神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第203話 新種出現

 

「極東の技術力は大したものだな」

 

「まさか感応種までもを超えるとは流石に思いませんでした」

 

 リンクサポートシステムが正常に稼動しているのは既に通信で確認していた。

 今は漸く一区切りついたのか、目の前にはアラガミの姿がどこにも見えない。まずは休憩だとばかりに警戒しながらも周囲を眺めていた。

 

 今回の最大の懸念と希望がリンクサポートの稼動状況であるのは誰の目にも明らかだった。そんな中での稼動と効果の確認は今後の展望を明るくする話題であると同時に、もう一つの懸念材料も出ていた。

 既存の種には対抗できるが、新種となればその対策が必要不可欠となるだけでなく、キーとなる神機作成にはやはりその種のコアが必要となる点だった。

 

 

「北斗もシエルちゃんももう少し驚いても良いと思うよ。だってこれからは既存の感応種が出ても慌てる心配が無くなるんだよ」

 

 ナナの言葉に2人も確かにそうだと改めて考えていた。現状では感応種の討伐に関してはブラッドが極東に編入した際に明確に指示が出る様になっていた。

 これまでの様に撤退を視野に入れるのではなく討伐を主体とした作戦の変更に伴い、ブラッドの稼働率は一気に跳ね上がっていた。

 そんな中での感応種の対策が確認出来た事はまぎれも無く大きな出来事だった。

 

 

「だが、今のままだと新種の場合は当て嵌らないからな。結果的には大差無いだろ」

 

「もう!何でギルはそんなに冷めてるかな。ここは少しでも喜ぶ場面だと思うよ」

 

 ナナとて楽観視している訳では無い。ここに来て極東の出動率に慣れつつあるからなのか、今回の大規模ミッションでの疲労感が今の所見られる気配は無かった。

 

 今回のブラッドの位置づけは感応種の討伐を中心に、数を少しでも減らす為の遊撃の役割が功を奏したのか、無理な討伐が必然的に無くなっていた。

 本来であれば完全に討伐させるのがミッションでの当然の任務となる。しかし、いつ現れるか分からない感応種を意識しながら目の前のアラガミと対峙出来る程、部隊そのものが円熟している訳でもない。

 そうなるとブラッドだけが消耗する形となる為に、それを防ぐ為の措置として、出来る範囲の中での任務に留まっていた。

 

 

「確かに楽観視したいのは山々だけど、ここで未知の感応種が出ればリンクサポートシステムが稼動出来ないんだったら、一先ず警戒だけは緩めない様にした方が良いかもね」

 

「北斗がそう言うなら確かにそうなんだけど……」

 

 苦戦する事が無かったからなのか、それともほんの僅かな油断が招いた結果だったのか、突如としてフランから通信が入る。それは今回の最大の懸念事項でもあった。

 

 

《皆さん19時の方向に中型種の反応です……しかしこれは…》

 

「フラン、どうかしたのか?」

 

 アラガミの反応をキャッチしたまでは良かったが、どこかフランの言葉に切れが無い。それが何を示しているのか、その場にいた全員が何となく理解した瞬間だった。

 

 

《いえ、中型種のデータはありません。恐らく新種の可能性が……感応種です!皆さん、どんな動きをするのかすら現状では不明です。慎重にお願いします!》

 

 感応種の中でも未確認データとなれば、新種以外に思い浮かぶ物は無かった。

この時点でリンクサポートシステムの対処が出来ないアラガミが出現した事になる。

 今回の戦いでの試金石となるからなのか、これまでの雰囲気が一転した瞬間、全員の表情が引き締まっていた。

 

 

「ここに来て新種とはね……どうやらアラガミからすれば、このシステムは何かと都合が悪いのかもしれないね」

 

 リンクサポートシステムが正常に稼動したと同時に今度は感応種の新種の登場はまるで何かがしくまれでもしているのかと思える程にタイミングが良すぎていた。

 これが本当の決戦になるのかすら今はまだ怪しい。今、榊にできるのはただ祈るだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれが感応種?何だか見た目がグロテスクと言うか……」

 

 ナナの言葉はその場に居たブラッド全員の気持ちを代弁していた。感応種の報はすぐさま警戒レベルを引き上げるが、戦場で発見した感応種は明らかにこれまでの種とは違っていた。

 

 

「確かに見た目はグボロ・グボロ種の様ですが……」

 

 遠目で見るアラガミのその形状は確かにグボログボロの様に見えるが、時折見えるその横顔は明らかに人面のそれに近く、また砲台の部分が高い鼻の様にも見える。

 一言で言えばこれまでの様な威圧感が何処にもなく、ただ滑稽なアラガミの様にも見えていた。

 

 

「見た目で判断は危険だ。感応種である以上、データは必要だろうから警戒するに越した事は無い。フラン、近隣のチームはどうなってる?」

 

《現在地からはどのチームも離れています。仮に感応波が発生したとしても、周囲のチームへの影響は無いか、仮にあったとしてもかなり限定的かと思われます。それと新種ですのでこちらも測定を開始します》

 

 一番最初に確認するのは周囲への影響だった。リンクサポートシステムは既存の種にのみ対応するだけなので、今回の様な新種が出れば虎の子の装置は用を成さなくなる。 その為には感応波の測定と同時に周囲への影響を弾く必要性があった。

 既に作戦が開始されてからそれなりの時間が経過している。各戦局は不明だが、それでも僅かな懸念材料すら排除する必要だけがあった。

 

 

「了解。まず俺達がやるべき事はあのアラガミが発生する感応波の確認だな。それが確認出来たと同時に一気に討伐しないと今度は各チームへ影響が出る。時間にシビアな展開になる以上、これまで以上にやるしかない」

 

 北斗の言葉に全員が頷いていた。新種の脅威は一刻も早く除外する必要があるも、測定もする必要がある。お互いの条件が相反するのは仕方ないのであれば、確認後は迅速な攻撃が必要となる事から、今回の討伐に関しても神速でやる必要が出ていた。

 

 

「全員散会。各方面から一気に攻撃するんだ」

 

 叫ぶ事無く静かに行動を開始し始めていた。まだアラガミは捕喰しているのかこちらの気配には気が付いていない。

 既に気配を絶つ事にも慣れたのか、全員が周囲を囲む事に成功していた。大きな咢がまさにその胴体を喰いちぎろうとアラガミに襲いかかる。

 それが合図とばかりに新種のアラガミとの戦いが開始されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「油断するな!」

 

 北斗の言葉に全員が警戒しながらも未だ休む事なく攻撃を続けていた。今回の最大のポイントは一気に討伐するのではなく、感応波や行動原理に弱点と確認すべき事を全てやる必要があった事だった。

 

 既にデータがあれば影響は出る前にやれば良いが、新種の場合はそう簡単に出来る訳もなく、結果を出す為には部隊を危険にさらし続けると言った二律背反が北斗に枷をかけていた。

 グボログボロ種だからなのか、一部は既に結合崩壊を起こし、目の前のアラガミは半ば死に体の様にも見える。にも関わらず感応波は未だ発生していなかった。

 

 

「北斗!様子がおかしい」

 

 ギルの言葉に全員が改めてアラガミを見る。このアラガミに体毛があれば恐らく何らかの行動を起こすのだろうと予測も出来るが、この種にそんな物はなく、今はこれまでの経験から判断した結果だけしか判断出来なかった。

 

 

《偏食場パルスを確認しました!皆さん落ち着いた行動して下さい》

 

 フランの通信と同時にアラガミが僅かに全身を震わしている様にも見える。その瞬間だった。全員の神機は一斉にバーストモードへと突入し始めていた。

 

 

「なんだこれ!」

 

「北斗、これは一体!」

 

 2人が驚いたのは無理も無かった。突如として発動したバーストモードに心当たりが一切無い。これまでの感応種であれば神機の行動不全になる事はあっても、こうまでバーストする様な能力はこれまでに一度も無かった。

 本来であれば感応種の偏食場パルスに影響を受けないはずのブラッドでさえも、無理矢理そうさせたと錯覚する現象は少しだけ慌てさせる結果となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「榊博士!これは一体」

 

 ブラッドが交戦したアラガミが放った偏食場パルスの結果にその場にいたフランは改めて榊へと視線を向けていた。これまでとは違った傾向の偏食場パスルが何なのかを解明する必要がある。

今はただ送られたデータを見るより仕方なかった。

 

 

「詳しい事は分からない。しかし……」

 

 榊が気になるのは無理も無かった。単純にバーストモードへと移行するだけであれば大きな問題はどこにも無い。

 むしろこのままの方が攻撃力が上がった状態で討伐出来る為に、大事になる可能性は低いとも考えられていた。しかし、これまでアラガミを研究し、今回の感応種が発生してからの経験が警鐘を促している様にも思える。

 それが何なのかが現時点では判断出来なかった。

 

 

「はい。分かりました。では直ちに確認します」

 

 原因不明のバーストモードをまるでどこかで見ていたかと思える様なタイミングでヒバリに通信が入った。

 既にこの事態を理解していたのかヒバリは頷きながらも状況を確認すべく、モニターの一部にブラッドのパーソナルデータと神機の適合を示すデータを引っ張り出す。

 それが何なのかヒバリには理解出来なかったが、榊は一目でそれが何を意味するのかを理解していた。

 

 

「無明君。どうしてこれが?」

 

《こちらも僅かながらに影響が出ています。データ上では感知されていないかもしれませんが、個人の神機によっては何らかの影響を及ぼす危険があります。特にエイジの神機に関しては恐らくは僅かながらでも影響が出ている可能性が高いのであれば、早急に確認して下さい》

 

 通信越しの声は無明も戦場に居るのは直ぐに理解出来た。本人の声は何も変化は無いが、時折聞こえる外部の音はアラガミの咆哮や悲鳴。それがどんな状況であるのかは確認するまでも無かった。

 

 

「ヒバリ君。エイジ君に通信を繋げてくれるかい?」

 

 榊の言葉と同時に通信がエイジへと繋がれている。既にこちらも交戦中なのか、無明と同様にアラガミの声が間断無く聞こえるその状況は正に激戦区の名に相応しい状況でもあった。

 

 

「どうかしましたか?」

 

「実はこちらでも観測した結果なんだが、君の神機に異変は感じるかい?」

 

「先ほどからバーストモードの際の神機の出力が大幅に上昇している様にも感じます」

 

 榊の言葉が何を言わんとしたのかを理解したのか、エイジは誤魔化す事無く事実だけを伝える。それが何を意味するのかは榊だけでなくエイジも大よそながら理解していた。

 交戦の最中にアリサから受けたリンクバーストはこれまでの能力とは段違いの出力にエイジも戸惑いを覚えていた。

 これが通常の任務であれば早急に確認すべくアラガミを始末するが、現状ではそれすら厳しい状況もあってか、容易に確認が出来ないでいた。

 このままの状況が続くのであれば大よその未来が見えてくる。その為には一亥も早い討伐を優先すべく、目の前のアラガミを瞬時に屠り去っていた。

 

 

「実は今ブラッドが戦っている感応種の影響が極めて高いんだ。これについては新種の為にデータを採取しながらの討伐に当たって貰っているんだが、流石にこれまでの感応種とはまたアプローチが違った形での神機への行使だから、現在はその結果待ちなんだ。

 ただ、こちらで分かっているのは一つだけ。君に限った事では無く、他の神機に関しても何らかの影響を受けているのは間違い無い。だたこちらで観測できるレーダーにはその影響が出ていない以上、現場の君達に確認するしかなかったんでね」

 

 通信を繋げながらもヒバリが出した画面には各自の神機の出力が一様に出ている。本来と決定的に異なっていたのは、通常のバーストモードは徐々に減衰しながら元の状態に戻ろうとする力が働いているが、現状では常時全開に近い内容の為に、未だに減衰が

確認出来ない点だった。

 このまま続けば神機も自身の能力によって壊れる危険性が高く、またエイジの神機に関しては特別な機能が搭載されている事もあってか、今回の中でも最大の影響を及ぼす可能性だけがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい。了解しました。直ちに討伐を開始します」

 

 榊の考察から推測された結論はすぐさまブラッドへと繋がれていた。既に様子を見ながらの感応種の討伐は幾つかの部位が結合崩壊したのかボロボロになっている。

 様子を見る為に敢えて急ぐ必要が無かったのが一転し、すぐに完全討伐の為の内容へと変わっていた。

 

 

「北斗。このアラガミの能力は極めて危険な物です。このままでは最悪、神機が持ち主を無視し勝手に暴走する可能性がある事が指摘されました。既に必要なデータは揃ったとの事でした」

 

 シエル言葉に誰もが声に出す事を忘れたのか、僅かな沈黙がそれを表す。このまま続けば神機の負荷だけが続く先が見えていた。

 

 

「このままだと神機に偏重出ても何も出来ない。今は一刻も早く討伐するんだ!」

 

 北斗の言葉で全員が改めて感応種へと視線を向ける。この局面で神機の動作不全が何を予定するのかは考えるまでも無かった。

 全員が一気にアラガミへと距離を詰めると同時に最大の火力で殲滅する。極限の中でも最大限のパフォーマンスを発揮させるべく、全員の神機が赤黒い光を帯びていた。

 

 

 

 


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