神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第36話 合流

《第1部隊は至急ラボまで来る様に》

 

 アナグラに戻ってからの行動は思いの外素早かった。既にサクヤは屋敷に居る物の、現在の所ではシオの服の製作と今後のについての方針を伝える必要があった。

 特にシオの存在が支部長に知れるとその時点で、計画が発動し兼ねない。時間は思っている以上に少なく、また少しのミスもゆるされない綱渡りの様でもあった。

 

 

「よし全員揃ったな。まだ休暇中ではあるが、今後の事についての方針をお前たちに伝える事になった」

 

 

 シオの事かと思い全員が部屋に入ると、そこにはツバキ、無明、榊博士の3人がそろっていた。2人はともかく無明がいる事が珍しく、全員の顔には疑問だけが残っていた。

 

 

「あの、サクヤさんはまだ来ていませんが?」

 

「サクヤには既に伝えてあるのでここには来ない。今回伝えるのはこの情報は機密扱いとし、他言無用となるので口外しないように」

 

 

 ツバキからの話に3人の顔が引き締まった。サクヤはここにはいないが何か知っている様子なのはツバキの言葉で理解していた。しかもシオの事はツバキには知られていない以上、今は詮索する事すら出来なかった。

 

 

「単刀直入に言おう。リンドウは生きている。現在の所は無明の屋敷にいるが、しばらくの間は現場復帰はしない。部隊は今のまま存続とし、今後も如月エイジを隊長とする。お前たちに言うべき事は以上だ。質問があればこの場でのみ受け付ける」

 

 

 全く想定していなかったリンドウの生存。今まで一切の手がかりもなく行方不明となっていたはずのリンドウが無明の所に居る事が判明したものの、事の大きなに3人は反応する事は一切出来なかった。

 しかし、時間と共に言葉の意味を思い出したのかやがて大きな声が自然と出る。

 

 

「え、え、ええっ~」

 

「リ、リンドウさんが生きてるってどう言う事ですか?しかも兄様の所で?」

 

 

 この動揺した空間の中でエイジが一番先に理性を取り戻したのか真っ先に質問する。今までゴッドイーターになってからの一番の衝撃である事に間違いは無かった。

 

 

「落ち着け。簡潔に言えば捜索して早々には発見出来ていたが、今まで生死をさまよっていた関係上、公表しなかっただけだ」

 

「それでも、少し位は教えてくれても」

 

「生きているが意識は無いと公表し、結果死亡では動揺は隠す事は出来ないと判断した結果だ。今の時点で動揺しているのが更に酷くなれば今後の士気にも影響が出る。それ以外に他意は無い。今まで昏睡状態だった関係と、目覚めたのは昨日だからな。それで漸く公表する事にした」

 

「あ、あのサクヤさんには?」

 

「既に通達済みで今は屋敷に居る。お前たちもこれから行くなら、エイジが案内しろ。こちらは今後の事で榊博士と相談する事がある」

 

 

 そこまで言われ、これ以上の話を聞く必要が無くなったのか、全員が一様に黙った。リンドウ生存のインパクトが大きすぎたからなのか、3人は当初予感していた重大な秘匿事項を失念していた。

 このまま何も発言も無く沈黙が続くかと思った矢先にツバキからの唐突な発言があった。

 

 

「それはそうと。お前たちに聞くが、私に何か大きな隠し事をしていないか?」

 

 

 この一言は第1部隊全員の心を一瞬にして冷やした。ツバキに隠し事をする事と言えばたった一つ。シオの存在の事だった。

 

 

「如月エイジ。何か言いたい事があるのではないのか?」

 

 

 ツバキの鋭い眼光に今までどうした物かと悩んではいたが、このまま隠す事は出来ないと悟り漸く口を開こうとした時だった。

 

 

「つばき~いつまでここにいればいい?」

 

 

 この緊迫した雰囲気を壊したのは、ここにいる誰でもないシオだった。一番隠さなければならないはずの存在にも関わらず、何時もと変わらない声と口調で今呼んだ名前は紛れもなくツバキだった。

 流石のエイジもこれには今まで沈黙し、どうした物かと考慮していた空気をぶち壊す言葉だった。

 

 

「き、教官はいつ知ったんですか?」

 

「今日だ。もっと細かく言えば1時間前にだ」

 

「これには……」

 

 

 

 流石のエイジもこれ以上の言葉を出す事が出来ず黙る事しか出来なかった。

 助けを求めるべく他のメンバーをチラリと見ればアリサとコウタも同じような表情をし、ソーマに至っては別の方向に顔を背け、まるで関係無いと言わんばかりの態勢だった。

 

 

「ツバキさん。それ位で十分だろう。彼らも守秘義務あっての話だ」

 

「無明もああ言ってる事だ。これ以上は何も言わん。がしかし、今後の事もあるが故に他言無用である事に変わりない。これ以上の漏洩は無い様に。良いな」

 

 

 無明からの助け舟?が出た物の、そもそもこの事実を暴露したのは榊である以上、第1部隊の人間の事を責めるのは酷である事は容易に想像がついた。

 暴露の張本人でもある肝心の榊は一体何を考えているのか、誰もその考えの先は見えなかった。

 ここで漸く重苦しい空気が壊れそうな瞬間に、突如ラボのドアが開く。

 

 

「榊博士、用件って例の件ですか?」

 

「やあ、忙しいのにすまないね。彼女の服を事で呼んだんだよ」

 

 

 たった今漏洩の無き事と言い渡されたはずが、いきなり漏洩かと思った矢先に入って来たのは技術班のナオヤとリッカだった。

 機密であるならばこれ以上は拙い。そう考え何か言おうとする前に、今までの空気を察知したのか、エイジに話しかける。

 

 

「依頼された件ですが、材料は用意してありますので、サイズだけお願いします。彼女ですよね?」

 

「おまえだれだ~。はじめてみるな~」

 

「黛ナオヤだ。君の名前は?」

 

「しおだよ~」

 

「そっか。よろしくな。あと、後ろに居るのは」

 

「私は楠リッカ。リッカって呼んでねシオちゃん」

 

「そっか、りっかか~よろしくな」

 

 

 このやり取りでエイジ達も何となく状況を読む事ができた。しかしながら技術班のこの二人を呼ぶ意味が今の状況では判断できなかった。

 漏洩とは程遠いこの状況の中で落ち着き始めたのか、ここで榊に質問する事ができた。

 

 

「博士、何でまた俺たちなんですか?」

 

「良い質問だねナオヤ君。実はシオの服を作ってもらおうと思ってね。どうやら人間の利用している繊維は肌に合わない様だから、アラガミ由来の素材で作ってほしいんだよ」

 

「やっぱりそうですか。素材と服でもしやとは思いましたけど。まさか本当に実在するとは思いませんでした」

 

「君たちには緊急の用事って事で技術班には連絡してあるから、屋敷で服の製作を頼むよ。因みに期間は2日だからね。それまでは戻らなくて良いから。それと、とりあえず君たちは早急に動いてくれたまえ。こんな大人数でここに居るとなにかと不都合があるからね」

 

 

 

 榊からの発言で全員がその場から離れ、一路屋敷へ向かう事にした。この場に残されたのは3人だけ。まずは第1段階はクリアとなった。

 

 

「アーク計画のの事は何も言及してませんでしたが、このままで大丈夫ですか?」

 

「彼らに真実を伝えるのは些か早計だと思ってね。まだ油断は出来ないのであれば言わないのも一つの手だよ。しかし、シオの力と言うべきなのか、リンドウ君があそこまで元に戻るとはね。まだまだ、調べるには時間は必要なんだろうね」

 

「無明、博士。身内の事とは言えありがとうございました」

 

「ツバキさん。そんなに頭を下げる必要はないよ。実際には偶然が重なったとは言え、戻る事が出来たのはリンドウ自身の力で、自分達はそのサポートをしただけだ」

 

「それでも、礼の一つも言わないのは私の気持ちが治まらない」

 

「それなら、体で返してくれれば良い」

 

「なっ……」

 

 何気に放った一言がツバキを動揺に誘った。普段からそんな話をする事は一切無い人間から言われれば慌てる事も出てくる。

 無明は何も考えていない訳ではなく、普段からあまり表情が表に出てくる事がない為に、何を考えているのか理解しにくい部分が多い。その為にツバキも突然言われた言葉に動揺を隠しきれなかった。

 

 

「その時にはしっかりと連絡する」

 

 一言そうツバキに伝え、無明はラボを出た。しかしながらこの部屋にはまだ榊が居る以上、醜態をさらすわけには行かず、ツバキも何事も無かったかの様に無明に続いてラボを出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここがエイジの家なのか。想像以上にすげえ所に住んでるんだな」

 

「ここは兄様の屋敷で自分達は皆で済んでるだけだよ」

 

「みんなって事は他に誰が住んでるんですか?」

 

 第1部隊の面々はリンドウに会いに、技術班の2人はシオの服の製作の為に屋敷へと足を運んだ。エイジとナオヤは自宅である為に見慣れた光景だったが、他の人間が来る事は無いために物珍しさから辺りをキョロキョロと見渡していた。

 

 

「ここは、外部居住区には住めなかった人達が兄様の呼びかけで一緒に住んでいるんだよ。だから色んな人が住んでるし、ここはゴッドイーターに対しての偏見を持った人間もいないから心配しなくても大丈夫だよ」

 

 エイジの案内によって屋敷に到着すると、一人の女性がエイジ達を出迎えた。

 

 

「久しぶりに帰って来たのね。……また随分と団体ね。君たちの待ち人は奥の部屋だから先に行ってて頂戴」

 

 事前に連絡を受けていたのか、開口一番に行先を言われ、まずは言われた奥の部屋へと足を運んだ。

 既に話を聞いているとは言え、そこにリンドウが居る。それを十分すぎる程意識させられ襖を開けると、そこには浴衣姿のリンドウとサクヤが座っていた。

 

 

「おう、お前ら久しぶりだな。突っ立ってないで、そこに座れよ」

 

 

 あっけらかんとしたリンドウの言葉がその場に何事も無かったかの様に響く。

 今アナグラがどんな状態になっているのかすら考えても居ない様な振る舞いに、この場に通された全員が声を発する事が出来なかった。

 行方不明になってからの心配を余所にリンドウは呑気にお茶を飲んでいる。

 

 時間があまりにも経った邂逅にしばしこの部屋の時間は止まったままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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