神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第207話 苦戦

 

「こ、これは……」

 

「アリサ、すぐにリンクエイド。で、どこかに移動した方が良さそうだ」

 

 エイジとアリサの目の前にはリンドウとソーマだけでなく、タツミとカノンまでもが倒れていた。

 既に周囲にアラガミの反応は無いが、このままにする訳には行かない。偶然にも捕喰傾向がゴッドイーターに向いてなかった事だけが僥倖でしか無かった。倒れたリンドウの肩を触ると柔らかな光と共に気が付いたのか、リンドウは頭を振りながら周囲を見渡していた。

 

 

「どうやら俺達はやられちまったみたいだな。リンクエイドすまんな。まさかこうまで窮地に陥るのは想定外だ」

 

「一体何があったんですか?こっちはここに来るまでの情報が何も無かったんで」

 

 既にリンドウだけでなくアリサと手分けした事により全員の意識を取り戻す。この場に居るのは危険だからと一旦はどこかの物陰に隠れる事で態勢を整える事を優先していた。

 

 

「俺達が戦ったキュウビだが、基本の行動そのものは対して変わらないんだが、何かを見極めたのか今回のチームだとエミールだけを執拗に狙って来たのが大きな要因ってとこだな」

 

 リンドウから聞かされたキュウビの変異種はこれまで同様に高度な知識を持っているのか、それとも本能で何かを嗅ぎ分けているのかを判断する事は出来なかった。

 これが仮に常時この調子であれば、今後キュウビの変異種が出た際には確実に厳しい戦いが待っているだけでなく、一定以上の技術水準が無ければ即時撤退が基本だが、それも素直に待ってくれる可能性は限りなくゼロに近かった。

 そんな中でフォローし続けた事によっての携行品を使い切った結果は、ここに来て莫大なツケとなってリンドウ達へと降りかかっていた。

 

 

「でも、それだけでこうまで全滅に近いなんてありえます?」

 

 アリサの疑問は尤もだった。仮にそれだけの要因であればエミールをひたすら護るのではなく、むしろ攻撃に参加させず防御に徹すれば回避できる内容であるのは誰にも出予想出来る事実でもあった。

 しかし今回のメンバーを見れば、エミールが狙われたことが直接の原因ではなく、むしろそれが今回の内容を引き起こす為に準備された行為であるかの様にも思えていた。

 

 

「アリサの言う通りだ。あのキュウビの攻撃の一つが実は厄介でな。今回の結果になったのはその影響なんだ」

 

 今回の最大の理由をリンドウが改めて客観的にエイジとアリサに話す事によって、この場に居る全員に改めて共通の認識を持つ様に考えていた。

 従来の攻撃だけでなかく、しなやかに動きながら時折フェイントが入るかの様な突進をされる事によって回避や防御が間に合わず、そこに止めとばかりに空中からのオラクルによるレーザー攻撃は全員の体力を確実に奪い去っていた。

 しかし、この時点で本当にそれだけなのかとエイジの脳裏を疑問が過る。その回答をするかの様にリンドウではなくソーマが口を開いていた。

 

 

「詳しくは分からんが、あのキュウビが活性化した際に、頭上に球体の様な物が出現していた。それがどんな原理なのかは分からないが、これまでに感じた事が無い程に神機の機能減衰を感じたのは間違い無い。詳しい事は調査しないと分からないが、恐らくはそれが最大の原因かもな」

 

 淡々と話すソーマの言葉には主観が一切含まれておらず、その結果が客観として述べられていた。

 どんな内容の物なのかは分からないが、機能減衰するのであれば、神機だけでなくゴッドイーターに肉体にまで影響を及ぼす可能性が高くなる。その結果が事実上の全滅である以上、その攻撃だけは何としてでも最優先で回避すべき内容だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「榊博士。γチームの急激なバイタルの変化の件ですが、こちらでも今回の経緯について調査中です」

 

「やってくれるかい?何だかすまないね。実は今回のケースについてなんだが、どうやら直接の原因は例のキュウビが繰り出した攻撃の何かが多大な影響を及ぼしてるのは間違い無いんだがね」

 

 現場でのリンドウの言葉はアナグラにも同時に伝わっていた。今回のバイタルデータの急激な変化は榊だけに留まらず、その場にいた全員が共通の認識を持っていた。

 全員をリンクエイドにまで追い込む攻撃は感応種とは比べものにならない程に危険度が高い。それ故に早急な対応が必要とされていた。

 

 

「しかしこのまま放置してい置く訳にはいかない以上、何らかの対策は必要になるんだが……まるで古事記に出てくる禍津日神(まがつひのかみ)だね」

 

 アナグラのデータは既に回復を記すも、未だその討伐の方法が見当たる様な気配はどこにも無かった。

 これまでとは違った経緯で出没したキュウビの変異種にこれほどの能力があるのであれば、今後の任務には嫌が応にも慎重にならざるを得ない。

 まるで何かを克服したと同時に新たな災いが生じる様な事態に、現時点では現地のリンドウやエイジ達に託す以外の手だてはどこにも無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って事で、これから改めて討伐に入るが、さっきソーマが言った攻撃が来た際には全員退避するしか今の所は方法が無い。活性化した際には一斉に距離を取るんだ」

 

 既に隠れてから10分が経過していた。キュウビの変異種はまるで先ほどまでの行為そのものが無かったかの様に、何かを捕喰している。

 既に時間の認識は怪しいが、ここで見逃す訳にも行かず、また最悪の事を考えればここでの討伐は決定事項でしか無かった。

 

 

「あ、あの…」

 

「どうしたカノン?」

 

「先ほどの私の攻撃なんですが、後ろ足に直撃した手ごたえは確かにありました。一度、そこを改めて攻撃しようかと思うんですが……」

 

 緊迫な空気に耐えられなくなったのか、発言したカノンの言葉は徐々に言葉尻が短くなっている。

 確かにさっきのカノンの一撃が下手なアラガミであれば結合崩壊を起こす可能性があると思われた一撃であるのは、このメンバーの中ではタツミが一番理解している。しかし、キュウビの見た目とカノンの言葉から考えれば結合崩壊まではいかなくても、それに近い可能性である事だけは推測できた。

 

 憶測で物事を運ぶやり方が拙いのはこの場にいる全員が一番知っている。しかし、今は一刻も早い討伐と同時に先ほどの攻撃を見極める必要性がある以上、今は僅かな可能性も手繰り寄せる必要があった。

 

 

「……タツミはどう思う?この中でタツミが一番カノンの事を知っていると思うんだが?」

 

 リンドウの言葉にタツミも僅かに迷いがあった。確かにカノンの適合率と神機の性能を考えればあり得ない話では無い。しかし、ここ数カ月は防衛班としての任務が長かった事から現在のカノンの状況を完全に把握しきれていない。そんな中でのカノンの言葉はタツミをさらに迷わせる一因となっていた。

 

 

「私もここまで来るに至ってオラクルリザーブも解禁しましたし、既に以前よりも誤射は減ってます。後方からの攻撃は私に任せて貰えませんか?」

 

 そこにはいつものカノンとは違った表情を浮かべ真剣な目でタツミをみている。既に一度は全滅している以上、だれもが異論は挟む事が出来ない。そんなやりとりの中でタツミは渋々とも言える表情と同時にカノンに新たな指示を出す事になった。

 

 

「…カノン、やれるか?」

 

「私がやれる事を全部やるつもりです!」

 

 その言葉に奮起したのか、カノンは勢い強くその場で立ち上がり握り拳を作っていた。

 

 

「エイジ。カノンについてくれるか?」

 

 何かを決めたのかタツミの言葉にカノンは笑みがこぼれる。本来であれば場違いなそれはまるで認められたかの様な錯覚を覚える。決定した以上、あとは即実行する事しか無かった。

 

 

「言っておくが俺達もただやられた訳じゃねえからな。それなりにダメージは与えている。もし活性化しそうになったら退避は遵守だ」

 

 リンドウの言葉に全員が頷く。未だ捕喰している為なのかキュウビはこちらの動向など意にも介さないままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ終わらせるぞ!」

 

 カノンの背後からの攻撃は、言葉通り改めて溜めたオラクルリザーブをそのままキュウビにぶつけた事によって後ろ足の結合崩壊を起こす事に成功していた。どんなアラガミにも共通するが、機動力を最初に潰すのは、今後の戦いを有利に運ぶ。

 既に崩壊した後ろ足は踏ん張りが利かないからなのか、以前の様に動く姿を見る事は無かった。

 

 全員が背後から一気に捕喰すると同時にリンクバーストを開始する。一気に上がった攻撃力でそのまま殲滅するつもりだった。

 

 

「このままくたばれ」

 

 ソーマの一撃がキュウビの顔面にめがけて一気に振り下ろさせる。本来であれば一撃で仕留めるか、最悪は結合崩壊を起こすそれはギリギリの部分で回避される。しかし、完全に回避出来なかったのか、キュウビの左目を掠める事だけが確認出来ていた。

 怒涛の攻撃が一気に始まる。エイジとリンドウは己の限界値を超えるかと思う程の速度で神機をキュウビへと向ける。アリサとカノンが崩壊した部分に追い打ちをかけるかの様に銃撃を浴びせていた矢先だった。

 

 

「みんな目を瞑れ!」

 

 タツミの叫び声が周囲に響き渡る。一方的な攻撃尉嫌気を差したのか、キュウビが活性化しようとした瞬間だった。狙いすましたかの様なスタングレネードはキュウビの鼻先で白い闇を作り出す。

 活性化した瞬間だったのか、それとも単純に嫌気を差したからなのか白い閃光はキュウビの行動を文字通り封じ込める事に成功していた。

 

 

「ここが勝負だ!」

 

 エイジの言葉通り、ここが正念場となっていた。既に結合崩壊を起こした以上そこは弱点でしかなく、そこを重点的に攻撃すると同時に、新たな部分を崩壊させるべくタツミとソーマがキュウビの顔面を斬り出している。

 このままなら一気に討伐が可能だと思われた瞬間だった。

 

 

「キャァアアアア!」

 

「クソッ!」

 

 スタングレネードの効果は確かに発揮したが、その効果は予想以上に短かった。

 まるで周囲を薙ぎ払うかの様に回転する事によってアリサとソーマが吹き飛ばされる。既に死に体のはずのキュウビの目には未だ生命の力が宿ったままだった。

 吹き飛んだ二人の事は気がかりだが、今はそれ以上に目の前のキュウビから視線を外す訳にも行かず、エイジだけでなくリンドウやタツミも視線を向けている。先ほどまでの優勢だった雰囲気は既に消え去っていた。

 

 

「冗談みたいなやつだな……だが、俺達もこのまま指を咥えてる訳にも行かないんでな」

 

 囮の様にリンドウが態とキュウビの行動を引き寄せる様に攻撃を加える。本来であればそんな事をする必要はどこにも無いが、今は飛ばされた2人の態勢を整える方が先決とばかりに行動している。

 手負いのキュウビは未だ健在である以上、出来る事をやるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リンドウさん、スタングレネードって後どれだけありますか?」

 

「俺の手持ちはもう無い。タツミ、どうなんだ?」

 

「俺ももう無いです」

 

 変異種のキュウビの生命力はこれまでに考える事が出来ない程だと思える程に未だ動いていた。

 既に後ろ脚だけでなく顔面も結合崩壊を起こし、キュウビの尾の一部も既に切れて無くなっている。にも関わらず、未だ何も変わっていないと錯覚する様な生命力はこのメンバーを持ってしても心を折るには十分すぎていた。

 これまでにも厳しい戦いは何度も経験したが、ここまで追い込まれたのは感応種が現れた初期の頃以来。

 目の前に対峙したアラガミは感応種ではないにしろ、それでも神機の機能減衰を行う攻撃は常に頭の片隅入っている。それ故に攻撃の刃が鈍っていたとも考える事が出来た。

 

 

「アリサは……だよな」

 

 リンドウの視線に気が付いたアリサも顔を横に振る事で、手持ちが無い事を示していた。

 そもそもこのメンバーに合流した際にエイジとアリサが所持していた物を配布しただけな事が拍車をかける。それは次に活性化した際には回避する術が無い事だけが記されていた。

 そんな状況を見透かしたかの様にキュウビは腰の辺りから不気味に光るオラクルを尾の様にゆっくりと広げ始めている。そこから先の攻撃が何なのかを考える必要は無かった。

 

 

「カノン退避!全員盾で防御だ!」

 

 リンドウの事が響くと同時に、全員が盾を展開する。その瞬間だった。キュウビの周囲に黒いドーム状の物が出現した瞬間、周囲に向かって太いレーザーをまき散らす。この中で唯一盾を持たないカノンにとってはまさに最悪の相性の攻撃でもあった。

 展開した盾にレーザーの衝撃が加わる。全身で防ぐにもその勢いは止まる事を知らないのか少しづつ後ずさりする程の威力に、万が一直撃しようものならばどんな結果になるのかは考えるまでも無かった。

 

 

「このままやられっ放しになる訳には行かないんだよ!」

 

 タツミはもう来ないと判断したのか既にキュウビに向かって走り出していた。

 ゴッドイーターの全力で走る速度によって距離が一気に詰まっていく。そのままタツミのロートアイアンがキュウビの胸に深々と突き刺さった瞬間だった。

 キュウビの声なき声による咆哮が周囲の大気を震わせる。それが何かの合図になったのか、キュウビの頭上にはゆっくりと球体の何かが湧きだしていた。

 

 

「タツミ!すぐに戻れ!」

 

 それが何を意味するのかはこの場に居た全員が理解している。

 原理は不明だが、その球体が事実上の全滅を引き起こしたそれそのもの。すぐに気が付いたエイジはその球体に向かって引鉄を引いていた。バレットエディットで構成された銃弾は普通のアラガミであればかなりのダメージを起こす程の威力がある。

 しかし、キュウビの出した球体はまるで何も無かったかの様に徐々に大きくなっていた。

 

 

 


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