神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第199話 集結

「はい。……そうですか。……いえ、仕方ないですね。では明日にでも」

 

 久しぶりに聞いたはずのヒバリの声にタツミは当初嬉しさがあったが、それはあくまでも最初だけだった。ヒバリの口から出た言葉にタツミは一気に任務とばかりに厳しい口調へと変化する。

 本来であればアナグラからタツミの元に通信が来るケースはそう多くない。今回の通信もまさにそれをそのまま具現化した様にも思えていた。

 

 

「で、アナグラはなんだって?」

 

「一旦、俺達を召集だとさ」

 

「そうか……そうなるとここの防衛はどうなるんだ?」

 

「取敢えずローテーションで曹長と上等兵の連中を回すんだと。今の状況なら大丈夫だろうけど……」

 

 バスターでもあるディスペラーを肩にかけ、先ほど通信でやり取りしていたタツミに相方の男はその状況を聞いていた。

 丁度任務が終わったばかりなのか、目の前に横たわっているコンゴウとボルグ・カムランはコアの引き抜かれた事によって霧散していた。

 

 

「しかし、原因不明のアラガミの出現率か。何だか気になるな」

 

「だな。最悪はこっちにも影響出る可能性が高いんじゃ仕方ないだろ」

 

 タツミもまた同じく自身のロートアイアンをため息交じりに地面に刺し、ゆっくりと周囲を見渡している。既に太陽が高くなりつつある空を眺めながら今後の予定の事だけを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、タツミさん達アナグラに戻るんですか?」

 

「召集がかかった以上仕方ないね。ここ最近の極東におけるアラガミの出現率が尋常じゃない以上、俺達も防衛班として任務に就く必要があるからな」

 

 タツミは防衛班としての拠点でもあったネモス・ディアナに常駐するケースが多かった。

 一番の理由はこの場所が他のサテライトやアナグラとの中間地点であると同時に、アナグラとは違い、普段の生活がしやすい点が一番だった。

 現状サテライトは農場プラントと建築プラントに分かれているケースが多く、お互いが事実上の専門となっている事からも、それに従事する人間もどこか厳しい面が強く出ている。

 しかし、このネモス・ディアナに関して言えば極東支部とは違った生活感がタツミの水に合ったのか、タツミ以外の他の人間もここを拠点に活動するケースが多かった。

 

 

「でもさ、そんなにアラガミの出現が多いならここもやばいんじゃない?」

 

「いや、話によると螺旋の樹の周辺は問題無いらしいんだけど、どうも安定している訳じゃないみたいなんだ。事実、ここでもたまに大型種が出る事もあるけど、それもここ最近の話だからな」

 

 そう言いながらタツミはホットドッグを口にしながら炭酸水を飲んでいた。ここがアナグラなら出てくる物はまた違うのかもしれないが、ここでは割とジャンクな食べ物も多く、タツミだけではなく隣にいたブレンダンも好んで食べるケースが多かった。

 

 

「今は何も分からないままだから、一旦はアナグラで情報の共有をしない事にはこちらも対処のしようが無いからな。ここには他にもゴッドイーターが派遣されるのは決定だから対アラガミに関しては多分大丈夫だろう」

 

「でもよ。俺達はまだ良いけど、他の連中がどう思うかだよな。そう言えば昨日エイジから通信が入ったけど候補地の方は激戦区らしいぞ」

 

 そう言いながらタツミは2つ目のホットドッグを口に運んでいた。ここ最近、タツミとブレンダンは同じチームとして動くケースが多く、またお互いがそれなりにベテランの域に入っている関係から防衛任務も広域を担当する事が多かった。

 

 

「タツミさん。もう少し味わって食べたらどうなんだ?折角の特製ソースの味も分からないままじゃ俺も張り合いないって」

 

 既に時間は予定を押していたからなのか、タツミだけでなくブレンダンも詰め込む様に口へと運んでいる。目の前のマスターには申し訳ないとは思うが、生憎とここに余剰戦力は存在しない。

 今は少しでも早い行動が要求された結果でもあった。

 

 

「いや。前に比べたら格段に良くなっているって。でも、こんな場所で売らなくても、もっと大通りに出れば良いんじゃないの?」

 

「なあに。ここの方が俺の性に合ってるんだ。俺の商売の事なんだから一々気にするな」

 

 元々この店を見つけたのは全くの偶然にしか過ぎなかった。

 ネモス・ディアナ内部の哨戒で色んな所を回った際に偶然入っただけの店だったが、実際に食べるとこれまでの中でも上位に入る程の味わいから、タツミは他の人間も引っ張りながらここに来る事が多くなっていた。

 そんな影響もあったのか、裏通りの割には客がよく来る店として経営されていた。

 

 

「とりあえずはアナグラに戻るしかないな。ブレンダン、そろそろ行くか。遅いとツバキ教官にどやされるぞ」

 

「全くタツミは慌ただしいな。隊長なんだから少しは落ち着いたらどうなんだ」

 

 そんな会話をしながら店を出ると、2人は新ためてアナグラへと急ぐ事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「緊急の呼び出しで済まなかったね。今回君達を呼んだのは今の極東支部を取り巻く環境が著しく悪くなっている。その件での召集なんだ」

 

 突如として召集がかかったのはタツミとブレンダンだけでは無かった。既に支部長室にはカレルとジーナ、シュンまでもが召集されている。

 本来であれば各サテライトを防衛しているはずの人員が全てアナグラに召集されていた。

 

 

「任務なんで気にしませんけど、どうなってるんですか?」

 

「実は今回の件なんだが、ここ最近になって極東支部周辺の偏食場パルスの大幅な乱れと同時に、螺旋の樹を中心とした場所は問題無いんだが、それ以外の場所で大規模なアラガミの襲撃が予想されたんだ。

 ただ、現状は原因が不明となっている事もあるだけでなく、最悪はここまでもがアラガミの襲撃を受ける事になる。そうならない為にもまずは先手を打つ必要があったんだ」

 

 突如として呼ばれたまでは良かったが、ここ最近はクレイドルも長期派兵が取りやめになった事からエイジもリンドウも常駐している。ましてや終末捕喰を回避する事が出来たブラッドまでもが居るのであれば召集される理由が見つからなかった。

 既にどれほどの戦果を残しているのかは各自でも確認する事が出来る為に、これまでのミッションの数と討伐数を考えれば、榊の言い分は分からないでもないが、それでもやはり疑問だけが存在していた。

 

 

「俺達を召集する訳は何なんだ?本来の任務はサテライトの警備だったはずだが」

 

「実を言うと、既にクライドルとブラッドには部隊編成をした状態で任務に当たってもらってるんだが、襲撃の数と範囲があまりにも大きすぎてね。実際にサテライトの建設予定地も既に最悪の事態を想定してオラクル資源の退避を始めているんだけど、そこもまた襲撃に合っているから、今はエイジ君とアリサ君を中心に今はそこが最前線となっているから、アラガミの襲撃がそこで踏みとどまっているんだよ」

 

 榊の言葉に先ほど確認とばかりに口を開いたカレルはそれ以上の言葉を告げる事が出来なくなっていた。

 これまでサテライトの建設予定地にもアラガミの襲撃は何度かあったが、それも結果的にはそこに常駐するゴッドイーターの手によって撃退してきた。

 もちろん、今のメンバーの中でエジとリンドウの2人が突出した戦闘能力があったとしても、所詮は数の論理となる可能性が高く、その結果として最悪の事態を引き起こすだけでなく、万が一の際には最大戦力を失う事もにもなりえた。

 

 

「勿論、彼らはあくまでも撤退までの殿ではあるが、今の所は何とかなっているみたいだね。我々としても全戦力を投入する訳には行かないからね。こでも苦渋の決断なんだよ」

 

 普段であれば何を考えているのか分からない榊の表情も今回ばかりは誰もが厳しい事を悟っていた。

 既にここは最悪の事態に半ば突っ込んでいる。榊の表情が全てを物語っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サテライトの進捗率はどうなってる?」

 

「まだ4割です。最悪は資材の廃棄も視野に入れた方が……」

 

 エイジに話すアリサの表情は悲観まではいかないものの、それでも何か思う所があった。

 既に完成しているサテライトの事は気にしなくても、ここを放棄するにはあまりに惜しい部分まで来ていた。

 外壁もあと僅かだった事から既にそこを入り口にアラガミが次々と押し寄せる。幸か不幸か入り口となっている場所からは大型種がギリギリ通れる幅でしかなかった事からも、撤退の事をアリサに任せ、エイジはただひたすらに目の前のアラガミを叩き斬っていた。

 既に霧散したアラガミの数を数える事は無く、次から次へと侵入するアラガミは資材におびき寄せられている様にも見えていた。

 

 

「こっちの事ならまだ大丈夫。神機も身体もまだ戦えるからアリサは一亥も早い撤退の準備を続けて」

 

 確かにエイジはまだ余裕があるのは直ぐに分かる。しかし、それがつまで続くのかと言えば本人にしか分からない。今は丁度休憩出来るのかアラガミの気配を感じる事は無かった。

 

 

「エイジさん、少しだけ神機の調整をしませんか。レーダーには少なくとも半径5キロ圏内にアラガミの姿は見当たりません」

 

「……そう。じゃあ、テル君悪いけど頼む。ちょっとだけ休むから」

 

 エイジはクレイドルの整備士として来ていた真壁テルオミに神機の調整を頼むと少しだけその場で仮眠をしていた。

 確かにこの状況がいつまで続くのはは想像すら出来ない。であれば僅かながらでも体力を回復させるべく、壁にもたれかける様に仮眠を取ってた。

 

 

「エイジ……ひょっとして寝てます?」

 

「今は神機の調整の間だけ仮眠すると言ってましたので、時間的には僅かですよ」

 

 テルオミの言葉にアリサは苦笑するしかなかった。通常であれば夜間の襲撃の可能性は低いが、万が一の事があっては拙いからと事実上エイジは一人で夜間の警戒任務をこなしていた。

 アナグラからも戦闘時の物資の補給と人員も補給されるが、実際には非戦闘員の作業の警備に当てると同時に、戦い易い状況を作るべく、小型種に関しては任せていた。

 しかし、小型種を捕喰せんと中型種や大型種がやってくると、早く討伐すべく常時警戒したままだった。

 

 既に部隊の制服もあっちこっち泥で汚れ、返り血もかなりついている。それがエイジ自身の物で無い事はアリサも理解しているが、それでも見た目のダメージから気になるのは仕方なかった。

 

 

「じゃあ、私もここで一旦食事の準備をしますね。本当ならちゃんとした物を作れれば良かったんですが……」

 

「いえ、こんな時にそんな事言っている暇は無いですよ。仮に作るとなれば多分エイジさんが無理にでも動こうとしますから。今回の件が落ち着いたらパーッとやりましょう」

 

 テルオミは雰囲気を明るくする為に態とおどけた話をしているが、やはりアラガミを警戒しながらの行動は時間がかかる。

 普段であれば既に積み荷は無くなるが、今は撤退の道までも警戒する必要があるからと、トラックも時間をかけながら撤退していた。

 

 

「そうですね。折角ですからアリサさんの手料理も食べたいですからね」

 

 そう言いながら無理にでも笑いを作る。ここで意気消沈しよう物ならばこれまで孤軍奮闘していたエイジに申し訳ない事になりそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回君達には一つお願いがあるんだよ。実は今回の任務に当たって、可能性の一つとして感応種の存在がある。君達も既に知っての通りだが、現在の所極東のマニュアルでは感応種の発見の際にはスタングレネードを使用した即時撤退が義務付けられている。

 勿論それに関しては今も同じなんだが、今回からリンクサポートシステムも併用した部隊運用をして貰う事になる。それでなんだが……」

 

「リンクサポート?何だそれ?俺今まで聞いた事無いぞ」

 

「シュン。人の話は最後まで聞きなさい。榊博士も困るでしょ?」

 

 榊の話を最後まで聞く事無くシュンは真っ先に言葉に出していた。

 これまで開発中だったリンクサポートシステムは未だ極東支部の中でも一部の人間にしかその存在を知らせておらず、その開発が大詰めに来ている事すら知らない人間が多かった。

 シュンとしても感応種に対して何か思う所があったからなのか、真っ先にその内容を確認したいと思っていた。

 

 

「なんだよジーナ。お前は気にならないのか?」

 

「気にするも何も私はただアラガミと命のやり取りをしたいだけよ。貴方とは考えが違うの」

 

「すまないが、話を進めても良いかい?」

 

 シュンとジーナのやりとりをこれ以上続ける訳にも行かず、今は説明をする事で理解してもらう事を優先せざるを得なかった。

 今回の襲撃に関して万が一感応種が多面攻撃で一斉にこられれば、如何にブラッドと言えど無理が生じる。この場面は出来る事なら無傷で乗り越えたい。

 半ば強引な考えである事は理解しているが、そんな思惑が榊にはあった。

 

 

「今回の作戦に関してなんだが、僕のプランはこうなんだ」

 

 これまでも何度か厳しい戦いはあったが、それはどのゴッドイーターでも討伐が可能であるのが大前提の話でしかない。しかし、感応種となれば事実ブラッドか、ソーマ、リンドウしかいないのもまた事実だった。

 幾ら歴戦の猛者と言えど、常時そうする訳には行かなかった。

 自信があるのか榊のメガネの奥に見える目に力が入る。今回の作戦群の内容が支部長室で話されていた。

 

 

 


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