神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第33話 自己との対峙

「ここはどこだ?何だか見たことがある様な光景だが」

 

 

 リンドウはあたりを見回すと、どこかで見た事のある様な光景に既視感を感じていた。

 

 

「確か、アリサとのミッションで、アラガミと戦った所までは覚えているが、ここはどこだ?」

 

「リンドウ!何をぼんやりしている。これから任務を遂行するが居眠りでもしていたか?」

 

 

 ここにはありえないはずのツバキの声が背後から聞こえて来た。ツバキの声に改めて思い出したかの様に周囲を見ると、ここはロシア領。あの大掛かりな戦いとなったロシア殲滅戦の作戦地だった。

 なぜ自分がここに居るのか理解できない。あれはとうの前に終わったはずの戦いでもあり、人生の中で一番の大戦でもあったはず。なぜ此処に今更戻っているのか理解できないようだった。

 

 

「おい、リンドウこれから任務が始まるが、気は確かなのか?」

 

「無明、なんでお前がここに?」

 

「頭でも打ったのか?寝ぼけてるなら早く目を覚まさないと、ツバキさんにまた怒られるぞ」

 

 

 なぜかそこには無明が居た。しかし、よく見ると今の方が若干若く感じる。ツバキに関しても教官ではなくまだ隊長をしていた頃の姿だった。

 自身の経験した事に変わり無いが、それはあくまでも過酷の話。これが本当に現実なのかと思いたくないのか、一体何がどうなっているのか思案している所で聞きなれない声がまた聞こえた。

 

 

「きっと、ヘリに酔ったんじゃないですか?だったらしばらくすれば良くなりますよ」

 

「あ~すまん。君は誰だ?」

 

「ええっ。覚えてないんですか?先日から配属されたレンですけど?」

 

「わりぃ。ちょっと勘違いしてた。まだ寝ぼけてんのかね」

 

 

 レンと言う名は今までに聞いた事は一度もなかった。

 リンドウはこれが恐らくは過去の記憶だと唐突に理解していた。なぜこんな事が起きているのか?それを教えてくれる人間はここには居ない。

 あれこれ考えるよりも今は目の前の事をこなす事に集中する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこの軍も現状を理解してない輩が多すぎて、毎回対応に苦慮するのはいい加減にしてほしいものだ」

 

「戦力を過信するなとは言わなくても、現状把握が出来ないからこんな結果になったとは誰もが思いたく無いのだろう」

 

「もうこれで終わりなのか?」

 

 

 記憶にあったロシア殲滅戦は予想通りの結果で終わった。

 未だにリンドウはなぜこんな状態なのか思考の海に沈んだままだった。明らかに過去の事である事は理解できたものの、一番分からないのが今までに見た事が無い人間レンの存在だった。

 

 あの時は4人で任務に当たった記憶しかない。しかし、ここには5人の部隊としてフェンリルから派遣されている。

 過去の記憶に間違い無いが、自身の記憶とのズレに一体何がどうなっているのか理解出来ないまま、突如として時間が過ぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次に気が付いた時には場面が変わり、今度はエイジと初任務に就いた時だった。

 この時点でリンドウはある事ではないのかと仮説を立てた。

 出来る事ならば、その予測が当たってほしくないと感じながら、またもや記憶の断片を再度経験しているような感覚を味わった。

 そして、今までの時点での最後の記憶、アリサが錯乱し閉じ込められた場面にへと差し掛かった。あの囲まれた時点で、何体かのプリティヴィ・マータを倒した際に、その奥から這い出てきたのがディアウス・ピターだった。

 

 この時点で既に満身創痍の中、ギリギリの戦いを繰り広げていたが、些細なミスから腕輪を破損した所で一旦世界の動きが止まった。この瞬間にどこからともなく現れたのが、ロシア殲滅戦の際に居たと思われし人間だった。

 

 

「どうだいリンドウ。ここまでは思い出した?」

 

「レンとか言ったな。ここは一体どこなんだ?」

 

「ここはリンドウの記憶の断片を再生した所だよ。そこまでは記憶がある?」

 

「何となくな。で、お前さんは俺に一体何をしたいが為にこんな事をしてる?」

 

「ここまではリンドウの記憶のダイジェストだよ。しかし、今リンドウの身体は当時の戦いの後に意識が混濁したままの状態が続いている。このままでいるか、それとも元の世界に戻りたいと考えているか確かめたくてね」

 

「今更何を言ってるんだ?戻る以外の選択肢があるなら教えてほしいもんだ。どうすれば戻れるんだ?」

 

「自分自身の存在意義を示す事が出来れば元に戻れる可能性はあると思うよ。ただし、確実とは言い難いけどね」

 

 

 

 自分自身の存在意義と言われた所で、今の状態で何を示せば良いのかは見当すら付かなかった。

 しかし、このまま居ればやがて死に至る。仮に示せた所で戻れない可能性も否定する事が出来ないとなれば、本来であれば葛藤する可能性もあった。

 事実、レンはその事についても深く言及するつもりは毛頭無かった。仮に根拠を示した所で最終的にはリンドウ本人が決める事になるのは間違いない。

 ならば僅かな可能性にかける方が良い結果を生むのではないかと判断していた。

 

 

「どう言う意味だ?」

 

「今はオラクル細胞と自分の細胞が戦っている。自分の細胞が勝てば元に戻れるかもしれないけど、負ければそのままアラガミとなるだけだよ。あとは僕が決める話じゃない」

 

「愚問だな。今更答えを変える気は無い」

 

「だったら僕が力を貸すよ。あとは自身の問題だから」

 

 

 

 

 そう答えた瞬間に、レンの体は宙に浮いたかと思いきや、一振りの神機となった。それは今までリンドウが愛用し、数多の戦場をかけたかけがえのない相棒だった。

 

 

「お前、まさか神機だったのか」

 

 

 

 そんなリンドウのつぶやきと同時に背後から尋常ではない気配を感じた。

 振り向いたリンドウはそこで初めて驚愕の表情を浮かべる。なぜならばそれば半分アラガミ化した自分自身だった。

 

 

「まさかとは思うがこれと戦えって事なのか?」

 

「正解だよ。あれはアラガミ変化したリンドウさ。あれに負ければそのままオラクル細胞が全てを飲み込んでアラカミになる。この結果次第って事だね」

 

 これから戦うにあたり、動揺は死を招く。まずは気を取り直し、改めてその様相を確認していた。

 本来であれば神機を持っているはずの右手には禍々しい神機の形を模した物を持ち、反対の手には人間ではなく何らかのアラガミの様な腕と化していた。

 腕だけではない、体の一部もアラガミ化の影響なのか大きな鱗と羽がいくつも生えている。自分と同じ部分はせいぜい顔位だった。

 

 今までに色んなアラガミと対峙したが、流石に自分と対峙する事は無い。しかも獣ではなく人型。

 これで示すと言われれば互いの存亡をかけた戦いとなるのは考える必要は無く、また明白だった。

 

 リンドウの記憶の中でもここまで人型に寄ったアラガミと対峙する事は今までの記憶の中には無かった。

 あった所でせいぜいがシユウまで。それ以上となれば、今までの経験の殆どが役には立たない事を自身で理解していた。

 

 今はお互いの状態を共に探っている。次の一手にどう入るか思案した瞬間に動きがあった。リンドウは近接型の神機使いの為に、遠距離からの攻撃方法が一切無い。

 本来であれば相手も同じ条件だったはずが、今手にしている神機らしいものはこちらに銃口が向いている。となれば次の攻撃は間違いなく銃撃だった。

 

 

「ちょっと待て、俺が使えないのにお前が使えるってどんな了見だ」

 

 

 リンドウは此処からの回避は不可能と判断し、素早く盾を展開する。想像通りの展開で盾には強烈な衝撃が数回加えられ、リンドウは徐々に後退し始めた。

 このままでは何もしないままで終わる。そう考える頃に銃撃が止んだ。相手の扱う神機もどきは明らかに新型の神機と何ら遜色が無い。となれば、今までエイジやアリサと任務に行った際に見た行動を記憶の片隅から取り出した。

 

 基本的な行動は刀身による攻撃、銃撃による攻撃、盾による防御の3点で構成されている。当然の事ながら銃撃は遠距離で牽制に使う事が多く、止めや近接であれば刀身で攻撃となる。

 

 

「ったく冗談じゃねぇぞ」

 

 一見、遠近共に使い勝手は良く、その性能から想像される様に死角は全く無いと思われていた。

 しかしながら、ここには無い致命的な欠点が一つ。使い慣れていない場合に変形にもたつく可能性があり、その際には攻撃も防御も出来ない点だった。

 ましてや相手は仮に自分の意識体としての存在だとしても、宿主の能力を大幅に超える事は出来ない。となれば今まで一度も銃撃を使ったことが無い人間が器用に使えるとは思えなかった。

 攻撃の可能性はそこにある。リンドウは盾の後ろに隠れながら隙を伺っていた。

 

リンドウの予想は的中した。戦闘能力はおそらくは互角か相手の方が若干上の可能性があるものの、今まで一度も使ったことの無い物を自在に操るにはどうしても時間がかかる。恐らくはこの戦闘中にも慣れてくる可能性は高くなる。そうなると流石に手が付けられなく前に決着をつける他以外ありえない事になる。そこまで予測して相手の様子を見ていた。

 

 

「今がチャンスだ一気に決める!」

 

 

 

 銃撃と防御の関係で開いた距離を普段以上に力を込めて一気に距離を詰める。

 予想通り変形にもたつくも時間にして僅か0.5秒ほど。本来の時間からすれば僅かな物だが、戦闘中の時間軸からすれば絶好のチャンスとも取る事が出来た。

 刀身を突きつけ一気に突進する。刀身の先が目の前まで来た際にアラガミの動きがリンドウの予想外の動きを見せた。

 

 攻撃方法が神機以外に何も無いと判断したのは紛れもなくリンドウ。

 しかし、相手は自分に似た形はしているが紛れもなくアラガミ。わざわざ神機を使う必要がそもそも無かった。

 変形にもたつくと思われた瞬間にアラガミは神機を放り投げ、自身の腕でそのまま突進したリンドウにカウンターの様な攻撃で殴りかかる。

 人型で神機を持っているが故に先読みと自分の判断で予想した行動だった。

 勢いよく攻撃の為に突っ込んだリンドウは回避する間も無く、アラガミの攻撃をそのまま腹に受ける。

 

 

「俺のくせに中々やるな」

 

 直撃した攻撃で一瞬呼吸が止まるかの様な状態になったものの、その場で止まることなく刃をアラガミに向かって振り下ろした。

 いくらアラガミとは言え、渾身の力で振り下ろされた神機をそのまま止める事は出来ない。

 とっさに防ぐつもりで差し出した左腕は見事に切り飛ばされた。

 片腕となったアラガミはその場を離れ、放り投げた神機を再び手に取る。小型な物ならば片腕でも振り回す事ができるが、大型である以上、片腕での制御には困難を極めた。

 

 本来であればここで斬りかかるが、先ほどの一撃がまだリンドウの動きを制限し、追い打ちをかける事が出来ない。

 ここで従来の動きを見せればこのまま終了だったが、目の前にいるアラガミにはそんな気配さえもが気取られるかの様な動きを見せた。

 

 斬られた腕を再度接合し、まるで何も無かったかの様な振る舞いを取る。これにはリンドウも驚きを隠せず動揺していた。

 今までに何度かアラガミを斬りおとした事はあったが、再接合するなんて事は一度もなかった。

 

 アラガミはその瞬間を見越したのか、今度は銃撃ではなく刀身を持ってリンドウに斬りかかる。今まで有効とも思われた攻撃が全く意味をなさないとなれば、攻撃でけなく防御にまで影響が出始める。

 事実リンドウは動揺しながらの防戦一方となった。

 

 

「リンドウ、こいつは胸にあるコアを破壊しない限り、何度でも蘇る。やるなら一撃で決めるんだ」

 

 

 

 どこからともなく声が聞こえる。声は先ほどまで聞いたはずのレンの声だった。

 自身の神機と共に戦場を駆け抜けた記憶と、共に戦った相棒を今は信じる事でアラガミと決着をつける事を決心した。

 

 気持ちと力が一体となり、アラガミの斬撃を弾く事に成功した。振り上げた神機はその場で止まる事はなく、上段の位置にまで達した事で、その勢いを殺す事無くリンドウは再びアラガミの肩口から袈裟懸けに刀身を振り下ろした。

 

 

 

 


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