神を喰らいし者と影   作:無為の極

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外伝4話 (第51話)緊急呼集

「タツミか?お前今どこに居るんだ?」

 

「ハルオミか?どうした緊急事態か?」

 

「大型種のアラガミがこっちに向かっているって情報が入った。今から30分以内にこっちに来れるか?」

 

 

携帯端末の相手はハルオミだった。声の様子から今までに無い程の緊張感が漂っている。話をしながらヒバリを見ているとヒバリも同じように端末で話をしていた。詳細については現地での確認となるものの、普段はおどけながらもハッキリと物事を伝えるハルオミの言葉に焦りがにじみ出ていた。

 

多くは語らなくてもその様子だけは想像できる。恐らくは今までに無いレベルでの警戒が必要な状況に陥っているとタツミは推測していた。

 

 

「ヒバリちゃん。これから本部に行かないと」

 

「私の所にも同じ様に要請が来ました。荷物は運んでもらう様に手配済みです。タツミさん急ぎましょう」

 

 

2人が到着する頃には本部のロビーは今までに無いレベルでの緊張感に包まれていた。まずは現状確認が必要とばかりにハルオミを捜そうとした背後でツバキの声が聞こえて来た。

 

 

「タツミか。丁度いい所に来た。これからお前には出動要請が出るはずだから、整備中の神機を用意しろ。詳細は追って伝える。ところでヒバリは一緒じゃなかったのか?」

 

「ツバキ教官。一体何が起きたんですか?」

 

「ヒバリも一緒だったか。現状に関して後で説明がある。今はオペレーター室に急げ。緊急事態だ」

 

 

ヒバリがオペレター室に入る頃には緊急呼集で数人が集まっていた。この短期間ではあるが、ヒバリの知る中での成績が上位の人間ばかりが呼ばれている。詳しい事は何も聞かされてはいないが、中央にあるディスプレイを見れば、説明を聞く前にある程度の状況が把握できた。

他の支部では分からないがヒバリはこの光景を極東支部でも確実に見ていた。極東では割とよく見かける、複数規模のアラガミの襲撃だった。

本部の現状や過去の事に関しては分からないものの、ヒバリがオペレーターになってから、この程度の襲撃は今までに何度かあった。

 

本来の神機使いの能力ならば、ヒバリは恐らく慌てる事も危機感を募る事も一切ない。恐らくツバキも同じ感覚である事に間違いなかった。しかし、ここは極東ではなく本部。口には出さない物の、極東に比べると2ランクは神機使いのレベルは低い事を今までの研修の中でヒバリは理解していた。

その状態を踏まえてこれに対処するとなれば、針に糸を通す程の緻密な計画と運用が必要となってくる。ここに来ての大規模襲撃は色んな意味での集大成でもあり、最大の山場となりつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで全員だな。よく聞け。現在この本部に複数体のアラガミの集団が向かっている。現状ではここまで到着するのにおよそ2時間弱。それまでに全てのアラガミを殲滅するのが今回の任務だ。なお、チーム編成に関してはこちらで指示を出す。質問があるなら今のうちだ」

 

 

タツミが整備室に到着する頃にはある程度の人数が揃っていた。周りを見渡すと端の方でハルオミが他の誰かと話をしている。

 

状況確認はツバキから口頭で伝えられ、辺りは緊張感に包まれていた。時間の経過と共に詳細がツバキより口頭で説明をし始める。アラガミの襲撃に関してはタツミ自身も何度か遭遇している関係で慌てる事は少ないものの、問題点がいくつかあった。

 

極東支部であれば小事であっても本部では大事である事に変わりない。しかも、本来であればタツミは防衛が主となる第2部隊の為に、アラガミへの剣となる第1部隊は此処にはない。他の支部から派遣されている人間はそれぞれが第1部隊長レベルだとは聞いているが、それでも心配の種は尽きなかった。

 

懸念材料についてはもう一つ大きな物が、チームとして組むメンバーの編成にも影響が出てくる。どの部隊でも緊迫した中での戦闘となると、自分達の身を守る事で精一杯となる為に、新人をその中に居れるのは自殺行為に等しいとばかりに、手練れのメンバー編制となり得る事を予想していた。いくらツバキが強権を発動しても、自分達の事でギリギリの人間が他人の事まで心配出来るとは思っていない事も想像していた。

そんな中での大規模討伐任務となる以上、タツミは今まで以上の厳しい任務になる事を考えていた。

 

 

「タツミか。済まないが今回はお前のチームに新人を2人つける。あとは真壁と打合せをしておくんだ。それと、今回の件で気が付いているとは思うが、ここは本部であって極東ではない。

お前なら大丈夫だとは思うが、万が一の事も考えて、最悪の事態には撤退も視野に入れるんだ。今回は大型種も何体か混じっているが、全部が神機との相性が良い訳ではない。あとは必ず生きて帰ってこい」

 

「了解しました。自分の中で出来るだけの事はやるつもりです」

 

「そうか。では後のメンバーとも打合せをしておいてくれ。それと、無明からの伝言だ。神機の性能とバランスを若干変更しているがお前ならば使いこなす事ができるはずだが、念のために手軽なアラガミで試運転で特性をつかんでおいてくれとの事だ。あいつも神機使いだから変な作動やアンバランスな調整はしない。あとは自分の出来る範囲の事をやってくれ」

 

ツバキからの伝言を聞きながらも自分の相棒とも言える神機を確認する。見た目は何も変化は無い様にも見えるが、持ってみるとその変化は劇的とも言える内容でもあった。

 

本来、神機は自分との接続が出来れば重さを感じる事は殆ど無く、事実上自分の腕の延長の如く重さを感じる事は無い。しかしこの神機に関してはそんな事すら忘れてしまうかの様な内容だった。

 

軽くなるのは長時間の疲弊を防止するのと同時に動きも早くなる。しかし、その分攻撃の威力は落ちやすく結果的にはマイナスの要因しかなかった。にも関わらず、今手にしている神機は軽さも然ることながら、刀身は今まで以上に凄みを感じるかの如く切れ味と攻撃力が上昇している様にも思えた。

緊急の討伐任務の前に心強い味方に遭遇したタツミには口元に笑みを覚えた。

 

 

「準備は良いみたいだな。って後の2人は誰だ?」

 

「俺は何も聞いてないけど、誰なんだ?」

 

タツミもハルオミも緊急呼集の為に詳細については殆ど聞かされていなかった。事実、先ほどのツバキからも新人とだけ言われたが、誰なのかまでは聞かされていない。一体誰だと話している内に漸く残りの2人が合流となった。

 

 

「遅くなって申し訳ありません。イタリア支部所属のフェデリコ・カルーゾです」

 

「遅くなりました。ドイツ支部所属のアネット・ケーニッヒです。よろしくお願いします」

 

 

到着した2人はツバキからの話通り新人の2名だった。2人とも今回の参加に伴い新型神機使いであるのは見れば簡単に理解できた。しかし、緊急事態の影響なのか顔は共に強張っている。

このままでは緊張に押しつぶされ、早い時間に退場となりかねい。そんな事も危惧しながらも顔には出さない様にタツミは務める事にした。

 

 

「そんなに緊張しなくても良いよ。俺は極東支部所属の大森タツミだ。で、こいつはグラスゴー支部所属の真壁ハルオミだ。今回の任務に関しては知っているとは思うが緊急討伐任務の性質上、敵のアラガミに関しての情報はかなり少ない。大丈夫だとは思うが、一応こちらで指揮を執るから、少しは落ち着いてくれ」

 

 

「なぁタツミ」

 

「なんだ?」

 

「あのさ、何で俺の紹介はそんなに雑なんだ?少しは何か言わせろよ」

 

「お前に話をさせると直ぐにナンパに走るだろ?緊急なんだから少しは自重させようかと思ってな」

 

2人の会話を聞いているだけで、緊急任務の緊張感は徐々に薄れつつあった。ただ緊張をほぐすだけではない。そこには最初から死ぬ事など全く考えてすらいない。その事実だけを感じ取った2人は徐々に落ち着きを取り戻して行った。

 

 

「今回皆さんのサポートをさせて頂く事になりました極東支部の竹田ヒバリです。よろしくお願いします」

 

 

オペレーターからの音声通信が耳元で鳴り、ここからが本番とばかりに戦闘体制に気持ちが切り替わる。今までにこやかな会話をしていたタツミ達も一転して気を引き締めた。

 

 

「今回の作戦の概要ですが、現在出撃可能なゴッドイーターを全部で6つの部隊に編成し作戦の実行に移ります。今回のタツミさん達はFチームとして運用しますが、実際の所は現地での合理的な判断に伴い再編の可能性があります。今回の任務では本来であれば1チーム4人ですが、実力差を均等にするためにA~Dまでを6人、E,Fを4人の編成としています。現在の所、確認できているのは大型種が4体、中型種6体、小型種10体です。ある程度の範囲で戦って貰いますが、状況に応じて変更して頂く可能性があります。その際には私がサポートしますので、その都度連絡をさせていただきます」

 

 

ヒバリからの現状報告と他の状況を確認する中で、今回の襲撃に対する反応は驚く程早かった。本部にしては珍しく迅速な対応だと思っていたが、ツバキがそこに居た事を考えれば、その可能性は低いと判断した。

何時もの聞きなれた会話にタツミは何も思わないが、予想通り新人の2人は顔色が若干悪い様にしか見えなかった。どんなベテランでも初めての任務の時は同じような思いが少なからずある。タツミは緊迫した中にも少しだけ感慨深さを感じていた。

 

 

「さっきも言ったけど、これが俺たちの仕事だから緊張するなとは言わないが、今は落ち着く事。戦場は冷静さを無くした奴から脱落するんだ。今までやって来た事を思い出しながら行動するんだ。いざとなったら俺もハルオミも居るんだから遠慮なんてする必要はないから。自分達で出来る事だけ考えるんだ」

 

「分かりました。遠慮なく頼らせていただきます」

 

「じゃあヒバリちゃん。ちょっと行ってくるわ」

 

「ご武運を」

 

これから戦場に出向く割にはあまりにも気軽すぎる程の内容。そんなやりとりを新人の2人はどう感じたのか。決戦の火蓋が切って落とされようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 


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