神を喰らいし者と影   作:無為の極

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外伝14話 (第61話)現状認識

「ドイツ支部から来ましたアネット・ケーニッヒです」

 

「イタリア支部から来ましたフェデリコ・カルーゾ です」

 

 

 以前に予定されていた2人の神機使いが極東支部に配属されていた。本来であれば新型の新人2人が一つの支部に集中して配属される事は少なく、今回も短期でも集中研修の名目で派遣される形となっていた。

 合同の研修から各支部の交流が必要とばかりに入れ替わりで複数のゴッドイーターが派遣される事が決定されていた。

 その結果、極東支部はアラガミ討伐以外にも研修と言う名での人員を受け入れる事となり、極東支部の技術を学ぶことを前提として細かい動きを各支部から封じられる形となっていた。

 元々から、本部に対して反抗的な事が無い物の、やはり突出した戦力の偏りを良しとしない勢力からの圧力に、無理矢理波風をたてる事もなく、粛々と受け入れていた。

 

 

「2人は1ヶ月ほどの研修となるが、特に変わった事をする必要は一切ない。一兵士として扱う様に。なお、新型の関係上、当初は第1部隊とし、一定の期間ごとに部署の異動を行う。私からは以上だ。何か質問はあるか?」

 

 

 2人の紹介と共に簡単な挨拶が終わると、早速ブリーフィングに入り、このままミッションに突入する事になる。全く分からない状態であれば何もかも手さぐりとなるものの、事前にタツミから内容を確認していた関係上、引き継ぎはスムーズに執り行われていた。

 

 

「第1部隊長の如月エイジです。今回の件では新型特有の運用についてと聞いてますが、その辺りは口では説明しにくいので、見て覚える様にお願いします」

 

 握手と同時に他のメンバーの紹介も終わり、このままミッションになだれ込む予定ではあったものの、お互い何も分からない状態では危険とばかりに改めて確認する事となった。

 本部であれば無理を通す事は出来ても、ここは極東である以上些細な油断が命取りとなるのでは緊張するなと言われても新人には無理があるのが表情から読み取れた。

 そんな空気を感じたのか今まで緊張していた表情が更にこわばり、これ以上緊張すれば気絶するのではと、思わず心配になりそうな一面があった。

 

 

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。エイジだけじゃなくて私達もいるから安心してください」

 

 緊張の極地にいた2人にアリサは柔らかい笑みと共に落ち着かせる事を優先していた。

 緊張感はどんな場面でも必要なのは分かるが、過度な緊張は邪魔以外の何物でもない。平常心が無い人間が真っ先にここから退場する事になる。元来2人共ある程度の実戦は経験しているので、完全に初めてではない。

 しかしながら対アラガミの激戦区でもある極東と言う名の場所にいる以上、落ち着けと言われても無理があった。

 

 

「最初からいきなりハードなミッションは受けていないし、今までいた支部と同じようにやれば大丈夫だから落ち込む必要は無いよ」

 

 苦笑交じりにフォローとも言えない様な内容に2人は軽く落ち込んでいた。

 ミッションの内容は今まで討伐していた物と遜色はなく、本来の実力を出せば苦戦する必要性は皆無だった。しかし蓋をあければ緊張が解ける事はなく、結果的にはエイジとアリサの2人が討伐した結果となった。

 

 

「そうは言いますが、あんなに素早く動いて攪乱するなんて私には出来ません」

 

「僕もアリサさんみたいに素早く変形させての攻撃が出来ないんですが、何かコツみたいなものはあるんでしょうか?」

 

「こればかりは熟練度と言うか、慣れの問題もあるんだけど普段からどんな訓練をしているかなのかもね。因みに今までどんな訓練してきたの?」

 

 緊張だけが原因で無い事はミッションの最中でも容易に理解出来きていた。

 一般人からゴッドイーターになる際には偏食因子を埋め込まれ、現状から底上げされる様に身体の力は大きく上昇する。しかしながらそれだけでは戦う事が出来ても上のレベルに当たれば確実に待っているのは殉職のみ。

 力は上がっても身体の運用方法までが上がる訳ではない。極東では常識な事が必ずしも他の支部でも常識である事にはならなかった。

 

 

「普段はダミーアラガミとのシミュレーションがメインです。あとはそれに伴うアラガミの習性なんかを学んだりしてますが」

 

「それだけだと、新種が出ると対応しきれない可能性が高いかもね。本来であれば対人戦や射撃の環境を変えて動きの練習をした方が恐らくは良いと思うよ」

 

 今回のミッションに関して、脅威となるアラガミは何も無い。あえて言うなら緊張の結果、悪い部分だけが抽出されて様な内容でもあった。

 事前に2人の欠点は聞いていたが、まさかここまでとは思わず、これから先の事を考えると僅かに頭を痛める結果になる事が予測出来ていた。

 

 

「あの~エイジさんは、そんなに対人戦ってやってるんですか?」

 

「最近は少ないけど、たまにソーマやナオヤとやってるよ。それと、可能だったら対人戦は組手も推奨するよ。体捌きが上達すれば戦闘中の動きも格段に良くなるから機動力は格段に上がるよ。

 因みに射撃に関しては、逆さ吊りの状態からの精密射撃や動きながらの射撃がメインで平衡感覚も養えるから、単純に突っ立た状態での練習はしないかな。それだけだと意味が無いからね」

 

「そんな事してるのはエイジ位ですよ。私だってそこまでハードな事はしませんから」

 

「そうなの?」

 

「そうですよ」

 

 予想外の練習方法に2人の顔は引き攣っていた。このままでは引かれる事も覚悟してた所でアリサからの助け船が出て、漸くエイジのやり方がまともじゃない事が理解できていた。

 ゴッドイーターは軍隊ではないが、中身はそう変わらない。にも関わらずエイジの練習は一般兵ではなく、むしろ特殊部隊さながらの練習方法にその場にいた他の人間でさえも顔を青くしながらも、スコアを考えればある意味当然とも思われていた。

 

 

「エイジもそれ以上の事を求めるとドン引きされますから、この位にしませんか?」

 

「これが極東の訓練か…流石激戦区だ」

 

 アリサのフォローは時すでに遅く、2人の顔には有り得ないと言わんばかりの表情が見て取れていた。これが当たり前の訓練となればどう考えても厳しい未来しか見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうですか。こちらとしても至急対策を取る様に取り計らう事にします」

 

 

 手荒い歓迎と、大いに賑わったリンドウ達の結婚式から数日後、アナグラの内部も一時期の浮かれた雰囲気が消え去り、他の支部からの人員を受け入れる事で、ここに来て漸く通常になろうとしていた。

 通信を切ったツバキはこの数分で、精神的に随分と疲労を溜め込む様な思いから、大きくため息をつくことになった。

 通信の相手は本部からの指令。本来であれば本部からの通達は大事になる可能性が低く、極東に限った話ではないが、どこの支部でも自分達に問題が無ければ、なあなあで済ます事が多かった。

 本来であればツバキもまたかと思いながらも話聞くも、今回の話はどの支部でも大きく問題になる可能性が高く、また通常の討伐ミッションとは違った意味を内包していた。

 

 

 終末捕喰以降、各地に突如湧き出した新興宗教教団

 

 

 事実、研修の裏で色んな駆け引きがありながらも、特に問題視されていたのがこの集団の問題。今の所は情報操作に基づき一般向けには何も無い事になっているが、実際には口伝えとも言えるレベルで静かに外部居住区にも浸透していた。

 当初、本部としてはこの事実に対しては静観するつもりだったが、情報部からの報告により各支部でも極秘裏に対応する様に通達が出ていた。

 世界的に見ても他の地域とは違い、極東の宗教観は他の地域に比べれば大きく異なる。旧時代の頃は各地でも大きな宗教が布教されていたが、近年突如現れたアラガミの発見と共に、既存の宗教観は大きく舵を切る事になり、一部の宗教は完全に廃れてしまっていた。

 そんな中で極東は元々から他宗教に対する認識が他よりも低く、誰がどんな宗教に入信しようが気に留める事が殆どなかった。

 ツバキ自身もそんな極東の事情は知っているので、それそのものに対しての大きな危機感は一切抱いていない。それよりも厄介な物がここ極東にも徐々に浸透している事が問題だった。

 旧時代に中には自然に対する信仰があり、その為に時として人柱と称した人間を神様の供物として捧げる行為。即ち生贄の存在が今回の現況でもあった。

 

 

「例の教団の件、やっぱりか?」

 

「可能性に関しては予想していたが、まさかここまで規模が大きくなるとは本部も思っていなかったらしい」

 

 先ほどの通信を切ったツバキは疲労の顔を隠そうともせず、無明から渡されたコーヒーを口に漸く一息入れる事が出来ていた。今だ支部長が決まらない極東支部でも最低限連絡が取れ、かつ、各所に指示出す事が出来る人物を決めている関係上ツバキがその任を担っている。

 本来であれば榊博士が一番適任ではあるが、現状では自身の研究の兼ね合いで時間が取れず、このままズルズルと先送りされていた。

 

 

「こんな事は不謹慎なんだが、一般人の失踪は今までにもあったが、今回の件については異例とも言える。ここでは無いが他の支部では度々神機使いが失踪しているらしい」

 

「それに関してはこちらも別ルートで確認しているが、神機使いの失踪は何かと問題が発生する恐れがあるとの観点から、極力単独行動を控える様にとの通達を出す予定だとな」

 

 本来であれば人の命は地球よりも重いと言ったスローガンが旧時代にはよく聞かれていたが、アラガミが跋扈する頃からは人間の命は紙よりも薄くそして軽いとの認識が一般的となっていた。

 事実、この極東支部でも外部居住区の防護壁が破られ、市民が犠牲になっている。守られたここでさえこの状況であれば、盾となるべき物が無い地域では成す術も無いのが現状だった。

 そんな中で対アラガミ兵器とも言える神機が製造され、ここで漸く人類の減少に歯止めがかかりこれからは反転するかと思われていた。

 その対アラガミ兵器は旧時代の兵器とは完全に異なる点が一つ。生体兵器でもある神機は人を選ぶ。その為に適合者がいなければその神機は単なるオブジェとなり、何の効果も発揮する事は出来ない。

 それ故に神機使いの減少は避けたいとの思いから、フェンリルはもちろん無明も生存率の向上の為に新商品の開発に携わっていた。

 

 

「簡単に関連付けるのは早急だとは思うが、関連性は無いとも言い難いのもまた事実だからな。暫くは調査する事になるだろうから、ツバキさんは他の連中にもしっかりと伝えておいて

くれ」

 

「そうだな。憂い事は早急な対応が必要だろうな」

 

 そう言った物の、これ以上の対策のしようがなく、完全に後手後手の対応になる事は明確に予想されていたが、こればかりは仕方ないと諦め、常時警戒を怠らない事を念頭に出撃する全ての人間に対して通達する事を決めていた。

 

 

 

 


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