神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第4話 驚きの事実

 久しぶりに帰ってきた屋敷は出て行って行った時と何も変わらないままだった。

 内容に関しては分からないまでも、どう考えても厄介事以外の何物でもない原因であろうディスクを一番最初に渡すべく無明を探そうと歩いていると、子供の頃からアナグラへと行くまで一緒になって訓練していた友人の顔を見つけていた。

 

 

 

「兄様は今どこに?」

 

「兄貴なら昨日までは研究棟だったけど、今朝からは材料の件で不在にしてるよ。恐らくは、早ければ明日だけど遅いともう少しかかるかもね」

 

「そんなにかかるのか」

 

「内容が内容なだけにな。で、何か用事でもあったのか?」

 

 

 普段であれば何事も無かったかの様に話すが、今回の要件は流石に内容と目的が分からず、渡された時のリンドウの表情から察すると、今回の事は流石に友人でも気軽には話す事が出来ない事だけは理解していた。

 

 普段から飄々としてるリンドウが、あそこまで真剣になるのであれば、恐らくは渡されたディスクの中身は何らかの厄介事か自分では何も手だしが出来ない内容である事だけは予想出来ていた。

 

 

「ちょっとアナグラからの頼まれごとでね。渡す物があっただけだよ」

 

「そうか。兄貴が今は居ない以上何も出来ないね。それよりもアナグラの生活はどうなんだ?噂じゃ結構活躍してるらしいけど?」

 

「活躍だなんてしてないよ。まだ他の人に比べれば足元にも及ばないよ。とにかく極東は世界の中でも最前線である以上は、討伐云々よりも生き残る事に必死だよ」

 

 その言葉には僅かな驕りも見る事が無く、純粋な感情から出た事を窺う事が出来ていた。第三者からの目で見れば、それなりの水準ではあるが、自分の中で自覚していない以上、それがかえってゴッドイーターとしての事実である事を物語っていた。

 

 

「へ~。お前ほどのレベルでもそうなのか。やっぱりゴッドイーターってすげえな。いつかはそっち側に行ってみたいものだよ」

 

「適合試験にパスしないと話にならないけどね」

 

「それを言い出したらキリがないさ」

 

 多少の謙遜は入っているものの、この僅かな間でエイジ自身は気が付いていないが、アナグラ内でのスコアランキングは新人にしては驚異的な数字でもあり、常時上位に入っている。

 

 討伐内容にもよるが、一部を除いて中型種位の単体討伐までなら苦戦する事は意外と少なかった。

 人間慣れとは恐ろしい物で、客観的に考えれば、僅かな期間でのソロは本来であれば認められる事は無く、新兵レベルを遥かに凌駕してるものの、比べる相手が部隊長格、もしくはここのマスターでもある無明が基準となる為に、現実を直視する事は無い。

 

 それ故に、自分の今の実力は劣っている物だと認識している事で、今以上の精進が必要と感じている一因でもあり、そこに驕る様な感情は一切持ちは合わせていなかった。

 

 

「そうだ。どうせ暇だろ?久しぶりに一手やらないか。あれからアナグラでどこまで腕を上げたか一度見せてくれよ」

 

「…そうだな。じゃあ、この後で道場な」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これから対人模擬戦を始める。二人とも準備は良いか!」

 

 

 二人でけでは流石に困るので客観的に判断すべく、これまた暇をしていた友人に声をかける事にした。

 

 この屋敷では、余程の事が無ければ住んでいる住人は何らかのスキルを持ち、自己の鍛錬を欠かさずやっている事もあってか、皆がそれなりに武術の心得がある。 

 だからと言う訳ではないが、男子陣からはゴッドイーターの職業は憧れる部分が多分にあった。

 

 エイジの実力は屋敷の人間の殆どが知る所でもあり、ここでの模擬戦を見れば世間のゴッドイーターのレベルが垣間見えてくる。軽い気持ちで声をかけ、最初は二人だけのはずが気が付けば暇人?の集まりが集団で見物する事になっていた。

 

 

 

 

 緊張感が徐々に高まると同時に、始めの合図と共に激しい剣戟が道場内に響き渡る。

 本来であれば、対人戦はゴッドイーターの業務の中では中々機会がないのと、どうしても相手はアラガミになる関係でシミュレーターでの模擬戦闘がメインとなる。

 

 片方が素人であれば決着はあっという間に付くが、こちらではゴッドイーターとは真逆にメインは対人戦。いくら小型種と言われるアラガミであったとしても人間以上の大きさがあり、それに対しての対人戦はアラガミに比べれば遥に小さい。

 お互いに意識はしていないが、対人戦におけるアドバンテージはどうしても経験がある程度のモノを言う戦いになってくる。

 

 

 

 お互いケガが無いように神機ではなく木刀での戦いだが、万が一打ち所が悪ければ大怪我につながる為に油断は出来ない。

 始めの合図と共に、まるで打ち合わせたかの様にエイジは持前の素早い動きと同時に、相手の隙を狙うが如く、常に死角からの攻撃がメインとなる為に予測される動きは一切取らないとばかりに、常に攪乱した状態が続く。

 

 一方の友人でもあるナオヤはエイジとは正反対の行動に移る。あらゆる方向から繰り出される攻撃を、まるで一つ一つ迎撃するのかの様に相手の攻撃を撃ち落とす攻撃スタイルの為に、こちらからの攻撃を一切行わず、お互いの一挙手一投足の隙を常に窺う。

 

 渾身の一撃とも取れるエイジの死角からの突きをナオヤは避ける事はなく、刀でいなして軌道をそらせ、時には強引とも取れる動きで一瞬の隙を作りだし、そこを起点に反撃に転じる。

 

 どんな攻撃でもカウンターで迎撃し隙が出来るのを予想し誘導しつつ、そこに斬撃を合わせる様に持って行く。激しい動きだけでは無く、そこには高度とも言える心理戦までもが同時に繰り広げられていた。

 

 本来エイジのスタイルは(きょ)をつく動きなだけに、スピードを重視する事に対して、一方のナオヤは(じつ)の動き。無駄な動きそのものを排除し、いかなるフェイントですら隙が見当たらない程に全く無い。

 

 だからと言って、カウンターを得意とするも決して守り一辺倒に付くだけではなく、動きをある程度予測した上ので攻撃を最短距離で仕掛けるてくる。

 スピードを重視すれば手数は増えるが、その分斬撃の威力は小さくなる為に、このままでは決定打に欠けるのは誰であろう攻撃をしているエイジ自身が一番理解していた。

 

 一方のナオヤも、カウンター気味に待つことはあるが、今までの動きと見えない角度から来るであろう気配と予測されるであろう行動を読み、ギリギリと言えるレベルで攻撃を回避している為に、決定打となる攻撃は一切受け付けない。

 

 お互いの力量が分かっている分だけ互角の戦いが延々と続く。外から見ればまるで決められた剣舞の様な動きを見せつけ、そこに集まった見物人は緊迫感から息をする事すら忘れ見守っている。

 

 永遠とも言える程の戦いはいつまでも続かない。いくら互角の戦いだからと言って、このままで終わる事も無く、片方はゴッドイーターでもう片方は一般人。

 保有している身体能力の差は余りにも大きかった。

 

 

 

 

 

 

 模擬戦が開始されてから、そうこうしてるうちに時間だけが刻一刻と過ぎてく。

見物に来ていた周囲の人間もいつの間にか騒ぐ事無く緊迫した空気に徐々に呑まれ、まるで魅入られたかの様に身動きする事すら出来ない雰囲気がこの場を支配していく。

 このまま永劫ともつかないままかと思われたその瞬間、あっけなく決着が付いたのは緊迫した戦いの最中のほんの些細な動きが原因だった。

 

 

「はぁ~。汗で滑らなければ俺の勝ちだったのにな」

 

「ナオヤも今までよりも読みが数段鋭かったから、一瞬焦ったよ」

 

「なんだ。たったの一瞬かよ」

 

 力強く振りかぶる際に、足元の汗で体制が崩れその隙を見逃さず攻撃を当てての決着だった。二人の戦いも終わってみれば、かなりの見物人で道場はあふれかえっていた。

 

 

「まっ、勝敗は今更だから拘らないけどね」

 

「それ以上は言うな。どうせ負け越してるのは分かりきってるよ」

 

 この二人は小さい頃から何かと競い、当初は互角だったがここ数年で今の年齢に近くなるにつれて徐々に差が付き始めた。

 

 

「やっぱお前には勝てないよ。最近は兄貴から武器の製作関係を教えて貰っているから、実はそちらにシフトしようかと思ってる」

 

 

 この時代、アラガミにはオラクル細胞由来の武器=神機でないとアラガミを倒す事は出来ない。これが現代の常識でもあり、またそれ以外の解答は存在していなかった。

 なぜそんな話になったのだろうか?そう考えていると、ナオヤから驚きの回答が斜め上からやってきた。

 

 

「お前には内緒だったけど、実はアナグラから神機の開発の事でいくつか依頼が来てるんだけど、その開発の補佐で俺が手伝ってるんだよ」

 

「えっ、そうなの?」

 

「ま、実際には俺じゃなくて兄貴が開発してるけどね。あくまでも補佐だよ。今日居ないのは、その部材となる材料採取だよ」

 

 食糧に関しては、ここ最近になり農業プラントが順調に回り始めた事により、アナグラだけではなく外部居住区でも生鮮食料品を見る様になってきた。

 当初から、ここの実験農場で色々と生産と開発をやっていた事をエイジも知っていたが、まさか神機開発までされているとは思ってもいなかった。

 

 知れば知るほど新しい謎が生まれてくる。しかし、ここで悩んだ所で何かが変わる事は何もない事を悟り、エイジは他の事に思考を切り替えた。

 

 

「このままだと風邪ひくから、風呂に入ってから飯にしないか?」

 

 この時代には珍しく、敷地内の一部に温泉が湧きでた関係で屋敷の人間に関わらず近隣の住人もやってくる。

 アナグラとは違い、元々はフェンリルから溢れた人達で生活していたが、屋敷の先代当主がまとめる事で、この地に小さな外部居住区が形成されていた。

 

 アラガミ防壁に関しては、最近になって設置されている事もあり、表向きは独立したコミュニティをとっている。

 

 

 

「いつ来てもここの温泉は良いな。アナグラだとこうは行かないよ」

 

「なんだ。アナグラは風呂無しなのか?案外とショボイんだな」

 

「う~ん。そうじゃないんだけど、最低限のシャワー位はあるけど、各自独立した部屋だからな。アナグラは区画によって色々と違いがあるみたいだから、よくは分からないけど、今の状態だと大がかりな改装が難しいのと、後はコストの問題じゃないかな。ま、詳しい事は知らないよ」

 

「そっか。とりあえず休みはいつまでだ?」

 

「明日までだから、夕方には戻るよ。それまでに兄様は戻るかな?」

 

「どうだろう?今回の材料はちょっと調達が厳しいから何とも言えないかもな。一応、連絡は入れておくけど、待ってダメなら諦めるのが一番だな」

 

 何だかんだと言いながらも、エイジにとっては一番の見知った友人。僅かな言葉の中でありがたい事に色んな部分を察してくれる。

 やるべき事が今の段階で無い以上、あとは無明が帰ってくるのを待つばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 


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