神を喰らいし者と影   作:無為の極

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外伝5話 (第52話)奇襲

「ここは粗方片付いたか?」

 

「そうだな。ヒバリちゃん近隣の様子はどう?」

 

「Fチーム周辺のアラガミの確認は出来ません。恐らくは周辺一帯には居ないと思われますが、近隣となればCチームでの戦闘がかなり手こずっているようなので、現在の所はそこでの戦闘が苦戦しています。余裕があれば応援をお願いします」

 

 

 

 集団での襲撃と言えども、ここは極東ではなく本部である事を否応なしに理解させられた。

 数こそそれなりだったが、個体の強度は明らかに格下の為にタツミ達のFチームは危なげなく戦闘は終了していた。これに関してはある程度の予測が出来た為にタツミもハルオミもそこまで気にしている雰囲気は皆無であり、結果的には2人の教導で終わったとも言える戦いだった。

 しかしながら、それはあくまでもタツミ達のレベルだからこそ成り立つ話であって、ほかの隊員からすれば有り得ない結果でもあった。

 

 

「了解。今からCチームに向かうからナビゲートよろしく」

 

「了解しました。移動をお願いします」

 

 タツミの一言で他のチームへの援護へ回る事を決意した後の行動は迅速以外の何物でも無かった。

 チーム戦で戦う以上、自分達だけが討伐出来た所で他のチームが全滅すればそこを起点にアラガミは押し寄せる。結果としてそれは居住区への侵入を意味し被害が拡大する事になる。

 他のチームは元々が第1部隊を中心とした討伐の為にその意識は希薄し、自分達の任務が終わればそれで完了だと判断している可能性もあった。

 

 タツミの立場は元々が防衛班である以上、甚大な被害は容認できない。ここでは自分の意識で任務をこなす事が出来ても、極東支部では自分達の力だけではどうしようも無い事の方が圧倒的に多かった。

 そんな気持ちを持つ以上、薄情にも静観する気持ちは微塵も無かった。

 

 

「って事でこれからCチームへ合流するけど、人数が増えるだけだからさっきと同じ様に戦えば問題無いから」

 

 今回のタツミが取った戦術は極めて単純な物だった。タツミとハルオミが前衛として戦い、アラガミの注意をひきつけている間にアネットとフェデリコが渾身の一撃で強烈なダメージを与える事になっていた。

 やり方としては極単純な物ではあったが、新人の様子を見ながらバックアップは厳しいと判断し、それならば完全に攻撃に専念させる事で大ダメージを与える方が合理的だと判断した結果でもあった。

 事実このやり方が上手くはまり、想定以上の早さで討伐出来た要因でもあった。

 

 

「何かおかしくないか?」

 

 Cチームが居るはずの現場に到着すると、戦闘中のはずの部隊が何処にも見当たらない。到着直前の情報では現在戦闘中のはずが、現場は何もなかったかの様に静まりかえっていた。

 本来であれば何かしらの音が聞こえるはずが、それすらも感じる事が出来ない。ここには何かがある。今まで培ってきた勘がタツミの警戒心を解くことを許さなかった。

 

 

「確かにな。いくら何でも静か過ぎる」

 

 改めて確認しようとすると、何かに妨害されているのか端末機からはノイズしか聞こえない。この時点で通信が届く事は何も無かった。

 

 

「ジャミングされている可能性が高いな。恐らくは近くにコクーンメイデンが居るはずだから、ハルオミとフェデリコは索敵してくれ」

 

 警戒を解く為には現状確認は必須だが、今の段階では情報が足りな過ぎて正確な判断が出来ないと考え、2人を索敵に回す。その間にも生存者が居ないかを確認する為にタツミ達も周囲の索敵を始めた。

 

 

「どうなってるんだ?今さっきまでは確認出来たはずなんだが」

 

「この近辺には居ない様にも思えます」

 

 アネットが索敵をしている途中で、うめき声が風に乗って聞こえて来た。声の方向へ急ぐと、そこにはCチームのメンバー3人が負傷の為に身体を休めていた。

 

 

「Fチームの大森タツミだ。確か6人編成だったはずだけど、残りはどうしたんだ?」

 

「3人はアラガミにやられた。今はアラガミから逃走して何とかやり過ごしたんだが、物資は全部使い切ってるから移動も厳しい状況だ」

 

「3人って、アラガミは居ないけど、どうしたんだ?」

 

 タツミにはこの原因を作ったアラガミがここに居ない事が重要だと判断し、現状の確認を迫った。しかしながら、ギリギリの戦いの影響なのか助かった事への安堵からか、詳細が今一つハッキリとしない。

 今までの経験からすれば、この現状を作り出したアラガミはどこかに潜んでいることだけが辛うじて判断できた。

 

 

「姿はハッキリと見ていない。いや、見ていないのではなく見えなかったと言った方が正解なのかもしれない。気が付いたら3人がやられていた」

 

「見えなかった……ねぇ」

 

 視認できない以上、どんなアラガミなのか判断できないのは痛恨とも言えた。肝心の種別や状態が分からなければ討伐の任務は対策を立てる事が出来ず、過酷にしかならない。

 負傷した人間に対してこれ以上の確認は不可能と判断し、まずは現場確認だとばかりに、周囲を索敵し始めた。索敵が終わる頃、別れた2人と合流し、情報を共有するがやはり結果的には成果は何も無かった。

 

 

「Cチームの話だと、姿形は分からないそうだ」

 

「なんだそれ?姿が分からないっておかしくないか?」

 

「ハルオミの言いたい事は分かるが、可能性としては地面の中を移動しているんじゃないか?そう言えばジャミングはどうだった?」

 

「予想通りコクーンメイデンと言いたい所だが現地にそんな物は居なかった」

 

 ハルオミのその言葉にタツミは軽く戦慄を覚える。何も分からないまま戦闘ともなれば、いかなタツミとて新人をカバーしながらの戦闘だけは避けたかった。

 そんな話し合いをしていた所を狙われたかの様に突如として轟音と衝撃が鳴り響く。周辺にアラガミの姿は無い。改めて索敵を開始しようとした矢先だった。

 

 

「ここは狙われている。一旦、この場所から散開する。各自周辺を探るんだ」

 

 タツミの一声でその場から一気に散開し、確認しようと周辺を見るとかなりの遠距離にも関わらず、大きな物が動いている様にも見えた。轟音の発生原因でもあったのはテスカトリポカの超遠距離攻撃だった。

 

 

「地面じゃなくて超遠距離攻撃かよ。あれはテスカトリポカだよな。どうするタツミ?」

 

「ここからあそこまではかなりの距離があるから、ここから撤退は厳しいかもな。恐らくCチームに痛手を負わせたのはあれだから、このままやるしかないぞ」

 

「だよな。少しは楽したいんだがな」

 

 本来であればテスカトリポカの攻撃はここまで届く事は無かったはずだが、紛れもなく攻撃している事に間違いはない。この攻撃範囲は明らかにこの地域のアラガミの中では群を抜く能力でもあった。

 現状を本部に伝えるにも未だジャミングの影響で連絡が取れない以上、このまま討伐する他無いと判断していた。

 負傷者と新人と言ったこのメンバーを率いると同時に、限られた中での生存本能を活かした戦いをせざるを得ない状況に追い込まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「FチームがCチームに合流した所で反応が途絶えています。このままだと現地の確認は出来ません」

 

 現場での判断と同時にオペレーターにも衝撃が走った。Cチームの反応が急に消滅したかと思いきや、今度はFチームの反応までもが途絶えた。

 到着した瞬間に途絶えるのであれば全滅の可能性は低く、恐らくはジャミングによる影響だと判断づけられた。この時点でオペレーターが出来る事は帰投の際の手配しか出来ない。状況が把握出来ない現場の判断に委ねる以外には、ここからは何も出来ない。

 この状況を打破しようと色んな手立てを図るが、それでも根本的な解決が出来ず、いたずらに時間だけが流れた。

 

 このままでは現状の把握が出来ないと判断する事で他のチームを改めて送る事も検討されたが、現状は未だ混乱したままの為に改めて送り込む事は困難とされ、今はタツミ達の無事を祈る事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「接触禁忌種は伊達じゃねえって事か。このままだと新人の2人にも被害が出るぞ」

 

「だからと言って俺のショートブレードだと刃が入りにくいから、ハルオミとアネットの攻撃を中心に考えるしかない。アネット、このまま行けるか?」

 

「今の所は何とか。やれるだけの事はやります」

 

「いいか、あいつは破砕系統の攻撃は受け付けやすいから、なるべく前面装甲を狙うんだ。俺は攻撃の手数を増やして意識をこちらに引き付ける。その隙をうまく利用するんだ。ただしジャンプした時は直ぐに逃げるんだ、潰されれば一貫の終わりだからな。あとはフェデリコは刀身よりもインパルスエッジで同じく全面装甲を攻撃するんだ。下手に小細工すればこちらが終わる。ダウンした際には一気に攻め込むんだ」

 

「分かりました」

 

「気を付けます」

 

「よし!全員、攻撃だ」

 

 タツミの号令と共に全員が一斉に攻撃を開始し始めた。テスカトリポカは本来こんな所に出没する様なアラガミではなく、恐らく本部付のゴッドイーターはデータとしては理解していたはずだが、肝心の攻撃の威力に関しては未知数とも言えた為に、引き際が何も分からなかった。

 

 タツミも強気の指示を出しはしたものの、極東でも今までに交戦した記録は僅かに2例。その中で1度だけタツミも防衛班として対峙した経験があっただけだった。

 接触禁忌種と名が付く様に、その攻撃力は今までのアラガミの中では群を抜いている。タツミはアラガミの気を引きながらも動き回り、攻撃を絞らす事無く囮となる動きを見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで漸く終わりか」

 

「今日はもう勘弁してほしいぜ」

 

「まさか、ここまで厳しい戦いになるとは」

 

「でも接触禁忌種なんて初めてです」

 

 

 思い思いの感想と共に、漸く討伐が終わっていた。そもそも接触禁忌種と指定が付くアラガミは伊達ではない。本来であれば極東支部でも討伐は第1部隊がメインでする事が殆どで、名の通り接触は禁じられている存在でもあった。

 

 今回運よく討伐できたのはここが極東ではなく本部付近であるが故に能力は他のアラガミ同様に2割程下回っていたの勝因だった。

 今回の任務に関してはタツミの動きとハルオミの動きは正に別格とも言える働きを見せ、懸念されていたアネットとフェデリコへの攻撃は殆ど無かった。

 

 しかし、その代償としてタツミ自身は無傷とは行かず、結果的には幾つかの火傷と打撲とは言い難いレベルの負傷を負っていた。戦闘中は気が付かなかったが、気が付けば通信が復活し、ここで漸くオペレーターと回線が繋がっていた。

 

 

「タツミさん大丈夫ですか?」

 

「ヒバリちゃん?こっちは終わったよ。どうやら原因はテスカトリポカの攻撃だったよ。ジャミングは分からないけど」

 

「今こちらも確認出来ました。お疲れ様でした。気を付けてお帰りください。お待ちしています」

 

 通信がつながり、いつものヒバリの声が聞こえる。気丈にふるまってはいるものの、声の反応はいつもとは少し違っていたのがタツミには分かった。

 今回の件に関しては緊急性が高いが故の任務でもあり、原因不明のジャミングが影響していた為に起こったとも言える内容だった。気が付けば既に戦場の空気は穏やか物に変わり、戦闘は全て完了した事を理解した。

 

                                                                             


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