神を喰らいし者と影   作:無為の極

19 / 278
第19話 作成秘話

 コウタからの提案があった就任祝と言う名のパーティーを開催するにあたって、どうしても困るのが作る為の人手。どれだけ食べるか、実際には何人が参加するのかを想像する事が出来ない為に、せめてもう一人位は人材の確保が必要となる。

 そうなると今の現状から考えればエイジの中では一人だけ心当たりがあった。

 

 

「ナオヤ、今度の週末は暇だよな?」

 

「急にどうしたんだ?しかも暇だって決めつけるな。俺にも予定の一つ位はあるぞ」

 

「そう言う事にしておくよ」

 

 心当たりはエイジの中ではナオヤしかいなかった。時間をかければ該当する人物が出る可能性ほあるかもしれないが、基本的には気心知れた人間が集まるのであれば、自ずと人選は限られていた。

 

 何の前触れもなく突然そんな事を言われれば、まずは内容とその根拠を確認したくなるのが心情。余裕が無いのか慌てているのか、このままでは会話がままならない。そう判断してまずは落ち着かせる事にした。

 

 

「コウタの発案でそうなった。だからと言って一人で作るには時間的には厳しいから手伝ってほしい」

 

「だったらそう言えよ。それなら構わないけど、それだと普通は皆んなで持ち込んでやるんじゃないのか?」

 

 

 ナオヤの言い分は至極当然の事ながらも、なぜそうなったのか理由を話すとナオヤは半分呆れながらも納得してくれたようだった。

 

 

「まあ、よくある話だけど、少しお人好しすぎるんじゃないのか?せめて教えるとか、手段は他にもあるだろうに」

 

「最初はそう思ったけど、時間が無いのと食材は有限だから合理的に考えた結果だよ」

 

「料理の方向性が違うけど良いのか?」

 

「とにかく食べれれば大丈夫だよ。それ位は承知してるよ」

 

 

 男二人が話しているには若干引き気味にもなりうるが、こればかりはどうしようもない。いくら雁首揃えた所で出来ない人間が何人いても足手まといにしかならないのもまた事実だった。

 このご時世で、女子は家事が出来るなんて妄想は恐らくは旧時代の遺物でしかないのだろう。おおよそ答えらしい答えが無い物に時間を割く訳にはいかない程にゆとりは無かった。

 

 

「二人で何をコソコソ話しているのかな?」

 

 二人が話している後ろから聞こえたのは、確認するまでもなくリッカだった。休憩時間とは言え、話が聞こえてくる以上はとりあえず首を突っ込んでみる事が何かと多い。

 特にこの二人であれば、他の人間とは違い、割とまともな話をしている事が多いと過去の経験から学んでいた。

 

 

「なぁ、リッカって料理とか作れる人?」

 

「ナオヤ、君は誰にそんな事を言っているのかな?」

 

「気分を悪くしたなら謝るけど、実際の所はどう?」

 

 これまた旧時代では聞かれる事があった女子力と言う物が試されているのだろうか?それとも今の会話の中で何か必要な事があるだろうか?リッカとしては答えに詰まる。

 

 リッカ自身は全く作れない訳では無い。単純に普段の食生活を見ているとナオヤの方が残念な位に上のレベルの食事を作れる事をリッカは知っていた。

 しかも、この問題は確実に何かを求められている。そうなると摩訶不思議な回答でお茶を濁すのが得策だと判断した。

 

 

「そうだね。物によるかな」

 

「だとさ。やっぱり期待する方が無理じゃないか?」

 

「仕方ない。後は有り合わせで何とかするしかないよ」

 

 この答えだと、どうとでも答える事ができ、しかも具体的な内容は一切提示していない。そう思いながら二人の顔を見るとそこには……残念そうな表情の二人がいた。

 そんな二人の表情を見て、さすがにリッカも面白くは無い。まずは一体何が目的なのか?それを確認するのが先決だった。

 

 

「で、何のために聞いてきたのかな?」

 

 

 今のリッカの表情には間違いなく般若のごとき鬼の気配が見える。顔は笑顔だが目は決して笑っていない。

 今何を考えているのかは分からなくても二人の危機管理能力は発揮された。

 

 

「今度、就任パーティーするから材料と作るのを手伝ってほしいと思ってナオヤに聞いたついでだけど?」

 

 

 ここは下手に言い訳をすると大変な目に合うと察知し、簡潔に内容を伝える。功を奏したのかリッカもようやく理解したのか元の表情に戻ったのが確認できた。

 

 

「就任パーティー?一体誰の?」

 

「多分、自分かな?」

 

 疑問に対して疑問で返す事しかできない以上、理解されるのはおそらく難しいのだろう。しかしながら就任パーティーはあくまでも建前で、本当は単に騒ぎたいと思うコウタの思惑にしかすぎない。

 そんなやり取りを踏まえた上で先ほどの質問に戻る。簡単に言えば料理が出来るならば作ってほしい。

 そう遠まわしに言われた事に気が付いた。

 

 

「ダメじゃないけど、凝った料理は作れないし、多分ナオヤよりは出来は悪いよ。流石に二人の邪魔は出来ないから遠慮するよ」

 

 

 ここは多少の女子のプライドと引き換えでも、下手なものを作って恥をかくよりは撤退した方が今後の為には間違いない。リッカはそう判断する事に決めた。

 しかしながら、二人の作る食事にも関心が無いと言えば間違いなく嘘になる。エイジの腕前は知らないが、時折ナオヤからの話を聞いていると確実に腕は良いとだけは判断できた。

 

 

「だったら、飲み物を当日用意するから参加しても良いかな?」

 

「じゃあ、頼むよ」

 

 物資の支給で参加する事が決定した瞬間でもあった。

あとは当日までに下ごしらえをしながら任務に励む事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これちょっとやばいよ。本当に同じ食材使ったのか?」

 

「同じ物だよ。同じ物が支給されてるのコウタも知ってるだろ?」

 

「それでも、俺が作ったら多分こうは出来ないよ。一体何がどうなっているやら。とにかく今は食べる事に専念するよ」

 

 

 乾杯の音頭が始まったかと思った瞬間に、色んな料理をとにかく食べ始める。まるで今までまともな食事すら食べた事が無い欠食児童の様な勢いのまま終始していた。

 

 結果的にメンバーは第1部隊のメンバーだけではなく、割と暇な人間も集まった結果、ささやかとは言い難い人数と規模になっていた。

 

 

「私も普通にここに居ますけど、参加してて良いんですか?」

 

 

 カノンの発した言葉は第1部隊以外の参加者全員の代弁でもあった。当初とは大幅に違い、そこにはなぜかカノン、タツミの他の部隊だけではなく、リッカやヒバリまでもが居た。

 

 

「私は飲み物を持参しているし、一応誘われてはいたからね。後はノリ?じゃないかな。多分、誰も気にしてないと思うよ」

 

「リッカさんがそう言うなら…」

 

 何だか親睦会の様にも見えるが、念のため全員が今は待機か非番の人間ばかりだった。

 しかも、料理の用意は第1部隊と言う訳の分からない状態でもあった。本来ならばその時点で多少なりとも遠慮するが、ここは世界の最前線てもある極東支部。喰える時に喰うと言う鉄則である以上、そこに遠慮の二文字は存在していなかった。

 

 リッカに言わせると、単に騒ぎたいだけと聞かされたカノンも何となくその言葉を信じ、今に至る。

 

 

「この料理って誰が作ったんでしょうか?以前は無明さんでしたけど、最近はアナグラには居ない様ですし」

 

「エイジとナオヤが作ったみたいだよ。この前そんな話していたからね」

 

「この量を二人でですか?何だか負けた気がします」

 

「確かにそれは否定出来ないけど、あの2人だったら仕方ないかもね」

 

 少し前にこのやりとりを聞いてなかったら、確実に誰が作ったのか全く不明。しかしながらその場にいたリッカは女子力への挑戦とも言えるような話し合いの中にいたが、結局の所は事実上の断念。

 

 しかも、今回の物は今支給されている物資のみで作られていたので、追加で何かを用意した訳でもない。

 作る事に関しては何の問題もない。むしろ問題なのがその内容だった。メニューに関しては2人がそれぞれ作っているので出てくるまでは何も知らされていなかった。

 

 参加した時からは多少減ってはいたが、見ればパスタやピザなど生地や麺から作るとなると中々面倒な物から、簡単なのかクラブハウスサンドなんかもある。他にも見れば、なぜか餃子や肉団子など料理に統一感がまるで感じられない。

 単にお互い作れる物を作っただけにも見えた。

 

 

「わたしもクッキーとか作りますけど、ここまでの物はちょっとないですね」

 

 

 カノンが見ていたのはシフォンケーキ。誂えたかの様にトッピングには生クリームが添えられている。

 クッキーとは違い、若干ながらも手間がかかるのと材料の事を考えると結構面倒だったりもする。

 

 女子の立場からすれば料理が出来る男はどうなんだろうか?そんな事を話していると後ろから声が聞こえた。

 

 

「コウタ、この前言ってたプリンだけど、これ作ってみたから食べてみてくれ」

 

「マジで!じゃあ早速……」

 

 

 どうやら声の主は製作者でもあるエイジだった。話は少し聞こえたが、レーションのプリン味についての話から作る事になったらしい。料理だけではなく、デザートまで作るとなると、女としての何かが試されている様にも感じた。

 

 

「エイジ、このプリンって君が作ったの?」

 

「そうだよ?どうかした?」

 

「君はなんでも作れるんだね。驚いたよ」

 

「いや、これは意外と簡単だよ。材料を一定量混ぜて蒸すだけだから、想像してるより簡単にできるよ。よかったらレシピを教えるけど。ちなみにデザート類は似たような材料で全部できるから、手間は大してかかっていないんだけどね」

 

 

 一体どこでそんな事を学んだのだろう?リッカだけではなく、隣にいたカノンとヒバリもただ疑問しか湧かなかった。

 今食べている物はどれもお金を取る事が出来る様なレベル。

 

そして、出来るならば教えてほしい。そう感じる程の味だった。

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。