも関わらず、ここまで対処が早い事は想定していなかった。

 まだ準備段階ですら無い所での戦闘の結果は火を見るよりも明らかだった。もちろん、その可能性についても考慮していない訳ではない。その為にエイジス島に隠れていた大車を利用し、アラガミの制御方法に今後の希望を膨らませる為に、表面上は大人しく従っていただけだった。

 

 この方法が確立されればかなり近い将来、フェンリルに対しての宣戦布告と共に、その力を手中に収めるつもりでもあった。

 ここまでは想定内だったからなのか、それともここから一気に推し進める計画があったのか慢心から油断を誘っていた。本来であればゴッドイーターが一般人に対して戦争をしかける事は無いのと同時に、人を殺すと言った概念は無いだろうとの甘い判断がそこにはあった。

 

 

「邪魔も何も、お前たちのやってる事は既に犯罪だぞ。人聞きの悪い事言うなよ」

 

 仮面をつけた状態での会話は表情を読み取る事が出来ない者からすれば不気味としか言いようが無かった。

 幾らかでも表情に表れれば考えや思考を読み取る事は出来る。ここまで想定していない程の戦力であれば大軍を率いていたのかとも予測できたが、見ただけでそこには3人しかいない。

 たったこれだけの戦力を持って壊滅に近いほどの打撃を受け、尚且つここに対峙しているのは悪夢とも取れた。しかも言うに事欠いて軽いノリで話されてはいるものの、そこには猛獣の如き存在感と圧力がその場を支配していた。

 

 

「馬鹿が。貴様たちはここで終いだ」

 

 何かのスイッチを入れたかと思われた途端、目の前にあった大きな扉はゆっくりと開かれ、そこには二つの鋭い眼光が見えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「馬鹿がネズミを始末してくれるなら、これほど楽な事は無いが、あれはどう動くかまだ予想が出来ない。良い実験データが取れそうだ」

 

 モニターで確認した大車は人知れず渡した装置の効果を確認するべく、もう一つのアリサが映っているモニターと同時に眺めていた。戦闘に関しては何の関心も持たない大車にとって、この戦闘は単なる装置の検証にしかすぎず、これからアリサをどうしようかと愉悦を浮かべている。

 モニター越しとは言えそろそろアリサの限界が近い事を悟り、これからの事を考えながらゆっくりとアリサの居る部屋へと歩み始めた。

 

 悪夢とも言える状況が長く続き、アリサの精神は砂山が風に吹かれて徐々に無くなるかの様に、ゆっくりと崩壊し始めていた。

 当初はアナグラ内部での楽しい一時も思うが、人間の精神は正よりも負へ向かいやすい。その結果が今の状態とも言えた。ここまで来ると、最早意識が混濁しているのか認識する能力が欠如しているのか判断する事も出来ない。

 今の状態であれば間違いなくどんな言葉も受け入れる事が出来る。アリサには抵抗する意思は殆ど無かった。

 

 

「やあ、アリサ。調子はどうだい?そろそろ僕を受け入れてくれる準備は出来たかな?」

 

「あ……い、い……や」

 

 卑しい笑みを浮かべながら話かけるも、肝心のアリサは憔悴しきっているのか、返事をする事は無かった。これに関しては既にモニターで確認していた為に完全に受け入れる事が出来るか確認しただけだった。

 

 

「精神的には大丈夫みたいだね。ならば身体の方はどうかな?」

 

 まだアリサの意識が合った頃と同じように粘り付く様な視線と共に、大車の手はアリサに手を伸ばす。

 太腿を撫で回す様に触り、手は徐々に上へと上がる。アリサの柔らかな双丘に達し、感触を確かめるかの様に揉みしだく。大車の欲望は留まる事が無いのか、アリサの双丘は大車の欲望を受け止める事しか出来ない。

 今だかつてない程の卑しい笑みが零れる。アリサは触れている事は理解しているのか、時折反射とも言える様な動きは見せるが反応する事は無かった。

 ただその眼からは生理現象からくるのか、それとも精神的な物からくるのか一筋の涙がこぼれていた。

 

 

「もう大丈夫みたいだね。さあ、これから始めようか。意識を取り戻す時が楽しみだよ」

 

 この時点で既にアラガミの装置の事は一旦忘れ、ここから精神の上書きと共に従順になる様に新たな記憶を植え付ける準備に入った。

 既に始まったであろう戦闘に最早関心は何も無い。これからの事を考え、大車は一人愉悦に浸っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかとは思ったが、アラガミがあそこまでコントロールされているとはな」

 

「以前、リンドウさんの神機を吸収していた個体ほどではないですが、意外と厄介です」

 

 扉から出て来たアラガミはディアウス・ピターだった。外を徘徊している個体であれば苦戦する事は無いが、この個体はある程度操作する事が出来るのか、他の個体以上に動きが俊敏とも思える動きを見せていた。

 本来ならば既に討伐出来ているが、この個体は操る部分を差し引いても通常種よりも動きも早く、また攻撃方法が単純ではな事で時間だけが無駄に経過していた。

 他の部隊であれば通常種が出ても全滅の可能性が高く、その為に接触禁忌種に指定されているが、今のメンバーであれば苦戦する程の敵ではなかった。

 しかし、ここまで時間がかかったのはひとえに人間に近い思考能力を持ち、なおかつその攻撃力が大きかった事が問題だった。

 

 単純な討伐任務は後の事を考える必要性は少なく、結果として全力に近いパフォーマンスを常時出す頃が出来た。

 しかしながら、今回の任務は明らかに今後も戦闘が続くと判断し、その中には今回の様なアラガミが混じる事もあった。こうなると今後の事も踏まえ、体力を温存しながらの戦いとなる。

 枷が付いた戦いは動きにもキレを無くし、その為に時間だけが経過する事となっていた。

 

 

「あのアラガミの操作を何とかすれば良いんじゃねえのか?要ははコントロールする手段を無くせば何とかなるんだろ?」

 

「恐らくは制御が効かなくなれば隙が出来るはずだ。その瞬間を狙う。あの手に持っている物が制御装置なら、その破壊、もしくは使用不可能とする事が先決だ。アラガミの動きを見ながら隙を狙って破壊する」

 

 優先順を素早く決定し、行動に移す。戦場での逡巡は命取りである以上、一旦決めた方針は実行するのが最前の策とばかりに各自が動き出した。

 今まで固まっていたはずが一気に散開した途端に攻撃先を決める事に隙が生まれる。いくらアラガミを制御した所で、当人の意思決定から実際にアラガミが動くまでには僅かながらにタイムラグが生じる。その隙をここにいる人間は見逃ふ事は無かった。

 全員が手練れとも言うべき人間である事は制御している人間が知る由も無い。テロ組織と言えど、ゴッドイーターと一般人では身体能力が大きく違う事は誰でも知っている。だからこそアラガミを制御する事で多少の力押しでも勝てると判断していたのだろう。そこには大きな判断ミスとも言える驕りがあった。

 

 

 


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