神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第191話 因縁の決着

 キュウビの行動は最初に交戦した際にある程度のパターンを読んでいたのか、クレイドルはこれまで苦も無く攻撃を続けていた。

 

 基本の攻撃がいくつかあるものの、既に一度目にした攻撃は既に脅威では無い。初見でも一定レベルの成果を要求される事に比べれば、今のキュウビの攻撃は幾ら動きが早くてもある程度のパターン化された事で対処する事が可能となっていた。

 

 

「全員来るぞ!コウタはもっと距離を取れ!」

 

 エイジの叫びと同時にキュウビはオラクルの塊を上空へと押し上げる。そこから来る攻撃は無差別のレーザーの雨だった。

 様子を見ながら北斗達もキュウビの討伐へと参加する。エイジの指示通り、全員が盾を展開した瞬間、大きな衝撃が走っていた。

 

 

「あれは厄介だな」

 

「でも距離を取れば何とかなるんじゃないか」

 

 時間と共に今まで苦戦していたブラッドも徐々に目が慣れ始めたのか、キュウビの行動パターンについていき出していた。

 元々過剰戦力での交戦ではあるが、何か重大な物を見落としている様にも見える。しかし、現状の戦闘の最中にそれが何なのかを判断する程の余裕は無かった。

 キュウビは再び大きな雄叫びを上げると同時に初戦同様に黒い筋が進行方向へと湧き出ている。そこから先の行動がどんな物なのかは直ぐに見当が付いていた。

 

 

「ギル大きく回避しろ!コウタ!回復弾の準備だ」

 

 黒い筋の先にへと移動するはずにも関わらず、エイジは大声で叫びながら指示を出す。本来であれば大きく回避する必要性はどこにも無いはずだった。

 

 黒い筋を一気に駆け抜けたキュウビは先ほどとは打って変わって進行方向の後で大きな球状の何かをまき散らす。それが何なのかは直ぐに分かった。

 

 

「くそっ!」

 

 エイジの指示とキュウビの攻撃、ギルの判断に僅かながらにタイムラグが発生していた。先ほどの雄叫びが合図となったそれは、まるで絨毯爆撃したかの様に周囲に黒い球状の何かが一気に炸裂する。

 

 無差別の攻撃が回避に送れたギルに襲い掛かっていた。盾を展開するも周囲一体にまき散らす爆撃は全方位からギルに襲い掛かる。

 流石に全方位ともなれば何らかの形でいくつかは被弾したものの、事前にコウタから放たれた回復弾でギルはギリギリの部分で難を逃れていた。

 

「活性化してるそ!今までと同じだと思うな!」

 

 ソーマの言葉に全員が再び警戒する。本来であればどんなアラガミでも共通するはずが、今になってそれがスッポリと抜けていたのはひとえに現状の対策に意識が向き過ぎたのが原因でもあった。

 既に回復したとは言え、ギルも直ぐにはダメージが抜けきらない。このままでは攻撃のターゲットとなるのは時間の問題だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリサさん。私に何か出来る事はありませんか?」

 

 シエルは遊撃で行動していたアリサと行動を共にしていた。元々シエルの神機の特性を考えると、ブラッドの中では中衛から後衛に近く、今回の戦いでもクレイドルの状況を判断した結果だった。

 

 

「見ての通りですが、キュウビの行動は素早いのでここからの狙撃となればある程度行動を読んでからの方が良いかもしれませんね」

 

「そうですか…因みにアリサさんはどうやってするんですか?」

 

 シエルは疑問に思っていた。今回のキュウビとの交戦の中で確かに指示は出ているが、誰に何をと言った具体的な発言は一切ない。コウタにしても回復弾の指示は出たが、コウタの行動を見ると疑問に思う事もなく、それが当然だと言わんばかりの行動を取っている。

 各々が個人の判断をしているのは想像出来るが、それがどの程度のレベルなのかがシエルには判断出来なかった。

 

 

「私は基本的には皆の行動パターンを読んだ上で狙うべき所に撃つだけです」

 

「指示も何も無いんですよね?」

 

「その辺りは私の判断なんですけどね」

 

 中衛の位置から見れば、近接で戦っているエイジやリンドウの攻撃がかなり早く、また時折強烈な一撃を見舞うソーマの攻撃の隙間を撃つとなれば、事前に入念な打ち合わせをしているものだとシエルは考えていた。

 しかし、アリサの言葉をそのまま理解するならばお互いの行動を知った上で攻撃をしている事になる。熟練された部隊であれば起こりうる可能性がある事はシエルも知っていたが、まさか目の前でそれをやっているのはある意味衝撃的だった。

 

 

「あとは行動パターンを読むのが一番ですね。これまでの交戦からすればキュウビが上空にオラクルを放つ瞬間か、突進した最後の瞬間が一番分かり易いかもしれませんね」

 

 攻撃をしながらのパターンを読むのは未確認のアラガミ討伐に於いては最低限必要な技術。だからこそ一番最初にクレイドルが呼ばれるのはある意味当然なんだとシエルは考えていた。

 

 

「ブラッドバレットでしたよね。その威力には期待してますから」

 

 アリサの言葉を考えていたシエルは少しだけ現実に戻っていた。未だに動きが鈍くなる気配は微塵も無く、今なお攻撃の手を緩める事もなく交戦している姿が見える。

 アリサの言葉では無いが、シエルの構成したブラッドバレットは通常よりも大幅な攻撃力があるのは既にアリサも知っているからこそ、この戦いでの存在を仄めかしていた。

 

 

「はい。任せて下さい」

 

 交戦してから既に30分以上が経過するも、今なお発見当初と何も変わらない動きを見せるキュウビは本当に討伐が可能なのかすら疑問に思う程、軽快な動きを続けている。そんな中でシエルは一発必中とも言えるタイミングだけを虎視眈々と狙っていた。

 

 狙いを付けるスコープを動かす事無く一つの風景の様に微動だにせず、そのタイミングが来る瞬間だけを待つ。これまでシエルが訓練していた成果なのか、シエルの意識は既にアペルシーと一体となっていた。

 

 着弾までの時間を考えるだけでなく、周囲の行動やその気配までもが自分の支配下に入った感覚がシエルの引鉄を引くタイミングを伝える。

 これまでとは違った感覚に内心驚きながらも無心となった瞬間、自然と引鉄に当てられた人差し指が僅かに動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今だ!一斉にかかれ!」

 

 中距離からの一撃はキュウビの目を撃ち抜いたのか、これまで軽快に動いていたキュウビの行動がその瞬間止まる。この瞬間、戦場の潮目が大きく変化していた。

 誰が何を発砲したのかは考えるまでもなくその場にいた全員が勝負を決めるべく一気に動いていた。

 

 

「リンドウさん!」

 

 リンドウに声をかけると同時にエイジはキュウビの前方から一気に距離を詰める。

 怯んだとは言え、キュウビとてそのままむざむざと攻撃を付けるつもりはなく、素早い動きで短距離での突進を敢行していた。

 

 互いの素早い行動にそのまま弾き飛ぶのはどちらなのかと思った瞬間だった。エイジの身体が大きく沈み、キュウビの顔面の顔面を下から黒い刃が襲い掛かる。いつもの様に刃を引く様に斬るのではなく、態と押す様に振り上げながら斬った事によってキュウビの顔が上へと弾け飛んでいた。

 

 

「任せろ!」

 

 大きく弾いた先には既に待っていたかの様にリンドウの一撃が横なぎに飛ぶ。鋭い斬撃がそのままキュウビの顔面を結合崩壊へと導いていた。

 

 

「ギル!俺達も続くぞ!」

 

「ああ!」

 

 北斗の声にギルはヘリテージスをチャージしながら距離を詰める。既に赤黒い光を帯びたそれはまだかと急かすかの様にも見えていた。

 

 

「このままくたばれ!」

 

 チャージした力を解放する様に、キュウビの胸部に向けての一撃が急所と貫いたのか、再び大きく怯んでいた。

 本来であればこの時点で絶命するも、キュウビは未だ平然としている様に見えるのか、全身の毛を逆立てながらに今なお戦意がなえる気配が無い。

 このキュウビがどれほどの個体なのかを考える暇も無く、攻撃によって作られた隙は最大限に利用されていた。

 

 

「吹っ飛べ!」

 

 ナナのコラップサーが再びキュウビの顔面を捉えると同時にソーマもチャージが完了したのかイーブルワンから吹き出す闇色のオーラがキュウビの尾を捉えている。以前に交戦した際にも結合崩壊していた部分ではあったが、既に脆くなっていたのか、一発のチャージクラッシュによって再び都合崩壊を迎えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ終いって所か」

 

 既にキュウビの身体からはオラクルがちの様に吹き出し少し前の様な動きは完全になりを潜めていた。

 このまま一気に攻撃をすればこれで任務は終わる。リンドウが零した一言に誰もがそう考えていた時だった。

 キュウビの行動に僅かな異変があった事をエイジだけは見逃さなかった。

 

 

「全員回避しろ!」

 

 命が消える間際の足掻きなのか、キュウビは声にならない雄叫びを上げる。その瞬間、キュウビの身体が大きく翻すと同時に周囲を巻き込む様に大きく回転し出していた。

 

 近距離での戦闘が続いたからなのか、この場に居る全員がキュウビの起こす攻撃を直撃する。エイジの叫び声を聞いた瞬間、無意識のうちに身体は動くが、それでもキュウビの行動の方が僅かに早かった。

 その場に居たはずのナナとギルは大きく吹き飛ばされると同時に岩壁に激しく叩きつけられ、ソーマとリンドウも回避行動に移りはしたが、やはりキュウビの攻撃に巻き込まれる形となっていたのかそこから3メートルほどふっ飛ばされていた。

 

 僅かな油断とは言え、既にキュウビそのものも満身創痍だった事から油断した事によりその場にいたほぼ全員が直撃したものの、その中でエイジと北斗だけが回避に成功していた。

 

 

「ギル!ナナ!」

 

「北斗、今はそれよりも目の前のキュウビを最優先だ。多分アリサとシエルがここに来る。今、この瞬間に集中を切らすな」

 

 冷徹とも取れる判断ではあるが、この時点でエイジと北斗が倒れれば、飛ばされた全員の命が消し飛ぶ事になる。

 実力的な問題もあるが、残された人間だけで討伐するのは事実不可能である以上、今は仲間の危機よりも討伐を優先する方が結果的には有効でしかない。これがこれまでギリギリの中で戦い、培ってきた経験が判断した結果だった。

 

 

「北斗、バックアップしてくれ」

 

「エイジさん?」

 

 北斗に一言だけ言うと同時にエイジは目線を切る事無く一度だけ呼吸を深く吸い込むと同時にその場から一気に勝負をつけるべく走り出していた。

 既にキュウビもエイジを捕捉している以上、攻撃がくるのは間違い。バックアップと言われてもこの状況下で何も出来ない北斗はただ見ている事しか出来なかった。

 

 先ほどの行動をまるで再生したかの様に同じ様にキュウビが突進するが、次の攻撃の準備も終えているのか、既に尾が怪しく光っている。先ほどと同じになるのであればエイジの身体は一旦沈みこんでかち上げる攻撃となるはずだった。

 

 一瞬だけエイジの身体の輪郭がぶれると同時に、既にその場にはおらず、死角をつかれたのか、キュウビは僅かコンマ数秒だけエイジを視界から捉える事が出来なかった。

 僅かな時間がまるで止まったかの様にゆっくりと見えたのは気のせいなのか、エイジはフェイントをかけたのか身体全体が右側へ飛んだと思った瞬間左側へと回り込んでいた。

 

 

「これで終いだ」

 

 既にエイジの姿を捉える事が出来ないまま、キュウビの真横から黒い刃が首を一刀両断する。断末魔をあげる暇すら与えないままにキュウビの首は胴体から離れ、噴水の様に血をまき散らしながらそのまま巨体はゆっくりと横たわっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや~あの瞬間は焦ったぜ。流石にもうダメかと思ったよ」

 

 キュウビの巨体が倒れると同時に、すぐさまコアを引き抜いていた。既にアナグラでも討伐が完了した事を受けたのか、今回は珍しく大型ヘリが現地へと向かっていたのか遠くでローター音が徐々に大きくなっていた。

 

 

「流石にあそこでああ来るとは思わなかったですけどね」

 

「これからが俺の本番だがな」

 

「頼んだぜ。ソーマ博士」

 

 今回の討伐に当たって結果的にはクレイドルの手で完了していた。既に解析に回される準備が完了しているのか、ソーマはコアと共にいち早く移動している。

 どれ程の時間が経過したのか、空は青からゆっくりと茜色へと変貌し始めていた。

 

 

「今回の戦いで初めてクレイドルの戦闘方法を見ましたが、我々もまだまだって所ですね」

 

「3年以上同じメンバーなんだし、それは仕方ないんじゃない?」

 

 先ほどの戦いを事実上客観的に見る事が出来たシエルは人知れず興奮していた。

 ブラッドは他の部隊よりも濃い連携が出来ていると思っていたが、クレイドルの戦闘方法を見た後では児戯に等しいとまで考えていた。

 

 誰もが共通した考えと同時に、個別に戦うのではなく、部隊が一個の生命体の様に連携しながら一気にしとめる。それはある意味ではシエルの理想的な戦いの様にも見えていた。

 

 

「しかし、同じ部隊とは言え少なくても3年間は誰もが無傷で来たならそれも一つの実力じゃないのか?」

 

「俺達はまだまだって事だけが今回の件で分かった気がするよ。少なくともギルだってそう感じたんじゃないのか?」

 

 北斗の言葉は少なからずブラッドの中で何かしらの認識があった。一つの完成形でもある部隊運営を見るのであれば、恐らくはクレイドルの5人で小さな支部の最大戦力に匹敵する程の能力を有しているのは誰の目にも明らかだった。

 既にクレイドルは撤収の準備を始めている。今まで追いかけてきた因縁のアラガミとの戦いはここに幕を下ろす事になった。

 

 

 

 


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