神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第34話 再開

 渾身の刃がアラガミの体を引き裂くかの如く襲い掛かる。このまま一気に決着が付くかと思われた瞬間に体を捻る事で軌道が逸れた。

 しかしながら振り下ろされた刃は思いのほか鋭く、結果的にはコアを掠めたのか動きが急激に悪くなってきた。

 ここが勝負の分かれ目とばかりに改めて襲い掛かるも、今度は銃撃により間合いが大きく離れる。この距離では刀身は届かない。

 

 

「くそっ!距離が足りねぇか」

 

 今度はリンドウが銃撃の対処を余儀なくされた。最初に撃たれた際には初見な事も相まって、防御に徹する形を取るも、改めて攻撃されるのであれば対処はしやすくなる。

 銃撃に関しては狙いを付けてから発射される僅かな隙を突き、リンドウは一気に距離を詰めるべく全力で走り出す。接近戦に対して神機の大きな銃撃は最早攻撃できるほど簡単に狙う事は出来ない。そんな僅かな隙を突き、リンドウは再度斬りかかる。

 

 先ほどは威力を重視した為に躱されると大きな隙ができるが、今回の攻撃は一撃で決めるのではなくあえて複数回斬りかかる前提での攻撃に努めた。

 銃口が向いていない神機は最早盾にもならず、一撃目で弾き飛ばし、残りの斬撃でコアごと斬りつけた。

 斬り付けた手応えから完全に破壊した事が確認されると同時にリンドウは大きく息を吐いた。

 

 

「ったく、。いくらアラガミでも自分の体を模したのは、正直気持ち悪いぜ。元に戻ったらメシ食って配給ビールを一杯のみてえな」

 

 

 ようやく終わったかと思われたアラガミが、その場から体が風化したかの様に一気に塵となり霧散した。その瞬間、今まで手に握らられた神機が鈍い光と共に消滅し始めた。

 

 

「おい、どうなってるんだ!レン説明しろ!」

 

「もう僕の体は限界だ。今まで長時間アラガミの体内に居た事で、全部が崩壊し始めている。今までありがとう。最後の最後にリンドウと戦えて嬉しかった。あとは見守っているよ。

 僕の体はこのまま消滅するけど、リンドウの右手に力は宿っている。これからはそれがリンドウの相棒だ」

 

 

 今生の別れと共にリンドウの右手に神機から光が移り、そのまま神機は消滅した。

 本来であれば神機を失った神機使いはそのまま引退に追い込まれる。しかしレンがくれた力はリンドウの右手を媒介とし、改めて神機と同じ様な物を作り出した。

 

 

「ありがとなレン。これからはこれがお前の変わりだ」

 

「その力、しっかりと使いこなして……」

 

 

 その言葉と共に世界は白い光に覆われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「榊博士、リンドウの意識が覚醒しました。至急屋敷までツバキさんと来てもらえますか?」

 

「そうかい、ついに覚醒したか。分かったツバキ君と直ぐに行くよ。1時間もあればそちらには行けるだろう。時に無明君、今回の件だがデータはあるかい?」

 

「すべて記録してあります。あと、サクヤに伝えるかどうかはツバキさんに任せます」

 

「分かった。1時間後に行くよ」

 

 

 無明は覚醒したリンドウを見て、まずは安心した自分がそこに居た事に安堵した。

 回収された神機を接続し、その後の経過の中で何度かアラガミ化が急激に進んだかと思えば、今度は元に戻るを繰り返していた。

 今まで榊博士とツバキにだけ伝えた事はある意味保険代わりだったが、こうして覚醒すれば元に戻れるのは時間の問題でもあった。

 

 

「随分と長い間寝てた気分はどうだ?」

 

「寝すぎたとは言わないが、随分と寝た感覚はある。しかし、ここはどこだ?」

 

「屋敷だ。おまえは今の所アナグラでは行方不明扱いとなっている。あと1週間遅ければ2階級特進だった」

 

「そうか。迷惑かけたな。ところで起きてそうそうで悪いが、何か食うもん無いか?腹へって仕方ないんだが」

 

「だったら食事は運ばせる。食ったら風呂にでも入ったらどうだ。運んでからそのままだったから汚いままだ」

 

「悪いな。メシ食ったら風呂行くよ。で、風呂はどっちなら良いんだ?」

 

「ここからなら外が近い。他の人間の事も考えればそれがベストだ」

 

 

 覚醒した瞬間の事はリンドウの中では単純に目覚めた感覚と、今までの事は夢でも見ていたかの様な感覚だったが、自分の右手の違和感が全て事実だと物語っていた。

 腕輪が破壊された事でアラガミ化した事は記憶の片隅にある。しかしながらこの右腕は確かにさっきまでレンと戦った跡があった。当時何者かが右腕に施した物は鈍い光を放っていたが、今は完全に光は消え、まるで以前からそこにあったかの様に自然についていた。

 レンが話したその言葉が額面通りならば、この力は今後の自身の力になってくれるだろう事を想像し、今は運ばれた食事を取る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてツバキ君、リンドウ君は覚醒したがこの事実をどうするかね?」

 

「覚醒前の時点では公表するつもりはありませんでしたが、今となっては話は別です。まずはサクヤにも知らせて、その後に部隊に公表するのが一番かと」

 

「なるほどね。で、アナグラには?」

 

「それについては無明と相談したいと。リンドウがなぜこんな事態に巻き込まれたのか、それとも自ら進んでそう望んだのかハッキリ確認してからとします」

 

「そうか。そのあたりは君に任せるよ。僕はまだやるべきことがあるからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サクヤは重い足取りでラボに向かいながら、今後の事について思案していた。

 リンドウの腕輪が発見された事により、リンドウが今まで何をしていたのかを全て理解した。予想以上に重い事実がサクヤの両肩にのしかかる。

 これから行動を起こそうとした途端の呼出し。これでは今から何か重大な事が起きるのではと予想する意外に選択肢が無い様にも思えた。

 

 

「橘サクヤ出頭しました」

 

「よく来たなサクヤ。態々来てもらったのには訳があってな。時間は少し大丈夫か?」

 

「は、はい大丈夫ですが一体何か?」

 

「そう警戒するな。今から話す事は現在の時点での最高機密だ。口外すれば過分な処分をせねばならない。それでも良いか?」

 

 

 

 出頭直後にツバキからの存外な言い方に流石のサクヤも若干ながらも警戒心を出しつつ今後の事について思案した。 

 機密扱いとなれば現時点での可能性はリンドウの残したデータ以外に考える事が出来ない。

 しかし、ツバキの言い方から察すれば、それとはまた違う話なのかもしれない。そう捉える事もできる。今の時点で最も正しいと判断できる材料は何一つ無かった。

 

 

「……分かりました。問題ありません」

 

「なら、単刀直入に聞こう。今のお前のリンドウに対する気持ちだ」

 

 

 

 流石にこの質問は全く想定していなかったのか、ツバキの言葉に答えが詰まる。

 リンドウに対する気持ちと言われ、その回答が何に対してなのか見当すらつかない。しかし、聞かれた質問には答えないと先には進まないと判断し、ここは直ぐに答える事にした。

 

 

「正直、まだ行方不明だとは言っていますが、その状態から帰還したゴッドイーターは1割もいません。ここまで捜索して先だってようやく手がかりを見つけたとは言え、これからどうして良いのか私にも分かりません。今はまだ絶望と希望が混じり合って自分に向き合うのが怖いと感じています」

 

「そうか……ならばついてこい。その気持ちの答えを出してやろう。30分後に改めてここに来るんだ。良いな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ツバキ教官。あの、ここは一体?」

 

「ここは無明の屋敷だ。そう言えば一度も来たことは無かったな。それとサクヤ、今から言う言葉は教官としてではなく、一人の人間として発言する。お前のリンドウに対する気持ちは良く分かっている。何を考えるか、どう判断するかは自分の心に向き合って良く考えるんだ」

 

 

 少なくとも、他の人間に伝えてはダメだと念を押され、来た所は自分の全く知らない場所だった。

 当初は外部居住区に出るのでは?とも予想しながら移動すると、明らかに外部居住区から出て、現在に至る。

 

 初めて入ったここは外部居住区の様な雑多感じではなく、どことなく旧時代にあった田舎の様な雰囲気を醸し出していた。そんなのどかと思われる先には、今ではありえない様な日本家屋の屋敷が見える。

 先ほどツバキの口から屋敷と言う単語が出たのはここを指すのだろうと理解していた。

 

 

「ツバキさんいらっしゃい。後ろの方が橘さんですか?」

 

 おそらくはここの住人なんだろう。年齢はまだ10代後半にも見える女性だった。話し方からすればツバキとは顔見知りで既に旧知の仲の様にも見えた。

 

 

「お連れ様の件ですよね?奥に居ますからどうぞ」

 

「ツバキ教官、一体ここに何があるんですか?」

 

 

 そんなサクヤの問にもツバキは答える事は無く、ただ真っ直ぐと歩いていた。一つの部屋に着き、ツバキは扉を開けた瞬間に何を見たのかまた別の所へ向かいだした。

 一方のサクヤはまだ内容が理解し辛いのか、ツバキの後を歩くもアナグラとはまた違った感覚の屋敷をあちこち見ながらついて歩く事しか出来なかった。

 

 

「またここか!お前に客だ」

 

「あれ、姉上なんでここに?俺に客?こんな所に?」

 

 忘れるはずもない声。そして今まで見つけた手がかりから蜘蛛の糸をたどるかの様に必死に探したはずの人がそこにいた。

 改めて扉を開けたツバキの後ろから見えたのは一人の男性。雨宮リンドウその人だった。

 

 何も聞かされずに、そのままついて行った先に、今まで色んな手段で捜していたはずの人物を見てサクヤは一瞬、理解の範疇を超え固まった。しかし、ツバキとの会話をしている姿を見てようやく理解していたかと思うよりも早く体が動いていた。

 

 既にサクヤの中で僅かながらでも絶望の淵に手をかけていたはずが一転、目の前に何事も無かったかの様に存在している。その事実だけで今のサクヤには十分過ぎる結果だった。

 

 

「おい、サクヤどうしてここに?ってか、ここは服のままは拙い」

 

 

 静養と言う名目で風呂でゆっくりしていたリンドウにとって、それは青天の霹靂だった。リンドウ自身が目覚めたのも先日の話であり、まさかここにサクヤが来るとは思いもしていなかった。

 

 勢い余ったものの、しっかりとサクヤを抱きしめ、今は落ち着くのをリンドウは待つしかなかった。

 

 

 

 

 

 


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