神を喰らいし者と影   作:無為の極

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外伝17話 (第64話)決意

 無明の予想は嫌な方向に当たっていた。可能性としてはかなり高いとは思ったものの、まさかここまでとは思わず、今後の可能性を考えると難易度は格段高くなった事だけを理解した。

 今回の任務に関しては、本来であれば単独でこなすつもりだった。リンドウに向けた言葉の通りではあるが、ゴッドイーターは対アラガミの剣である以上、一般人に刃を向ける事は無い。

 万が一向けた場合には存在そのものが問題視され、恐らくその人間は今後白い目で見られる事となり、結果的にはゴッドイーター全体を敵視する可能性が予見出来ていた。そんな事も勘案した結果ではあったが、まさかリンドウが付いて来る事は想定外でもあった。

 

 エイジに関してはリンドウ程の危惧は意外な事に抱いていない。エイジだけではなく、屋敷に居るすべての住人が理解している事は一つだけだった。

 自分が生きているのは何らかの意味がある以上、その義務を果たさなければならない。元々無い物と考えていた命を少なからず無明が生きながらえさせる事により、自分の使命は何なのかを皆が理解していた。

 その前提があるからこそ、普段は生活の為に作業をすると同時に、己を鍛え上げる事も日常として考える。その結果が表に出る事でゴッドイーターの任についたり、または他の部分での貢献を本人の意図しない所で貢献している。

 外部からすればありえないと思えるかもしれないが、無かった物があることの有り難さ。それをどうやって活かすのか。そんな背景が屋敷にはあった。

 

 

「これって本当に教団なのか?」

 

「これで教団は無理だろうな。事実関係が分からないのと、首謀者が不明な今は何とも判断する事は出来ない。まだ斥候だろうから、ここで騒ぐと一気に押し寄せる事になる。まずは様子を見ながらだな」

 

 気配を殺し、息を潜める事で存在感を消し去るも、このままでは進む事は不可能となる以上、何らかの手段を取る事になる。無明としては2人を出来るだけ表に出さずに対処したいと考え、行動に移す事にした。

 諜報活動で重要なのは存在感を完全に消し去り情報を持ち出す。これが重要な任務となる以上察知させないままの行動は必須とも言えた。

 

 気配を完全に消し去った無明は空気と何も変わらない。リンドウ達は目視しているので理解しているが、斥候がこちらに気が付く事は無い。

 僅かに息が漏れるそんな瞬間だった。気配を完全に殺し、背後から刀を水平に構えたと同時に心臓に向かってただの一突きでその斥候は血を吹き出しながら崩れ落ちると同時に、その命は消え去った。

 

 今回の潜入の際に、神機以外に無明は用意したのは四振りの刀だった。神機でも攻撃出来ない事は無いが、大きさからすると狭い場所では思う様に振るう事も出来ず、最悪の場合には自身の命が危うくなる。その可能性も考慮した結果でもあった。

 本来であれば簡単に用意する事は出来ない。がしかし、万が一の事も考え刀の鍛冶、メンテナンスはナオヤに託していた。

 連絡を貰った当初はナオヤも驚きこそしたものの、それが当たり前であるかの様に準備していた。もちろん、今回の件ではそれだけではなく、ほかにもいくつかの武器を持ち込んでいるが、無暗に使う事を良しとせず、状況に応じた対応で先を進んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大車!あなた生きてたんですか」

 

「嫌だなアリサ、あの頃は大車先生とちゃんと呼んでくれたのに。残念だよ」

 

「あの時と今は違います。何で私をこんな所に!」

 

「そんなに叫ばなくても聞こえているよ。なに、簡単な事だよ。僕と君は新世界の神になるんだ」

 

「何を馬鹿な事を。そんな事出来る訳ない」

 

 アリサの手足ににはワイヤーで締め付けられているせいか身動き一つ出来ない。

 ゴッドイーターの力であれば簡単に引きちぎる事が可能だと考えているも、肝心のワイヤーは何も変化する事は無かった。大車の話はともかく、今の状況が如何に拙い状況と作り出しているのか理解できるだけに、一刻も早くこの場から逃げ去りたい気持ちしか無かった。

 

 

「あれから僕は色々と学んだんだよ。ここにいるのもその研究の集大成だ。間もなく新世界の神の尖兵を作り出す。後の事はそれから考えれば良いんだよ。その為には君が必要なんだ。分かってくれるね」

 

 アリサを舐め回すかの様な視線に抵抗を試みる物の、拘束された状況では何もする事は出来ない。このままでは何をされるのか考える事すら拒否したいと願うも、目の前に居る大車はそんな事すら意に介さないと言わんばかりに視線だけではなく、太腿を撫でまわしていた。

 まるで蟲が這いつくばる様な感触にアリサは耐える以外何も出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気づかれる事も無く侵入に成功した無明達は、暗殺とも言える手段で何事も無く進んでいた。しかしながら構造を思い出すとこれ以上の隠形のままの進攻は無理と判断し、ここから先は時間との戦いになる。

 今までに手をかけて来た人間は全員が完全武装状態で巡回している状況を勘案すると、ここから先は覚悟が必要になる事だけを判断していた。

 

 

「リンドウ、エイジ、もう一度確認する。ここから先は一気に殲滅しないと自身の命が危うくなる。いくらゴッドイーターと言えど銃弾を浴び続ければ待つのは死だ。それでも行くのか?」

 

「ここまで来て、引き下がるなんてねえよ。前にも言ったが、お前に助けられて生きながらえてるならば、お前の為に使うのも当然だろ」

 

「兄様、今はゴッドイーターではなく屋敷の人間として発言します。今回の任務は自身の今までの成果がいかなる結果になるかの確認のつもりです。これがクリア出来ないのであれば、自身の存在意義が見いだせなくなります。ここから先は一人の者として動きますので気に掛ける必要はありません」

 

「そうか。お前たちの気持ちは分かった。ならば此処で言っておく、神機を使うならば銃形態は使うな。あれば対アラガミには有効だが人体への影響は少ない。力を温存するのであれば余程の事が無い限り使うな。それと使うならこれを使え」

 

 無明は潜入してから、今の一度も神機を使う事無く進んで来た。

 獲物が大きいと使い勝手が悪いだけではなく、神機はあくまでもアラガミを殲滅するものであって、人体に対して使う物では無いと判断していた。その為にケースを持ちながらの移動をしていたが、ここからは抜き身の状態を維持しつつ進攻する事に決めていた。

 そんな中で、改めて手持ちの中から刀を二人に渡す。これが何を意味するのか、改めて説明を聞く必要性は無かった。

 

 

「今までの連中の武器は明らかに最近どこかで製造された物なのは間違いない。アラガミには効かなくても人体には大きく影響を及ぼす。また、どんな弾丸が使われているのか分からない以上無暗な行動はするな。極力回避するんだ。でないと、ここでの行動制限は死につながる。良いな?」

 

「了解しました。ここから開始ですね」

 

「一気に殲滅する。出来ない場合は最悪でも無力化するんだ」

 

 その声を皮切りに、若干広くなった場所へと一気に躍り込む。突如現れた侵入者に各自は驚きはするが、直ぐに気を取り戻し、全員の銃口が無明たちを襲った。

 常人であれば躍り出た瞬間に向けられた銃口から出る弾丸で蜂の巣になっているも、ゴッドイーターの様に明らかな違いがあれば、狙いをつける頃にはその場には既に居ない。パニックを起こして銃の乱射があれば同士討ちになる可能性がある為に、そこに居た兵士は銃を持ち替え、コンバットナイフを手に取っていた。

 

 一般人とゴッドイーターに大きな違いはオラクル細胞による身体の活性化とそのレベルの差でもあった。

 一般常識では考えられる事の出来ないアラガミと対峙している人間からすれば、幾ら鍛えあげられていた兵士と言えども赤子の如き扱いで制圧する事ができる。事実、攻撃対象を見つける頃には背後から一撃で刺され、場合によっては腕や足が千切れ飛ぶ程の斬撃で斬りつけられていた。

 戦力差は一般人とは比べ物にならない程大きな差が付いていた事だけが一つの事実として残っていた。

 広場の床が血で染まり、斬られた兵士の腕や足が散乱しているその先の所に、人間ではない気配が大きく感じる。の気配は今だ開かれていない大きな扉の向こう側から発せされていた。

 

 

「恐らくはここには人間以外にもアラガミが居る様だな。これで恐らく今回の極東支部の襲撃の原因が掴めた様な気がする。各自気を抜くな」

 

 人を斬ろうがアラガミを斬ろうが、同じような感覚で物事を捉えている無明は、一人落ち着いた感じでこの先にある物を感じ取ってい居た。

 扉の大きさと気配から想定出来るのは一つ。アラガミは確実に中型種以上の物である事を確信していた。

 

 

「無明、アラガミがこんな居住スペースにいるのか?」

 

「本来であれば居ないと言いたいが、恐らく扉の向こう側に何体かいるはずだ。ただ、何か様子がおかしい。

 気配はあるが、攻撃本能とも言える様な雰囲気は何も感じない。万が一の事も想定するが、ここは扉を開けない事には何も進まないだろう」

 

 目の前には異質とも取れる程の大きな扉が以前閉じられたままだった。通常であればこの程度の扉はアラガミの力では簡単に開くはずが、開く気配が何もない。警戒しつつ、扉を開くとそこには驚愕とも取れる光景がそこにはあった。

 

 

 

 


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