神を喰らいし者と影   作:無為の極

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第174話 それぞれの戦い

 

「何、あれ!」

 

「ぬおおおおお!何だあの光は!」

 

フライアの内部で戦うブラッドの周囲をアラガミから守るべく、コウタ達第1部隊は付近でアラガミの掃討戦をしていた。

特異点と化したジュリウスはまるでアラガミを引き寄せているのか、倒しても次から次へとアラガミが湧いて出るかの様に寄って来くる為に終わりが見えない。既にどれ程の時間が経過したのかすら感覚が怪しくなった頃、周囲に来たアラガミの一団に向けてまるで掃射でもしたかの様に一条のレーザーが引き寄せられたアラガミに直撃し、目の前で全部のアラガミが消し飛んでいた。

 

 

「まさかフライアの壁面を貫いたのか?」

 

エリナだけではなくコウタも今の一撃を見たからなのか、珍しく一瞬だけ行動が停止していた。光源は恐らくは今戦っているはずの場所。あまりにも驚愕な一撃は戦場で呆然とさせるには十分すぎた一撃だった。

 

 

《コウタさん。さっきの一撃はブラッドと戦っている特異点から放たれています。見たかとは思いますが、フライアの壁面すら破壊しますので、直撃しない様に注意して下さい》

 

先ほどの状況を確認したのか、ヒバリから通信が入っていた。フライアは移動型とは言え支部としての役割がある以上、周囲は最新のアラガミ防壁が設置されている。にも関わらず、最初から何も無かったかの様な一撃はあまりにもインパクトが大きすぎていた。

 

 

「了解。こちらも周囲の様子を見ながら行動します。で、今はブラッドの連中はどうなってる?」

 

《状況は芳しいとは言えません。先ほどの攻撃だけではありませんが、特異点となったジュリウスが今まで使っていたブラッドアーツを発動した形跡もあります。今は打開策をどう出すのかと言った所です》

 

フライアの通信設備の乗っ取った訳では無いものの、概要だけはヒバリ達も把握していた。それ故に現状の把握は確実に出来るのが最大のメリットではあるが、それと同時に今がどんな状況下にあるのかも分かる以上、状況が良くないのは悪手である事までもが確認できていた。

 

 

「マジか……こっちも今の所は最大でも中型種だから、まだ持ち堪えるのは可能だがエリナとエミールの疲労が目に見えて分かる。誰か派遣出来ないか?」

 

《すみません。今はフライアの周囲にもアラガミが発生している関係上、一つの部隊を派遣する事は出来ません。今の場所からはアリサさんとソーマさんが近いですが、現在は大型種と交戦中です。討伐が完了次第に依頼しますので、暫くの間は耐えて下さい》

 

ヒバリとの通信が切れると同時にコウタは珍しく舌打ちしたい気持ちになっていた。事実上の全面作戦の時点で余剰戦力は既に無く、アリサとソーマも今は大型種と交戦している。この場には本来であればエリナとエミールが居る事自体が既に厳しい状況になっているが、戦力を埋める為には今は仕方ないと考えた上で参加している。

このまま疲弊が続けば、この場所とて決して安心できる材料はどこにも無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか特異点と化したジュリウスがああまで攻撃能力が高かったのは誤算だ。しかし今は何も出来ない以上、ブラッドを信じる以外に手だけは無いのもまた事実か」

 

ヒバリとフランからの報告を聞いた榊は今の現状が極めて厳しい物である事が容易に想像できていた。刻一刻と変わる戦局を覆す為には更なる増員が一番ではあるものの、まさかこの難局で新人を投下する事も出来ず、今はただ様子を見る以外には何も出来なかった。

 

 

「榊博士。無明さんからの連絡です。屋敷に曹長クラスを3人つけて欲しいとの事です」

 

ヒバリの声に榊は少し疑問を感じていた。屋敷の防衛は無明が一人でやれる為に、今まで一度も増員した事が無い。にも関わらず、増員を申し込むのは何らかの意図があっての事であるとは考えるも、そこから導き出される答えは一つだけだった。

屋敷の防衛と引き換えに自身がフライアへと乗り込む。理由は分からないが、榊はそう結論付けていた。

 

 

「よし。では屋敷に近い人員を直ぐにピックアップしてくれたまえ」

 

「了解しました」

 

程なくしてヒバリからの通信が切れると同時に、まるでそれを知っていたかのかの様に無明からの通信が来ていた。

 

 

「到着次第、俺も現地へと向かう」

 

「すまないが頼んだよ。特異点の件は彼らに任せるしかないが、その環境を作る為の戦線が既にギリギリだ。君に頼むのはお門違いかもしれないが頼んだよ」

 

無明の返事は無いものの、先ほどの一言ですべてが理解出来た以上、周囲の掃討戦は時間の問題となる。人事を尽くして天命を待つ事だけが今の榊に許された行為でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまないがここでの防衛は頼んだ」

 

「り、了解しました」

 

曹長クラスの人間が到着した頃、無明は既にフライア周辺の掃討戦の準備を終えていた。来ている3人は無明が誰なのかは分からないものの、それでも圧倒的な雰囲気に誰も疑問を口にする事無く頷く事しか出来ないでいた。

 

一言のやり取りではあったが、了承した事が確認出来たと同時に、その場から消え去る様に姿が無くなっている。あまりにも非現実的なその光景がこれから何が起こるのかすら想像出来ない程の状況でもあった。

 

 

「ここから近いのはソーマか。まずはそこからだな」

 

尋常ではない速度で無明は移動していた。本来であれば車を使うのが一番ではあるが、屋鋪の場所からでは大きく迂回する必要がある為に、かえって時間がかかる。その為に、ショートカットとばかりに谷と山間部と突っ切る形で移動していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これでも喰らえ!」

 

ソーマのイーブルワンが闇色の光を帯びながら目の前で防御しているボルグカムランの盾を破壊していた。当初はボルグカムラン一体の討伐だったはずが、戦闘音を察知したからなのかサリエル堕天までもがこの戦場に引き寄せられていた。

 

単独での討伐であれば何の問題も無いはずだったが、後から来たサリエル堕天の攻撃を避けながらの攻撃は効率を悪くしていた。いくら大ダメージを与えやすいとは言え、それでも一旦怯ませた瞬間をまるで庇うかの様にサリエル堕天のレーザーがボルグカムランへ近寄せる事なくソーマを襲う事によって徐々に苛立ちを感じ出していた。

 

焦りは冷静さを失わせるのは十分すぎる材料。先ほどの一撃が怒りに任せた事もあってか視野狭窄に陥ったソーマにサリエル堕天の攻撃を躱す事は出来なかった。

 

「クソッ俺としたことが…」

 

ほぼ直撃とも言える攻撃を受けたソーマは怒りによる視野狭窄になっていた事に気が付くと同時に、この状況下では一番やってはいけない事をやってしまった事に後悔していた。ただでさえ人類の存亡かけた戦いの中で、今は一刻も早くフライアの内部に突入しなければならないとばかりに焦りが生じたからなのか、通常であればボルグカムラン一体程度にこうまで時間がかかる事は無かった。

 

戦場では冷静さを失った者から退場していく。これは今までに培ってきた経験の中で導き出された真理でもあった。

焦りを生むソーマを嘲笑うかの様にサリエル堕天は悠々と空中を浮かぶと同時に、まるで連携にしているかの様にボルグカムランが尾を鞭の様にしならせ、針が息を付く暇すら与えんとばかりに執拗にソーマに襲い掛かっていた。

 

 

「チッこのままだと拙いか」

 

時間をかければ確実に討伐出来るのは間違い無い。これが通常のミッションであればこうまで焦る事は無いが、既にフライアに向かって未だ引き寄せられるかの様に何かに導かれるアラガミが視界に入る事で、徐々に冷静さを失いつつある。このままでは悪手である事は理解しても、その打開策はどこにも無かった。

 

 

「ソーマ。この場は任せろ」

 

低く響く様な声と同時にサリエル堕天の首がまるで最初から無かったかの様に跳ね飛ばされると同時に、噴水の様に血が飛び散る。既に絶命したのか、力無く落ちてきたサリエルはそのまま生命活動を停止していた。

 

 

「無明、なぜここに?」

 

「ここはともかく今はフライアの内部が拙い事になっている。第1部隊が今は何とか持ちこたえているが、それも時間の問題だ。この場を一旦俺が預かる。すぐにアリサと合流して内部へと急げ」

 

話をしながらも無明の攻撃の手は緩む事は無かった。既に結合崩壊を起こした盾の部分だけではなく、あと数回攻撃すれば尾も切断されそうな状態へと変化している。サリエル堕天の脅威が無い以上、この場はソーマが見ても問題無いと考えていた。

 

 

「特異点と化している以上、この場にはアラガミが寄ってくる可能性がある。お前の能力を信頼するからこそこの場を俺が支配下に置くんだ。一人でやれる事はたかが知れてると考えるのであれば、お前はまだまだだ。ここからならアリサの居る場所までそう時間はかからない。すぐに掃討した後で内部へと急げ」

 

それ以上の会話は無駄だとばかりに無明はソーマからすぐさま意識をアラガミへと向ける。口には出さないまでも既に言うべき事をしたからと無明はボルグカムランの尾を斬り裂き、既に命の灯は消し去っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソーマが無明に戦場を渡すと同時にアリサの元へと向かう頃、アリサもやはりこの地でアラガミを討伐すべく一人で奮闘していた。当初はクレイドルのサポートメンバーと戦っていたものの、襲撃による負傷をした事から戦線から一旦外し、孤軍奮闘ともとれる内容で戦っていた。

 

 

「もう!キリが無い」

 

以前にもアリサが単独で戦った経験が今の戦線を維持していたのか、アリサの周囲には小型、中型が群れを成す様に湧き上がっていた。当初は大型種が居ないからと判断したものの、討伐の数よりも寄ってくる数が多く、その結果としてメンバーが負傷したのは目算が甘かったのか、それともアラガミの個体強度が想定外だったのか、今では判断する事が出来ない。

 

既にサイゴートの堕天が各々の攻撃特性を活かしながら、まるで獲物を追い立てる猟をするかの様にアリサの行動範囲を狭めると同時に、隙を狙いながらシユウ堕天がアリサを追い詰めていた。

 

 

「せめてあと一人居れば、打開できるのに」

 

数の力は侮る事が出来ない。いくら小型種とは言えアラガミである以上、油断すれば自身が危険な状態へとさらされる。誰か一人居れば小型種を掃討する間にシユウ堕天と対峙できると考えては居たが、この場にはアリサ以外の気配は無い。時間だけがやたらと消耗していく感覚を一人味わいながらアリサはこの場に留まっていた。

 

 

「アリサ!目を瞑れ!」

 

この場には聞こえないはずのソーマの声が響く。その指示の後に続くのはスタングレードなのは既にゴッドイーターであれば当たり前の行為でもあった。放り投げられたスタングレネードが白い闇を作り出すべく周囲に広がりを見せる。

時間にして僅かではあるが、その時間が決定打となったのか、気が付けばサイゴートの大半が地面に落ちると同時に、纏めて討伐するつもりなのか、まるで周囲ごと巻き込むかの様にソーマのチャージクラッシュが数体を一度に潰すかの様に地面へと叩きつけていた。

 

 

「ソーマの所は良かったんですか?」

 

「ああ、無明が来た。この場は任せて俺達もコウタの援護だ。どうやらフライア内部はヤバいらしい。ブラッドの攻撃はともかく今はコウタの所まで援護が届かない。まずはあいつらの所にまで行くのが先決だ」

 

ソーマはアリサと会話をしながらもイーブルワンを振り回す様に水平に回す。スタングレネードで落ちたサイゴートが、まるでゴミでも飛ばすかの様に次々と血飛沫をまき散らしながら絶命していた。

 

 

「そうでしたか。では私達もサッサと行きましょうか」

 

既に回復したのかシユウ堕天はこちらの数が増えた事を認識したのか走りながらこちらへと向かっている。先ほどまではサイゴートが弾除けになった事もあり銃撃が当たる事は無かったが、今は視界がクリアになっている。アリサのレイジングロアの発するマズルフラッシュと共にシユウ堕天の頭が結合崩壊を起こす。

そのタイミングをまるで狙いすましたかの様にソーマが上段の構えから袈裟懸けに斬り下ろすと、先ほどまで執拗な攻撃を続けていたはずのシユウ堕天は断末魔と共に自身の命を散らしていた。

 

 

「詳しい事は分からないんですが、今はどんな状況なんですか?」

 

「それは俺も知らん。ただ無明の話だとフライアの内部にまでアラガミが侵入しているだけじゃない。知っての通りだがあそこにはユノも居る。あいつらの任務の内容を考えれば、かなり重要な事に違いないが既に数は徐々に増えているからなのか、コウタ以外の2人がギリギリだ。あそこの戦線が崩壊すれば、榊の作戦も水泡に帰す。今はその為に俺達が向かっているんだ」

 

既に回復錠を口に含んだからなのか、先ほどまでの細かい傷は活性化した影響で既に消え去っている。血の跡はそのままではあるが、今はそんな事よりも重要な任務だからと2人はコウタの元へと走っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソーマさんとアリサさんがコウタさんの所へと移動を開始しました」

 

アナグラでは無明が来た事で、少しだけ安堵していた。本来であればここに来る事は無いが、作戦の内容を考えるとある意味断腸の思いとも取れる内容ではあるが、強力な人間が一人入るだけで戦線が十分すぎる程に維持される。一旦は襲撃の波が収まり出したのか、目に見えてアラガミの数が減っていた。

 

 

「これでコウタ君の所も大丈夫だね。あとはブラッドの皆の頑張りにかけるだけだ。ヒバリ君はそのまま戦場の把握を、フラン君はヒバリ君のサポートをしつつ、負傷した人員の確認と周囲で戦っているゴッドイーターをローテーションして戦線を維持させてくれたまえ」

 

戦闘指揮所となったロビーには次々と各地からの情報が上がってくる。本来であれば2人でこなすのは無理だとも考える内容ではあるが、ここでは意にも介さないとばかりにヒバリとフランのキーボードをあやつる手はまるでピアノの演奏の様に滑らかに流れている。

肝心の特異点と化したジュリウスの状況の詳細を見ながらもこの先に見える光景がどんな物なのかは、榊にとっても未知数の出来事だった。

 

 

 

 


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