神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第189話 強襲の中で

「榊博士。緊急事態です。ブラッドの帰投用のヘリが撃墜されました。最後の連絡から推測するとアラガミの襲撃の可能性が高いとの事です」

 

 まさに緊急事態とも言える状況がヒバリの口から告げられていた。

 帰投の際にも万が一の事があってはいけないからと、帰投の際にその場にいる部隊が周囲を警戒するのは当然の義務である事はゴッドイーターとしては最早常識でもある。

 今回のメンバーは新人で混成された部隊では無く、クレイドルに次ぐ精鋭でもあるブラッド。ましてやそのメンバーの中にはアラガミの状況を探知する能力を持ったシエルが居る以上、ヘリへの襲撃はまさに想定外の出来事だった。

 

 

「ヒバリ君、アラガミの反応はどうなってる?」

 

「レーダーでの探知外の可能性があります。パイロットの最後の通信はレーザーの様な物だと言った直後に切れました」

 

 現在確認されているアラガミの中でレーザーの様な攻撃をするアラガミは極めて限られている。しかし、アナグラのレーダーの範囲外からの攻撃であればサリエル種の可能性は低く、唯一考える可能性は一つしかなかった。

 

 

「ヒバリ君。クレイドルを緊急招集してくれたまえ」

 

「了解しました」

 

 まさかと思いながらも、どうしても拭いきれない可能性。キュウビがここに来る可能性は高いとは思っていたが、まさかこんな早い時間でこの近隣にまで来るのは完全に想定外だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「緊急で呼び出して済まない。知ってるとは思うがブラッドの帰投用のヘリがアラガミの襲撃と思われる攻撃を受けた事で撃墜されている。ブラッドそのものには問題無いが、今回の襲撃の際にはレーザーの様な攻撃を受けていると聞いている事から、キュウビの可能性が高いと考えているんだ。すまないが万が一の可能性があるから君達に言って欲しいんだ」

 

 エイジ達が召集される理由は明確だった。未知なるアラガミの可能性が高い。エイジとリンドウに関しては既にその道の専門部隊に近く、今なおこのアナグラでの最高戦力である事に変わりは無かった。

 

 

「レーザーねえ……多分キュウビだろうな」

 

 リンドウが呟く言葉に誰も異論を挟もうとはしなかった。調査隊の壊滅と移動の要素を考えれば可能性は捨てきれない。

 勿論、榊とて考えて無かった訳では無いが移動の速度が予想以上の早すぎた事が全ての原因でもあった。

 

 

「榊博士!先ほどシエルさんから通信がありました。対象アラガミはキュウビです。既に移動用のヘリの手配は完了しています」

 

「ブラッド隊は今どうしている?」

 

「現在は距離がある為に様子見だそうです」

 

 クレイドルとしてもブラッドの特性は良く知っている。既に目視出来る可能性が高いのであれば、戦場に到着する頃には交戦している可能性が高い。

 ましてやブラッドは既に感応種との戦いが終わったばかりの状態でる以上、手持ちの携行品だけではなく活動限界時間の事を考えても安易に考えるには無理があった。

 

 

「ヒバリ君。ブラッド隊に連絡してくれ。クレイドルがそちらへ急行すると同時に、対象のアラガミの聴力は異常だ。行動や会話には十分注意してほしいと」

 

 cその言葉と同時にエイジ達は直ぐにヘリポートへと急ぐ。既に連絡が入っていたのか、4人分のケースを用意したナオヤと同時に、そこにはツバキとコウタが待っていた。

 

 

「今回の討伐対象でもあるキュウビに関しては既に一度逃げられている。今回のミッションはキュウビの討伐と同時に、万が一ブラッドが交戦している状況であればそれに対してのフォローだ。なお、今回の任務はある意味特殊な部分が多い為に、暫定的にコウタをクレイドルに、第1部隊の2名はは第4部隊の傘下へと変更する」

 

 ツバキの言葉が全てを物語ってた。精鋭揃いのブラッドと言えど、携行品はあまり無い状態での戦闘がもたらす結果は考えるまでも無かった。

 回復する手段が仮に無くても問題無いが、精神的には負担がかかる可能性が高い。

 今回の様にイレギュラーな任務であれば、それはより顕著な物へと変化するのは、ツバキ自身もこれまで戦ってきた経験によるものでもあった。

 

 

「今回の戦いはある意味今後の事にも大きく影響する。全員必ず生きて帰ってこい。それとコアは無傷で剥離するんだ。それについては……分かっているなソーマ」

 

「ああ、前回の様な事にはならないはずだ。俺達も常に進化し続ける。コアの剥離は最低限の条件だ」

 

                                            

 

 

                                                                                                                      簡単なミーティングと同時に準備は着々と進んでいく。他の支部とは違い、極東支部はアラガミの乱入や緊急ミッションはざらにある為に、準備に関しても他の人間が手慣れた様子でヘリへと荷物を積んでいく。このままならばあと数分で出発出来るまでとなっていた。

 

 

「エイジ。何をやろうとしているのかは大よそ理解出来るが、無理はするなよ」

 

「知ってたの?」

 

「当たり前だ。何年親友やってると思うんだ。考えている事と行動が一緒に出てるんだ。分からない訳ないだろ?」

 

 ヘリに乗り込む直前に、何かに気が付いたのか、ナオヤが珍しくエイジに話かけていた。いつもであれば態々出撃用のヘリポートに顔を出す事はなく、こんな緊急時に顔をだした事は今までに一度も無かった。

 

 何かを知っている様にも思える表情にエイジも心当たりがいくつかあった。これまで戦って来た中で今以上に高みに上る為には更なる研鑽が必要となってくる。

 ただでさえ封印を解除しなかればならない場面があれば、いくら制御しているとは言え最悪の展開になる可能性は否定できない。だからこそこれまで以上の研鑽を積んでいた事がばれているのが意外だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「了解しました。ではその様にしますが、万が一の際にはこちらで出来る限りの対処をします」

 

 アナグラからの状況を確認しながら先ほど撃墜されたヘリの辺りを北斗達ははなれた場所から見ていた。

 以前に少しだけ確認したのが、コンゴウ種やサリエル種よりも遠距離まで聞こえる聴力に加え、上空へと放ったオラクル弾はまるでホーミングでもするかの様に対象物へと襲い掛かる攻撃が厄介だと聞かされていた。

 当時は交戦まではいかないにせよ、どこかで発見する可能性があるからと詳細までは確認しないまでも概要だけは目に留めていた。しかし、今はそれが裏目に出ている。過ぎ去った時間を後悔しながらも北斗は様子を見るに留まっていた

 

 

「北斗。我々としては万が一の際には交戦許可が出ましたが、現状を鑑みれば回復する手段に乏しい以上、無理は禁物です」

 

「そうだな。皆どれ位残ってる?」

 

 北斗の言葉に全員が手持ちの確認を急いでいた。

 連戦に次ぐ連戦の場合、最初からそうだと分かっているのであれば問題はあまり無いのと同時に心構えが違ってくる。この先の行動を考えながら交戦する場合は、出来る限り安全に配慮する事も出来るが、今回の様に緊急で戦場に侵入されると最悪は部隊の分断や背後からの強襲の可能性も高く、結果的には手持ちの品を多く使うケースが多かった。

 そんな中で新たに交戦しようと考える者は誰も居ない。しかし、聴力に優れたアラガミである以上、今のブラッドには様子を見る意外には何も出来なかった。

 

 

「回復錠が1個とスタングレネードが1個だよ」

 

「俺もナナと同じだが、スタングレネードは無いな」

 

 ナナとギルの手持ちは事実上無いに等しい状況でもあった。今は帰投準備中だった事もあり、この後は帰投するだけだったが、万が一ここで戦闘が始まれば、それはあっと言う間に消費する事になる。

 声をかけた北斗でさえも回復錠は2本と強制解放剤が1本だけだった。

 

 

「北斗。私は回復錠は3本ですが、最悪のケースを想定すれば手持ちは無いと考えた方が無難です」

 

 シエルの言葉を全員が等しく理解した以上、今は再度待つ以外にには何も出来ない。事前の情報ではここまで来るのに30分程はかかる。短い様で長い時間がこれから過ぎようとしていた。

 

 

                                                                                                                                                                                                                                                                                              

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回のキュウビなんだが、恐らくは何かしらの過剰な進化をしている可能性がある。勿論どこまでが進化しているかは分からんが、今回の討伐に於いては俺とソーマ、エイジが前衛、アリサは遊撃でコウタは後衛だ。ただキュウビの動きは素早いだけじゃなくて力もある。特にコウタは後衛だからと言って距離が離れてると思ってると一気に詰められるぞ」

 

 ブラッドの応援と言った雰囲気は既に無く、これからクレイドルとしてのキュウビ討伐の為にヘリで移動しながらブリーフィングをしていた。

 既に交戦経験がある4人はリンドウの言葉の意味を理解したが、コウタはこれが初見である以上、念入りに確認する必要があった。

 

 

「リンドウさん。一応携行品は持てるだけ持って来たんですけど、これで足りるんですか?」

 

「実際にはここまで要らないんだが、俺達が到着するまでにブラッドが交戦する可能性がある。何せ聴力が今までに無い位強化されてるのは間違いないからな」

 

「って事は一部はブラッドの為って事ですね」

 

「そう思ってくれ。事前に確認した内容だとブラッドの手持ちは殆ど無いらしいから、万が一の際にはこちらで支給する必要がある。それと現地に到着する前に一旦確認するが」

 

 コウタへの説明をすると同時に今回の内容を理解しようと話を続けていた時だった。

 本来であれば移動中の通信は無意味な事もあり、繋がる事は殆ど無い。

 にも関わらずこの場で繋がる理由はただ一つだけだった。

 

 

《極東よりクレイドルへ。キュウビがブラッドを捕捉。交戦を開始しました》

 

「了解。こちらは到着まであと5分はかかる。それまでは何とか凌ぐ様に言ってくれ」

 

《了解しました》

 

「って事で予想通りブラッドはキュウビと交戦を開始した。さっきの話じゃないが、コウタは確実に距離を取るんだ。やつの動きは予想以上に早いぞ」

 

 ヒバリからの通信はリンドウが予測した展開通りの結果となっていた。どんなに音を出さない様にしても、ああまで異常であれば気が付くのは間違い無かった。

 原因は分からなくても既にブラッドが交戦している以上、クレイドルに求められるのはブラッドの救援とキュウビの討伐のみ。高速で移動するヘリの中では待つ事しか出来ない以上、今はただ無事を祈る事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《キュウビがブラッドを捕捉しました。全員戦闘態勢に入って下さい。クレイドルもそちらに向かっていますが到着まで少し時間がかかります》

 

 クレイドルがこちらに向かう一方で、やはりと言った表情なのか、キュウビはブラッドを完全に捕捉していた。

 本来であれば1キロ以上の距離の中で針が落ちた様な音を聞きつけるアラガミは存在しない。にも関わらずこちらに気が付いたキュウビはやはり異質な物でもあった。

 

 

「リンドウさんの話だとキュウビの動く速度は早いのと、全員なるべく距離を取りつつ戦ってくれ」

 

「全く気が安まらないもんだな」

 

「了解しました」

 

「最後まで頑張るよ」

 

 簡単な説明を受けていたものの、直接その状況をブラッドは見た訳では無い。確かに口頭での話は聞いていたが、やはり直接対峙した迫力は全くの別物でもあった。

 

 距離がまだあると思った瞬間、まるで瞬間移動でもしたかの様にキュウビは巨体を苦にする事無く一気に半分まで距離を詰めていた。

 あまりの早さに北斗だけなく、距離を一定にするべくシエルが狙撃の態勢を取っていた瞬間だった。その場にあったその巨体は大きく横へと跳躍する。

 以前に戦ったマルドゥークとは比べものにならない程の速度だった。

 

 

「北斗!狙撃は無理です」

 

「全員距離を取って散開!」

 

 ギリギリまで粘る事なく、即断すると同時に全員がその場から大きく後ろへと跳躍していた。

 キュウビは態と狙いを外す様に横へ着地した瞬間、今度は再び距離を詰める。先ほどまであったはずの距離のアドバンテージはものの数秒で消滅したと同時に、先ほどまで全員が居たはずの場所へと着地していた。

 

 

「早いな」

 

 ギルが無意識の内にに呟いたのは無理も無かった。幾らアラガミとは言え、こうまであったはずの距離が一瞬にしてなくなると同時に、先ほどまで居た場所に留まれば直撃した可能性が高かった。

 脊髄反射とも言える北斗の判断は間違っていない。本来であれば交戦した瞬間一気に攻撃に反転したい気持ちはあるが、回復の手段が乏しい時点ではどうしても慎重にならざるを得なかった。

 

 

「リンドウさん達の到着はあと5分だ。それまでは何としても凌ぐんだ」

 

 北斗の言葉に理解したのか、全員がその意味を感じ取っていた。攻撃はあくまでも牽制程度にしながら距離だけではなく時間も稼ぐ。

 討伐ではなく牽制する方法を選んだ事により、全員が一歩下がった戦いを開始する事にしていた。

 

 

「ギルもいできるだけ牽制してくれ。ナナは回避を重視してくれ、ショットガンの射程だと届かない」

 

「了解」

 

 アサルトでギリギリ攻撃出来る距離を測りながらギルはアサルトでキュウビを狙う。

 射程距離であればシエルは問題無いが、スナイパーの特性上連射が出来ない。それを当てようとすれば技術だけではなく、誰かがキュウビの足を止める必要があった。

 

 

「ナナ行けるか?」

 

「私なら大丈夫だよ」

 

 北斗はナナを見ながら確認する。ナナの目にはまだ力があった事を確認すると、北斗とナナはキュウビに向かって一気に距離と詰めるべく走り出していた。

 

 

 

 


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