神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第202話 確認と戦局

《では各チームの皆さん。厳しい局面ではありますがお願いします》

 

 ヒバリの声が全員の通信機に鳴り響く。4分割された部隊配置は既に大規模な襲撃の予測地点へと配備されていた。

 今回の配置の中で最大の問題点が感応種の対策でもあった。既にリンサポートシステムはブラッドを除く各隊に配置されているのか、その存在感だけが示されていた。

 

 

「これ本当に動くんだよな?」

 

「だから配備されてるんだろ?いい加減その会話から離れたらどうなんだ」

 

 今回の部隊配置は明らかに攻勢に回る人間が出来る限りアラガミを倒し、逃げたアラガミを後続の守勢に回る人間が確実に仕留める方法が採用されていた。

 既にアラガミの気配は遠くからでも判断出来る程の大規模な物。ここから始まる戦いがどれ程の物なのかは誰も予測出来なかった。

 そんな中で今回防衛に回されたシュンとカレルはこんな場面でも日常だと言わんばかりに行動をしている。

 それが今回の大規模作戦に初参加となった人間のプレッシャーを幾分か和らげる効果があった。

 

 

「あくまでも感応種が出たらの話だろ?だったら出るまでは関係無い。お前の分の報酬まで俺が掻っ攫うだけだ」

 

 既に守勢としての配置にはついているが、少し先ではコウタ達第1部隊のメンバーが交戦を開始したのか、カレルとシュンの元には戦闘音だけが届いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マルグリット!全部を倒す必要は無いからな!エリナも無理するなよ!」

 

 攻勢のメンバーの中でコウタが唯一の第1世代型神機を使用していた。

 今回のチーム編成で一番頭を悩ませたのは第1世代の特性だった。近接型は自分で捕喰する事でバーストモードへと変われるが、遠距離型ではそれが出来ない。

 しかし、渡した際のアラガミバレットの威力を考えれば、それを活かさない手はどこにもなかった。

 

 マルグリットとエリナが前衛を務め、その後ろでコウタが指揮を執る。既にこの体制でこれまで第1部隊を運用してきたコウタにとって、極当たり前の陣形だった。アラガミの襲撃は今に始まった事では無いが、それでも心配すべき事は幾つか存在していた。

 最大のポイントがマルグリットとエリナがどこまで戦力としてテンションを保つ事が出来るかだった。これまでコウタは本当に厳しい局面を戦わせた経験が殆ど無かった事が仇となっていた。

 それは自身が遠距離型である以上、いくらバレットエディットを利用しても火力が近接型よりも劣るのが最大の要因だった。

 

 距離を稼ぎながらの射撃そのものは問題なくても、仮にコウタに攻撃が向いた際に回避するしか手段が無く、万が一の場合には自身の命の担保がどこにも無い点だった。

 以前のエイジスでの任務でその事を理解しながらも他のメンバーを撤退させた事は本当に正しかったのかと自問自答している。

 しかし、今回の防衛戦に於いては既にそんな事を考える余裕があるのかすら判断が出来ない状況へと追い込まれていた。

 

 

「出来るだけの事はやります!」

 

「エリナのフォローは任せて!コウタは全体を見て頂戴」

 

 チャージスピアの特性を上手く活かす事でエリナはヒット&アウェイとばかりにその場に留まる事無く常に攻撃を仕掛けている。

 既にその威力を存分に発揮したのか、初戦となったオウガテイルの群れは既に跡形も無く霧散していた。

 

 

「エリナ、調子は良さそうね」

 

「はい。この調子で行きます!」

 

 これまで好調に動いた結果なのか、既にエリナのテンションがかなり高く自分でも高揚しているのが理解出来る。このままの調子を維持しながら行けば恐れるに足りないとまで思う程だった。

 

 

「エリナ!」

 

 エリナの側面からのコンゴウの攻撃は完全にエリナの死角からだった。気が付かないエリナのフォローとばかりにコウタはアサルトを連射し、攻撃の手を僅かでも緩める様に全精力を傾けていた。

 今回の様な大規模な戦いでの致命傷は部隊全体を瓦解させる可能性が高い。その為には火力が低くても命を最優先する戦いが求められていた。

 

 

「あ、有難うございました」

 

 コウタの射撃でコンゴウは僅かに動きが鈍っていた。しかし完全に攻撃を止めた訳では無く勢いが先ほどよりも若干遅くなった程度にしか過ぎなかった。

 そんな中でマルグリットがエリナの前で盾を展開する事で最悪の展開だけは免れていた。

 

 

「エリナ。気持ちは分かるけどコウタのフォローが無かったら拙かったよ。もう少し落ち付いてね」

 

「分かりました。以後気を付けます」

 

 これがエミールであればエリナも逆上するが、やんわりと窘めたのがマルグリットである以上、エリナはその言葉を素直に聞き入れていた。

 この場での致命傷は最悪の展開にしかならない。それがどれ程厳しい物なのかを身を持って感じる事になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今の所コウタさん達βチームは問題ありません。現在はエイジさんのαチームに大型種が接近中。ウララさんは常時アラガミの動作とメンバーのバイタル情報を常に注意して下さい」

 

 現場での戦いとはまた違った緊張感がアナグラにも存在していた。今回のオペレーションに於いてヒバリとフランは各々の状況お把握しながら今回初めて入るウララとテルオミのサポートも同時進行で進めていた。

 平時の戦闘であればそこまで気を使う事は無かったが、今回の様な多面作戦となれば万が一の際に他のチームとの連携が必要不可欠となってくる。

 その為にはお互いの状況を把握する必要性があった。

 

 

「分かりました。αチーム、現在のバイタルは良好です。アリサさん、目の前のアラガミのバイタルが大きく乱れています」

 

 元々研修では安定した成績を収めていたからなのか、緊急時のオペレーション以外は申し分なかった。しかしここは極東。ある意味での最前線は伊達ではなかった。

 

「ウララさん。αチームの9時の方向から大型種の反応があります。注意を促してください」

 

「は、はい。エイジさん、大型種の反応が9時の方向にあります。目視で確認出来るはずですので注意して下さい」

 

 既に数える事すら諦めたくなる程の想定外のアラガミの侵入はウララの精神を遠慮なく削り取っていた。

 事前にヒバリからこの地域の最大の特色でもある想定外のアラガミの存在は、ギリギリのテンションを保ちながら指示を出すオペレーターをまるで嘲笑うかの様に次から次へと溢れ出てくる。

 現在の所、α、β、γの3チームの中でエイジが居るαチームが一番の激戦区となっていた。

 本来であればこのアラガミの出現率からすれば既に何度も危機的な状況に陥っている可能性が高いが、このチームの人員のレベルが高った事から未だ危機に陥る可能性は皆無に等しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《想定外のアラガミの侵入です。個体は不明ですが中型種です。現在地より9時の方向です》

 

「了解」

 

 戦場では既に何体のアラガミを屠ったのかすら数えてもいなかった。本来であればコアを抜き取る事が先決ではあるが、既に抜き取らずに霧散した個体の方が圧倒的に多く、時折出る大型種のコアを取る事で精一杯だった。

 既にαチームとしては攻勢と守勢に分ける事はしていない。

 当初はそれでも機能していたが、戦局が徐々に一方へと傾きだした瞬間、これまでの作戦を捨てると同時に一気にしとめるやり方へと変更していた。

 

 

「結果的にはこれが一番手っ取り早いとはな」

 

「こればかりは時間をかけるのが最大のリスクですし、仕方ないですよ」

 

 一瞬とも言える速度で討伐して行く事による最大の利点は僅かながらでも休息が取れる事だった。

 当初は作戦通りに運用していたが、数が徐々に増える事から作戦を殲滅戦へと変更し、全員で一気に形を付けるやり方へと変更した結果だった。

 

 

「でも、この方が次のアラガミへの対処も出来るから私としては有難いのよね」

 

「そうですね。結果が出るならばこの方がある意味安全かもしれませんね」

 

 エイジのチームにはアリサとジーナを守勢に回し、エイジとブレンダンが攻勢に回っていた。

 本来であれば防衛班としての能力を守勢に回すのが当初の予定だった事もあり、その考えの下で運用していた。しかし、アラガミの襲撃が徐々に増えると同時に、強固な個体が比率として徐々に増えだしてくると、部隊の運営が一気に厳しくなり出していた。

 

 エイジもアリサも攻撃能力は上位に入るが、それでも強固な個体が出れば討伐に時間がかかる。その結果次のアラガミへの行動が遅くなる事から、最大火力で殲滅しないと今後が危ういとエイジは判断していた。

 もちろん、適当に考えた結果では無い事からもブレンダンもジーナも否定する気は無かった。

 

 

《すみませんエイジさん。先ほどの中型種ですが感応種です。個体名はイェン・ツィーです。直ちにリンクサポートデバイスの起動準備をお願いします》

 

 通信越しに聞こえるイェン・ツィーの言葉に全員の意識が一気に引き締まった。それは現場だけでなく、アナグラの内部全員が同じ様な感覚だった。

 理論上は可能であるはずのリンクサポートシステムが正常に稼働するかどうかで今後の戦いの行方が見えてくる。既に種の個体が特定出来た事により、サポートを担当する人間がせわしなく動き出す。

 ここが今回の最大の山場である事がこの場にいる人間だけでなく、ブラッドも含め全員がその効果を確認していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《リンクサポートシステム効果発動!偏食場パルスの逆相を確認!神機の停止は確認できません》

 

 ウララの言葉には嬉しさが滲んでいた。当初出現した際に最初に打った手は実際に神機が動作不全になるまでは通常の様な戦う方針だった。

 今回のデバイスの動作時間は頑張っても15分に連続稼働がギリギリの線だった。常時運転したままであればリンクサポートシステムそのものが圧倒的な力に負けて自己崩壊を起こす点だった。

 勿論、最初から発動させる計画もあったが、動作確認が出来ないだけでなく、何がどこにどうやって影響を与えるのかを判断する為でもあった。

 

 

「ふう~。どうやら成功したみたいだね」

 

 ウララの声は榊がいるアナグラのロビーにも響きわたっていた。

 イェン・ツィーが放った偏食場パルスが一瞬だけ神機の稼動を停止させた瞬間だった。すぐさまリンクサポートデバイスが発動すると同時に偏食場パルスが逆相を作り出す。

 一旦停止したはずの神機は息を吹き返したかの様に再び稼動していた事にその場にいた全員の歓声が響いていた。

 

 

「そうですね。まずは一安心と言った所ですが、まだ油断は出来ません」

 

 榊も理論上は可能だと判断したまでは良かったが、今回は検証が一切出来ないままのぶっつけ本番だった事もあってか隣に居たツバキと同様に安堵の表情を浮かべていた。

 この時点で新種が出なければ感応種の討伐任務はこれまで以上に警戒する必要性が無くなる。

 それはこれまで撤退しか出来なかった人類側の反撃の狼煙でもあった。既にその情報が榊の手元へと渡る。これが常時安定すればこれまで同様の任務となるのが目に見えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやらエイジのチームのリンクサポートシステムが正常稼動したみたいだな」

 

 感応種の脅威がなくなった事は全部の戦場へと情報が共有化されていた。この時点で殆どのゴッドイーターの精神的な限界が突破された事によって、戦局が徐々に好転し始めていた。

 それほどまでに感応種の影響が大きかったからなのか、それともまだ見ぬ感応種への鬱憤を晴らす為なのか、一時的にせよ押され気味だった戦線までもが息を吹き返す。

 それがどれ程望まれた結果だったのかをリンドウとソーマも思い出していた。

 

 

「となればこっちも少しは楽出来るかもな。リンドウ!俺達もうかうかしている暇は無いぞ」

 

「分かってるって。タツミ、カノン、聞いた通りだ。感応種の事は気にするなよ!」

 

 目の前のボルグ・カムランの盾を破壊しながらリンドウは刃を止める事無くそのままふるい続けていた。

 既に目の前のボルグ・カムランは死に体同然なのか動きは鈍い。止めとばかりにソーマのチャージクラッシュが弱った身体ごと真っ二つにしていた。

 

 

《おう!今の所は問題無いが、そろそろ下の連中を休ませる必要があるな。こっちは交代で休憩を取らせるが、そっちはどうする?》

 

 リンドウ達γチームもこれまで順調に事が運んでいた。しかし連戦に次ぐ連戦によって新人を含めた曹長以下の消耗は想像以上に激しくなっている。

 αチーム程ではないが、こちらもこちらで大型種の乱入が多く、先ほどリンドウ達がボルグ・カムランを討伐した裏でタツミ達はガルムと対峙していた。

 

 

「おいエミール。お前もそろそろここで休憩しろ」

 

「いえ!僕はまだやれます!このポラーシュターンもそのつもりですから、僕の事など気にせず任務に入ってください!」

 

 このメンバーの中で上等兵での前線はエミールだけだった。本来であれば守勢に回りリンドウとソーマが攻勢に回る予定だったが、エミールの強い意志を感じ取ったのか、リンドウは前線に残る事を許していた。

 

 

「エミール。お前の気持ちは話かるが、今回のミッションは誰一人欠ける訳には行かない。普段であれば何も言わないが、この前線では誰かが倒れればそこからアラガミは侵入してくる。俺もお前が戦力だと計算に入れているからこそ、ここは休むんだ」

 

 今回の作戦が過酷な物である事はエミールも理解している。確かにリンドウの言葉をそのまま聞くのが一番良い事は理解しているが、それと同じ位に使命感が今のエミールを突き動かしているのもまた事実だった。

 既に細かくに休憩をして動いているのはリンドウやソーマとて同じである。意志を尊重したいのは分からないでも無いが、今はそんな事に気を使う程のゆとりは無かった。

 

 

「エミール。今回の作戦はこのアナグラの未来がかかっている。事実、俺もソーマも細かく休憩を入れながらミッションに臨んでいる。自分だけが大丈夫だと言うのは少々おこがましいとは思わないか?」

 

 リンドウの言葉にエミールはそれ以上の言葉を出す事は出来なかった。ここで無理にでも前面に出れば、これまでの戦果を挙げてきた者を侮蔑する以外に無い。

 仮にリンドウと同等の実力があったと仮定すれば、今度は戦局が読めない人間だとも判断される可能性が出てくる。

 既にこの時点でエミールの取る行動は一つしか無かった。

 

 

「別にお前さんを責めてる訳ではないんだ。ただ、今回の任務はさっき言った通りだが、アナグラの未来と生存がかかってる。幾ら騎士道が大事とは言え、まずは自分が無ければ無意味だろ?だったら自分の騎士道を示す為には何が求められるかは理解していると思うんだがな」

 

「……分かりました!僕も自分の騎士道を貫く為に、今はその指示に従いましょう!」

 

 何かを考えた結果なのか、リンドウの言葉にエミールも休憩を取る形となっていた。 一時期よりもアラガミの出現頻度は少なくなっているが、それはあくまでもここに出現していないだけの話であって、他のチームでは総数は殆ど変化していない。これが何を示しているのかを今の時点で確認する事は出来なかった。

 

 

 

 


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