神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第43話 決別

「どうしてここに?チケットを受け取ったはずじゃあ?」

 

「一度は受け取ったんだけど、やっぱり今の状況だけを単純に受け取るのは止めたんだ。多分、誰かを犠牲に成り立つ幸せなんて多分幸せだと感じる事が出来ないだろうってね」

 

「そうか。これから一緒にシオを取り戻しに行ってくれるか?」

 

「その為にここに来たんだよ。俺にも手伝わせてくれ」

 

 まさかコウタが戻ってくるとは誰も思って無かったのだろう。最初に声を聴いた瞬間は驚いたが、コウタの言っている事にもっともだと感じたのか安堵の表情が見えた。

 これで第1部隊は全員が揃った。あとは目指す目的地へと向かう為に通路から進むだけとなった。しかし、ここで想定外の事実が発覚していた。

 エイジスへ向かう事が出来る唯一の扉は侵入者を拒むかの様にピクリとも動く気配がない。時間の制約があるからなのか、コウタの額には嫌な汗が滲んでいた。

 

 

「ここからエレベーターで地下に下りるんだけど、扉が空かないからどうしようもないよ」

 

「だったら、この扉を壊すまでだ。お前ら少し下がれ」

 

「ソーマ、そこまでだ」

 

 鍵が掛かった扉に業を煮やしたソーマが破壊し、強行突入しようとした時だった。背後から聞こえたのは他の誰でもなくツバキ自身の声。その声に全員が一斉に振り向いた。

 

 

「ソーマ、短絡的に物を考えるな。少しは考えて行動しろ。コウタ、よくここがエイジス島への入り口だと分かったな?」

 

「以前にエイジス計画の話を聞いた時に、現状はどうなってるのか確認したくて色々探していたらここの場所が分かったんです」

 

「そうか。お前たちに告ぐ、現時点で本部から通達があった。今現在より、今回の一連の流れは元極東支部支部長ヨハネス・フォン・シックザールの主導によるテロと認定した。これより本部からの通達により、可及的速やかに排除しろ。良いな!これは命令だ。特にソーマ、お前の父親に対して今回の件は色々と思う事はあるかもしれない。しかしながら今回の件に関して何かしらの迷いがあるようなら、今回の任から外れてもらうが、どうする?」

 

 世界の破滅へのカウントダウンは既に始まっている。いくら憎しみが有っても、身内を手にかけるとなれば、アラガミの討伐とは次元が違う。万が一がある訳には行かないからこそ、ソーマに対してここで最終確認をする必要があった。

 

 

「愚問だな。俺がやるべき事はたった一つ。シオの救出だけだ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

「分かった。全員が方舟に搭乗せずここに居る事を嬉しく思う。良いか、全員生きて帰れ。これは命令だ!」

 

 ツバキの叱咤激励に全員の気合が改めて入りなおす。あとは一気に進むだけ。時間と共に気合が入り始めた。

 ほどなくしてツバキが特定の解除キー操作をすると命がふきこまれたかの様に大きな動作音が鳴り響く。全員がエレベーターに乗り込む扉が閉まる前に改めてツバキが言い直した。

 

 

「人類の未来を頼んだぞお前たち!」

 

 これから向かう戦場は時間が許される程は残されていない。これが全員の共通した認識だった。今まさに人類にとっての最大の激闘が繰り広げられようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全員がエイジス島に到着すると、そこには何も無いただ広いだけの敷地が広がっていた。その先には今回の首謀者でもあるヨハネス・フォン・シックザールの姿もあった。

 

 

「やあ、よく来たね。ここに来たのはチケットを受け取る訳ではなさそうだな」

 

 ヨハネスは悪びれた様子もなく、ただ何事も無かったかの様に話しかける。

 来た当初、最初に目に入ったのは誰もが想定していない程の巨大な女性を模したアラガミが吊るされていた。しかも、そこには拉致されたシオが額の中央部分に埋め込まれている。

 当初はただの戯言ではと思われていたが、この状況で全員が改めて覚悟を決める事になった。

 

 

「ソーマ、どうやらこのアラガミとは随分と仲が良かったみたいだが?親としては討伐対象の物と仲良くするのは感心しないぞ」

 

「黙れ。お前に何が分かる。気が付いた時には人を兵器扱いし、気に食わないならバケモノ扱いだ。そんなお前を親としては一度も認めた事はない。ただシオを取り戻しに来ただけだ」

 

「随分と勝手な言いぐさだな。このアラガミがそんなに気に入ったなら返してやろう。特異点が手に入った以上、この器はもう用済みだ」

 

 

 その一言で、吊るされていたアラガミからまるでゴミでも捨てるかの如くシオの身体が放り出された。

 

 

「シオ!」

 

 ソーマが全力で受け止めに行くも間に合わず、無情にも目の前で床に叩きつけられる。

 コアを抜き取られていたシオの身体は平時よりも更に冷たく、このまま放置すればいずれ霧散してしまうのではと危惧する程に軽くなっていた。

 

 

「貴様!」

 

 本来アラガミはコアを抜き取られれば一定の時間はその形状を維持するが、個体差によっては長時間その場にとどまる事もある。コアを抜き取られた以上、霧散するのは如何なるアラガミと言えど避ける事は出来ない。

 ソーマとてそんな事は分かりきっているが、今までのやり取りからそのまま放置する事が出来ず、抱き寄せた身体をその場にそっと置きなおした。

 

 慈しむ様なその姿を見た第1部隊の面々でさえも目の前の事に対して誰も口を開く事は無い。ただ純粋に生きていただけのシオを愛おしいと思う気持ちだけがそこにあった。

 

 

「アラガミ如きにそこまで肩入れするとはな。人類最後の守護者らしからぬ態度には失望したよ。まあ良い。君たちとの戯言もここまでだ。後は当初の予定通り終末捕喰を完成させるだけだ」

 

 

 そう言い放つと同時に地面から大きな卵の様な物が出現し、そこには一対のアラガミが鎮座している。まるで侵入者を排除するかの様なガーディアン。これが今回の隠し玉といも言える存在だった。

 

 本来であればあれば、そのまま起動するはずが、何を思ったのかヨハネスはそのアラガミへと身体を放り投げ、その身は何事も無かったの様に吸収されると同時に沈黙していたアラガミの目に生命の光が宿っている。

 

 

『ここが正念場だ』

 

 誰かが言った訳ではなく全員がその瞬間に認識した。

 

 今までに幾度となく色んなアラガミを討伐してきたが、このアラガミに関しては今までの規則性は全く当てはまらず、女性を模した形状と男性を模した形状で一対となる様な姿をしていた。

 そしてヨハネスを吸収する事で、今までのアラガミには感じる事が無かった知性を宿している事が存在感を強める結果となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全員散開!気負わず一気に行くぞ!」

 

 

 エイジの掛け声と共に全員が己の意思と今までの戦闘から導き出す最適解ともいえる攻撃を繰り出す。今までに幾度となく戦闘にあたった為か態々指示を出すまでも無かった。

 自分達の出来る事を全力でやるだけ。そう考え戦闘が始まった。

 

 

「先ずは貴様からだ」

 

 散開していた影響なのか、アラガミはエイジ一人をターゲットに絞り突進してくる。 通常であれば一人に攻撃をしかけるのは多大なる隙を発生させる。

 ここまで数々のアラガミと対峙してきた者としてこの隙を見逃すはずもなく、罠にかけたかの様に銃撃で一斉掃射を仕掛ける。通常であればどんなアラガミであったとしても多少なりとも怯むが、このアラガミに関しては対処の方法が大きく違っていた。

 

 通常アラガミの捕喰本能であれば同時に攻撃しても、どちらか一方が攻撃から防ぐ事は無い。しかしながら、このアラガミに関して他と大きく違う点があった。

 

 女性を模したアラガミに攻撃をしかけると、その一方で男性を模した方が銃撃から護るかの様にかばう。本来であればいくら庇った所である程度のダメージを与える事が出来るが、このアラガミは異常な程に防御力が高いからなのか、まるで何も無かったかの様な動きを見せた。

 

 

「なんであれでダメージが無いんだよ」

 

「コウタ!攻撃の手を緩めるな!」

 

 コウタが驚くのは無理も無かった。今回の任務に関して、事前に神機の調整がされていたが、その際にリッカからは従来の威力を底上げしている事を聞いていた。

 前回の討伐したディアウス・ピターも当初は大きく怯む事は無かったが、それでも多少の手ごたえがあった。

 その当時の火力以上に今回は高火力に出力を上げたにも関わらず、平然としているその存在感に戦慄を覚えた。

 コウタだけではなく、それは同時に撃ったアリサやサクヤも同じだった。明らかに軽い手ごたえに相手の防御能力の高さは異常とも言える。本当に攻撃が届いて居居るのかすら怪しいと思える程でもあった。

 

 

「おそらくは銃撃の耐性があるのかもしれない。コウタとサクヤさんは援護に回って。ソーマ、アリサ、3人で剣戟で攻撃するぞ」

 

 本来であれば初見のアラガミに対しては時間をかけて弱点や行動パターンを確認するのが一番のやり方でもあり、それがセオリーでおあった。

 しかし、今回のケースではこの考えには当てはまらない事が多く、しかも時間をかければ待っているのは終末捕喰の起動とシオの消滅を意味する。

 

 これについても全員が理解している為に悠長な事を考えている暇は一切無かった。

 下手に動きを止めれば自分の命が簡単に消し飛ぶ。この事実だけはどうしようも無かった。

 本来、どんなアラガミであっても必ず存在するのはその攻撃範囲。一体のアラガミであれば警戒するレベルはある程度予測できる。仮にこれが複数体のアラガミであったとしても対処方法はそう変わらず、またどこまで行っても個体が違えば考えも違うのは今までの経験で理解していた。

 

 本来ならばこのメンバーで有れば苦戦するはずが無いとまで思えるはずだった。しかし、このアラガミの他とは違う最大の点が常にどちらかに寄り添いながら戦う為に互いの欠点をフォローしあいながら戦闘が続く点だった。

 特に男性型は異常とも言える堅さを誇り、遠距離から銃撃を物ともせずに受け止める。現状では牽制しかできず、決定打とはなり得なかった。

 

 

「銃撃が届いてる気がしない」

 

 銃撃での攻撃を諦め、剣戟での攻撃を仕掛けようとした途端、女型のアラガミが四肢を地面に付き、移動し始める。

 このまま上手く回避しようとした瞬間、予想していない所から光弾が連続して飛んできた。

 光弾を射出したのは男型。女型に集中していた所に不意打ちの如く意識の範囲外から飛んだ為に回避が間に合わず、アリサが被弾した。

 

 

「キャアアア!」

 

「アリサ!大丈夫か!」

 

 想定外の攻撃に驚くも、この場で立つ尽くせば今度はこちらが一方的に攻撃を受ける事になる。このままではアリサの命が危ない。そう考える前にエイジの身体は動いていた。

 直撃の影響なのかアリサの動きが少し鈍い事を確認し、次の指示を飛ばす。

 

 

「コウタとサクヤさんは女型を、ソーマは男型を攻撃してくれ」

 

 アリサの無事を確認し、再び戦闘に戻る。今度は二手に分かれ同時に攻撃する事で行動パターンを確認するのと同時に攻撃の糸口を見つける事を優先した。

 攻防一体型のアラガミは色んな意味で厄介とも言える存在でもある。片方だけを攻撃しようものならすかさずフォローに入られる。

 かと言って分断できる程の場所もなく、このままではいずれ押し切られるのは明白だった。

 

 コウタとサクヤの牽制とも言える攻撃に、再び反撃しようと男型が攻撃を転じようとした時だった。

 先ほどまでは近距離に居た為に確認出来なかったが、今は距離があるおかげで俯瞰的に見る事が出来る。攻撃の際に僅かながら背後のジェネレーターが光を帯びそのまま光弾を放つ。

 遠距離からの攻撃が幸いし、十分な回避行動に移る事が確認出来た。

 

 

「すまないコウタ、もう一度頼む」

 

「何か分かったのか?」

 

「恐らくはだけど。試す価値はあるからもう一度頼む」

 

「了解だ!」

 

 

 再び攻撃を開始し、男型が反撃に移ろうとした瞬間だった。気配を完全に殺し、背後から男型のアラガミに向かって渾身の一撃を浴びせる。如何に堅牢であったとしても攻撃の瞬間は防御が落ちるその瞬間をエイジは狙っていた。

 時間にして僅かコンマ数秒とも言える攻防だが、ここに一縷の望みが出来た。

 攻撃の瞬間は防御にまで意識が回らないのか、男型はそのまま攻撃を喰らい、この戦いの中で初めて怯みを見せた。

 

 

「攻撃した瞬間を狙うんだ。他の攻撃には注意しろ!」

 

 怒号とも言える声で他のメンバーにも伝達する。攻撃の手段を見つけ、一瞬の隙を逃す程第1部隊は甘くは無い。そこに待っていたのは怒涛とも言える数々の攻撃だった。

 

 

 

 

 

 

 


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