神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第5話 試運転

 屋敷にエイジが帰ってきている頃、一人無明は新型の神機製造用の材料調達に来ていた。

 アナグラではゴッドイーター達が討伐した後のコアや素材で神機の強化や制作、アラガミ防壁の更新を行うが、屋敷ではそんな人員が居ない為に無明が一人で補っている。

 

 

 今回の内容は、アナグラからの非公式の依頼も兼ねている事もあり、討伐対象は第1種接触禁忌種のスサノオ。現状ではアナグラでも討伐できる人間は極めて限られた存在となっており、事実として公的な討伐記録はそう多くない。

 非公式の依頼はともかく、今回は新型神機制作がメインとなる関係もあり、今以上に強力なアラガミのコアが必要となっている為の任務とも言えた。

 

 

 これは本人の材料だけではなく、特務としても受けている関係上、討伐数は全部で計3体。事前の情報では各々が散開した状態で確認されている事もあり、上手く捌けば特に懸念される様な内容ではなく、単独でも完遂可能な任務だった。

 

 不意打ちの討伐とは違い、今回は事前情報で既にキャッチしている為に装備も準備も万全の体制が出来ている。

 余程の不覚さえ取らなければ問題になる様な事は何も無かった。

 

 

 周囲の気配を探りながら無明は索敵を開始する。討伐対象のアラガミしか居ない事は事前の段階で確認している為に、ここから聞こえる音の可能性は一つだけだった。

 大型種特有の捕喰音が聞こえると同時に、その先へ向かうと、最初の1体を発見。捕喰していた事で未だに気がつかないのか、様子を見る事無くすぐさま戦端が開かれた。

 

 無明の神機は近接型神機。所謂第1世代の影響もあり、見た目は年季が入った様にも見える。元来のままであれば、ここから戦力の嵩上げが難しく、任務はほぼ単独となる為に独自の進化をする事で本来ではありえない様なカスタマイズが施されていた。

 

 刀身はロングだが、刃の厚みはそれほどでもなく、どちらかと言えば旧時代にあった日本刀に近い。刃も元々その存在が目だたない様にする事で、元来無かったのか闇を象徴するかの様な漆黒の刃。

 

 今でこそ第2世代の新型神機が少しづつではあるが現場に出始めている事もあり、何も知らない人間からすれば戦力としては格下とも考える者が居ても不思議では無かった。

 実際にはその考えには当てはまる事は無いが、油断する訳でもない。その対策とばかりにカスタマイズする事により独自の進化を遂げていた。

 

 

 気配も音も感じさせないまま近寄り、そのまま一気に捕喰を開始する。大きな咢がスサノオの尾の部分に牙を突き立て大きく喰らいつく。

 バーストモードになった瞬間、無明の体からドス黒いオーラが全身から荒れ狂うかの様に吹き出し、今まで以上に全身に力がみなぎっていた。

 捕喰に夢中だったのか、尾を捕喰された事で初めて気配を察知し、自分とは異なる捕喰者に攻撃された事を感づいたスサノオが振り返った瞬間、無明はその場には既に居なかった。

 

 すさまじい速度で相手の視界から消え去ると同時に一気に死角へと飛び込む。気が付けばスサノオの前足は鋭利な刃で既に切断されていた。

 

 いくらオラクル細胞の塊でもあるアラガミと言えど、基本動作における稼働方法は普通の生物と変わりは無く、足の節にある甲殻に覆われていない部分に刃が通り、そのまま綺麗とも言える切断面を作りながら、そこから先が何も残されていない程に前足の二足が切断されていた。

 

 

 前足の2本を呆気なく失う事で、自身の重量を支える事は出来ず、その場でのた打ち回る以外の手立ては無くなっていた。

 

 2本の足だけで巨体を支えながら移動する事が出来ず、動けないのをそのままに、他の足や腕の先端でもある神機の部分を圧倒的な速度で、まるで何かを解体するかの様に捌いていく。

 

 気が付けば身動きが出来ないスサノオを瞬く間に捌く事で1体目の討伐が終わり、そのままコアを抜き取ると倒されたスサノオは霧散していた。返す刀で2体目を討伐した頃には最後の1体が現れるが、目の前に対峙したスサノオは他の個体とは明らかにその存在感と動きが大きく違う。

 今まで数々のアラガミを捕喰した結果として新化するのはゴッドイーターだけではなく、アラガミも例外ではない。それ故にスサノオ自身も進化していたのだ。

 

 

 前の2体とは大きく異なり、明らかに移動速度が他の個体よりも素早く動きが洗練されている。

 腕に供えられた神機の攻撃を躱したかと思った瞬間に、予め決めてあったかの様に尾の部分でもある剣による連続攻撃をしかける事で反撃を許す事は無かった。

 

 

 今まで相手にしてきたスサノオからすれば、速度、力のレベルが別次元とも言える存在。攻撃の跡を見れば、膨大な力をひけらかすかの様に地面が大きく地形が変わるほどにえぐれていた。

 

 いきなり他のアラガミと同じ様な攻撃をせず、確認とばかりに無明は繰り出される攻撃を避けながら様子を見る。

 今までのアラガミとは明らかに一線引いた強固な個体。かと言ってこのまま放置すれば将来アナグラに対しての災いとなる可能性を秘めている。

 材料の採取以外に、アナグラへの禍根となる前に決着をつけ、後顧の憂いを断つ為の一番の先決事項とばかりに討伐する事を決意したかの様に神機の柄を握り直した。

 

 

 通常のゴッドイーターであれば既に2体を討伐している時点で体力と精神的な状況は良いとは言い難いものの、無明にはまだ余裕があった。

 ただ気になるのが、この個体はやたらと他とはケタが違う事だけ。ここまで違うのは中々お目にかかる事が出来ない。ある意味レアな存在か独特の進化を遂げた特異種とも言える。これであれば期待できるコアが取り出せるかもしれない。

 戦いの最中にそんな思惑がそこにあった。

 

 力が強ければ、当然その装甲も固い事は間違いない。戦闘中にも関わらず対峙したスサノオを見ながら試案し効率を考え出す。

 間合いを測りながら様子を見ているとスサノオの動きが徐々に変化し始めていた。

 

 

 スサノオは両方の神機を突き出しながら捕喰せんとばかりに一気に襲い掛かる。

 無明はこれまでの動きから行動を予測するも、攻撃範囲は思った以上に大きく、このまま避ける事も考えるが、決定打が無いままの戦闘が続く様であれば、これ以上は埒が明かないと考え、今度は攻防一体で神機の攻撃と衝撃を受け流しながら、カウンター気味に刃を流れに逆らうことなく突き立てた。

 

 盾で防ぐよりは刃で受け流し、その隙を攻撃する方が行動におけるロスは少なく、また相手に与えるダメージは大きい。

 

 しかしながら、この攻撃には多大なるリスクも存在する。通常種のアラガミならともかく、接触禁忌種のスサノオの攻撃を紙一重とも言える回避行動中でのカウンターで突き立てた刃はそのまま口元へと深々と突き刺さり、その手ごたえと同時に血を吹き出しながらのけ反るスサノオに更に追撃とばかりに追撃の手をを休める事無くを加えていた。

 

 ある程度の手ごたえから判断し、このまま押し切れるかと思った瞬間だった。無明は嫌な予感と共に素早く下がると、どこからか狙い澄ましたかの様な灼熱玉がスサノオに直撃し、スサノオはそのまま止めをさされたのか、断末魔と共にその場で絶命していた。

 

 本来であれば、スサノオ以外の討伐対象はなかったはず。

 改めて任務の概要を確認しながらも、その攻撃の元となる箇所の確認の為に振り向くとそこには第2接触禁忌種のヘラが猛スピードで滑空しながら無明に襲い掛かかった。

 

 

 間合いを見極めギリギリの所を体を捻りかわしつつ、戦闘状況を把握する。

 他にはこの個体以外のは気配は無い。そう判断すると同時に、無明はついでとばかりに新型装備の試し斬りを決めた。

 

 本来第1世代の神機使いは第2世代のリンクバーストが無い限り、バーストレベルを上げる事は出来ない。しかしながら、レベル上昇時の攻撃力の高さをむざむざ無視する事は出来ない事は誰もが知る所となっていた。

 このジレンマを解決し、更なる高みを目指す為にも立ち止まる事は許されない。

 新型神機使いが居ない今、単独でもレベル3にまで引き上げる事が出来る様、独自に神機のカスタマイズが施されていた。

 

 

 

 

 ただし、大きな力の取得には大きな代償を支払う事になる。

 

 

 

 通常、神機に取り付けられたコアをアーティフィシャルCNSで制御するが、この部分のリミッターを解除し疑似的に複数のコアを取り付ける事で暴走しない様に制御する。

 神機にはコアが一つではなく、疑似的コアを2つ追加で取付けた結果、強制解放剤を注入する事で合計3つのコアが平行励起し、神機が強制発動されていた。

解放剤が流れ込んだその瞬間に体内から何かが神機に流れ込む様な感覚がし、単独でバースト状態がレベル3まで一気に跳ね上がる事となった。

 

 

 通常のドス黒いオーラがさらに禍々しく、何か揺らめく様な動きからその存在すら捉える事が困難となっている。

 

 この状態になると本能が察知したのか怯む様なそぶりと同時に、ヘラと言えども動きを捉える事が出来ず、本能の赴くままに灼熱の玉をそこに居るはずの無明に向けて出した瞬間、その姿は幻となって消え去り、それと同時に両翼手が鮮やかに切断されていた。

 

 

 切断された両翼手が斬られた勢いそのままに、ヘラのそばでゴロリと転がり落ちる。攻撃の手段を失ったヘラは抵抗する間もなく、そのまま漆黒の刃で瞬時に首をはねられると、血が噴水の様に吹き出しその中心部の中で倒れこみやがて絶命した。

 

 

 バーストが解除された途端に急激な脱力感と汗が滝の様に流れ、襲ってくる疲労感から思わず片膝をついた。

 試作段階とは言え、万が一他の個体がいれば致命的な隙が産まれる。

 

 結局の所は討伐したのはスサノオ3体とヘラが1体。素材調達と新型装備の試運転の観点からは戦果は上々とも言える出来だった。

 

 

 

 時間の経過と共に身体の状態が落ち着きを見せる。大きく深呼吸すると同時に息を整え無明はコアを抜き取り帰路についた。

 

 

 

 


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