神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第3話 新型

 この極東支部にも待望の新型適合者が発見されてから、はや2週間。支部としても期待以上の実力を新兵ながらに発揮し、戦果も当初よりも想定した以上に出始める事で安堵の色を見せていた。

 

 いくら新型とは言え、上層部の想定以上の結果に元々の出自を確かめると、榊博士と教官のツバキは出身を確認したところで納得し、この戦果もある意味納得ができる程の能力を持っていた。

 

 

「戦果は上々だよ。けど間に合って良かったよ~。流石にあれにはビビった」

 

 

 極東支部の新型ゴッドイーターとなったのが如月エイジ。元々の素質だけではなく、今までの環境で蓄えられた戦闘能力とも言える技量から、新兵ながらに早くも頭角を現し現在ではいくつかの制限付きではあるものの、ソロミッションまで受注出来るレベル成果を出す事によって、ある程度であれば自由も利く事が出来る様にまでなっていた。

 

 

「いや~今回のミッションは助かったよ。まさかあんな所でシユウと遭遇なんてシャレにもならないよ。コンゴウと挟まれた時はシャレにならないと思ったね」

 

「もう少し早く討伐出来れば良かったよ。あそこでコンゴウに逃げられたのはミスだったよ。かえって悪いね」

 

 

 

 同期で入隊した藤木コウタ。現在では新型のエイジとコンビで動く事が多く、新型特有のリンクバーストを上手く活用する戦術によって、遊撃と同時に相性の良さからくるのか、それともコウタ自身が持つ潜在能力の高さによる物なのか、ミッション完了後のスコアが着目され、同期としてだけではなく、その潜在能力の高さを買われてのツーマンセルでの出撃が比例するかの様に多かった。

 

 帰還後は部隊長やベテランの様な予定が無ければロビーで他愛もない話をする事が多く、今回も反省会?と言う名のミーティングの様な物をしていた。

 

 

「なぁエイジ。いっつも思うんだけど、あの攻撃方法は何だか他の人達と違う気がするんだけど、どこかで何かやってたの?」

 

 

 各自のプロフィールに関しては、ノルンにも記載されているものの、常時細かい部分まで載っている訳ではなく、せいぜいが名前や出身地が関の山。それ以外のケースであれば、当人が何か大がかりな事に加わっていない限り、記載される事はない。

 にもかかわらず、如月エイジのプロフィールに関してだけは、他の人間に比べれば気持ち悪い位に白紙の部分が多く、また記載された情報量が他のゴッドイーターに比べると、圧倒的に少ないと感じられていた。

 

 

 

「特別何かしていたなんて事は無いけど。敢えて言うなら、たまに兄様が稽古してくれた影響が強いんじゃないかな」

 

「エイジは兄弟がいるの?いや~俺も妹がいてさ。ノゾミって言うんだけど、これがまた可愛らしくてね。そうだ、写真見てみる?」

 

 

 お互いに話す事はそれぞれあるものの、ミッションの内容以外に関しては、話がし易いのかエイジはコウタの聞き役になる事が多く、意図しない部分で自身の出自の話は中々する機会に恵まれなかった。

 

 

 

「いや、兄弟と言うよりも兄貴分で、実は本当の兄弟じゃないんだけど、実の兄弟の様に接してくれてるんだよ」

 

 

 

 このご時世、親兄弟との生き別れは日常茶飯事とも取れた直接の原因でもあるアラガミが発生して以来、人間は食物連鎖の頂点からは転落し、その変わりをアラガミが取って現れていた。今の会話で空気を読んだのか、コウタも僅かな一瞬だが表情がこわばっている。

 失言だとばかりに本人に悪いと思いつつエイジの顔を見れば気にする風でもなく、実にあっけらかんとしている。そう考えると少しだけ気が楽になっていた。

 

 

 

「コウタはそこまで気を遣う必要ないよ。正直な所、自分でも親の顔は覚えていないし、今まで住んでいた所は周りは何も無いけど、皆いい人達ばかりで嫌だと思った事は何もないから」

 

「それなら良いけど。最初はさ、バガラリーすら見た事も無いって言ってたから、どんな生活してたのかも疑問だったんだけどさ」

 

 

 

 後ろから影が伸びる事で気がつき、二人が振り向くとそこには別任務から帰投したリンドウがいた。

 

 

「お前さん達、楽しい会話の所邪魔して悪いな。この後のミッションの件で確認したい事がある。エイジはすまないが、後で俺の部屋に来てくれないか?」

 

「あとコウタ。こいつの生家はとんでもないぞ。機会があれば行ってみると良いぞ」

 

 

 

 分かった様な分からない様な一言をそう言い残し、リンドウは何事も無かった様に去って行った。今までの会話の中でコウタはエイジが恐らく特殊な環境だとは何となく感づいていたが、リンドウまで知っているならば、きっと何かあるに違いない。そう考えていたが、気が付けば時間がかなり経過していたのか、腹が鳴っている事に意識し、結果的には空腹には打ち勝てず、すぐに頭の中は夕飯の事で一杯になっていた。

 

 

 

「リンドウさん。如月エイジです。入ります」

 

「おう、呼び出して悪いな。その辺に座っててくれ」

 

 

 普段のミッションの内容からすれば、リンドウに呼ばれる様な内容に心当たりは無い。突如として来てほしい。そう言いながら呼び出したリンドウもソファーに座ると、ポケットから1枚のデイスクを片手に話出した。今までの戦績から鑑みても小言を言われる様な事は何もなく、エイジも呼ばれた真意が分からないままだった。

 

 

「その~なんだ。無明は今何してるか知らないか?実は折り入って相談したい事があるんだが連絡が付かないんだ。もし話す機会があれば、そう伝えてほしいんだ」

 

 

 

 エイジはリンドウと無明のが元々戦友である事を事前に聞いていた事もあり、良く知っていた。エイジ自身が無明のいる屋敷から来ている関係上、エイジの事もリンドウは無明から聞いているのか、よく知っていた。

 

 

「兄様は恐らく研究棟に籠っていれば連絡は難しいかもしれません。僕は明日から休暇で一旦屋敷に戻りますので、一度連絡を取ってみます。でも、相談したい事があるならリンドウさんが直接屋敷に行く方が確実の様な気がしますけど?」

 

「そう言いたい所だが、残念ながら最近はデートの誘いが多くてな。でも、近いうちに行ける様に、今有るものをこなす事にしないとな」

 

「ところで、聞きたい事があったんだがソーマとのミッションはどうだった?昨日のミッションには同行してただろう。まぁ、エリックの件は残念だったが、こんな職業じゃそれも隣り合わせだからな」

 

 

 

 

 先日のミッション『鉄の雨』で、エイジはソーマと同行者のエリックと3人でのミッションがアサインされていたが、完了後に油断したエリックが、本来であればいるはずの無かったオウガテイルに頭上から襲われ、助ける間も無く捕喰された事でKIAとなっていた。

 

 戦場での油断する事は死にも等しい行為。エイジも気が付くと同時に助けようと動いたものの、エリックとの距離があった事も影響したのか結果的には間に合わず、助ける事は残念ながら叶わずじまいとなっていた。

 

 

「ソーマも難しい所があるが、根は良いやつなんだ。ただ元々の環境のせいもあってか中々理解されない所があるから、少しそっちの面倒を頼む。コウタも良いやつなんだが、ちょっと任せるには真っ直ぐすぎてな」

 

「それと、向うに付いたらあいつにこれ渡してくれ。あいつなら見れば分かるはずだ」

 

 

 

 いつものおどけた表情とは違い、真剣な表情で渡されたディスク。本来でればリンドウが直接渡すべき物が託されるとは思ってもいない。自分が中身を見れるなんて事は思わずに、障らぬ神に祟り無しと言わんばかりに渡されたディスクを上着のポケットにしまい、そのまま渡す事だけを考えた。

 

 

「分かりました。これについては責任を持って渡す様にします」

 

「そう言ってくれると助かる。すまないが頼んだぞ」

 

 

 ある意味安請け合いする物では無いが、家に戻るついでであればと、それ以上の事を考えるのを止め、そのままリンドウの部屋を出ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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